八月の夢見村   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回は、短編にチャレンジ!
私は他にも、連載で三作、恋愛中心に投稿している者です。
同じく純恋愛で、新作をやっていきます!

では、本編どうぞ!


追記:五月十五日

短編から連載に切り替えました。
文字数は変わりなく続けていくことになるかと思います。

元々短編予定だったこともあり、話数が少ない・短いなどあるでしょうが、ご了承ください。


旅のお方でしょうか?

 列車の車窓から覗く向日葵畑が、夏の陽光が眩しい。

 こうして列車に揺られながら、小説の内容を考えるのもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんなことを考えていた時期が、私にもありました。

 

「あぁぁああ~……」

 

 気だるげな声を無意識に漏らす。暫くの間自分のものだとは感じられなかった。

 俺は、現在進行系で小説家をやっている。

 さすがに兼業しないと食べていけないので、しがないサラリーマンも同時進行。

 収入は……まぁ、聞かないでほしい。

 

 仕事の合間に文字を書く。それを毎日、機械的とも思える程繰り返してきた。

 つまらないわけではなく、それが日常となるほど楽しんでいた。

 

 現在、八月の半ば。夏の休暇をもらったので、こうして田舎を列車でプチ旅行。

 旅行と言っても、一泊二日か二泊三日で、適当に列車で色々な場所を回るだけなのだが。

 

 さて、俺が呻き声を発していた理由。それは、単純明快なものだった。

 

「……ネタがない」

 

 切れた。それはもう、使い終わった乾電池の如く。

 飲料物がなくなってしまった、空のペットボトルの如く。

 しかし、それではおかしい。乾電池は充電できるものもあるし、ペットボトルにはもう一度何かを注げばいい。

 俺には、乾電池の充電器も、替えの飲料物も手元になし。完全に手詰まりだ。

 

 と、いうわけで。こうやって列車でのプチ旅行に来ている。

 自然に触ると、何かネタが舞い降りるとも思ったが、そんなこともなかった。

 現に、こうして向日葵畑を見ているが、黄金比の種の並びがさらに並んでいるようにしか見えない。

 

「……暑い」

 

 炎天下の中での、熱のこもった列車にて。そんな感想を抱きつつ。

 あまり使っていない頭脳に疲労を感じ始め、座席の背もたれに深くかける。

 

 ふと、この暑すぎる中で微睡みに誘われる。

 普段の疲れが、ここにきて回ってきたのか。

 全く、列車で何をしに来たのだろうか。

 

 その微睡みに勝てるはずもなく、俺の意識は闇に落ちた。

 夢を見るように、落ちていった。

 

 

 

 

 

「……んぅぁ……」

 

 眠い眼を擦りつつ、腕時計を見る。

 十の位置を回っていた短針が、既に十二を回っている。

 ……時計が、壊れたのかな?

 

「次は~……終点、夢見村前です――」

「夢じゃなかった。壊れてもなかった」

 

 夢だけど、夢じゃなかった!

 そんなこともなかったが。結局夢も見ていないし。

 

 それに、俺は田舎を列車で回る予定だったが、何も終点まで乗る予定ではなかった。

 まぁ、ここで降りるしかあるまい。降りるしか選択肢が残されていない。悲しきかな。

 

 列車の到着と共に、降車して。周囲を見回して、気付く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()。あまりにも静かだった。

 

 そこは、田舎の村をそのまま絵にしたような風景が広がっていた。

 一面が緑に囲まれていて、小さな家々が点在している。

 吹き付ける風は周囲の木々から漏れ出したもので、暑いはずなのに、どこか涼しく感じる。

 なるほど、ここが電車の中で流れた、夢見村、ということか。

 

 蝉の大合唱がそこかしこから聞こえるのも、夏の代名詞だろう。

 照りつける真夏の日差しも、今は心地よくも感じてしまう。

 

 さて、ここからが問題だ。……民家しかないのだが。

 どこにも、何もない。コンビニもなし。

 7と11のあれも、ミルク瓶のあれも、文字通り何も。

 強いて言うなら、民家のほぼ全てに畑がある。それだけ。

 後は、大きな山が一つ見えるくらいか。

 

 見えないところにあるのかもしれないが、少なくとも見える位置にはない。

 

「えぇぇぇえ……何か、すげぇな。帰りのホームは~っと……」

 

 暫くそこから歩いて、帰りのホームを見つけた。

 ホームに入って、時刻表を確認――

 

「――はぁっ!?」

 

 時刻表には、縦に数字が一列……時間の欄の数字と。

 横には――たった一つの数字だけが書いてあった。

 そのたった一つの数字は、先程列車から降りた時間と同じくらい。

 それが示すこと。即ち――

 

()()()()()()()()()!?」

 

 もう、今日の帰りの列車はなし。

 つまるところ、帰る手立てが残されていない。

 

「え、え、やべ、今日の宿どうすんのさ……!」

 

 夏の暑さに汗が出る。いや、これは冷や汗の方だろうか?

 ここは、本当に何もない村だ。ホテルなんて、あるはずがない。

 

 ひどく落胆した様子でホームを出ると――

 

 

 

 ――そこには、一人の女性が立っていた。

 

 透き通った雪の様な白肌が、清楚な純白のワンピースから露出している。

 彼女の華奢な体が、ワンピースと相まって最上級の魅力を醸し出している。

 ワンピースと同じく白いハットを目深に被っているが、口元の笑顔が眩しい。

 ホームに吹き付ける涼風が、彼女の艶やかな長い黒髪を上品に揺らす。

 

 一言で言い表すのならば、美女。そうとしか、言えなかった。

 表情は、ハットではっきりとは見えない。が、絶対に美女であるという確信があった。

 

「……こんにちは。貴方は、旅のお方でしょうか?」

 

 鈴の様な凛と澄んだ声は、この暑すぎる夏の日差しを和らげてくれた。

 涼しげなその女性は、本当に魅力的で、夏が似合っていた。

 

「は、はい、そうですが」

「ふふっ、ここには何もありませんからね。私の家でよければ、宿として提供しますよ?」

 

 鼓動が妙に早くなり、落ち着かない。

 あまりの暑さに頭がやられたのだろうか。そう思った。

 

「……いいの、でしょうか?」

「えぇ。では、行きましょうか。案内しますよ」

 

 そう言って、彼女は俺に手を差し出した。

 ……繋げと、いうことなのだろうか。

 

 意図を汲み取りつつ、手を繋ぐ。

 その瞬間に彼女との距離が近くなり、笑顔がすぐ近くにくる。

 爽やかな匂いが隣からして、心臓がバクバクとして静まらない。

 手が柔らかくて、意識がほぼ全て手に集中する。

 

「……? どうしました?」

 

 俺が戸惑って立ち止まっていると、先行しようとした女性が立ち止まる。

 

「あ、あ……いえ、何でもありませんよ。行きましょう」

 

 なるほど。そういう、ことか。

 

 ――俺は、この女性に一目惚れしたんだ。




ありがとうございました!

次回以降は、恐らく後書きはないと思います。

いつも私は一話辺り5000字書きますが、短編ということもあり、
短めに書いていこうと思います。
更新は不定期になります。

これから短くではありますが、この作品と私をよろしくお願いします!

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