今回は後半、シリアス無しで書いております。珍しい…(震え声)
あまり慣れていないので、前話までとは質が劣っているかもしれません。すいません(´・ω・`)
今後も書き連ねて行くことでそういった部分も上手く書けるようになりたいです。(`・ ω・´)ゞビシッ!!
アキトはまた、この場所を訪れた。
見渡す限りが自然のもの。太陽の光が水面に反射して眩しく、思わずその目を細める。街がある孤島が橋で続いており、まるで湖の上に浮かぶ島国の様だった。いつか、ユイに見せてあげた景色。最近はここに来る頻度も多くなった気がする。
理由はなんだっていい。スキル上げの為だとか、昼寝の為だとか、綺麗な景色だからとか。
独りになりたいからだとか。
「……」
この場所を見つけたのは、この76層に来て数時間経った時だった。
街中を、何か大事なものを探すように駆け巡り、建造物の合間を縫いながら、焦りと困惑で彷徨いながら。
そうして見つけた場所だった。
何を、いや、誰を探していたのかなんて、とっくに自覚していた。
彼の死を信じ切れなかった自分の、最後の足掻きのようなものだった。
「……」
特に何もする事をせず、ただただボーッとその景色を見渡していたアキト。だが、今日はそれが目的でこの場所に来ていた。
ここにいる間は、全てのしがらみから隔絶された世界にいるように錯覚出来るから。この場所なら、色々な事を考えなくて済むから。
剣を抜き、スキル上げをする事も無く、ただひたすらにその景色を眺めていた。
だけど、やがて後悔する。
何も考えないようにと思って来た場所だったのに、景色を見るだけで思い出す事があった。
前もこんな風に、彼とこんな景色を眺めた事があったっけ。
●○●○
それは、とある夕暮れのひととき。
『…なあ、それ、美味いか…?』
何処かの層の、セーフティーエリア。二人の少年はレベリングの小休止を取っていた。
その丘の上で、黒いコートの少年は、白いコートの少年の食べる饅頭のような食べ物を凝視する。
『…へ?あ、これ?うん、美味しいよ』
『…一口くれないか?』
『キリトの一口大きいんだよなぁ…』
白いコートの少年は、キリトと呼ばれた黒い剣士に持っていた饅頭を差し出した。
一口ちぎってくれるものかと思っていたキリトは、思わずキョトンと目を丸くする。
『…えっと』
『あげるよ。どうせまだ6つあるし』
『そ…そうか…じゃあ…って、なんでそんなに…』
『みんなにお土産』
キリトはその目を爛々と輝かせ、饅頭を頬張る。予想通りに大きいその一口に、アキトは思わず苦笑した。
そして、今のこの状況にも笑ってしまう。
『折角今日1日は休日にしようって皆で決めたのに、俺達は二人でレベリングなんてね』
『た…確かに…け、けど、アキトが頼んで来たんじゃないか』
『どうせする事なんて無かったろ?…それとも、何かあったの?』
『ぐっ…いや、無いけどさ』
ギルドの皆で決めた。毎日根を詰め過ぎるのも良くないから、たまには休日もあっていいだろうと。
妥当な判断だし、流石リーダーだと思ったのだが、アキトとキリトには、生憎休日の潰し方というのを知らない。
結局、休むべき筈のレベリングを勤しむ事になってしまった。
と言っても、キリトはアキトに頼まれたから付き合っている。勿論、キリトに予定は皆無だったが。
『…けど、なんでレベリングしたいなんて頼んで来たんだ?』
キリトはアキトにそう頼まれてから、ずっと疑問に思っていた。いつもよりも上層でレベリングしたいと言ってきた事、それに自分を選んだ事。
キリトのその真っ直ぐな視線に応えるように、それでいて悪戯気に笑った。
『キリトは、さ。強いから…。俺が知ってる、誰よりも』
『…そんな事は…』
その一言で、キリトは思わず背筋を伸ばす。もしかしたら、アキトには、自身がレベルを偽っている事に気付いているのでは、と思ってしまったからだ。
『…どうして』
『そう思ったのかって?…なんとなく、かな』
『…え?』
自身のレベルを偽っていた事がバレたのではと、恐る恐る聞いたキリトではあったが、アキトからの返事は、そんな曖昧なものだった。
アキトも『んー…』と頬を搔き、何て言えばいいか迷っている様だった。
『…ゴメン…なんか言葉に出来ないや…とにかく、なんとなくだよ』
『…俺は強くなんかないよ』
『どうしてそう思うの?』
『どうしてって…』
アキトのキョトンとしたその表情に、キリトは困惑する。
どうしてそう思うのか。それは。
自分が彼らに嘘を吐いているから。
レベルの差が大きいパーティは、その差の分だけリスクが高い。それは何故か。
理由は色々ある。高レベルのプレイヤーが一人いるだけで、上層のモンスターの討伐は楽になるが、その結果を自分達の力だと過信してしまう低レベルのプレイヤーが後を絶たないからだ。
自分達はこんな上層でも戦える。ならば、もっと上に、もっと先へ。その結果が欺瞞に満ちたものだとも知らずに、未知の領域へと足を踏み入れてしまう。
要は、レベルと実力の差が出てしまうのだ。レベルが上がれば、それで強くなったと思い込み、上に行く事だけを考える。それが人だから。競走本能が、正しい思考の邪魔をする。
だからその分、死亡率も上がる。それも、死んだら死んだで、高レベルプレイヤーの責任にされてしまう。
例え引き入れたのが彼らでも、加入を申請したのが自分自身でも。
それに、キリトは本当のレベルを隠してる。始めからレベルを公開すれば、そんなトラブルだって回避出来た。だけど、隠してしまった。それはきっと、疚しい事があったから。
嘘を吐くのは、弱い証拠。そう思って。
本当の事を言う勇気が無くて。
だけど、そんな思考をグルグルとさせているキリトを、アキトは不思議そうな目で見た。
『…俺が…君に…君達に嘘を吐いているから…』
『……それって、いけない事なの?』
『…は?』
アキトはキリトを真剣な眼差しで見つめながら、そう言葉を発した。
キリトは目を丸くして、アキトを見つめ返す。
『俺もあるよ。君に嘘ついてる事、隠してる事』
『え…』
『いや、どうかな…きっと、俺だけじゃない。誰だって、嘘は吐くし、話せない事もあると思う』
その純粋な瞳に、キリトは何も言えなくなった。アキトはフッと笑い、その場を立ち、大きく伸びをした。
それは、キリトの嘘の告白など、特に気にもしていない様子で。
『キリトが何を思ってるのかは、分かんないけど…嘘を吐いてでも、この場所にいたい気持ち、凄く分かる。…俺も、そうだし』
『…アキトも、何か隠してる事が…』
『…存外、君と似たような事かもね』
隠している事は。
そう言った彼は、キリトを見てクスクスと微笑む。
『だから、いいんじゃない?嘘にだって、種類はあるよ。許せるか許せないかは人それぞれだけど、きっと俺は許してしまう』
『…それ、は…どうしてだ…?』
キリトのその困惑したような表情から、アキトは目を逸らした。
なんとなく、言い難い事だった。昔の自分なら、きっと言わないセリフだから。
そう思ってしまえば、消えてしまうような気がしたから。
だけど、この気持ちに、嘘は吐きたくないと思ったから。
『このギルドの仲間だから』
『っ…』
キリトは思わず目を見開いた。アキトは照れるようにはにかみ、やがて目の前の広大な景色を眺める。
この場所が、自分の全て。
彼らが、自分のいるべき、いたいと思える世界。
いつまでも怯え続けていた自分に、手を差し伸べてくれた。そんな彼らを、アキトはそう思える程に、狂おしい程に大事だった。
『…俺、さ、キリト。強くなりたい。…ゲームをクリアするだけの力だとか、悪を滅ぼす為の力とか、そんな大層なものじゃなくていい。俺は…ヒーローじゃないから。ただ…』
アキトは儚げな笑みを浮かべ、自身の手を空に、天に伸ばす。
『自分にとって、大切なものだけでも、守り抜く力が欲しい』
『…アキト』
『…なんて、ちょっと重いかな…はは…』
『…そんなことはない』
照れるように、或いは自嘲気味に笑うアキトに、キリトはそう言葉にした。
真剣な眼差しで、アキトの意志を感じ取っているようで。
『俺も…みんなが大事だよ』
『…そっか。一方通行じゃなくて良かった…』
アキトはそんなキリトの絞り出したような声に、儚い笑みを浮かべた。
アキトには、守りたいものがある。それは、この世界で出来た、自分の宝物。存在する意味。
自分が、自分である為の理由。
守りたいもの全てを、手に入れる力が欲しい。
傍から聞けば、強さに固執したような言葉に聞こえるかもしれない。だが、その言葉の持ち主の心は、とても純粋で透明で。
この世界でも認められるべき、優しい感情だった。
『…そ、ろそろ戻ろうか、キリト。何か食べて帰ろうよ』
『…ああ、そうだな』
なんとなく気恥ずかしい雰囲気に呑まれぬよう、捲し立てて話すアキト。
キリトも似たような事を感じたのか、その動きが忙しない。キリトも立ち上がり、お互いに帰路に立った。
キリトは、前を歩くアキトの背中を見つめた。ここにいてもいいと言ってくれた、少年の背中を。
自分にかけてくれた言葉の一つ一つが、とても嬉しくて。現実世界では考えられない、友達が出来て。
『…なぁ、アキト』
『ん?』
『…えと、…あの、さ…』
『歯切れ悪いなぁキリト…どうしたの?』
しどろもどろに口を開いたり閉じたりするキリトが珍しくて、アキトは笑ってしまう。
キリトは、酷く慌てているように見えて。でも、その眼はこちらを向いていて。
『ゲームクリアになってもさ…現実でも友達になれたらいいなって…』
『……うん、そうだね』
キリトから紡がれた言葉を聞いて、アキトは目を見開く。
驚き、焦り、喜び。そんな感情が綯い交ぜになって。
だけど、キリトのその言葉にも、嘘は無いように感じたから。
アキトも、そんな彼を見て、小さく笑った。
思えば、キリトと友達として話すようになったのは、ここからかもしれない。
●○●○
「……ん……」
重い瞼を、ゆっくりと開ける。天井は無く、上に広がるのはオレンジ色に輝く空。
「……寝ちゃってたか……」
いつの間にか、眠ってしまったらしい。アキトは仰向けになりながら、そう呟いた。
酷く懐かしい夢を見ていたような気がする。もう既に朧気で、思い出す事は難しいけど。
だけど、忘れてはいけない、過去にしてはいけない、過去に出来ない、そんな夢だったような。
とはいえ、もう夕方とは。随分と長く眠ってしまったものだと思った。
それも、とても気持ちのいい寝起きだった。
久しぶりかもしれない、良く寝たと、そう感じたのは。この場所は、何かと気が抜けてしまう。けど、きっと悪い事では無いだろう。
アキトは上体を起こそうと頭を上げる。
否、首から下が上がらない。
「……ん?…なんか、重い……っ!?」
アキトは体がいつもより重く感じて、思わず自分の体を見る。
すると、そこには。
「ん〜〜……」
──── 一人の女性が自分に乗っかって眠っていた。
「…は、え!? …え、っ…?…っ!…○✕¥%☆♪〒〆\\÷<=→#€&!!?」
アキトは、76層へ来てから一番の驚きと焦りを感じていた。
その女性が自身に寄り添って眠っている事に困惑し、上手く思考が働かない。
(は?え?…誰!? なんでここに!?…ていうか誰……えっと、誰!?)
アキトの思考は未だ纏まらず、そのまま彼女を凝視する。
白銀とも呼べるような綺麗な髪に、紫を基調とした装備。そして、主張の激しい胸が、アキトの体に覆い被さって────
(──で、誰!? )
アキトはここへ来て、頭の中が騒がしかった。
どんな色っぽい現象が起きていようとも、アキトの頭はそれだけだった。
「んー……?」
脳内を必死に整理していると、そんな彼女から声が聞こえる。
彼女はモゾモゾと体を動かし、ゆっくりと体を起こしていく。
そして、顔を上げると、丁度彼女を見つめていたアキトと、至近距離で目が合った。
「……え、と」
「おはよ〜…ふあぁ…」
「お、おはようございます………や、じゃなくてさ…」
欠伸をしながら挨拶する彼女に律儀に挨拶するも、いやいやと、突っ込みを入れる。
ゆっくりと上体を起こすと、彼女もそれに気付いたのか、アキトから体を離し、すぐ側の芝に座り、瞼を擦る。
腕を上げて、背筋を伸ばし、体を反らす。
「ん〜〜〜!良く寝た〜!ありがとね、アキト!」
「あ…ああ………っ、…俺の事、知ってるのか…?」
「?うん、知ってるよ!」
私は知らないんですがそれは。
アキトは彼女を見つめる。
何処かで会った事があるだろうかと。だが、既に先程からのインパクトが強い分、感じる。いや、確信する。
彼女とは初対面だ。
アキトは思わず、その口を開いた。
「…誰」
そんな素朴な疑問に、彼女は答える。
「…アタシ?アタシはストレア!よろしくね!」
ストレアの名乗るその少女は、裏表の無い笑顔を、アキトに向けてきた。
●○●○
「…それで、ストレア…だっけか」
「うん!そーだよ」
「…えと」
現在、アキトはとある喫茶でストレアとテーブルを挟んで対面していた。
急にストレアが何か食べたいと言い出して、半ば無理矢理ここへ連れ込まれたのだ。
アキトが溜め息を吐きつつ彼女を見つめると、彼女は嬉しそうにミルクティーを嗜んでいた。というか、初対面の相手の胸で眠るような彼女に、アキトはこれまでにないくらい警戒をしていた。だというのに、彼女に警戒心が無さ過ぎて、アキトは少し空回りしている気分だった。
女性っていうのは何を考えて、何を思って行動するのか分からない事があるし、彼女とは初対面。
それに。
(…索敵に引っ掛からなかった…)
普段から索敵スキルを張っているアキト。これでもスキルの熟練度は高いと自負している。
寝ていたって、誰かが近付いてくれば気付くのだ。だが、今回ストレアが近付いてきた時には、索敵スキルは反応しなかった。
つまり、彼女の隠密スキルが自身の索敵を凌駕しているという事。
熟練度が高いという事は、それだけレベルも高い、強いという事。
もしかしたら、彼女は自身よりも強いかもしれない。
だが。
(…攻略組でも見た事無いな…)
アキトが新米というのもあるが、ストレアの事をアキトは見た事が無かった。
知らないという事は、無名という事。
雰囲気や装備、それに隠密スキルの事もあり、強いのはきっと明白だが、無名なんて事、あるだろうか。
ストレアをずっと見つめていると、ストレアもそれに気付いたのか、怪訝な表情を浮かべた。
「どうしたの?怖い顔して」
「…なあ、なんであんな所にいたんだよ」
「あんな所?」
「…俺が寝てた場所」
そう、互いにきっと初対面、あの場所にいるだけなら分かるが、彼女は自分の事を知っている様だった。
知っているだけだったら、初対面の男の傍に無防備に眠ったりしない。
だが、ストレアはパァッと笑顔になり。
「凄く気持ち良かったよね!」
「…まあな。…それで」
「くっついて寝たから暖かかったし!」
「…そうね、でさ」
「ねぇ、また一緒に寝ようね!」
「誤解、誤解招くから!」
質問に応えるどころか、さらに状況を悪化させていく。先程から全て別の意味に聞こえてしまうような言葉を選んでいるのは態とだろうか。
誤解が生じるからやめて欲しい。
何処と無く周りからの視線が痛い。アキトはストレアを見てゲンナリした。
アキトはストレアに向き直り、彼女を見据える。彼女はニコッと笑いながら可愛げに首を傾げた。
「…で、初対面だよな」
「うん、初めましてだよ」
「でも、アンタは俺の事知ってるんだよな」
「アキトは最近ここじゃ有名だよ?」
「有名?」
「うん。『黒の剣士だー』って」
「っ…」
アキトはその一言で言葉が詰まる。
拳を握り締め、顔を俯かせる。ストレアは再び首を傾げ、アキトの様子を伺っていた。
76層が解放されてから、もうすぐ1か月経つ。下層に下りられない事を知らずにここへと赴くプレイヤーも増えて来ていた。
そんな中、アキトの耳にも最近入ってくる。自身の事を見た周囲が、何も知らないプレイヤーが、自身をその名で呼んでいる事を。
《黒の剣士》
かつての英雄、キリトの二つ名。だが決してそれだけの意味があった訳じゃない。
その二つ名は、きっと悪名。《ビーター》と、そう呼ばれる事もあった彼の印象。下の階層に下りられない事を知らずに来たプレイヤーは多数いる。中には中層、下層のプレイヤーも。
彼らは《黒の剣士》という名は知っているが、実際にそのプレイヤーを見た事のあるプレイヤーは少ない。だから、全身黒づくめのアキトを見て、そう思うのも無理は無かった。
《黒の剣士》という名は通っていても、《キリト》という名はあまり知れ渡っていないようだったのだ。
アキト自身、複雑な心境だったが、この手の噂は無くならない。
だって、人は希望を求めるから。
例え、アキトが《黒の剣士》でないと主張しても、周りはアキトを《黒の剣士》だと思いたいのだ。
縋るものが、導いてくれる者が、欲しいから。
《神聖剣》は姿を消し、《閃光》は役に立たない。だけどまだ、私達には《黒の剣士》がいる、と。そう願いたいから。
縋るものが少ないから、アキトをキリトだと思いたいのかもしれない。
アキトは、拳を握る力が強くなった気がした。
「…アイツらは《黒の剣士》の名前と顔を知らないんだよ。ずっと下層にいたんだし。俺の格好が黒いから誤解してるだけだよ……俺は、黒の剣士なんかじゃない」
「それも知ってるよ!《黒の剣士》はキリトだもんね!」
「っ…キリトも知ってるのか」
アキトは少なからず驚いて言葉に詰まったが、ストレアは変わらない笑顔で答えた。
「キリトは強くて有名人だもん。興味を持って当然!」
「そっか……そうだよな……知ってる奴もいるよな」
《キリト》の名前を。
それが、なんとなく嬉しかった。《黒の剣士》なんて記号のような名前じゃない。《キリト》という、確かに存在したプレイヤーの名前。《黒の剣士》が、《キリト》なのだという事実は誰もが知っている訳じゃない。けど、理解していたプレイヤーが目の前にいる事が、何故かとても嬉しかった。
「……ってか、アンタがあの場所にいた理由を聞いてなかった」
「ねぇねぇアキト、アタシのミルクティーちょっとあげるから、そっちも飲ませて」
「え、は、ちょ、ちょっと……」
アキトの静止を聞く前に、アキトのココアに手を伸ばすストレア。
先程から会話のテンポが一定にならない。ストレアの奔放さが、アキトの心を乱していく。
「思ってたより甘くて美味しい!ココアってコーヒーみたいな見た目だから敬遠してたんだ〜。コーヒーとかって、大体苦いじゃない?苦いのって苦手なんだよね」
「……あ、そう」
アキトはなんとなく諦念を覚えたのか、頰杖を付いて景色を眺めていた。
だが、彼女に振り回されているのに、ちっとも嫌な気持ちにならなかった。
彼女は、一体何者だろうか。何処か、安らぎを覚える少女だった。今までに会った事の無いタイプの女性に、困惑を覚えるアキト。会話の主導権はずっと彼女だったし、聞きたい事も聞けてない。
「…でも」
だけど彼女の行動全てが、打算的なものだとは思えなかった。
初対面だった筈だ。だけど、凄く暖かくて。
────それでいて酷く、懐かしい感じがしたのだ。