とある未完の侵入禁止   作:ダブルマジック

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8月19日(後編)

 今回も楽な仕事だった。

 絹旗最愛は今日、アイテムとして上が持ってきた仕事を文句も言わずにこなしていた。

 製薬会社からのよくわからない施設防衛の依頼だったわけだが、現在それも終わりそうといった段階まで差し掛かっていて、絹旗が割り当てられた2つの施設の内の1つはとても静かな襲撃で、怪しげな行動をしていた1人の女を拘束することで収束。

 もう1つの施設には麦野とフレンダ、滝壺が配置され、なかなかハードな襲撃者が現れたようだが、現在は麦野が詰めの作業に入っているっぽい。

 それをついさっき直接の連絡時に確認した絹旗だが、やたらとテンションが高かった麦野は邪魔するなと言わんばかりにさっさと通話を切ってしまったので詳細は聞けずじまい。

 とりあえず援護は必要ないっぽいことはわかったのでそちらは麦野に任せることにして、先に撤収して合流してきたフレンダと滝壺の近くにまで行くと、能力を使った疲労で辛そうな滝壺は横になっていて、目立った外傷はないものの相手が発電能力者だったこともあり内部のダメージがそれなりのフレンダも口から血を吐いて横になっていた。

 もっとも今、フレンダが血を吐いて倒れているのは別に肉体的ダメージによるものではなく、先の襲撃者の迎撃に用いていた爆弾やそれらのツールの回収を忘れていて、それが麦野にバレて『おしおき確定』してしまったことによる精神的ダメージ。

 麦野のおしおきは超怖いですからね。と、他人事のように思いつつ絹旗は最近では珍しく撤退してきたフレンダと滝壺にどんな襲撃者だったのか詳しく聞く。

 

「どうもこうもあれは麦野と同じ超能力者級よ。麦野の原子崩しと滝壺の能力追跡のコンボからも逃げてたし、私の撃破ボーナスもなしにされたし!」

 

 最後のはただの愚痴だが、フレンダが仕留め損ねて、滝壺も消耗された上でまだ麦野とやり合ってるそのしぶとさは確かに相当なもの。

 

「(麦野と同レベルの発電能力者ですか。そうなると消去法で超割り出せるわけですが、それを考えるとなぜ施設襲撃をという疑問に超ぶつかりますね……)」

 

 元々不可解な依頼ではあって、事前に襲撃者が発電能力者であることもわかってて、依頼主の方は襲撃者の正体までわかってる上でそれを詮索しないように言って仕事を持ちかけてきていた。

 その襲撃者が麦野と同じ超能力者である超電磁砲だというのは絹旗も気付き、それならば依頼主が詮索するなと言った理由もわからなくはない。

 学園都市の超能力者は貴重な実験動物。その損失は替えが効かないものではある。

 だがその超電磁砲からの施設防衛をアイテムに任せたのは失敗だろうと思う。

 自分含めてアイテムは人をプチッと殺っちゃうことも割と抵抗がないし、たとえ依頼が施設防衛だろうと襲撃者を殺っちゃうのが手っ取り早いのは道理。

 まぁ考えたところで自分達が働きアリみたいな存在なのは変わらないし、超電磁砲の目的が何であろうと自分達のやることが変わるわけではない。そこで下手に首を突っ込めば、別の闇に触れることにも繋がる。触らぬ神に祟りなしだ。

 そんな暗部で生きる基本を思い出した絹旗は、しかし単純では生き残れない故の無意識レベルの思考力を一旦止めて別のどうでもいいことを考える。

 

「(そういえば、もうすぐ鳴海さんと初めて会……)」

 

 頭に浮かんだのは今の状況とはかけ離れた鳴海のことで、何気なく日付も確認していたことからすぐにそれに関連したことを思い出しかけた。

 だがその思考は急に押し寄せた正体不明のざわつきによって遮られ、胸に残ったモヤモヤとした気持ちに思わず胸の前の服を握ってしまう。

 それに気付いたフレンダがどうしたのかと心配そうに声をかけてきたものの、別に苦しいとか痛いとかそういう類いではないので大丈夫だと返し手も胸から放す。

 

「(なんでしょう……今、鳴海さんの声が超聞こえたような……)」

 

 それでも未だ残る不思議な感覚の中に、鳴海の声があったような気がした絹旗だが、なんだか鳴海にリソースを割きすぎてる自分の思考が恥ずかしくて、頭をブンブン振りモヤモヤと一緒にどこかへと吹き飛ばしてしまう。

 

「(まぁ、記念日くらいは一緒にいてあげても超いいかもしれませんね)」

 

 

 

 

 学舎の園の中にある常盤台中学の学生寮。

 相容れない存在である御坂美琴が住む学舎の園の外の学生寮とは違うここに住む食蜂操祈は、夜も更けてきた頃にじっくりと入ったお風呂から上がり現在、自慢のお肌の手入れ中。

 学生寮は例外なく二人部屋なため、食蜂の部屋にも同室者がいるが、こちらは派閥のメンバーで食蜂に従順。能力を使って命令するまでもなく寝ろと言えばさっさと寝るので、入浴直前にはすでに並んで置かれたベッドの1つに入ってご就寝。

 たまに手入れさえやらせることもある食蜂だが、相手にとってはご褒美になるらしいので、そう毎回ご褒美をあげて派閥内で贔屓だなんだとあっても相当に面倒臭いし、そんなことに能力を使うのもバカらしいのでこうして自らお手入れをすることが大体。

 常盤台中学もお嬢様学校の看板を背負ってるだけに普通の学校では習わないだろう授業もあるが、その中に女子力を磨く授業まであるのだから、お肌の手入れなど生活の一部のように出来るのが当たり前。

 若いうちから手を抜くと年を取ってから大変。が口癖の講師の切実な言葉を他人事には思えない食蜂もこうして毎日欠かさずに手入れをする。

 去年の今頃を境に成長著しくなった食蜂の身体だが、色んな成長を戦闘力やらに吸い取られてる御坂美琴など鼻で笑えるレベルの今のプロポーションはかなりお気に入りだ。

 特に胸。胸囲力はあの人に散々バカにされたあの頃とは比べ物にならない立派なものになったし、今も徐々に成長してるからブラジャーの新調も大変。

 そんな苦労を長らくしてないだろうつるぺったんな御坂美琴のことを思い浮かべて笑ってやってから、寝る前の手入れを完了させた食蜂は、睡眠時間も大切だと女子力講座で言われていたこともあり、成長ホルモンが多量に分泌される時間帯ギリギリにようやくベッドに入る。

 

「(急な成長力も考えものよねぇ。胸囲力があるおかげで寝方も安定しないしぃ)」

 

 ベッドに入ったはいいが、毎回その寝方で落ち着く体勢が決まらず一苦労する食蜂は、どんな体勢になっても形が変わる自分の胸がこの時だけ邪魔だなぁと思う。

 仰向けでもプリンを乗せてるような感覚は落ち着かないし、うつ伏せは胸を押し潰すので若干息苦しい。かといって横向きは片方向に胸が寄るので形が崩れる原因になる。

 こうした悩みを解決する矯正用のブラジャーというのもあるので、将来の垂れたりの原因を作らない対策として着けたこともある食蜂。

 それでもやはり相性というものはあるので、仕方なく今に至るわけだが、こういう時の対処法は別のことを考えながら寝るに限る。

 最近はこんな悩みがないだろう御坂美琴のぐぬぬという顔を想像しながら悦に浸って寝るのだが、毎晩それでは効果も薄くなる。

 

「(そういえば鳴海さんって、私の胸囲力には興味なさそうなのよねぇ。というかあの人に女の好みとかあるのかも怪しいわぁ……もしかして重度のシスコン力で手遅れだったりぃ?)」

 

 となれば次の標的になるのは奇妙な友人である鳴海。

 ただの想像でしかないが、その中でさえ自由な食蜂は勝手に鳴海という男の性格を作り出して1人笑ったりとかなり酷いことをしていたが、鳴海のことを考えた途端に寒気が押し寄せてきて身震いする。

 別に部屋が寒いとかではない。クーラーは効いてるがそれも適温に保たれているし、隣の子も心地良さそうに寝息を立てている。

 

「(変なこと考えるなって鳴海さんに怒られちゃったのかしらぁ。ここにいないのに私に干渉力を発揮するなんて、愛されちゃってるわぁ…………なーんてねぇ)」

 

 まぁそういうこともあるかと特によく考えない食蜂は、失礼な想像をしたバチでも当たったかと適当に完結させて目をつむると、やっぱり飯ウマな御坂美琴の悔し顔を想像して眠りに就いていった。

 

 

 

 

 鳴海最都は能力者だ。

 そんなことは今さら言うまでもないが、ここにはある重要な意味がある。

 物心ついた頃に両親に学園都市へと放り込まれて置き去りとなった鳴海は、その原因が育児放棄などといった一般的な要因ではない。

 学園都市は能力者を開発・育成する巨大な実験場みたいなもの。表向きにはそうした認識はないが、少しでもその闇に触れれば考えはそういったものに変わる。

 言うなれば学園都市はそうした普通とは違うものを扱う研究機関。そこでなら鳴海も数いる普通じゃない人の内の1人として生きられる。それが両親の最後の親心だったのだと今の鳴海は考えるようになっていた。

 要するにそういうことなのだ。

 鳴海最都は学園都市に来るより前から能力者だった。

 だから鳴海は能力開発のカリキュラムを受けていないし、幾多の身体検査を受けても未だに未解明な部分が多い。

 こういう鳴海のような能力者を研究機関では『原石』と呼ぶらしいのだが、その数は相当に少なく能力開発も難しい中で、原石の頂点を未知数込みで超能力者の第7位として扱っている。

 そんな原石である鳴海は、自分が超能力者となる条件を樹形図の設計者に予測演算された時から、どうしても引っ掛かることがあった。

 自分のことは自分がよくわかってる。それが能力に関してでも変わらない。

 鳴海の能力の根源は『拒絶』にある。

 絹旗と接するまでの自分が生きるために最低限のもの以外を能力で遮断していたのは事実。その頃の自分が限りなく孤独だったこともまた確かな記憶としてある。

 そんな孤独の中で、あとほんの少しでも絹旗に会うのが遅れていたら、自分はとんでもないことになっていたと思える心理状態を迎えていた時に至った境地。自分が超能力者になってしまう恐怖を感じたのはその時だった。

 樹形図の設計者は一方通行との戦闘によってその死の間際で超能力者へと至ると予測演算した。

 だが鳴海はそんな状況にならずとも超能力者に至れることを直感していた。だから樹形図の設計者も万能ではないと、心のどこかでそう思ってきた。

 

「(樹形図の設計者は、こうなることまで予測して演算してたってことなのかよ……)」

 

 しかし今、一方通行に自分の能力を攻略され、落とされたコンテナの下敷きになる間際になって、そうした思考に行き着いてしまう。

 実のところ、鳴海はなろうと思えばいつでも超能力者になれたのだ。

 ただそのために必要な条件に鳴海ではどうしても踏み込めないラインがあって……いや違う。どうしても『踏み越えたくないライン』があったから今まで鳴海は突き抜けなかった。

 鳴海が超能力者へと至るために外すリミッター。それは自分以外のあらゆるものの『拒絶』だ。

 超能力者は原石の第7位を除いて、その全員が高度な演算能力を持って君臨している。

 だが鳴海は全くの逆。高度な演算能力は必要なく、むしろ演算を単純化していくことでその力が強大になる天の邪鬼な能力。

 自分が生きるだけのもの以外を遠ざける超能力者の力。それはつまり今までにできた『繋がり』をも拒絶することに他ならない。

 落ちてきたコンテナに対して『突き抜けた』鳴海は、接触状態にある一方通行へとその能力を集中。

 ベクトル操作によって反転した力によってコンテナは一方通行へと一気に引き寄せられてその落下軌道がズレ、その異変に気付いた一方通行は即座に鳴海の足から手を放して離脱。

 直後に落ちてきたコンテナは鳴海を潰す軌道を修正できずに無情にも押し潰してきたが、一方通行の干渉を外れたことで能力が復活。その影響によってコンテナは鳴海の横にズレて地面へと落ちる。

 

「なンだ今のはよォ」

 

 少し離れた位置に着地した一方通行は、直前の違和感を確かめるように口を開いたが、ゆっくりと立ち上がった鳴海はそれに応じない。

 いや、応じられないが正しい。

 暗がりでは一方通行が喋ったかどうか口元を見ないとわからない。だから今、必要ない『音』も拒絶してる鳴海には一方通行の問いかけは届いていない。

 届いていないからこそ鳴海は一切の状況を無視してその左手の平を一方通行へと向ける不思議な挙動をする。

 直後、一方通行の身体は強力な力によって浮き上がって鳴海の方へと一気に接近。

 意図しない身体の動きに多少思考が混乱していた一方通行を、迎撃に構えた右拳で殴りにいく。

 

「おォっとォ」

 

 しかしその拳はまたもクリーンヒットとはならず空を切り、まさに当たる直前で動きを止めた一方通行はその額に一滴の汗を流す。

 

「あの距離で反射が働いたってこたァ、今までとレベルが違うってことだよなァ。まァお前の力のベクトルをピッタリ半分の力で反射してぶつけりゃエネルギーが相殺されンのは当然……」

 

 さすがに咄嗟の対応でギリギリだったような一方通行だが、余裕の態度は崩さずにまだ笑顔で口を開く。

 しかし鳴海には何を言おうと関係なく、一方通行がその動きを止めたのを見て能力の範囲を体表面にまで留めて踏み込み、左拳を一方通行の腹へと叩き込む。

 目に見えない能力の壁は一方通行にとっても対応がワンテンポ遅れるようで、しかも踏み込めば届く距離にいたこともあり、鳴海の拳はようやく一方通行の腹へと叩き込まれ、反射によってそれを吸い寄せてしまった一方通行の身体はくの字に折れ曲がる。

 ――倒すなら今しかない。

 それを確信した鳴海は能力の全てを以て『一方通行を拒絶』。

 もはや距離の概念を消失した鳴海の能力は際限なく一方通行を遠ざけようとその力を振るうが、反射によって強力な引力で鳴海へと突っ込んでくる。そこに拳の連打。連打。連打。

 能力を絞って広げて絞って広げて。それを繰り返さなければ一方通行が自分とくっついたままになってしまうので、そうして連打を叩き込んでいく鳴海だったが、6発目の拳が撃ち込まれたところでガッ! 引いた腕の手首を一方通行が掴んで止めてくる。

 

「調子に乗ってンじゃねェぞ三下ァ!!」

 

 目の前で叫んだ一方通行に対して、相手を丸ごと拒絶していた鳴海も反射によってその叫びを引き寄せてしまい軽い耳鳴りが起きるが、問題は一方通行に腕を掴まれていることだ。

 一方通行と接触状態にあると能力が反転してしまい、この状態では一方通行も鳴海の身体に触れることができてしまう。逆もまた然りではあるが分が悪いのは鳴海の方。

 一方通行は反射の制御と同時に別のベクトル操作も出来る。さすがにいま触れてる手で反射以外のベクトル操作はできないだろうが、人間には基本的に腕は2本あるわけで……

 

「最ッ高に決まっちまって俺も驚いたけどなァ。絶対能力者になンならこれくれェの代償でも釣りが来るってもンだろ」

 

 何もさせるわけにはいかない。本能的にそう思った鳴海は空いていた腕を振るって一方通行を殴りにいく。

 ゴギィィイ!!

 それで起こったのは鳴海の腕が曲がらない方向へと曲がってしまう悲劇。

 かつてない痛みに声にならない声を上げた鳴海だったが、一方通行は笑いながら掴む手を放しはせずに空いていた手で鳴海の腹へとデコピン。

 お返しとばかりに放たれたデコピンはベクトル操作によって凶悪な威力となって鳴海の内臓と骨に深刻なダメージを与えてきて、最早1人で立てなくなって膝を折る。

 一方通行が行なったのは簡単なこと。掴んだ手のベクトル操作で鳴海の能力を全反射するのではなくエネルギーの半分を反射して相殺。

 能力のバリアを完全に無効化した上でそこに反射と別のベクトル操作で攻撃したのだ。

 全てを捨てて超能力者になった鳴海でも、一方通行には勝てなかった。

 腕をへし折られ、内臓と骨にもダメージを負わされて息絶え絶えな鳴海は、未だ手首を掴んでいる一方通行を見上げることもできずに意識も朦朧とする。

 

「誇っていいぜ。この俺にまともに拳を叩き込ンだのは、今まででお前だけだからなァ。それに敬意を評して、華々しく散らせてやるよ。真っ赤な血の花火でなァ!」

 

 樹形図の設計者の予測演算では、超能力者の鳴海を殺害することで一方通行は絶対能力者へと至ることができる。

 だからもう、一方通行が人の心を持って鳴海を見逃すということは万に一つもなく、鳴海ごと空高くジャンプした一方通行は、頂点に達するよりも早く空いていた手で鳴海の折れた腕に触れてベクトル操作。

 何をするつもりか鳴海には想像もつかないが、ここが最後のチャンスと思いほとんど本能で能力を全開にし一方通行の相殺を無理矢理解除し引力を復活させてゴヂンッ! 間髪入れずにその額に頭突きをお見舞いしてやると一方通行はその手を両方とも放すが、能力全開の鳴海のバリアを反射する一方通行は鳴海から離れられない。

 この状態から狙うのはもう、一方通行を下敷きに地面へとぶつかることだけ。

 一方通行もそれに気付いて額から血を流しながらその手を鳴海に触れさせて能力を相殺。そこから空いた手で拳を握ってベクトル操作で威力を高めた一撃を鳴海に撃ち下ろして手を放すと、地面にまっ逆さまの鳴海はあっという間に激突。

 しかし一方通行と離れたことで能力が復活したため、即座に自分と地面の間にバリアを展開。

 全開から出力を絞ることでバリアをクッションにして激突はギリギリで避けて倒れるように降りたが、もう身体は限界を越えてしまっていて自力で立ち上がることは叶わない。出血も放っておけば確実に死に絶える量が流れ出ている。

 その鳴海の近くに悠々と着地した一方通行だったが、今の鳴海を見て数多の妹達を壊してきた経験がもう放っておいても死ぬことを悟ったのか、額の血を拭いつつ弱々しい呼吸をする鳴海を見下してくる。

 

「あー、こンだけやって俺の方に変化がねェってこたァ、お前がまだ超能力者になりきれてねェか、そもそもあの予測演算が不確定要素で誤差を生じさせたかだろォな。つーわけでもうお前に興味ねェからよ、死ぬまでの残り時間で俺に挑んだことを後悔してくれや」

 

 すっかりやる気を無くして無駄な時間を使ったとでも言うような物言いで踵を返した一方通行は、死に逝く運命の鳴海から完全に意識を逸らす。

 だが鳴海は後悔などしない。

 今夜の自分との戦闘は、絶対能力進化計画に多少なりとも影響を与えたはず。

 それによって樹形図の設計者がまた予測演算をしたとしても、死ぬはずだった妹達の幾らかは救えるはず。

 それにまだ、一方通行は自分を殺害するという条件を達成していない。

 それらを考えてなどいなかったが、立ち上がることも一方通行に顔を向けることすらできない状態で鳴海は能力を使って一方通行に干渉。

 この場を立ち去ろうとした一方通行だが、鳴海の能力に触れたことでピタリとその足を止めて振り返る。

 

「そォかよ。そんなに死にてェなら、お望み通り楽にしてやるよォ!!」

 

 そして高々と飛び上がった一方通行は、あえて鳴海の能力を反射して一気に落下。その拳を倒れる鳴海の身体のど真ん中に叩き込んだ。


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