ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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今回メッチャヘタクソです。待ってくれた方本当スミマセン!
何故かって…?クライン書くの難しいからさ…(白目)

その他、訳分からん所や、物申したい事がありましたら、感想に書いて下さい…修正します…( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)



Ep.23 変化

 

 

 

 斬る。刺す。殴る。抉る。殺す。殺す。殺す。殺す。

 他の事は考えない。無駄な思考は必要ない。

 この時だけは、どんな感情も介入しない。嫌な思い出も、忘れたい過去も。

 決して忘れてはいけない記憶も。

 この時だけは、何も考えなくていい。

 

 

 ただひたすらに、目の前に広がる飛龍の群れを、殲滅するだけ。

 

 

 「──死ね」

 

 

<レイジスパイク>

 片手用直剣のスキルの中でも初期に使える単発技。だがその威力は、78層のワイバーンすら一撃で沈める程のものだった。

 アキトのSTR値の高さが垣間見える。

 

 斬り伏せ、砕け散ったワイバーンの影から、またさらに2匹。

 だが──

 

 

 「───死ね」

 

 

<ホリゾンタル>

 白銀に光るティルファングを、横に一閃。

 それだけで、その2匹のワイバーンはその体を輝かせ、やがてポリゴンとなった。

 アキトの、モンスターを見るその瞳は、まるで親の仇でも見るようだった。

 目の前には、まだモンスターが蔓延る。オーク型が3体、ワイバーンが2匹。

 アキトはその瞳を見開かせ、一瞬でオークに迫った。ワイバーンの真下にいるオークに向かって一気に駆ける。

 途中2体のオークは、<バーチカル・アーク>で吹き飛ばした。

 残ったオークの顔に蹴りを入れ、そのまま上空に飛び上がる。真上にいるワイバーンに目掛けて、その剣を光らせる。

 

<ヴォーパル・ストライク>

 

 その突進力で、アキトはさらに飛び上がり、その剣はワイバーンの胸に深く突き刺さる。

 ワイバーンが雄叫びを上げた瞬間、アキトの体が動く。

 

 コネクト・体術スキル<飛脚>

 

 両の足をワイバーンに突き立て、そのままワイバーンを蹴り飛ばす。ティルファングはワイバーンから勢いよく引き抜かれ、さらにダメージが換算された。

 アキトはそのスキルの反動で横に飛んでいく。その進行方向の先には、2匹目のワイバーン。

 

 コネクト・<シャープ・ネイル>

 

 片手用直剣三連撃技。その突進力がそのままダメージに乗り、ワイバーンはやはり初撃で破片と化した。

 だが、まだこのスキルは続いている。

 アキトはそのまま落下していき、その真下には、先程ジャンプ台に使ったオークがコチラを見上げていた。

 オークは咄嗟に盾でガードするが、拙い。

 

 

 「死ね」

 

 

 落下と共に繰り出されたそのスキルは、オークの盾を吹き飛ばし、最後の一撃でオークをポリゴンに変えてしまう。

 あまりにも無慈悲に。あまりにも冷酷に。

 あれだけの数を、ほんの数秒で。

 

 そのモンスターの破片が空気中に霧散していく中、アキトは静かにその景色を見つめていた。

 だがその瞳に感動は無く、ただただ怒り、哀しみのような。

 そんな表情を浮かべていた。

 

 

 ─── らしくない。分かっている。

 いや、分かってない。自分らしいとはなんだろう。

 どれが本当の自分?アキトはティルファングを地面に突き刺し、顔を俯かせる。

 少なくとも、モンスターであったって、こんなに軽々しく『死ね』なんて言うような奴では無かった筈だ。

 この世界は偽物なんかじゃない。アスナには逆の事を言って傷付けたが、本当はそんな事思っちゃいなかった。

 この世界だって、もう一つのリアル。だからこそ、今まで倒してきたモンスターにだって、きっと命があった。

 いつもあんな狂気的に、殺人を楽しむラフコフみたいに。モンスターを斬り伏せた事があっただろうか。

 

 

 「…全部偽物だったら…どんなにいいか…」

 

 

 ある筈もないタラレバが口から零れる。そんな事を無意識に言ってしまう自分の弱さに、自嘲気味に笑った。

 これが、これまでの2年間が全て瞞しで、全て偽りで、全て幻想だったならば。

 今まで目の前で消えていった数多の命が、偽りのものだったら。

 全てドッキリで、このゲームをクリアすれば、また皆に会える仕様だったなら。

 

 

 「…そんな世界だったら」

 

 

 どんなに良いだろう。

 アキトは、何気無くティルファングを見つめる。

 

 

 「…耐久値も、そろそろ限界かな」

 

 

 あのボス戦以来、一度もリズベット武具店に顔を出していないアキト。その為、ティルファングの耐久値が回復しておらず、77層の時の状態であった。

 リズベットから平手打ちを食らったあの日から、なんとなく顔を合わせる事に躊躇いを覚える。実際、平手打ちを食らうに値する事をしたのだ、そう考えるのはお門違いというものかもしれない。

 だけど。

 

 

 「……」

 

 

 アキトはティルファングをストレージに仕舞い、別の武器を取り出した。

 それは、何処にでもあるようなデザインをした刀だった。

 

 刀カテゴリ : <琥珀>

 

 クリティカルに補正がかかるだけの武器。とてもティルファングの代わりは務まらない。

 最近宝箱で見つけたものだが、現在売られているものよりも少し性能が良いというだけのもの。

 だけど、今は彼女に顔を見せるより、この刀に頼りたかった。

 

 

 「…次はアイツか」

 

 

 目の前にはリポップしたオークの群れが。コチラを確認してゾロゾロと集まっていく。

 アキトはその質の劣った刀を構え、一心不乱にソードスキルを叩き込んだ。

 

 

 まるで、八つ当たりをする子どものように───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間、ひたすらにモンスターを倒した。

 火力が出ない分、多少ダメージは負ったが、それすら気にならない。

 リポップするまでの時間が惜しく感じて、すぐさま別のエリアへと走って、見たもの全てを刀の錆に変えるかの如く。

 

 

 「……」

 

 

 だけど、斬っても斬っても、別に優越感に浸れた訳じゃない。

 ただただ虚無感に襲われた。

 その瞳は、前髪に隠れて見えはしない。だけど、唇を噛んでいるのは分かった。

 

 

 

 

 

『…どうして、お前はここにいるんだ?』

 

 

 

 

 「…どうして、だろうな。俺でも、何か出来るかもしれないって思ったからかも。お笑い草だよな、俺は英雄なんかじゃ…君なんかじゃない、ただの一プレイヤーなのにさ」

 

 

 卑屈に笑う。その幻聴に。

 刀を鞘に収め、帰路に立つ。

 攻略組に来て、毎日こんな事を繰り返している。変わり映えの無い、在り来りな毎日。

 元々はこの世界が非日常だった。それなのに、今はこれが当たり前になっている。

 

 いつからだろう。モンスターに怯える事無く、彼らをレベル上げの材料と感じるようになったのは。

 いつからだろう。強敵を倒しても何も感じなくなったのは。

 

 

 「変わらなくてもいい所ばかり変わってるな…」

 

 

 変わりたい所は、何一つ変わってないのに。

 そう呟いても現状は変わらない。目の前には、また新たにモンスターが現れていた。

 アキトは再び刀を構える。この層は飛龍型のモンスターが多い。上空にいると倒すのは至難の技ではあるが、倒せないわけじゃない。

 

 

 「──っ!」

 

 

 アキトは上空へと飛び上がり、刀スキルの<緋扇>を放つ。

 やはり、ティルファングのステータスよりも弱い為、一撃というわけにはいかなかった。

 

 

 「っらあ!」

 

 

 力任せに刀を振り抜く。その連撃に、やがてワイバーンは消滅した。

 その表情は、先程よりも冷静なものだったが、心は晴れない。

 

 

 

 

『私には!もう、生きてる意味が無いの!生きているのが辛いの!だから…!』

 

 

 

 なら、自分は?生きている意味を、存在意義を失った自分は?

 俺は、何の為に此処にいる?俺が今、すべき事は何?

 俺という人間が、この世界に在り続ける理由は何?

 

 

 「くっ…!」

 

 

 ダメージを受けつつも、大した事は無いと吐き捨て、目の前にオークの四肢を切断する。

 HPが尽きるのを見た瞬間、すぐに別のモンスターへと視線を切り替える。ポリゴンとなるモンスターの最後は看取らない。

 倒したら、また次。殺したら、また次。そうして屍の山を作る。

 アキトの心は、その度に傷付いていく。

 

 

 「っ!?…あ、れ…」

 

 

 アキトはその瞬間、糸が切れたように地面へと体制を崩す。

 急いで起き上がろうとするが、体に力が入らない。

 もう何時間も休まずモンスターを斬っていた為に起こった、当然の事だった。

 

 

 「…っ!」

 

 

 アキトはハッと何かを察知して振り向く。そこには、既に片手斧を振り上げるオークの姿が。

 アキトは間に合わないだろうと感じつつ、それでも防御姿勢を取る。

 だが。

 

 そのオークの攻撃は、乱入してきたプレイヤーによって凌がれ、そのままポリゴンへと姿を変えた。

 思わず目を見開き、乱入してきた人物を見上げる。

 エギルの店で何度も顔を合わせた相手、だけどあまり話した事も無い人物だった。

 

 

 「おい、大丈夫か!?」

 

 「っ…<風林火山>の…」

 

 

 そこには、野武士面の主張が強い、ギルド<風林火山>のリーダー、クラインが立っていた。

 クラインは周りにモンスターがいない事を確認すると、コチラに走り寄って来た。

 

 

 「…ったく、無茶しやがって…ほらよ」

 

 「…必要無い、自分で立てる」

 

 

 クラインから差し伸べられた手を無視して、ヨロヨロと立ち上がる。

 クラインは心配するような眼差しをコチラに向けていた。

 

 

 「お前さん、ちゃんと休んでるのか?こんな事ばっかしてると体もたねぇぞ?」

 

 「いらん世話だ、無茶してないと言ったろう。それに、あの一撃が入ったくらい、大したダメージじゃない」

 

 「っ…何言ってんだテメェ!自分のHPちゃんと確認しやがれ!」

 

 

 クラインが怒気を孕んだ声でコチラを睨み付ける。

 その尋常ではないクラインの覇気に、アキトは自分のHPバーを確認すべく、視界の左上へと視線をずらす。

 すると、HPが危険域に入っているのが見て取れた。レッドになっているHPを見て、思わず目を見開く。

 どうやらダメージが入る度に、『一撃くらい大した事は無い』と考えながら戦い続けたツケが回っていたようだ。ただ無心にモンスターを屠っていたので、アキト自身気付かなかったようだ。

 いつもと違う武器、それも性能が低い刀で戦っていた為に起きた、ギャップのようなものだった。

 だが、アキトはその事よりも、クラインがこうも自分を気に掛けてくれる事が気になった。

 クラインからは、あまり好感は持たれていないだろうと思っていたから。

 アキトはクラインを見て、卑屈に笑った。

 

 

 「…随分とお優しいんだな。自分で言うのもアレだが、お前への印象は最悪だと思ってたぞ」

 

 「こんな時に冗談言ってんじゃねぇぞ!」

 

 

 クラインはアキトの胸倉を掴み、アキトを自分に引き寄せる。

 そんな事をされるとは思っていなかったアキトは、クラインを凝視した。

 

 

 「お前は目の前で死にそうな奴が嫌いなら助けねぇのかよ!生憎俺はそんな事考えてる余裕なんて無ぇんだよ!」

 

 

 クラインのその目は、何かを訴えているようで。

 アキトは何も言えなかった。

 クラインは溜め息を吐くと、アキトから手を離し、一言謝った。

 

 

 「…すまねぇ、カッとなっちまって」

 

 「……」

 

 「けどよ…俺はもう、誰かが死ぬのを黙って見てるなんて出来ねぇんだよ…」

 

 

 クラインは顔を俯かせ、その拳を強く握る。悔しがるようなその表情を見て、アキトは目を逸らす。

 そうか、彼は、自分と同じだったのか。

 誰かが死ぬのを、見たくないと。

 

 

 「…ゴメン」

 

 

 思わず謝罪の言葉が、口から零れた。

 クラインも素直にそう返されるとは思ってなかったらしく、コチラを見て目を瞬く。

 キリトの仲間の一人である彼は、見たところかなり情の熱い男のようだ。

 こんな見ず知らずのプレイヤーにも、手を差し伸べる事が出来る。

 アキトはそんなクラインを見て、寂しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 ─── クラインらしいな。

 

 

 「っ…あれ…」

 

 

 アキトはその考えに首を傾げた。

『らしい』ってなんだ。自分はクラインの事、何も知らない筈なのに。

 アキトはふと疑問に思ったが、クラインが顔を上げたのを視界の端で確認し、顔を上げる。

 

 

 「…それに、お前には俺のダチを助けて貰ったしな」

 

 「……」

 

 

 クラインにそう言われて、76層と77層でのボス戦を思い出す。

 エギルの盾となった自分、アスナのピンチを凌いだ自分。

 リズベットと、指切りした自分。

 どれも全力を出した戦いだった気がする。あの時、皆を守りたいと思った気持ちに、きっと嘘は無かった。

 アキトはクラインを視線から外し、ポーションを取り出した。

 

 

 「…約束、したからな…リズベットと」

 

 「…そうか」

 

 

 クラインも、儚げに笑った。

 アキトのその一言だけで、クラインのアキトに対する印象は変わっていた。

 アキトは、きっと悪いヤツでは無いと、そう感じて。

 それがなんだか嬉しかったのか、安心したのか、クラインはアキトにポーションを投げる。

 アキトは放物線を描くそのポーションを慌てて受け取った。

 どういうつもりなのか、アキトはクラインを見ると、クラインは頬を掻きながら口を開く。

 

 

 「その礼と詫びだ。受け取ってくれ」

 

 「…なら、これは助けて貰った礼にやるよ」

 

 

 アキトはそう言って、元々持っていたポーションをクラインに放り投げる。

 それを受け取ったクラインは、実質貸し借りゼロになった結果に、苦い顔をした。

 

 

 「…ケッ、可愛くない野郎だぜ…」

 

 「貸し借りは作らない主義なんだ」

 

 

 アキトはクラインを見もせずに、そのポーションを口に突っ込んだ。

 クラインはそれを確認し、アキトから貰ったポーションを飲んだ。

 HPバーが回復していくのをお互いに確認し、漸く一息着いた所で、クラインが口を開いた。

 

 

 「…にしてもよ、お前いつも一人で攻略してんのか?」

 

 

 その一言は、アキトの胸に深く刺さる。

 クラインに悪気が無いのは理解しているが、アキトにとってその話はある意味タブーだった。

 

 

 「お前には関係無い。そっちこそ、ギルドのリーダーの癖に一人じゃねぇか」

 

 「まあな。…最近は、一人の時の方が多いかもしれねぇ」

 

 「…それでよく俺の事でとやかく言えたな」

 

 

 その野武士面の男は、如何にも何か言いたそうな表情をコチラに向けて来ていた。

 アキトはそんなクラインの顔を見て、息を吐いた。

 クラインは身を乗り出すような勢いで話を続ける。

 

 

 「けどよ、もうこんな上層の上に、モンスターのレベルも上がってる。一人じゃあ限界があるぞ」

 

 「限界なんてのは諦めの早い奴が自分を慰めるのに使う言葉だ。嫌いな言葉だな」

 

 

 かつての自分を、思い出す言葉だ。

 

 

 「だけどよ、お前もギルドに入ってんなら………っ!?」

 

 

 突如、クラインの言葉が途切れる。

 不思議に思いクラインの方を向くと、その目を見開き、コチラを凝視していた。

 いや、見ているのはアキトじゃない。どちらかと言うと、自分の頭上の辺り────

 

 

 「…その、ギルドマーク…」

 

 「っ…」

 

 

 アキトは言葉を詰まらせ、体が固まる。

 お互いに、その視線が動かない。

 クラインが見ているのは、アキトのHPバー、その上に描かれた、ギルドに加入している事を表すエンブレムだった。

 イラストは各自決める事が出来る為、自分達のギルドのイメージをそのエンブレムとして使う事が出来る。

 即ち、その種類は無限。だからこそ、クラインが見間違える筈が無い。

 

 

 一年前のキリトがギルドに加入していた時に見たのと、同じイラストだったのを。

 

 アキトはしまったと思い、目を逸らした。

 まさか自分で墓穴を掘ってしまうとは。自分の詰めの甘さが恨めしい。

 気付かれて無かったのだから、ギルドの話なんて触れなければよかったのにと、凄まじい勢いで後悔した。

 

 

(そうだ…この人もキリトの仲間…なら、知ってても…)

 

 

 クラインは、信じられないと、そういった表情で。

 クラインはその表情のまま、震えるような声で言った。

 

 

 「……お前さん、もしかして、キリトの……」

 

 「……お前には、関係無い」

 

 「っ…、お、おい!」

 

 

 アキトは立ち上がり、クラインを背に歩き出した。その進行方向の先には、78層の街が。

 クラインが咄嗟にその肩を掴むが、その肩は震えていて、すぐにその手を離してしまった。

 

 

 「頼むから…やめてくれ」

 

 「…分かった」

 

 

 そのアキトの反応は、自分の考えが当たっている事を示していたみたいで。

 お前の思っている通りだよと、そう言っているみたいで。

 だが、アキトのそのか細い声を聞いて、クラインは離したその手を力無く落とす。

 アキトはクラインには目もくれずに歩き出した。

 クラインはその背中を見て、心がざわめく。

 あの背中を、あの去り際を、きっと自分は見た事がある。

 ずっと後悔していた、助けられなかった少年の背中。今も悔やむ、一人にさせた友の背中。

 それにとてもよく似ていて。

 

 

 「な、なぁ!なぁおい、アキト!」

 

 「……」

 

 

 クラインは思わず飛び出す。

 アキトは、背中から感じるその視線に足を止めた。

 

 

 「…フレンド登録…しちゃくれねぇか」

 

 

 クラインはそう言って、ウィンドウを動かす。

 アキトの目の前に、フレンド申請の通知が表示された。

 

 

 「っ…」

 

 

 アキトはその瞳を開かせ、心臓の鼓動が強く打たれるのを感じた。

 脳裏に焼き付くは、自身のフレンド欄。

 もう二度と更新される事は無い、<DEAD>と表示されたフレンド。

 シリカとリズベットとフレンド登録したその日も、その表記を見て我に返った。そして、後悔した。

 

 

(これを…これを押してしまったら…俺はまた…)

 

 

 目の前のYESボタンを見て、瞳が揺れる。

 これまでずっとそうだった。自分が欲したものが、この手から零れ落ちる感覚。

 何度も味わってきた。失って感じる哀しみと絶望を。

 また、失ってしまうのでは。

 アキトのその手が、その指が、そのウィンドウに伸ばされては、引っ込められる。

 フレンド登録をしてしまったら。仲間だと、感じてしまったら。

 俺は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─── 約束…する、から…誰も…死なせないから…必ず、みんなで、現実の世界に……!───

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ……」

 

 

 アキトは、いつか誓ったその言葉を思い出した。その拳を、固く握り締める。

 それは、誰と交わした誓いだっただろうか。

 誰も死なせたくないと、そう思ったのは本当で。後悔だけはしないと、そう決めていた筈だった。

 そんな大言を守れる保障なんて、何処にも無かった筈なのに。

 絶対に、やり遂げると決めてしまったから。

 この『誓い』だけは、決して破らないと誓ったから。

 

 

 「…ほらよ」

 

 

 アキトは、クラインからのフレンド申請を受けた。

 フレンド欄に、新たに互いの名前が記される。

 

 

 「…ありがとよ」

 

 「…別に」

 

 

 だからこそ、キリトの大切なものを守ると決めたからこそ、この行いに意味がある。

 きっとこれが、今のアキトの此処にいる理由。

 だけど、本当に大切なものは、遠ざけるべきだと、そう思った。

 そうすれば、そうしておけば、こんな事にはならなかったかもしれないのだから。

 

 

 目の前の男がこんな顔をするのも。アスナが哀しみにくれるのも。

 

 

 俺が、大切なものを失う事も。

 

 

 

 

 「…じゃあな」

 

 「…最後に一つだけ、聞いてもいいか…?」

 

 

 アキトの別れの挨拶を遮り、クラインがそう呟く。

 アキトは再び振り返り、クラインの言葉を待つ。

 

 

 「ギルドの名前、教えてはくれねぇか」

 

 

 名前は知っているけれど、キリトから直接教えて貰った事は無かった。

 いつか、共に攻略組で出会い、肩を並べ、互いに背中を預ける存在になると思っていた。

 いつか、孤独だったキリトの背中に涙した。

 もうきっと、キリトに仲間は出来ないのではないか、独りで死んでしまうのではないかと、そう思った。

 だけど。

 

 此処に、キリトのかつての仲間がいる。

 

 ちゃんと聞いたわけじゃない。だけど、そう思う事にした。

 そう思いたかった。キリトと共に歩いてくれたであろう、目の前の少年だと。

 

 

 アキトはそのクラインの質問を聞いて、その口を開きかけて、気付いた。

 別に隠している訳では無い。だけど、そういえば自分の口からこの名を出すのは初めてかもしれないと、そう思った。

 

 

 いつか、このギルドにいる事が誇りになったら、自慢してやろうと思っていたのに。

 最前線で、轟かせたかった筈の名前なのに、一度たりとも口にしなかった。

 

 

 

 

 大切な場所の名前を、俺は口にした事が無かったんだなと、今更胸が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───《月夜の黒猫団》」

 

 

 

 

 

 







そろそろフィリアを出す時か…。
いや、今回の本当に何処かいつもと違う感じするんですよね…書いてて不審感あったと言うか…(´・ω・`)
慣れない事はするものじゃないな…( )

そういえば、本日の日間ランキング、なんと12位でした。
感無量です( இ﹏இ )
これから下がっていくんだろうな…(白目)
頑張ります!(`・ ω・´)ゞビシッ!!


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