ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

9 / 156
なんか段々拙くなってきたなぁ…。
もっと真剣に書こう(´・ω・`)


Ep.8 勇者と魔王のいない戦い

 

 

 

「クライン……いい加減機嫌直せ。今から攻略って時に仲間割れなんてしてられないぞ」

「分かってるっての……」

 

76層の迷宮区に、彼ら攻略組はいた。

迷宮区の奥の奥。フロアボスのいるボス部屋へと、彼らの足は動いていた。

先陣を切るのは血盟騎士団団長、<閃光>のアスナ。

その表情は鬼気迫るものを感じ、その視線はボス部屋のある方向から動かない。代わって、列の一番後ろで歩くのは黒の剣士と酷似した姿の剣士アキト。

そして、商人のエギル。風林火山団長のクラインだった。

 

クラインは、この前のアキトの言動に思う事があるらしいが、エギルに制されて、今現在不貞腐れている。エギルはそんなクラインに苦笑しており、アキトはそのクラインを視界から外していた。しかし、クラインはエギルの言っている事を本当に分かっているようで、しかしその顔は暗かった。

 

「……もう、キリトもヒースクリフもいねぇからな」

その言葉に、エギルも顔を曇らせた。

そう、攻略を支えていた黒の剣士と血盟騎士団団長のヒースクリフはもういない。今後は、このメンバーで攻略をしなければならない。

 

「……」

 

アキトは、目の前を歩く攻略組のプレイヤーに目を向ける。

皆、どこか覇気がない。諦念を抱いているかのような、そんな奴も見てとれる。エギルも、それに気付いているようだった。

 

 

「みんな何処か諦めてるように見えるな」

 

「見えるんじゃなくて、実際諦めてるようなとこあるだろうな。…特に、血盟騎士団の奴らはな」

 

 

そう言ったアキトの瞳は、その血盟騎士団の連中を捉えていた。

彼らの表情はどこか暗い。だが、それも無理のない話だった。

自分達が忠誠を誓っていたリーダーが、この世界の創造主だったなんて、想像もしてなかっただろう。

そして、その上ヒースクリフとほぼ対等の力を持っていたキリトも、今ではもういない。

信じていた者も、頼りにしてきた者も、いなくなってしまった事で、彼らは拠り所を失ってしまったのだ。

彼らにとっての頼みの綱は、最早アスナのみだろう。

 

 

だがそのアスナも、今は拠り所がないのに等しい。

アキトは、この団体の先頭にいるアスナに目を向けた。

 

 

「攻略組がこの調子なら、ラストアタックボーナスも簡単に手に入りそうだな!」

 

「っ…お、おい!」

 

 

アキトは、何を思ったのか目の前の奴らに聞こえるように、そんな事を発した。

クラインは制するが、もう遅い。

攻略組の連中は、そんなアキトを睨みつける。

陰口を言う奴や、舌打ちをする連中など様々だった。

アスナは、そんなアキトをチラッと見るだけ。

クラインもエギルも、アキトのその行為に疑問を抱く。

 

 

「お、おいお前…」

 

「そんな事したら…」

 

「いいんだよ、これで」

 

エギルの言葉を遮って、アキトは言う。

その瞳は、真剣そのものだった。

 

「これで少しはやる気になるかねぇ…」

 

 

「…アキト…お前…」

 

 

エギルは目を見開いた。

自らが嫌われる役を演じ、攻略組をまとめる。

こんな事をする奴を、自分は知っている。

 

 

「……キリトとヒースクリフのいない初の攻略だ。この攻略で、今後攻略組がどうなるのか大体分かる。トロイ攻略なんてさせらんねぇよ」

 

「…そうだな」

 

 

エギルは、アキトのその言葉を聞いて、口元が緩んだ。

戦うところを見た事はないのに、アキトの姿がとても頼もしく見えた。

 

 

そして、アキトという人間の事を、少し理解出来た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?…リズさん、エギルさんの店で何やってるんですか?」

 

「店番…エギルに頼まれたのよ…あたしにも店があるってのに…」

 

 

シリカが部屋から降りてくると、カウンターにはリズが気だるげに座っており、客寄せの意志が全く感じない様子だった。

エギルが攻略に行っている間に、リズはこの店の店番を頼まれたのだ。

 

 

「もうボス戦に行ったんですか?早いですね…」

 

「アンタが起きるのが遅いのよ…もう10時過ぎよ?」

 

「あ…あはは…えと、最近、クエストで疲れちゃって…」

 

 

痛い所を突いてくるリズに苦笑いを浮かべ、シリカはカウンターに座る。

机にピナを降ろし、その背中を軽く撫でる。

 

 

「…大丈夫…ですよね」

 

「…え?」

 

「クラインさんもエギルさんも…アスナさんも……アキトさんも。…皆さん、帰ってきますよね…」

 

「…シリカ」

 

 

その気持ちは、リズにも痛い程分かっていた。

もう、大切な人が死ぬのは見たくない。

耐えられない。

なのに、助けに行けない。

そのもどかしさが。

 

 

「…昨日、アキトが店に来たのよ」

 

「…アキトさんが?」

 

「武器のメンテを頼まれてね。けど…その武器の耐久値を見て驚かされた」

 

 

リズは頬杖をつき、天井を見上げた。

 

 

『っ…ついこの前メンテしたばっかなのに…!』

 

 

アキトから差し出されたティルファングを見た時、その耐久値の減り方を見て驚いた。

アスナの時同様、信じられない減り方をしていた。

キリトの死により、攻略速度が上がったアスナと同様の減り具合に、リズは色々考えたのを覚えている。

 

 

「…もしかしたら…アイツもアスナみたいに、何か悩んだり、抱えたりしてるんじゃないかって…」

 

「リズさん…」

 

 

リズのその表情を見て、シリカも俯く。

そう、自分達だけじゃない。

きっと、誰だって何かを抱えている。

だから、もしかしたらアキトも…。

 

 

シリカは顔を上げ、そんなリズに向かって口を開いた。

 

 

「…あたしも昨日、アキトさんに会ったんです。あたしでも出来る街中でのクエストを紹介してくれて…」

 

「…アキトが…?」

 

 

リズは意外だと言わんばかりの顔をしていた。

シリカは続けて口を開く。

 

 

「どうしてあたしの為にここまで親切にしてくれるのかって聞いたんですけど…その時、凄く悲しそうな表情をしてて…」

 

 

このVRMMOでは、感情表現が極端に現れる。

嬉しければ笑った顔、悲しければ涙が出る、恥ずかしければ顔が赤くなるといった具合に、感情が過剰に演出されるものも少なくない。

だから、シリカが見たアキトの顔も、きっと嘘偽りない彼の心なのだろう。

リズの言った事はきっと的を射ている。

アキトは、何かを抱えている。

それは、キリトに関わる事なのかもしれないし、そうでなくても、何か深刻なものなのかもしれない。

 

 

こんな事を考えながら、シリカもリズも考えていた。

 

 

出会って間もない少年に、自分達は何故こんなにも気にかけているのだろう。

容姿がキリトに似ているから?想い人に重ねているだけ?

確かにそれもあるだろう。

だが、この店にアキトが初めて来た時にエギルが言った一言。

それが一番の理由かもしれない。

 

 

「放っておけない…ね」

 

 

そう。単純に、放っておけないのだろう。

76層で一人佇む、孤独な黒の剣士を。

アキトにはどこか人を惹きつけるものを持っているのではと、リズは感じた。

それはきっと、エギルもだろう。

シリカだって気になっているだろうし、リーファやシノンもきっとそうだ。

 

 

そして、きっとアスナも──。

 

 

キリトと重ねて見える分、アスナが一番アキトを意識しているかもしれない。

言葉や態度は冷たいが、きっと心のどこかでアキトの事を気にしている。

 

 

シリカもリズも、アキトの事を何も知らない。

キリトと同じように。

だから彼が何かを抱えている、なんてのは想像でしかないし、二人が関わる事ではないのかもしれない。

 

 

──けど。

 

 

「…今度は…ちゃんと知りに行かなきゃね」

 

「…リズ、さん…」

 

 

リズは、シリカに微笑む。

シリカは、そんなリズを不思議そうに見つめる。

 

 

今度こそ、ちゃんと、知っていく。

キリトの時の過ちは、繰り返したくないから。

 

だから──

 

 

「…帰って来なさいよ、アキト…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここだな」

「やっとか…」

 

 

攻略組のメンバーが立っているのは、76層のフロアボス、そのボス部屋だった。

プレイヤーの何人かは、緊張でか、顔が強ばっている。

だがその反面、やはりどこか力のないプレイヤーも見られた。

アキトははぁ、と溜め息を吐いた。

 

 

「さっきの威勢はどこ行ったんだよ……てか、何でここまで歩きなんだよ。回廊結晶使えっての」

 

「…レベル上げの一貫だとよ」

 

「ボス戦前に疲れさせてどうすんだよ…キリト死んでからポンコツだな閃光…まあそんなに戦闘はしてねぇけどよ」

 

 

アキトはそう言ってアスナを睨みつける。

アスナも同じく、アキトを睨みつけていた。

 

 

「……今日は、私の指示に従って貰います」

 

「…ま、正しい指示ならな。後はお前の態度次第だ。俺はお前の駒じゃねぇ」

 

 

74層から、ボス部屋が結晶の使えない領域となっている為に、ボスの情報もロクなものがない。

その為、プレイヤーの技量や戦略に依存した攻略になるのは必至。

下手な行動は命取りになる。

何より、指示を出しているのが今のアスナならば、その不安は拭えない。

キリトが死んでから、心のどこかに穴が開いたような、そんな彼女では。

死に急いでいるように見える彼女は、今回指示をしないで特攻する可能性だって捨て置けない。

 

 

アキトとアスナは扉の前に出た。

ボスへのファーストアタックはアキトが請け負う。

アキトの後ろに壁役が控えており、アキトのカバーが出来る状態になっている。

左の扉にアキト、右の扉にアスナが手を掛けた。

 

 

アスナは、アキトにバレないよう、彼の横顔を見つめる。

その口元は弧を描いている。

その表情が、自信満々の時のキリトに良く似ていて───

 

 

「っ……何笑ってるのよ」

 

「あ?」

 

 

アスナは、キリトと重ねてしまう自身の思考を振り払おうと、思わずアキトに話し掛けてしまった。

しかし、アキトは不思議そうな顔をした後、その顔を再びニヤケさせる。

 

 

「…別に…少し楽しみで武者震いがな」

 

「……」

 

 

嘘だ。

アスナは、扉に手を掛けるアキトの手を見る。

少し、震えていた。

あれだけ攻略組のメンバーを煽っておいて、アキトは震えていたのだ。

アキトは、そんな自身を騙すかのように笑っているのだ。

彼らを馬鹿にし、煽って、偉そうで。

そんな彼が震えている。

 

 

だけどアスナは、そんなアキトを馬鹿にする気になれなかった。

あれほど気に入らなかったのに。

あれほど高圧的だったのに。

その怯えているような彼に、文句の一つも湧かなかった。

 

 

そんな彼が、再びキリトと重なった。

 

 

ボス部屋の扉が、二人によって開けられる。

その瞬間、アキトとアスナを先頭に、プレイヤー達がボス部屋へと駆け込んでいく。

ある程度進んだところで、部屋の中央にボスと思わしきモンスターを見つける。

プレイヤー達は、そのボスと距離を保つ。

 

 

ボスは全体的に丸みを帯びており、その身体は浮遊している。

その巨大な一つ目をコチラに向けており、その触手はヘビの様。

さながら、メデューサを想像させるボスだった。

それは、悲鳴にも似た鳴き声をボス部屋に響かせた。

 

 

 

 

No.76 BOSS <The Ghastlygaze>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ」

 

 

アスナは、その言葉を、誰にも聞こえないような声で発する。

だから、この言葉を聞くものは誰一人いないのかもしれない。

 

 

この時のアスナは、何故そんな事を呟いたのか分からなかった。

嫌っていた筈なのに。関わりたくないと思っていた筈なのに。

彼が、キリトの面影を持っていたからか。

それとも────

 

 

 

「──死なないで」

 

 

 

その言葉は、アキトに届いていた。

 

 

 

「当たり前だ」

 

 

 

 

 

──今。この瞬間。

英雄も魔王もいないボス戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── Link 10% ──





次回 ボス戦。

実は、戦闘描写が苦手。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。