私達の生きる場所 完結   作:ジト民逆脚屋

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ロディ
本名不明
年齢不詳 しかし初老が近い
人種不明 滅茶苦茶混血人間
服装 ファイヤーマンコート カーゴパンツ 半長靴

装備
大型リュックサック
ガスマスク
ハリガンツール
ロックピック
集水器
フィルター
ライター
携帯食料
水ボトル
ハチェット
ランタン等


ムラ
本名 ムラ(元叢雲)
人種 人間(元艦娘)
年齢 よく解らない
服装 ミリタリーコート ジーンズ 半長靴

装備
中型リュックサック
ガスマスク
集水器
フィルター
ラジオ
ライター
手製の短槍(杖替わり)
携帯食料
水ボトル




トレーダーとして

嘗て、戦争があった。否、あったというのは正しくないし、今も続いているのだろう。

何せ、今の戦争の舞台は海だ。内陸に生きる者達は、それを実感する事は無い。

 

「雨、止まないわね」

 

否、無い訳ではない。長年に渡る戦争により、環境は劣悪となり、軍人や政治家に企業家等の富裕層は〝コロニー〟と呼ばれる自然と文明が残った地区に籠り暖衣飽食を貪り、それ以外の貧困層は〝シェルター〟と呼ばれる廃墟同然となった街や集落に追いやられ身を寄せあい、無人の街や施設から物資を漁り生き延びていた。

 

「水を作れて良いと考えよう」

「それでも陰鬱な気分になるわ。この灰色が何時黒に変わるかとかね」

「笑えん冗談だ」

 

正義も綺麗事も無い世界で、人々は残り少ない土地にしがみついて生きていた。

 

「ロディ、次のシェルター迄はどれくらい?」

「雨が止んでからだが、何もなければ明後日には着くな」

「何もなければ、ね」

「どうした?」

「いやね、そういう何もなければって時に限って、バンディットやらサイコパスに出会すのよね・・・」

「バンディットならまだしも、サイコパスは勘弁だな」

 

灰色の雨が降り頻り、アパートの窓の外の世界を薄暗く塗り潰していく。

廃墟しか無い世界、ムラはそれ以外の世界を知っているが、ロディはどうなのだろう?

彼はこの世界以外を知っているのだろうか?

 

ムラはランタンの灯りを頼りにラジオを弄りながら目の前の白髪混じりの頭を見る。初老という言葉が目前に迫ったロディに、ムラが拾われてから一年ちょっとの月日が経つ。

 

 

〝ある艦娘〟の行動が原因で鎮守府始まって以来の大敗北を喫し、その責任を何故かムラが負う事になった。

理由は解らない。いや、解らない振りをした。

本当は解っていた。だけど、信じていた。

戦果を立てられなくなって久しく、後から着任してきた艦娘に追い越され、役立たずと罵られても信じていたかった。

しかし、ムラの儚い信頼は裏切られ、信頼していた司令官は〝あの艦娘〟を選び、叢雲は解体され只のムラとしてマーケットに売られたが、不思議と悲しくはなかった。

 

「ムラ、ランタンの油が切れるぞ?」

「いやこれ、油の吸い上げが悪くなってるのよ」

「予備の紐は?」

「あるけど、今替えたら油が無駄になるわ」

 

殴られたし蹴られもした。それに自分は女だ。

女が売られ、そういったマーケットに並ぶという事を理解していたし、覚えさせられた。流石に初めてが品性も知性も欠片も無い様な男だったのは気に入らなかったが、正直な話、どうでもよかった。

鎮守府に居た頃から、自分が死のうが生きようがどうでもよくなっていた。

奴が自分をマーケットに売り飛ばしたのも、実はどうでもよかった。

所詮はそんなものかと、どうせ自分で責任を負う事が怖くなったのだろうと、マーケットとシェルターの実状もまったく知らないお坊ちゃんがと、色んな事が頭を巡って廻って、今までの自分が馬鹿らしくなった。

 

何故にあの甘ちゃんを信じたのか。

着任してからの古い付き合いだから?

なんだ、たったそれだけじゃない。

たったそれだけの関係の為に、死にかけて仲間を目の前で死なせた。

嗚呼、畜生。

あいつら全員、死んでしまえ。

鎮守府ごと、爆撃でも砲撃でもされて死んでしまえ。

そうなったら、少しは自分の胸の内も少しはすっきりするだろうか?

 

そんな事を考えながら、売られるであろう先の仕事を覚えながら過ごしていた。

 

「雨、止まないわね」

「そうだな」

 

何時だったか、仕事も覚え一緒に並んでいた者も殆ど居なくなった頃、表が騒がしくなった。

何時も騒がしかったが、その日の騒がしさは何時もとは違った。

 

どうやら、私が売られたシェルターは人身売買が禁止されていたらしい。

つまり、私の居たマーケットは違法マーケットで、誰かがあのマーケットの存在を告発して、シェルターに住むバンディットによる摘発という名の粛清が始まって、暫くするととても静かになった。

 

粛清が終わったのだろう。戦場で嗅ぎ慣れた血と肉が火薬で焼ける臭いがした。

 

「フィルターの替えってあった?」

「今ので最後だから、材料を手に入れて作らんとな」

 

私も殺されるのだろう。そう思うと笑えてきたと同時に、悔しくなった。

なんで自分がこんな目に?

私はやれる事をやった、充分だ。

ふざけるな。

私は生きてやる。

 

押し込められていた部屋に据えられていたモップを手に、私は来るであろう死を待ち構え、扉が開くと同時に降り下ろした。

痩せた男の頭に当たり、苦悶の声が聞こえた。

銃を持っているなら撃たせる事は出来ない。撃たれたら艦娘でなくなっている私は一発で死ぬ。

 

生きてやる。意地でも生きて、奴らを見返してやる。

その時の私はこれしか無かった。

それだけで充分だった。

 

一人二人と打ち倒し、マーケットから脱出する。これでも長柄物の扱いには自信があった。

諦めていたから振るわなかったが、そうではなくなった今は違う。

銃弾が頬を掠める。懐かしい感覚、笑える。

 

「ロディ、次のシェルターってどんな所なの?」

「ん? シェルター同士の交流もあって、シェルター自体がマーケットになっている」

「へぇ、マーケットね」

「言っておくが、あのシェルター自体は小さいからな。人身売買なんぞしようものなら、一発でバレる」

「そう」

 

あと少し、あと少しでマーケットから脱出出来る。

その時だ。ロディに出会ったのは。

モップは歪んでボロボロになっていたが、まだ余裕はあった。

だから、迷いなくロディに向かって行った。

真っ直ぐにロディに降り下ろしたモップは簡単に避けられ、彼が愛用するハリガンツールの斧刃で真っ二つにされた。

 

嗚呼、そうか。私が戦ってきたのは海から来るよく解らない化け物で、奴らは攻撃を食らっても平気だ。

だが、ロディ達は人間だ。

攻撃を食らわない事が大前提、私の単純な攻撃なんて不意討ちに近い形でないと食らう訳がない。

 

私はハリガンツールのハンマーで簡単に気絶させられた。その時に何かを言った気がするが、無意識に出た声だ。言葉にもなっていなかっただろう。

 

「ラジオ、調子悪いわね」

「シェルターに着いたら、部品探してみるか」

 

目を覚ますと私の処遇が決まっていた。

私は一瞬何を言われたのか理解出来なかった。

 

ーー君の面倒は今日から彼が見るからーー

ーーえ?ーー

ーーお前みたいなじゃじゃ馬の面倒は、俺ぐらいしか見れんだとさーー

ーーはい、これ。着替えと当座必要な物ねーー

ーーちょっと!ーー

ーー使い方も歩き方も生き方も、何もかも教えてやる。生きたいんだろう?ーー

 

私はあの時、あの瞬間、トレーダー見習いになった。

今もそうだが、あの頃は何をするにも四苦八苦していた。

〝コロニー〟の外の世界の歩き方、天候の判断、道具の使い方に作り方、食用可か不可かの判断、怪我や病気の判断と治療、ロディに迷惑の掛け通しだった。

 

「あ、集水気のボトル換えてくるわ」

「飲むなよ」

「飲まないわよ!」

 

トレーダーの生き方に少し慣れてきた頃、ちょっとした行き違いでバンディットのチームと争いになった。

私はまだ深海棲艦と戦っているつもりで、バンディットとの戦い方を理解していなかった。

 

深海棲艦は大群の力押しだが、バンディットは数で囲む。

一人に対し、二人三人で囲み、疲れさせてから仕留める。

折角貰った武器も壊れて、体力も無駄にした。

もう何も無い。殺されるかまた売られるか慰みものにされるか、結局は録な死に方ではない。

 

変わらず仕舞いか。私が諦めた瞬間、バンディットの一人が倒れた。

何が起きたのかは直ぐに分かった。そのバンディットの額に丸い穴が開いていたから。

一発の銃弾と共に飛び込んできたロディに、バンディット達はあっという間に倒された。

 

ーー無茶をするなーー

ーー・・・ごめんーー

ーーはぁ、まあいい。これでバンディットのやり方は覚えたな?ーー

ーーうん、まあーー

ーー次から気を付けろーー

 

軽くハリガンツールのハンマーを、頭に落とされたのは痛かった。

だけど、それも生きているから実感出来る事だ。

 

「ああ、そうだ。ムラ」

「なに? ロディ」

「次のシェルターは、お前がメインで交渉しろよ」

「は?」

「まあ、そんなに大きい取引は無いから大丈夫だろ」

「いやちょっと待ちなさいよ!」

「どうした?」

「いきなり交渉って言われてもね」

「言ったろ? 大きい取引は無いって」

「いや、でも」

「ま、ヘマする前に手助けはしてやるし、ムラもそろそろ一人で交渉しないと、トレーダー見習いのままだぞ?」

「それは嫌ね」

「だったら、レッツチャレンジだ」

 

生きているから、色んな事に挑戦出来る。

次は取引の交渉、正直気が重いけど、やってやれない事は無い。

何時までもトレーダー見習いでは居られない。

何時かはトレーダー見習いではなく、一人のトレーダーになって、生きる。生きて奴等に目にもの見せてやる。




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