…(´・ω・`)
最近、話にキレが無いと、そう思います。
だからまた、『面白くないと思いますが』という保険をかけたいと思います(ビビリ&チキン)
「──ッ!」
シノンの短剣のソードスキルが、空気を斬り裂いた。
アキトはそんな彼女を、近くの木にもたれて眺める。辺りは陽の光が照りつけ、草原が風で凪ぐ。
シノンに戦闘のいろはを教えるようになってから数日、シノンの短剣の熟練度は次第に上がっていった。この世界に来たばかりらしいのだが、何故かレベルは1からではなく、幾分か高いレベルからの始まりだった。おかげでレベリングが大変というわけではないが、かと言って最前線で戦えるレベルでもない。今はまだこうして剣の熟練度を上げていくしかないのだ。
アキトがそんな事を思いながら耽っていると、シノンがコチラを睨み付けていた。
「ちょっと、何かアドバイスとか無いと訓練にならないんだけど」
「……まあ、そこまでの動きが出来るなら後は反復練習だな。実戦で使うなら尚更だ」
「…それって、あと何回やればいいのよ」
「体に馴染むくらいには。敵に襲われた時に咄嗟に判断して自分が選んだソードスキルが打てるようになれば言う事無い」
「なるほどね……他にやる事は?」
「ソードスキル発動後の硬直時間の記憶、それを考えた立ち回り、基本的な武器の使い方とかだけど……生憎俺は短剣使いじゃない。詳しい事ならシリカに聞きな。短剣の使い方は知り合いの中で一番優秀だ」
「……そう」
シノンはそれだけ言うと、小休止の為なのか、木の下に座り込む。アキトよりも少し離れた場所に座るシノンは、どこか遠くを見ているようだった。しかし、何かを思い出したかのように目を見開き、アキトの方へと顔を向けた。
「……そういえば、77層のボス部屋が見つかったって話を聞いたわ」
「ああ」
「……何よ、反応薄いわね」
「今77層だぞ?そ別段珍しい話でもなくなった。それに、クリスタル無効化エリアになったボス部屋なんだ、情報は今までよりも少ないだろうし。まあ、甲殻類系の、なんかサソリみたいな奴だとは小耳に挟んだが」
「甲殻類…なら、打撃が有効なのね」
「まあそうらしいな。メイスを使う奴が活躍すんだろ」
そこまで言って、アキトは考える。
今の攻略組にメイスを使っているプレイヤーはそんなに多くない。まあ仮にも『ソード』アート・オンライン。メイスなどというあまりパッとしない武器を使うよりかは剣や刀を使っていた方が見栄えが良いだろうし、何よりメイスは使い手を選ぶ武器でもあると思う。一撃一撃は重いものだが、モーションが一々大きかったり、その後の硬直が少し長かったりといったデメリットがあったりする。
それに、これはアキトの個人的な意見だが、モンスターであれ人であれ、殴るより斬る方がダメージが大きそうなどといったイメージがあると思っている。
悪い例になるが、現実世界でも、ただ人を殴るより、刃物で斬り付ける方が手っ取り早い。
話は脱線したが、そういった先入観や固定概念が邪魔をして、そうした事象に傾く例は少なくない。甲殻類なら、剣でのダメージは入りにくいだろうし、寧ろ剣が折れる可能性だって大いにある。
出来る事は何でもやる精神のアキトだが、メイスという武器に関しては、完全な素人だった。勿論使えるといえば使えるのだが────まあ、アキトもそんな先入観に囚われた一人なのだ。
「明日ボス戦でしょ?アンタ、今日の攻略会議に参加しなくてもいいの?」
「お前が訓練頼んできたんだろ」
「私は、空いた時間でいいからって言ったわよね。訓練を言い訳に会議をサボるなんてやめてよね。攻略に支障が出たら私のせいみたいになるし、何より腹が立つから」
「……そんなつもりじゃない。ただ……」
シノンのその刺々しくも的を射た言葉に、アキトは苦虫を噛み潰したような顔になる。
確かに、シノンの戦闘訓練は最初は乗り気では無かったが、こうして会議をサボる口実になっている節があった。前回のボス戦に関しても、あまり主だった作戦にアキトが組み込まれていたわけではなかったし、アスナがアキトを認めていなかったというのもある。
───何より。
「……今のアイツの指示に……従うつもりは無いだけだ」
「『アイツ』って、アスナの事?」
「今のアイツは、まともな指示を出すかどうかも分かんねぇからな」
シノンのその質問に、アキトは表情を暗くした。
アスナは前回のボス戦よりも、かなり危うい状態に見える。今回も作戦会議などは形だけで、本番で指示らしい指示を出さないかもしれない。
それに、今回の作戦が理にかなったものなのかも分からない。彼女は今、自分の事、ひいては、キリトの事しか頭に無いように思える。この前のユイの悲痛な叫びが、何よりの証拠とも言えた。
だから、アスナが正気に戻るまでは、アキトはアスナの指示には従わない方針にしたのだ。
「……アンタ、アスナと……何かあるの?」
「個人としては、何にも。何でそんな事聞くんだよ」
「少し気に、なってだけ」
いきなりの質問に、アキトはシノンの方へと自然に顔が向く。そんなシノンは、顔をやや下に向けて、ポツリと呟いた。
「なんだか……アンタもアスナも、互いに互いを意識しているような気がしたのよ」
アスナのアキトを見る目は確かに嫌悪に近いものに見える。だが、その瞳の奥には、悲哀のようなものが映っていたようにシノンには見えたのだ。その何かに縋るような、何かをアキトに求めているかのような。
アキトも、周りに対する態度には棘のようなものがあるが、アスナに対してはそれが顕著に表れているように感じていた。アスナに対して何か思うところがあるのかもしれない、そう思っていたから。
そんなシノンの予想を聞いて、アキトは視界からシノンを外した。
「……そんなの無いっての。それにあったとしても、お前には関係無い」
「その『お前』って言うのやめてって、前に言ったわよね」
「お前だって俺の事『アンタ』って呼ぶだろ」
「あら、不満だったのかしら」
「別に。取って付けた屁理屈だよ」
アキトはそう言うと、その場に寝そべる。両手を頭の後ろに置き、そのまま天を仰ぎながら思考の波に身を委ねた。
アキトの目には、アスナという少女は酷く脆いものに見えた。キリトという愛する英雄を失い、その悲しみはきっと茅場への恨みを通り越して、虚無感のようなものを生んでいるのだろう。
だから攻略を続けてゲームクリアを目指す事でキリトの無念を晴らし、仇を打つ、というよりは攻略の中で死に、キリトの後を追うように行動していると感じたのだ。現実世界の事を忘れたわけでは無いだろう。誰もが帰りたいと願っている筈だ。
だが恐怖に駆り立てられ、そんな意志もきっと微弱で脆弱なものへと変わる。だからこそ、弱い人間達は徒党を組み、互いに支え合うのだろう。それは、吊り橋効果にも似たようなものかもしれない。それでもきっと、この世界での繋がりも生活も本物だろう。けどだからこそ、死を身近に感じる、いつ死ぬかも分からないこの世界で、そんな関係は築いてはいけない。
この世界にいる限り、繋がりは簡単に失ってしまう事を実感し、胸に刻まなければならない。
そう、頭では思っているのだが。
アキトはそんな繋がりを、誰よりも求めていたような気がする。また、自分の中に矛盾を見つける。言葉や考えと行動が一致していないような気さえする。だからこそ、シノンの戦闘訓練の依頼を了承してしまったのだろう。
アキトは、気になっていた事をシノンに聞く事にした。
「……なあ」
「何?」
「……何で訓練を頼んだのが俺なんだよ。短剣使うだけってならシリカにでも頼めばいいだろ」
「シリカは攻略組じゃないじゃない」
「そうだけど……って、お前攻略組になるつもりなのか……?」
「……」
シノンは明確な返事はしなかった。だがそれは、沈黙は肯定だと、そう言っているようで。
アキトは横になっていた体をバッと起こした。発した自分の声は、何故か僅かに震えているような気がした。
「……何で、そんな事」
「……分からない……けど、私はそうするべきだと思うから。記憶は無くても、私はそうしなければならない気がするの」
「何馬鹿な事……」
そこまで言って、口を閉じる。何故、どうしてこんなにも焦りを感じている?彼女はつい最近出会ったばかりの他人じゃないか。 何を…自分は一体どうしたいんだ。
シノンは構わず口を開く。
「この街で縮こまって、ただクリアを待つなんて、嫌だったのよ。私も戦いたい……強くなりたいの。だから、強い人に訓練を頼むつもりだった」
「俺は……強くなんか……」
その声は、シノンには聞こえない。だがアキトは、ずっとそう思っていた。
強くなんてない。強がっているだけだ。
カッコよくなんてない。カッコつけてるだけだ。それがアキト。それが自分自身だ。
ここに来るまで、ずっとそうしてきた。だけど分かっている。そんな自分に矛盾がある事は。
仲間なんて、繋がりなんて持つべきでは無いと言いながらも、かつてはそれを渇望し、今も他人に近付いて、ボス戦では他人を守った。それは『誓い』だから、という言葉で片付けられるものだっただろうか。本当は何処かで、死んで欲しくないと、そう思っていたのかもしれない。それを『誓い』だなんて誤魔化して、強がって、そんな弱い自分を偽りたかったのかもしれない。
だから、もしかしたら自分は、シノンが攻略組に入るという意志を感じて、きっと最悪の事態を想像したのだ。
そうだ…きっと、シノンの死のイメージをして嫌悪感を感じたのだ。
「けど……そうね、アンタが適任だと思った……っていうよりは、アンタが良かったって……そう思ったのよ」
「…どう、して…」
「…さあね。どうしてかしら。ただ私とアキトが……似ていると思ったのかも」
「っ……」
シノンはフッと笑みを浮かべ、その視線の先には自然豊かな景色、その街並みが広がっていた。
そんな彼女に、アキトは何故か、かつての仲間の面影を見た気がした。
──── 私達…案外、似たもの同士だね────
「……そんな事無いよ」
「え……?」
「……シノンの方が……ずっとずっと強い。俺なんかとは……大違いだよ」
「アキト……?」
「『死』と隣り合わせのこの世界……ここはきっと、現実よりもリアルにそれを感じる場所だと思うんだ。だからこの世界に来たばかりのシノンが強くなりたいって……そう思えるっていうのは凄い事だと思う。ホント、尊敬するよ」
アキトは、何か劣等感を感じ、力無く笑った。
実際アキトは、シノンには自分には無い強さを、ここ最近の訓練で感じていた。目を見張るべきは訓練中の彼女の表情。記憶は無い筈なのに、何か明確な意志が、目的があるように感じていた。
アキトはそんな彼女をとても羨ましく感じていた。自分がこの世界に囚われたばかりの時は、震えで体が動かなかったというのに。
「アキトは?」
「え?」
「強くなりたいって、そう思う?」
シノンのその質問は、きっと自分と似ているアキトなら、そう感じているのではないかと、そう考えての質問だったのかもしれない。
今のアキトは、いつもの強気な態度は一切感じられなかった。酷く弱々しくて、触れたら壊れてしまいそうで。とても悲痛な表情で。
「……うん。守りたいもの全てを手に入れる強さが……欲しかった」
これがきっと、矛盾を抱えた、少年の本音だった。
「…そっか」
シノンは何かを察したのかもしれない。
それでも、何も言わず、アキトと同じ景色を眺めていた。
●〇●〇
「今日はありがとう。助かったわ」
「…まあ…別に」
辺りが夕焼け色に染まる頃、二人の戦闘訓練は終了した。だが、この時間までずっと訓練していたわけではなく、大半はずっと景色を眺めるだけの、傍から見れば退屈な時間だった。アキトもシノンも、一本の木を隔てて何も言わずに、ただ静寂な時間を過ごした。
それがなんとなく心地よくて、シノンは悪くない時間だと感じていた。
アキトはすっかりいつもの態度に戻っており、シノンはクスッと微笑を浮かべた。
「それ、誤魔化してるのかもしれないけど、もう取り繕ってるのバレバレだから」
「ぐっ…」
もう弱音を吐かないと決めていた筈のアキトは、そのシノンの言葉に顔を逸らす。
シノンはそんなアキトを見つめながら、先程までの弱々しいアキトを思い出していた。ずっと強がって、隠していたアキトの本心。その欠片だけでも、知る事が出来た気がしていた。
「…あまり肩肘張らないでいいんじゃない?私は、もう貴方をなんとなく理解してるつもりよ」
「…理解なんて…誰にも出来ねぇよ。してもらう気も無い」
「してる『つもり』って言ったじゃない。そういうのって、少しずつ知っていくものでしょ」
「……」
「だから…私の前では、とは言わないけど…偶には力を抜いてもいいんじゃない?」
そのシノンの言葉に、心が揺れる。
今も変わらず、かつての仲間がシノンと重なる。その表情も、優しさも、差し伸べてくれる手も。優しさというのはある意味では毒だと思う。味を占めてしまえば、何度も縋ってしまう麻薬だと思う。
もう二度と手を出さないと思っていても。そう固く誓っていても。両手両足を鎖で繋いでも。きっと手を伸ばしてしまうだろう。人という生物は酷く弱い存在で。群れを、社会を、世界を創る。人は独りでは生きていけないから。いつだって他者の、人との温もりを求めるものだから。
「…それじゃあ、私は先に帰るから」
シノンはアキトの返事を待つ事もなく、アキトに背を向けて歩き出す。
歩きながら、シノンは今日の出来事を思い返していた。何故自分にこんな事が言えたのだろう、何故あんな事を言おうと思ったのだろうと、そう思った。
彼が、私と似たようなものを持っている気がしたからだろうか。
だけど、不思議と嫌な気分はしなかったのだ。
「───シノン」
「…?」
不意に呼ばれ、足を止める。
振り向けば、アキトがコチラを見つめていた。
口を開いては、何を思ったのかその口を閉じる。視線は右や左を行き来していた。
その顔は慌てているのか、焦っているのか、何をどう答えればいいのか分からないと、そう言ったような表情を浮かべていた。
だけど、何を言いたいのかは、なんとなく分かる気がした。
「…その…ありがとう」
「…どう、いたしまして…」
シノンの背中を、アキトはただ眺めるだけだった。それと同時に、アキトは歯噛みした。
どうして自分は、彼女に弱みを見せてしまったのだろう。何故、尊敬してるなどと、そんな巫山戯た事を。どうして、彼女に過去の仲間を重ねて見てしまったんだろう。
アキトは、自分の罪を重ねたような気がしてならなかった。
と、いう事でいかがでしたでしょうか。
書きたい話があり過ぎて、展開が早く感じるかもしれません。
こうして欲しいというようなアドバイスや要望をくれると嬉しいです。
改善の余地は沢山ありますので。