連日投稿は無理ですが、書ける時間が出来たので書きます!
今日は短めです。
未開の土地について、アキトとフィリアが話すだけ……(´・ω・`)
ゲームとあまり違いはありませんが、どうぞ!
高く聳え立つ木々の中に、二人のプレイヤー。
アキトとフィリアは、巨大な神殿跡地を背に、広々とした空間に出ていた。
そして、少し歩いた先にあるのは、急な下り坂だった。
その坂道はアキトがいた森とは違う森へと続いており、その先は暗がりに包まれ、ついでに未知にも包まれていた。
「この先を下ったところよ」
フィリアはそう言った後、その顔を斜め上に向ける。
それにつられてアキトもフィリアの視線の先を追う。
その先の上空には、青い球体のようなものが浮いており、その下には光が差し込んでいた。
とても幻想的な景色で、思わず息を呑む。
「…最終的にはあの球体が目的地なのか」
「ええ…入った事は無いんだけど…でも、あんたがいれば入れる気がする。その紋様と同じものが描かれていたから」
「…?あの球体に入った事無いなら、その紋様はどこで見たんだよ」
「その紋様がついた転移石みたいなのを見た事があって…もしかしたら関係があるのかもと思って」
フィリアは色々記憶の引き出しを漁るように、思い出すように途切れ途切れに言葉を紡いでいく。
アキトはフィリアから視線を外し、再び上空に浮かぶ球体を見上げた。
あの球体の中に、求めるべき謎があるかもしれない。
フィリアに付いて行き、坂を下ると、その森の奥に洞窟らしい場所があった。
フィリアはその洞窟の中へと躊躇いなく入り、アキトはその背を何も言わずに追い掛けた。
暗がりの中、フィリアの歩みは速い。未知というだけで、アキトにとっては恐怖の対象であるというのに。
見た事の無いフィールドの、未開のエリア。見るもの全てが珍しく感じる。他の洞窟と大差は無い筈なのに。
アキトは周りを見渡しながら、その口を開いた。
「…あのアナウンス…確か《ホロウ・エリア》とか言ってたな」
確かにそう言っていた。だが、そんなエリアの情報なんて聞いた事が無い。
階層が表示されない、隠しエリアの可能性あり、それだけでインパクトが強そうなだけに、情報が出回っているなら気付かない訳が無い。
恐らくこの場所は、一般的に周知されたエリアでは無い。
フィリアは暗闇でも目が効くのか、特に何かにかかる事無く進んで行き、その間、アキトの呟きに気が付いたのか、こちらを一瞥した。
「あんたはどうやってここに来たのか覚えてる?」
「マッピング中に突然転移したんだよ。お前は?」
「私も殆ど同じ。ただ違うのは…」
フィリアは再びチラリとコチラを振り向いた。その視線の先には、アキトの掌に今も尚輝く紋様だった。
アキトも浮かび上がっている紋様を見つめる。フィリアは紋様からアキトへと顔を視線を上げた。
「あのボス倒したのが切っ掛けなんじゃねぇの?ラストアタックは俺が取ったんだし」
「…ホロウリーパー…あんなモンスター初めて見た。…あんたは『スカルリーパー』とか言ってたっけ。見た事があるの?」
そのフィリアの言葉を聞いて、アキトは固まった。
そう、フィリアの言っていた言葉が、文字通り引っかかっていた。
あの時の、ボスのネーム表示には《 Hollow Reaper 》と確かに書いてあった。だが、アキトはそのモンスターに対して、『スカルリーパー』と、違う名前を口に出したのだ。
アキト自身それに驚いているが、間違いだと、それを訂正するつもりにもなっていなかった。
あのモンスターを、何処かで見た事があったような。
「────」
─── こっちだ!早くっ、走れっ!
─── ぐっ…!うわあああぁぁあぁああぁぁあぁあ!
─── い、一撃で…!?
─── 下がれっ!
─── ひっ…!う、うわあああぁぁあぁ!
「…75層の、ボスに似ていた…」
「フロアボスが、なんでこんな場所に…」
フィリアが考え込むように俯きつつ、洞窟を進んでいく後ろで、アキトは自身の口走った言葉を頭の中で反芻していた。
その脳内で、見た事も聞いた事も無いような記憶のイメージがグルグルと回る。
(なんで俺…75層のボスなんか知って…)
それこそ、自分は見た事も聞いた事も無い。ただ、とてつもなく大きな被害が出た事。
失ったものは大きかった事。それだけがアキトの心に張り付いていて。
「…って事は、アキトは攻略組なんだ」
「っ…あ、ああ」
フィリアの言葉で我に返り、今も尚前を向いて進む彼女の背を見つめた。
フィリアは何か納得したのか、何かスッキリしたような雰囲気を纏っていた。
「あんた結構強かったものね。もしかしたらその紋様も、あんたの取っているスキルに関係があるのかも」
「こんな事が起きるスキルなんて……」
「…?どうしたの?」
アキトは何かを思い出したのか、その言葉を途中で止めてしまう。まるで、そのスキルに心当たりがあるような。
何か、知っているような。
アキトはすぐに冷静になり、フィリアに向かって首を横に振る。
「いや、何でもない。そんなスキル聞いた事無いなと思っただけだ」
「嘘。さっき使ってたあのスキル、あんなの見た事無い」
「は?どのスキルだよ」
「あんなに連撃数のある刀スキルなんて初めて見た。もしかして、ユニークスキル?」
フィリアの言っている事で、アキトは漸く理解した。恐らく、《剣技連携》の事を言っているのだろう。
ホロウリーパーを倒す際に何度か使用したのだが、どうやら見られていたようだ。
足を止め、食い入るようにコチラを見るフィリアの視線から逃れるべく、アキトは視線を横にずらす。
「あれは既存の刀スキルと体術スキルを交互に使ってるだけだ。タイミングが良けりゃ、硬直無しでスキルが連発出来るんだよ。やろうと思えば誰にでも出来る」
「そ、そうなの…?それも充分凄いけど…」
フィリアは関心したように目を見開いていた。
実際、やろうと思えば誰にでも使用する事が出来ると思う。タイミングとイメージ、それさえ掴めれば。
話していると、やがて洞窟の先に光が見える。ここまで一度もモンスターに出くわさなかったが、外に出れば分からない。
フィリアとアキトは互いに武器を取り出し、光差す出口へと向かった。
その光に照らされ、アキトは思わず目を細める。
洞窟から出れば、そこにはまた新たに森が広がっていた。木々が並び、道は四方に続いている。
迷路を彷彿させるような場所だった。
勿論、アキトはどの方向に行けばいいか分からない為、フィリアに付いて行くしかない。
「……」
「…?どうかした?」
「いや…結局のところ、なんでここに飛ばされたんだろうなって思ってよ。紋様の件は置いておくにしても、何か理由があると思ってな。他にプレイヤーはいない様だし、俺とお前で共通点を探すしかないけど」
実際、このエリアに来てからというもの、フィリア以外のプレイヤーには会った事が無いし、その気配もあまり感じない。
もしかしたらこのエリアには、自身とフィリアしかいないような、そんな錯覚を受ける。
この広大なエリアを踏破するのに二人は心許ないが、とアキトは心の中で苦笑した。
すると、目の前を歩いていたフィリアは、いきなり立ち止まり、こちらを振り向いた。
アキトはその行動の意図が読めず、首を傾げた。
「…私達以外にもいるよ。プレイヤー」
「…本当か?」
そのフィリアの言葉にアキトは目を見開く。今まで見た事は無いが、プレイヤーがいるという情報は大収穫ではある。
この強制転移という訳の分からない状況に巻き込まれたのが自分だけではないと安心出来たし、何よりこのエリアの情報をより多く持っているプレイヤーもいるかもしれない。
だがフィリアは決してそんな高揚とした雰囲気では無かった。
「ええ……でも…少しおかしなところがあるというか…」
「プレイヤーが?…具体的には?」
「説明が難しいの。実際に会って確かめた方がいい」
フィリアはそう言って背を向け、再び歩き出した。
アキトは彼女の言っていた事を頭の中で考えながら付いていく。
(おかしなところのあるプレイヤー…ね)
─── 瞬間、再びこのエリア全体に女性の声が響き渡った。
[規定の時間に達しました。これより、適性テストを開始します]
「い…いきなり何?」
「っ…またか…」
いきなりのボリュームにフィリアの体は震え上がる。
アキトは再び流れたシステムアナウンスを半ば食い入るように聞いていた。
規定の時間、適正テスト。アナウンスは確かにそう言った。
もしかしたら、クエストが起動したのかもしれない。
何か、何かそれが確認出来るものは無いか。
アキトが周りを見渡す。ウィンドウを開く。
すると、このホロウ・エリアのマップの他に、見慣れない単語が記載されていた。
「…『ホロウ・ミッション』…?」
《HOLLOOW MISSION》と大文字で書かれたそれは、クエストとは異なる使用でウィンドウに表示されている。
タップして見ると、そこにはクエストログのようなものが書かれていた。
「…『マッスルブルホーンの討伐』ね…」
「アキト、さっきのアナウンス……何か分かったの?」
焦ったようにアキトの元に近付いて来たフィリアだが、ウィンドウを見ているアキトを見て、何か分かったのかもしれないと察したのか、その目を見開き聞いてきた。
「…テストだとか言ってたよな」
「私も…確かにそう聞こえた」
「俺テスト嫌いなんだけど」
「それは聞いてない」
何か分かったのかと思っていたフィリアは、アキトのそんな発言で溜め息を吐く。
アキト自身も溜め息を吐いており、ウィンドウを閉じると、フィリアを追い越し、マップを探りながら歩いていく。
「ちょ…どこに行くの」
「あ?テストだよ。紋様の件はテスト終わってからだ。どの道やんねぇとあの球体も行けないだろうし」
「 …何をするのか分かったの?」
「つっても、何処に行けばいいのかは分かんねぇけど。だからマッピングすんだよ」
アキトは鞘から琥珀を引き抜いた。
フィリアがそれに驚き、アキトの視線の先を見ると、モンスターがポップしていた。蜂型のモンスターが大量に蔓延っていた。
フィリアも慌てて短剣を引き抜く。
アキトは刀を構え、目の前の蜂達を静かに見据える。
「フィリア、この戦闘が終わったらホロウ・エリアで戦ったモンスターのデータ全部くれ。状態異常の種類とトラップの傾向、それからやりやすい戦い方と連携の情報も提供しろ」
「…分かった」
フィリアは一言そう返すと、駆け出すアキトの背中を追った。
次回「罪ありし虚ろな少女」