鉄血のオルフェンズ 遠郷
ギャラルホルンの『秩序』のありかたに一石を投じたライド・マッスの奮戦により、世界は少しずつ、しかし着実に変わりはじめている。
鉄華団。
貧しい火星の孤児たちに居場所を与え、安住の地を作ろうとした青年実業家オルガ・イツカの名は全宇宙に知れ渡ることとなった。
火星連合議長クーデリア・藍那・バーンスタインは、テイワズのナンバーツーであるアジー・グルミンと協力し、元ヒューマンデブリたちの保護に力を注いでいる。暫定的にギャラルホルン代表代行をつとめるジュリエッタ・エリオン・ジュリスとも良好な関係を築き、生まれも身分も関係なく、誰もが等しく競い合える男女共同参画社会の実現につとめていく方針だ。
あれから半年。
鉄華団とオルガ・イツカを語り継ぐ権利を手に入れたエンビたちは火星に凱旋。デルマは孤児院に戻り、ウタは復学、イーサンは惑星間輸送の仕事に就いた。
進路に悩んでいたエンビは、連合議長SPとしてユージンやチャドとともに働くことを決意する。
家族の腕があたたかくエンビを迎え入れたが、鉄華団が残した『家族』のかたちは、あのころと大きく変わってしまっていた――。
銃声が鳴り渡る。
「おれたちは犠牲になんかなってない、居場所のために戦ったんだ!!」
エンビは吠える。議長執務室を引き裂くような慟哭が、悲痛に『家族』の心変わりを責める。護身用拳銃のトリガーにかかる指先がふるえ、それでも少年兵の手が的をとらえて逸らさない。あふれた涙が一滴、伝って落ちる。
次は当てると決意をこめて、チャドを睨み据えた。
家族を虐殺したギャラルホルンが支配する世界で、鉄華団が存在ごと忘れられていく欺瞞に満ちた世界で、おれはどうやってしあわせに暮らせばよかったっていうんだ。
右肩の傷。手のひらはふたたび血に染まる。
「……団長の願いは、家族みんなが笑って生きられるようにすることだったろ。どんな手を使ってでも死ぬな。生きろ。それが最後の命令だったはずだ」
チャドは憂う。鉄華団の名誉なんて、あのオルガが気にするとは思えない。世界を変えるよりも生きていてほしいと願ったはずだ。命に代えて守ったライドを失ってまで成し遂げるべきことだったのか。疑問に思う。
だって。お嬢がフミタンの仇であるノブリスに借金をして、三日月を惨殺させたラスタルの傀儡になってまで作ってくれた火星の平和が、無駄になるかもしれなかったんだぞ。
しかし
「家族も思い出も全部ぜんぶなかったことにされて、どうやって笑えばよかったんだよ!?」
鉄血のオルフェンズ
続くかもしれない。