ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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Ep.41 蘇る恐怖

 

 

《セルベンディスの樹海》供物の神殿

 

 

BOSS <The Shadow Phantasm>

 

闇纏うそのモンスターは、犬のような形の巨体で、ワニよりも大きい顎を持ち、体からは瘴気を放っている。

先程までは、全身に楔が打たれ、鎖が巻かれていた。まるで力を封印されているかのように。

だが今はその身に付けてた装飾を全て解放し、その上顎を反り返らせていた。

元々速かった動きも、楔や鎖が無くなった事でさらに身軽になっていた。その攻撃も単調なものでなく、そのパターンも豊富だった。

影に潜んで近付いたり、頭を横向きにしてその巨大な顎を限界まで開いて噛み付くような攻撃、鉤爪で地面を抉るような攻撃など、どの威力も桁違いだった。

だがアキトとフィリアとクラインは、消して油断せず、一定の距離を保ち、隙を互いに作り、その体に剣戟を繰り出していく。

 

 

その戦いは、どのくらいの時間がかかっていただろう。数十分くらいに感じれば、一時間以上かかっていたかもしれない。

だが、そのHPも、残り僅かになっていた。

 

 

「ソッチ行ったぞ!」

 

「分かってる!」

 

 

クラインのその声に、フィリアは走りながらそう答える。

影に潜むその獣は、次第にフィリアの足元へと近付いていた。

フィリアは息を飲みながらも、短剣を握る力を緩めない。その瞳は揺れながらも、闘志だけは置いていかない。

このまま走り続け、ボスが影から飛び出した所をギリギリで躱し、その隙を狙えれば。

頭の中でのイメージは常に持っておく。どんな攻撃にも備え、一撃でも多く、その巨体にお見舞いする為に。

 

 

(っ…、来た!)

 

 

その背中から、気配を感じる。

振り向けば、巨大な影が地面から迫ってきていた。その影から巨大な黒い獣が飛び出し、そのままフィリアに襲い掛かる。

その鉤爪は黒く鋭く、フィリアの頭上に差し掛かった。

 

 

「くっ…!」

 

 

横に飛ぶ事で、なんとかその攻撃を回避したが、ボスはそれを逃さない。走ってきた軌道を無理矢理、その4本の足で変え、一気にフィリアへと飛ぶ。

フィリアは先程の攻撃を転がって避けた為に、立ち上がりに時間がかかっていた。

気が付けば、ボスはもう目の前に────

 

 

「っ…くっ…!」

 

「アキト…!」

 

 

フィリアとボスの間に入ったアキトは、そのエリュシデータを上顎に突き刺した。

その牙が、アキトの腕に何本も刺さる。だが、ボスの動きを止めるには充分だった。

ボスはその上顎の痛みで頭を左右に振り、アキトを払い飛ばそうとする。

瞬間、クラインがその背に向かって跳躍し、その刀を光らせる。

 

 

刀技三連撃<緋扇>

 

 

その背に重い一撃一撃がクリティカルヒットする。ボスは口を大きく開いて鳴き、その巨体で暴れ始めた。

クラインは跳ね飛ばされて、近くにいたフィリアも迂闊に近寄れない。

瞬間、ボスがその頭を思い切り上げた。アキトはその反動で、上顎に刺していたエリュシデータ諸共上空に投げ飛ばされる。

これにはフィリアとクラインも驚きを隠せない。目を見開いてボスの真上へと飛んでいくアキトを見上げた。

ボスはアキトが落ちてくるのを待ち受ける体勢をとっており、このままではアキトがボスの口の中に為す術無く呑み込まれてしまうかもしれない。

 

 

「アキト!」

 

 

思わずアキトの名を叫ぶ。そのフィリアの声が聞こえた瞬間、アキトはその体を翻す。

 

 

「っ!」

 

 

ボスに向かって正面に体を捻り、エリュシデータを下に構える。

落下してくるアキトを見上げ、その顎を大きく開こうとするボス。アキトはその剣を光らせる。

 

 

まだだ、まだやれる。空中に投げ出されたとしても、この体はまだ動く、動かせる。

アキトは、その術を知っているし、持っている。

自分の体を自在に操るセンスを、自分は持っている。

 

 

「っ───!」

 

 

片手剣単発技<ヴォーパル・ストライク>

 

 

ソードスキルの光が、エリュシデータの刀身全てを覆う。

空中で身動きのとれなかった筈の体は、そのソードスキルの突進力で、一気にボスの元へと落下していく。

 

 

(くらえっ───!)

 

 

その増すばかりの勢いが、ボスの頭を突き刺した。悲鳴を上げ暴れるボスの即座に飛んで躱し、再びその剣を光らせる。

 

 

片手剣単発技<ホリゾンタル>

 

 

空中で静止した状態で、そのソードスキルを放つ。体を回転させて放つソードスキルは、ボスの鼻先を斬り付ける。

今度はボスの頭部の側面を、システムにアシストされた状態で蹴り上げた。

 

 

コネクト・体術スキル<孤月>

 

 

文字通り弧を描いた三日月のように振り抜いたその蹴りは、アキト自身の筋力値の高さもあって、ボスの顔を吹き飛ばした。

再び、自身と距離が離れたボスに向かって、その剣を突き付ける。

 

 

コネクト・<ヴォーパル・ストライク>

 

 

その突進で、アキトは空中を再び移動する。何も無かった場所から、一瞬でボスの体に辿り着く。

ボスに刺さるその一撃一撃が、残り僅かのHPを削っていく。

続けて放つ空中での連撃が、ボスの動きを妨げる。

その攻撃の重みが、ボスへと与えるダメージの総量が、アキトの意志の表れにも思える。

 

何ともいえないような思いを、闇雲にぶつけているように見えた。

 

 

(死ね───)

 

 

戦う時間が経つにつれ、その心が無意識の内に揺らぐ。

その洗練された剣技の中、その表情は次第に変わっていく。

 

 

(死ね───)

 

 

顎を突き刺し、皮膚を斬り裂き、肉を削ぎ落とし、纏う闇を払う。

体を殴り、抉り、潰す。目の前のデータを、消去する事だけを考える。

 

 

(死ね───)

 

 

いつからこうだっただろう。いつから、目の前のモンスターをこうも蹂躙する事に何かを感じるようになったのだろう。

 

 

「『死ね、死ね、死ねよ…!』」

 

 

瞳の色が変わり、声が重なる。

次第にその《剣技連携》の連撃数が、速さが増していく。

何かに動かされ、何かに同調するように。

 

 

 

「な、何だよあれ…」

 

 

クラインはアキトのそのSAOで暮らした2年間でも見た事の無い動きを見せられて、その顔を分かりやすいものに変える。困惑、驚愕といった感情を、フィリアは見て捉えていた。

確かにあの動きは、フィリアも初見はかなり驚いた。

空中でも使用可能なソードスキルや体術スキルを、普通のプレイヤーにはおおよそ不可能なシステム外スキル《剣技連携》で連発する事によって、空中での滞在時間を伸ばすなんて、神業と言わずしてなんと表現すれば良いのか。

ソードスキル、体術スキルに各々存在する突進力があるスキルの連携により、空中を移動しながら攻撃するなんて。

あれならば、高所にある弱点なども容易く突けるというものだろう。

 

だけど、そんなアキトに危うさを感じずにはいられない。

その異常な動きをする、どこか脆そうな少年を。

 

 

「クライン!」

 

「っ…分かってる!」

 

 

その思いは互いに一致していた。クラインもフィリアも、目の前で蹂躙を続けるアキトの助けに向かって走る。

援護は必要無いのかもしれない。足でまといかもしれない。

それでも、何故かこれ以上はいけない気がした。

 

 

アキト一人に戦わせては、いけないと感じた。

 

 

刀高命中三連撃<東雲>

 

短剣超高命中九連撃<アクセル・レイド>

 

 

残りHP僅か、アキトが怯ませ、弱っている今この瞬間、多連撃のソードスキルは使い時だった。

クラインは一撃が重いスキルを、フィリアは連撃数の多いスキルをそれぞれ発動する。

それぞれ特徴の違うスキルだが、自身の願いを叶えるには、効率の良いソードスキル。

 

早く、この戦いを終わらせる。

 

未だに空中で剣舞を続けるアキト。一体、合計で何連撃なのか、何回繋げているのだろうか。

何かに憑かれたような、別人のような動き、おおよそ見た事も無いスペックで、スキルを重ね続ける。

フィリアも、クラインも、システムアシストに身を任せながら、アキトを見上げていた。

 

やがて、ボスは弱々しく喉を鳴らすと、その体をポリゴン片へと変えていった。

 

 

「っ…」

 

 

空から、アキトが降り立つ。何も言わず、肩を上下に動かしていた。

フィリアとクラインも、黙ったままアキトの背を見つめる。その背にかける声を、頭の中で必死に探す。

だが、クラインは何かを決断したように息を吐くと、アキトに近付いてその背中を叩いた。

 

 

「よっ、お疲れさん!」

 

「お疲れ、アキト」

 

 

フィリアもクラインと共にアキトに近付き、その顔に笑みを作った。

ところが、アキトはそんな二人を見てキョトンとした表情のまま動かない。

ただボーッと二人を見つめるばかりで、言葉を音にする事は無い。

二人は流石に心配になり、その声音が震えた。

 

 

「お、おい、大丈夫かよ?」

 

「どこか具合でも悪い…?」

 

「あ……っ…え……?」

 

 

アキトは彼らを交互に見た後、辺りに視線を動かす。

ボスが消された事により、この場所には何も無い。ただ勝利を告げるファンファーレが空間に流れるだけだった。

それを見て、アキトは理解した、あるいは、我に返ったのかもしれない。

その表情は、いつものアキトに戻っていた。

 

 

「……そう、か。……終わった……のか……」

 

 

まるで、忘れていたかのように、ポツリとそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●○●○

 

 

 

「いやー…それにしても、《ホロウ・エリア》来てすぐにボス戦とは思わなかったぜ…」

 

「文句言わねぇ約束だろ」

 

「だってよぉ!俺は新しい武器やスキルが見つかると思って胸を踊らせてきたんだぞ!? いきなりボスとかよぉ、文句の一つも言いたくなるっての!」

 

「男に二言は無ぇんだろ」

 

「んぐっ…」

 

 

ボスのいた神殿を出て、現在は転移してきた場所に向かって歩く最中。消費したポーションと、摩耗した武器のメンテナンスをする為、管理区に足を運んでいた。

疲労でゲンナリするクラインの文句を、一蹴していくアキト。そんな二人の後ろで、フィリアは小さく笑った。

先程様子がおかしかったアキトも、今はいつも通り皮肉を返すアキトに戻っており、クラインも安心していた。

皮肉を言うアキトに安心感を覚えるのも変な話ではあるが。

 

 

「…にしてもよぉ、フロアボスの討伐の時も思ったんだが、何なんだよさっきのは!」

 

「あ?何が」

 

「あの連撃数の多過ぎるソードスキルに決まってんだろ!見た事無ぇぞあんなの」

 

「あれは既存のスキルを連発してるだけだ。タイミングが合えばディレイ無しで発動出来んだよ。やろうと思えば誰にでも出来る」

 

 

アキトはそうやって簡単に言っているが、それは嘘である事は、フィリアが一番知っていた。

『やろうと思えば誰にでも出来る』。そんな言葉を信じて、アキトのいない管理区で一人練習した事があったのだ。幸い、体術スキルは会得していた為に、《剣技連携》の条件は揃っていた。

だが幾らやっても、一度たりとて成功しなかった。アキトのあの言葉は、ぬか喜びさせる為の妄言である。

フィリアはそう考えながら、アキトをジト目で見ていた。

クラインはそれを聞いて、何だか納得していない表情だった。

 

 

「……いやそれにしたってオメェ、スゲェ連発してたじゃねぇかよ」

 

「……覚えてねぇよ」

 

「嘘つけ!あんなに空中でドンパチやってたじゃねぇか!」

 

 

そんな二人の会話を聞いて、フィリアはその目を細める。

 

 

(仲間、か…)

 

 

このエリアに来てから、まともに会話をしたのは目の前の二人だけ。

《ホロウ・エリア》のプレイヤーは、どこかおかしい。ここへ飛ばされて、もうそろそろ二ヶ月が経つ。変なプレイヤー達に囲まれて生きていて、碌に休む事も出来なかった。体も、心も。

だけど、だからこそ、アキトとクラインに救われたと思う。

アキトが自分の目の前に現れてくれた事、クラインに出会えた事に、フィリアは感謝しか無かった。

だからこそ、別れを惜しんでしまうのだ。

 

 

「二人はアインクラッドに、一旦戻るんだよね……」

 

「おう!だけどフィリアと俺達の武器をメンテナンスしたら、またすぐに戻ってくるぜ」

 

「……?」

 

 

そうフィリアに笑顔で返すクラインの横で、アキトはその表情を曇らせる。

辺りをキョロキョロと見渡し、その顔は段々と強ばる。

 

 

─── 何か、気配がする。

 

 

確証は無い。だが、確信した。

何かいる。何か、良くないものが、この体を不快にさせる。

そんなアキトの様子に気付き、フィリアとクラインはアキトに近付いた。

 

 

「……アキト?」

 

「おい、どうしたアキ…」

 

 

そのクラインの言葉は、アキトが腕を伸ばした事で遮られた。静かに、と。暗にそう言っていた。

不思議に思い、アキトの表情を見る。

アキトのその顔は、どこか一点を見つめており、その表情は段々と変わっていく。

二人はアキトのその視線の先を見ようと、自然と頭を動かした。

 

 

そして、それを見たクラインは、その瞳を大きく見開いた。

 

 

「お…おい…!」

 

 

その声が震えた。アキトの視線にあったのは、プレイヤーの団体だった。

《ホロウ・エリア》で初めて出会った他のプレイヤー達。アキトとクラインにとっては、この場所の情報を得る為の重要な鍵。

だが、それも素直に喜べない。

 

 

視線の先に小さく見えるその団体は、争っていた。

しかも、多人数で、一人を一方的に甚振っていたのだ。

 

 

フィリアもそれに気付き、驚きの声でアキトに向かって口を開いた。

 

 

「!!! ねぇアキト、あれってもしかして……」

 

「っ……!」

 

 

だが、フィリアのその言葉を最後まで聞く事無く、アキトは走り出した。

そのいきなりの事に、フィリアもクラインも驚愕を見せた。

 

 

「あ、アキト!危ないよ!」

 

「チィ、あの野郎……!」

 

 

フィリアとクラインはその背中を追いかける。敏捷値が高いアキトとの差はどんどんと離されていく。

その事実を理解して舌打ちをするクラインの横で、フィリアは走りながらかつての記憶を思い出していた。

ダンジョンの安全地帯で休息していた時の、あの光景を。

 

 

(まさか、また…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキトの目の前には、輪になって一人のプレイヤーを甚振る数人のプレイヤー達が見えた。

彼らは皆フードを被り、倒れ込むプレイヤーを見下ろしていた。

その足を緩めない。そのスピードで、眼前にいる彼らに向かって、エリュシデータを引き抜いた。

今にも、地に這いつくばるプレイヤーにトドメを刺そうと武器を持ったその腕を上げるオレンジカーソルのプレイヤーに向かって、その剣を解き放った。

 

 

(間に合え───!)

 

 

片手剣単発技<ヴォーパル・ストライク>

 

 

その速度は、まさに音速。鋭い一撃が、そのプレイヤーの腕を切り落とした。

男は急な事態に悲鳴にも似た声を上げ、蹌踉めく。周りもそれを見て驚愕の声を洩らした。

アキトはすぐに振り返り、その乱れた輪の中にいるプレイヤーに目をやる。

助けなければ、救わなければ。そんな使命感にも似た何かが、アキトを突き動かしていた。

男はその切断された腕を抑え、狂おしい程に叫ぶ。

 

 

「ぐああぁああぁああ!!!」

 

「テメェ…やりやがったな……!」

 

「な、何だコイツ……!?」

 

 

目の前にいるプレイヤー達は揃いも揃ってオレンジカーソル。手加減してやる道理は無かった。

アキトは瞬時にプレイヤーの一人に迫り、その剣を振り下ろす。男は一瞬の事で困惑するも、持っていた武器で防御した。

アキトはその場でソードスキル<ホリゾンタル>を発動し、襲われていたプレイヤーから距離を取らせる。

アキトは未だ地面に這う男性プレイヤーに視線を動かした。自分が時間を稼ぐ間に、逃す事さえ出来れば、後はどうにでもなる。

 

 

その瞬間、アキトは目を疑った。

そのプレイヤーは、出血と麻痺の状態異常がかけられていたのだ。

ダメージを与え続ける出血の状態異常は、そのプレイヤーの残り僅かのHPを無慈悲に削り取った。

 

抵抗虚しく、そのプレイヤーは光の破片となって、虚空へと飛んでいった。

たった一瞬で、アキトの目の前で一つの命が霧散した。

 

 

「────」

 

 

アキトはその瞬間、その瞳を大きく見開いた。恐怖にも似た感情が、心臓を襲う。

何かを言おうとした筈なのに、その言葉は空気に溶け込み消えていく。その瞳は大きく揺れ動き、心臓が高鳴る。

脳裏に、かつての光景が蘇るようで。

 

 

「あ……ああっ……」

 

 

また。

また、俺は。

また、間に合わなかった。助けられなかった。

 

 

「っ…はっ…は、…はあ……あ、はぁ………は…!」

 

 

言葉が出ない。体が震える。目の前の光景から視線を逸らせない。

ただ、襲ってくるのは、途轍も無い不快感。

そして、湧き上がるのは、ただただ怒り。

駄目だ、もう、限界だ。目の前の悪を、許してはいけない。

そう思うのに、体が動かない。

 

色々な記憶が、頭の中を行き来する。駆け巡り、その脳が揺さぶられる感覚がする。

何もかもがグチャグチャに、かき混ぜられていくような感覚が襲う。

過去の映像が何度も何度も再生され、巻き戻され、繰り返し脳裏に表れる。

呼吸は乱れ、大量の汗が出る。アキトの意識は、朦朧とし始めていた。

 

 

「アキト!」

 

 

漸くフィリアとクラインが追い付き、目の前の光景に目を凝らす。

頭を抑えて蹲るアキトを見たフィリアは、瞬時にアキトに寄り添った。

クラインはそんなフィリアとアキトを背に、数人のプレイヤーに向かって刀を構えた。

 

 

「アキト…アキト、大丈夫…!?」

 

「テメェら、何しやがった!」

 

「……チッ、ターゲットは片付いた。とっとと行くぞ!」

 

 

フードを被った男達は、片腕をアキトに切り落とされたそのプレイヤーに促され、クライン達に背を向けて走り出した。

 

 

「待ちやがれ!……クソッ……」

 

 

クラインは舌打ちをしつつ追おうとするも、多勢に無勢。無謀なのが分かっている状況では追いかけられなかった。

それに今は、取り乱しているアキトの方が心配だ。

悔しそうに拳を握り締めるも、すぐにアキトの元へ駆け寄った。

 

 

「アキト…大丈夫…?」

 

「……フィ、リア……クライン……」

 

「アイツらに何かされたのか!?」

 

 

クラインはアキトの両肩を掴む。力無く座り込んでいたアキトは、そんなクラインとフィリアを見て、震える声で呟いた。

 

 

「……俺が、悪いんだ……間に、合わなかったから……」

 

「……アキトが悪いんじゃない。どんなに急いでも、間に合わなかったもの……」

 

「……助けられた、筈なんだ……手を伸ばせた筈なんだ……」

 

「アキト……」

 

 

何度も何度も、後悔の言葉を口にする。

そう、あの時だって、助けられた筈だった。伸ばせた筈のその手は、あの時しっかり伸ばせた筈なんだと、そう何度も呟く。

涙が零れ落ちて、その弱さが垣間見える。

 

今まで見た事も無いそのアキトの様子に、二人は困惑するしかない。

あれだけ強気で、皮肉屋で。それでも誰かを助けてしまえる、そんな存在だと思っていた。

だけど、目の前にいるアキトは、全くの別人のようだった。

 

アキトがこんなに脆く、痛々しい人間だったなんて、フィリアもクラインも思わなかっただろう。

アキトのその様子に、困惑するだけだった。

そんな彼に、かける言葉が見つからなかった。

 

 

「……悪いフィリア、今日はもう……」

 

「……うん、分かってる。管理区まで付き合う」

 

 

クラインの言葉の意図を察して、フィリアはそう返す。

今日は、攻略どころではなくなってしまった。何より、こんな状態のアキトに未だ困惑を隠せずにいたからだ。

今までの彼とは、まるで違って。

 

それでも、これが本当のアキトなのではないかと、そう思えてしまって。

 

 

「……言ってくれたんだ……俺は……『ヒーロー』だって……だから……助けなきゃ……いけなくて……」

 

 

アキトは小さな声で、消え入るようなか細い声で、そう言い放つ。

助けられるプレイヤーを助けられなかった。その痛みは嫌という程に分かる。

だけど、アキトは本当にそれだけなのだろうか。

本当は、まだ何かあるのではないか。

 

 

自分達は、アキトについて何も知らなかった。

知らなさ過ぎたのだ。

 

彼の抱えている事に、怖くて踏み入る事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── Link 45%──

 





迷走してる……!( ゚д゚)ハッ!

後で書き直す可能性あり(´・ω・`)

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