魔法少女救命計画   作:先詠む人

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投稿時間的にこんばんは!

人によってはおはようございます&こんにちは!
実は先週の土曜日にバグヴァイザーとゲキトツロボッツ、ドラゴナイトハンターZの再販があったおかげで基本の10本とドライバーが全部揃いました!(見つからなかったのでチャンバラとスポーツは結局中古店で買いました)
財団Bさんバーガーの再販はよ!!(前に電話で恐らくないって言ってた他のガシャットの再販やってくれたのならばできますよね?)

まぁ、それでテンションが上がったというのもあるんですがいつもより少し早めに書きあがったので今日投稿しますね。

それと注意点です。
今回一部シーンでグロ表現があります。できる限りぼかしたつもりですが、ぼかしきれてなかったらごめんなさい!!



6th stage 暗い cry PUZZLE

「ぐぁぁぁぁぁ‼」

 

 閑静な深夜の公園にボロボロの布を纏った若干ソプラノが入った男性の叫びが見た感じ安物のコートの周辺を血まみれにしながら響く。

 

「あぁぁぁああああ………たす……けて………」

 

 近くにいるロボットのような物体の手が光るのと同時にその鮮血を吹き出す箇所が修復されていき、その声も小さくなっていく。

 しかし、いくら傷を修復されたとはいえ体中を走る激痛の中で青年は、

 

『なぜ自分がこんな目に合わなくてはならないのか。どうにか雇ってもらったバイト先もつい先日クビになって頼れる身内もいない。そんな中で、ただただ一日一日を必死に生きているだけだというのに……』

 

 そんなことを考えながらその意識をなくしていくしかなかった。

 

 しかし、彼にとっての悪夢は未だ終わらない。

 

 

「ねぇ、そいつの傷はもう治った?」

 

「あ… ハイ。大体は治ったかト……」

 

 意識がなくなる寸前にそんな会話が聞こえたかと思った……その時だった。

 

 ドシュッ!!

 

 

 

 右手の方からそんな音が響く。

 音がした瞬間から右手の感覚が途切れる。脳を突き刺すかのような痛みで消えかけた意識が覚醒する。

 

 激痛のせいでちらつく視界の中で見た右手には、巨大な中華刀が貫通した状態で突き刺さっていた。

 

「がぁああああああああ!!!!!!」

 

 意識がなくなりそうなほどの痛みの中で悶え狂う。

 

「もうやめ………」

 

 痛みの中で辛うじてそう口から出せた瞬間だった。

 

 カツン

 

 そんな音を立てながら突き刺さっている中華刀の持ち手の端についている玉のような箇所に歯車がついたブーツが掛けられる。そして

 

「フンフフーン♪」

 

 そんな鼻歌が聞こえたのと同時に突き刺さっている中華刀は持ち手にかけられた足でぐりぐりと動かされる。突き刺さった両刃(もろは)の剣はそれだけで腕の筋肉や神経がさらに切り刻んでいった。

 

「うああああああ」

 

 悲鳴を上げすぎたせいでもう口からかすれた(おと)しか出ない。

 

 動かされていた足が離れる。もう大量に噴き出しすぎた血のせいか意識があってないようなものに近い。そんな中でただ右手から走る痛みだけが自分がまだ生きているということを証明していた。

 

「ほら、さっさとやりな。」

 

 目の前のテンガロンハットをかぶった女性(あくま)はそう言って嗤った。

 

 

 

◇チカッ◇

 

「ほら、さっさとやりな。」

 

 目の前でカラミティ・メアリがそう言いながら男性を蹴り飛ばしてくる。恐らくこれまでと同様に傷を治せという意味だろう。だが……

 

「先輩!!もうこれ以上は無理デス‼これ以上はワタシの魔法で出した未来の道具を使っても治せまセン‼」

 

 目の前の男性はこれまでかれこれ一時間近く続いた拷問じみた行為によって憔悴しきっていた。

 これじゃあ、体を治せても心が治せない。その上いかに今持っている道具が未来のものだとしても()()をよみがえらせることなんてできないのだから。

 

「いくらワタシの持ッテイルのが未来の道具デモ死んダ人は蘇らせらレない!!死んダら人助ケにならなクてマジカルキャンディー貰えないデス!!」

 

 青年を治療しながら必死に訴える。

 幸いなことに青年の治療は無事に終わりそうだったが、このまま続けていたら確実に死ぬのは間違いなかった。

 

「チッ‼」

 

 キャンディーが()()()()()ということが引き鉄になったのかカラミティ・メアリはそう舌打ちをすると髪に手をかけ

 

「……あーあ…本当嫌だ…」

 

 と始めてから

 

「人間ってほんっと脆くていたぶり甲斐がないんだから!!」

 

 そう言いながら手にかけた髪をふぁさッと靡かせた。

 

「ストレスが溜まって仕方がないねェ………こんな時は暴れるに越したことはないと思わないかい」

 

 靡かせた髪が元々あった方の位置まで戻る。その瞬間

 

「覗き屋のお嬢ちゃん!!」

 

 ドンッ!!

 

 クイックドロウでホルスターから引き抜かれた口径の大きい銃から弾丸が発射された。

 カラミティ・メアリの魔法によって強化されたのであろうオーラをまとった銃弾は公園に植えられている樹木へと突き刺さる。

 

 その次の瞬間、シュタっとでも音を鳴らすかのようにくノ一のような恰好をした魔法少女がワタシが立つ位置から数メートル離れたところに着地した。

 

「………」

 

 着地したくノ一のような魔法少女、確かリップルの腕は先ほどの弾丸がかすったのか少し血を流していた。

 それを見てカラミティ・メアリが

 

「おい、マジカロイド」

 

 そう言ってカラミティ・メアリが首をわずかにリップルの方へ振る。

 

「ハイ……」

 

 その行動(それ)の意味することが分かったのでワタシはそのままリップルの方へ近づき、血を流している腕へ手を当てた。

 その行動に警戒してか一瞬腕をかばうかのようにリップルが動く。それに対してワタシは

 

「大丈夫。治療するダケだから……ジッとして…」

 

 魔法によって取り寄せた未来の道具が起動する。

 道具から放たれた未来の道具によってリップルの傷は癒され、数分後には完全に治癒していた。

 

「終わりデス」

 

 そう言いながらリップルから離れる。

 ワタシがそう行動する一方でカラミティ・メアリはマジカルフォンを見てこう言った。

 

「んーーーー?何も起こらないなァ……」

 

 そして静かに笑いだしながら

 

「なぁんだ残念だねェ!!魔法少女は助けてもキャンディもらえないのかァ!!」

 

 一人呟くかのように言ってからさらにその口端をゆがませる。そして

 

「魔法少女なら体が強くできてるから…泣かせて喚かせて多少ぐっちゃぐちゃにしても死なないし遊べるて楽しめると思ったのにねェ!!」

 

 ”狂っている”。カラミティ・メアリを見ているとついそう思ってしまう。その印象はその次にカラミティ・メアリが発した言葉で確信へとつながった

 

「もういいや。興ざめ。あんたさっさとどっかに消えていいよ。」

 

「まだ()()()()()()()イライラさせてくるけれども楽しめそうだ。」

 

 そう言うとカラミティ・メアリは掌をぶんぶんと振って他所を向いた。

 

「アノ……」

 

 もういいだろうと思って声をかける。

 正直なところを言うと()()()()もう帰りたくて仕方がなかった。

 その瞬間、空気がひりついた。

 反射的にまだ一応横の方に立つリップルを見る。そうして機械の目越しに見た彼女の目は、カラミティ・メアリ同様殺気に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

◇シュシュッ!◇

 

 私の前に立つテンガロンハットを被ったこの魔法少女にさっきから抱いているこの感情は何だろうか?

 

 侮蔑?違う。

 

 尊敬?ありえない。

 

 さっき撃たれてからずっと震えが止まらない……

 

 その原因は何か。

 恐怖?………断じて違う!!

 

 これは……私を震わせるこの感情は……”怒り”だ!!

 

 両手の指の間に手裏剣や苦無をはさませながら立ちあがる。

 

 そんな私を見て目の前のカラミティ・メアリは

 

「お?…………ふーん。いいじゃないか。」

 

 そう言いながら手に持っているシリンダー式の弾倉を回転させる。そして

 

「やっとアンタ”生きてる”って顔になったよ!!」

 

 そう言いながら銃を構え、

 

「匂いでわかる。アンタ私と同類だろう?――なァ、魔法少女リップルゥ!!」

 

 そう言うのと同時に発砲した。

 

 パンっ‼パンっ‼と連続的に乾いた音が鳴り響く。

 其れに対して私は両手に持った苦無を弾丸めがけて投げつける。

 

 私の魔法"手裏剣投げたら百発百中"が発動して全ての弾丸が撃ち落とされた。

 

「ハハハッ‼どうした⁉ 逃げるだけ?やり返してきなよ‼」

 

 弾丸を撃ち落とすために投げ、弾丸が破壊されるのと引き換えに壊れていく苦無を見ながら動き続けていると、カラミティ・メアリはそう煽ってきた。

 

「………」

 

 無言のままに全力で左手に持った苦無を三本ともカラミティ・メアリの持つ銃の銃口めがけて投擲する……

 が、しかしそのすべてが銃口から発砲された弾丸によって破壊される。

 

 その隙に近くにあるコンクリート製の柱の陰に回転しながら飛び込み、柱に背を預け、顔を少しだけ出した。

 

「ふ~ん。軌道はいい……けど威力は欠ける……ねェ。」

 

 そう言いながら少し離れた位置に立つカラミティ・メアリは手元の銃の弾倉を一度出し、即座に弾を詰め直し始める。

 

「まさか、自分の力を恐れている?……じゃなかったらビビってるか。」

 

 そうカラミティ・メアリが言った瞬間、自分の心の奥底を見抜かれたような気がしてドキッとする。

 

 確かに私はこの”手裏剣投げれば百発百中”と言う傷つけることしかできない力を恐れている。

 本音を言えばスノーホワイトのような誰からも愛され、好かれるようなことができる力が欲しかった。

 

「恐れるなよ力を…”暴力はいけない”。口をそろえてそう教え込む奴らがいるけどさァ…」

 

 カラミティ・メアリの手から空になった薬きょうが落ちて行く。

 

「暴力がなくても生きていけるのは結局生まれや環境が恵まれているクソったれだけさ。」

 

 そして弾倉内の薬きょうの交換を終え、こちらを睨みながら

 

「あたしら 何も持たされずに生まれた奴らはさ…力ある奴に依存するしかない……」

 

 チャリンチャリンと弾丸を放ったせいで空になった薬きょうが地面に落ちて音を立てた。

 

「けど、そんなのあたしはごめんさ。だったら力を手に入れるしかないだろゥ?」

 

 その手に握られた銃が再びオーラを纏っていく。

 

「あんたも力を求めて魔法少女になった……違うかい?魔法少女リップル!!!」

 

「っ……!!」

 

 その言葉に今度こそ私は自分の心の核心を突かれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かに私は魔法少女になったとき、その力に期待していた。

 子供の頃にテレビで見た魔法少女、マジカルデイジーみたいな魔法を……

 

 ただ、現実はそう甘くなかった。

 ……幼いころ義父に母は暴力を振るわれていた。

 

 母が殴られるのを見るたびに私は自分が強くなって母を守ると言っていたが、母はいつも首を横に振る。

 何で?と聞くと母はいつもこう言っていた。

 

『あなたのためなの………お母さん…あなたを守るために耐えているのよ……』

 

 だったら………私がいる意味って…………何?

 私が居なかったらお母さんは殴られずに済むの?

 私がいる意味って何なの?

 

 幼心にそう思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢ちゃんが本気で来ないってんならこいつをミンチにして遊ぼうかねェ……」

 

 確信を突かれたせいで固まり、過去を思い出す私の視線の先で、カラミティ・メアリはその銃口を先ほどからずっと痛めつけ続けていた男の額に突き当てた。

 

「……!!」

 

 勢いよく柱の影から飛び出し、腿につけているホルダーから苦無を引き抜く。

 そしてそれをカラミティ・メアリめがけて投擲しようとした………その時だった。

 

「やめろ年増ぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!」

 

 黒いコートを着た銀髪の男性が私の背後から飛び出し、叫びながらカラミティメアリへと飛び掛かる。

 

「!?なんで!!」

 

 その男に、その声に私は見覚えがあった。

 

 今日の昼間、珍しく高校が少し早めに終わったのでスーパーに買い物をしに行っていた時だ。

 特売品の卵が数量限定でおいてあって、それの最後の一個に手を伸ばしたのが彼と同時だった。

 

 卵のパックの上で手と手が重なる。

 

「「あ……」」

 

 驚いた声まで重なった。そして男性は、

 

「……できれば譲ってもらえませんかねぇ。結構かつかつなものなんで…」

 

 そう極めて冷静になろうとしているような声でそう言ってきた。だけど私も貴重なたんぱく質を安く手に入れることができる機会を逃したくなかったので

 

「チッ…………嫌だと言ったら?」

 

 拳を握るような動きを見せながらそう言った。すると男性は

 

「それは勘弁してください。」

 

 即座にパックから手を放して土下座の体勢へと移行しようとした。

 その隙にパックをかごに入れてその場をすぐさま離れる。

 

 その後、あの男性がどうなったのかなんて知らなかった。だけど、なんで。なんでこのタイミングでこの場に現れた?

 

 魔法少女を普通の人は()()()()()()

 

 それはファブが口を酸っぱくするかのように言っていたことだし、私たちの中でも常識だった。

 

 そのせいできっと今銃口を額につけられている瀕死の青年もきっと目を覚ますころには私たち魔法少女によって瀕死にさせられたということは思い出せないだろう。

 

 だがしかし、とびかかっているこの男。

 今さっきカラミティ・メアリのことを()()と言わなかったか?

 

 カラミティ・メアリが年増。

 

 それは言いえて妙だが、それを言うということはあの男が私たち魔法少女を正確に認識しているということ他ならない。と言うよりも今のカラミティ・メアリにとびかかるなんてことしたら!!

 

「あb」

 

 言葉を言いきる前に結果は出た。

 乾いた音が公園に鳴り渡る。そして甲高い音に続いてグシャッと言う水っぽい音も。

 

「uな……え?」

 

 言葉は続かなかった。その代わりに困惑がやってきた。

 

 あの男の手に填められているのはなんだ?

 夜の電灯と月明かりしか光源がない中でも映えている()()()()()()()()()?

 

 不意打ちだったからだろうか。カラミティ・メアリは数メートルも吹き飛ばされていた。

 

 男がナックルをつけた右腕を軽くサッと振る。その瞬間、紅いナックルは窓ガラスのような薄い板状になり、男の周りを一周して消えた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 困惑する私を放置して男は倒れている男性に肩を貸す。

 

「今救急車呼ぶからな!!」

 

 そしてそう言いながら青年に肩を貸し、そのままその場を立ち去って行こうとしていた……その時だった。

 

「魔獣ゥゥウウウ!!!ここで会ったが年貢の納め時だよォ!!」

 

 カラミティ・メアリがそう言いながら立ちあがり、銃を構えた。

 狙う先は青年に肩を貸している男の脳天。

 

「!!」

 

 それはもう反射だった。

 ずっと手に持った状態のままであった苦無をカラミティ・メアリが持つ銃口を狙って投擲する。

 

 魔法少女の膂力で投げられた苦無は1秒もかからずに魔法の力によるアシストもあって正確に銃口をふさいだ。

 

 バン!!!と轟音を立てながら出口を失ったエネルギーが暴発する。

 

 その音を聞いてあの男はこちらを振り返った。そして……

 

「    」

 

 何か喋った。そう思った次の瞬間だった。

 

「リップルお前何やってんだ!!」

 

 声をかけられ、襟首をつかまれて体が宙に浮かび上がる。

 

「!?」

 

 急に足が陸から離れたことで一瞬だけパニックになるが、すぐに椅子に座るかのようにお尻の下に棒、要は箒の柄があてられた。

 かなりの速度でさっきまでいたところから距離が置かれていく。

 

「……別に……」

 

 まさか怒られるとは思っていなかったのもあって、流れる景色を見ながらつっけんどんな態度をとってしまう。

 どうせ、カラミティ・メアリと向かい合っていたことについて怒られるのだろうと思っていた。だけど……

 

「なんで魔獣のすぐそばであんな気を許したような体勢でいるんだ!!」

 

 続けられた言葉は私の想像の範囲外にあった。

 

「え?」

 

 困惑の声がこぼれる。

 

 あのスーパーで卵のセール品を買おうとして失敗して大衆の面前で躊躇なく土下座しようとしたのが魔法少女を襲っている魔獣?

 

 ……………いやいや、ないない。ありえないから。

 

 心の中でキャラじゃないと思いながらそう呟く。

 

 第一獣がスーパーで買い物するわけないし。

 魔獣ならなおさらそうだし。

 

 いくら人型をとっているとはいえ、そんなことまでできるようならそれはもう魔獣じゃなくてヒトじゃないだろうか?

 

 ………それにあの動き……

 

 さっきのしゃべっていた口の動きを自分の口で頭の中で再現しながらトレースする。

 

 その口はこちらに対して「に」・「げ」・「ろ」……逃げろと動いていた。

 

「……トップスピード。頼みがある。」

 

 そこまで考えたところで口はすでに動いていた。

 

「なんだ?」

 

「戻って、さっきの所まで。」

 

 真実(ほんとうのこと)を知りたい。生まれて初めてそう思ったから私は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 散々「やめろ」とか「無茶言うな」とか言われたけど、結局トップスピードは私の意思に負けてさっきの所まで戻ってくれた。

 

 決め手は「あれが魔獣とは私は思えない。」と言い切ってからあのスーパーでの出来事を言ったことだと思う。

 それを聞いてトップスピードは一瞬目をまん丸に見開いてから笑顔になり、

 

「オッケー、じゃあ飛ばすぜぃ!!」

 

 と箒をさっきまでと逆の方向に向けて全速力で飛ばしてくれた。

 

 十数秒後にさっきまでいたところまで戻る。

 しかし、そこにはもうあの男はいなかった。

 

 そこにはあの青年のものとは違う大量の血痕と、中に入っていた弾丸を放って空になった薬きょう。そして今この瞬間、救急隊によって担架に載せられて救急車へと搬送されていくいたぶられていた血まみれの青年の姿しかなかった。

 

「おい、カラミティ・メアリもあの魔獣もいないぞ………?」

 

 トップスピードの声が無言である一点を睨む私のすぐ横で鈴のように鳴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇ガシャット◇

 

「ゴホッ!!」

 

 口から大量の血を吐き出しながら倒れこむ。

 さっきの戦闘で最後の最後に俺の体に直撃した弾は、確かに俺の臓腑を痛めつけていた。

 恐らく撃たれたと思った瞬間に打たれたと思った箇所を中心として投擲網のように激痛が広がったので撃たれた弾はダムダム弾の可能性が高い。

 

『……銃を持ち替えた時点で気づくべきだった……クソっ!!』

 

 倒れこんでからそう思い、悪態をつくがもう遅い。

 体中を走る痛みは既に無くなっていた。きっと脳の容量(キャパ)をあっさり越えたんだろう。

 

 目の前のテンガロンハットの年増(あくま)はこちらへと徐々に歩いて迫ってくる。

 倒れ伏す俺の首を片手で持ち上げ、血で真っ赤に染まっている口の中へさっき持ち替えた銃の銃口を突っ込む。

 そして……

 

「さて、ここらで死んじまいなァ!!」

 

 その言葉とともにカラミティ・メアリは銃の引き金を引こうと指を動かし、俺の意識はぶっ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けば真っ暗な闇。

 

 流石にさっきまでのことを考えて思った。「あぁ……俺、結局何もできずに死んだんだ」と。

 これまでに何ができたのかを考えて、結局何もできずに死んだという事実に自嘲する。

 

 そんな中でふと、腰に重みを感じ、そちらへ視線を向けた。

 

 そこにあったのは

 

「ゲーマドライバー……」

 

 ライトグリーンをベースにショッキングピンクの扉が取り付けられたごついドライバーだった。

 ドライバーにはすでに見たことのない暗灰色のガシャットが刺さっており、何故か淡く光っている。

 

「……どうしろっていうんだよ……まさか、開け(へんしんし)ろっていうんじゃないだろうな…?」

 

 俺はそう呟きながらドライバーのハンドルを握りしめた。

 

 内心、これを開いたところで何も変わらないと思う自分が居る一方で、何かを変えるきっかけになるんじゃないかと思っている俺もいた。

 

「…………絶対に変えてやる。」

 

 ハンドルを握りしめたのと同時にふと、頭の中にあるシーンがよぎる。

 それはトップスピードが後ろから腹部をルーラで貫通され、そのまま死ぬ光景。

 

「この未来を……絶対に変えてやる!!」

 

 前にアニメで見た、俺が願ったことへの起点となったあのシーンを思い出したことによって発生した激情は俺を突き動かすには十分だった。

 

 自分でも知らないうちに瞳を赤く光らせながらドライバーの扉を勢いよく開く。

 

 その瞬間

 

()()()アーップ!>

 

 そんな音声とともに俺の意識は溶けるように消えてなくなった。

 

「え?レベルじゃねーの!?バグルアップってちょっと!?」

 

 と言う俺の焦りを含んだまま。

 

 

 〈身代わり‼〉

 

 そして意識が無くなって脱力した俺の体に紫色のエネルギーの塊と黒いコインが挿入され、暗闇の中で赤く染まった眼が光りを放った。

 

 

 

 

◇パンっ!◇

 

「これで六億は私のもんだねェ…」

 

 目の前で頭を地に落ちた石榴のようにぐずぐずにぶちまけて物言わぬ物体となったものを足蹴にし、煙草に火をつけながらそう呟く。

 

 同じ穴の狢のような匂いがしたリップルを撃ち殺せなかったのは正直残念だが、それでも安全を確保できたといっても過言ではない六億と言う膨大な数のキャンディーを手に入れたことで気分は高揚していた。

 

 しかし、頭をぶちまけたはずの足元にあるものが0と1に解けて急に霞のごとく消える。

 

「ぁんだい?」

 

 急に起きたその現象に対して眉根をひそめながら火をつけたたばこを地面にたたきつけ、銃をホルスターから引き抜いた。

 

「先輩ッ!!」

 

「なッ!?」

 

 驚いたかのように声を荒げ、ある方向へと指をさすマジカロイド44。その指さす方を向いて、私も目を見開いた。

 

 さっきまで足元で物言わぬ肉塊となっていたはずの魔獣が少し離れたところからいきなり現れたのだ。無理もない。

 

「さて、取られた分はきっちり耳をそろえて取り返さないとな。」

 

 魔獣はその眼を遠くからでもわかるほど赤く光らせながら、さっきまでのノイズ交じりの音と違ってクリアな声でそう言ってこちらを向いて嗤った。

 

「~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながら魔獣が手をサッと前に出して上下左右に動かした。かと思えば、唐突に頭上へとその手を掲げる。

 その瞬間、さっきまでずっと地上を照らしていた月がいきなりノイズが走るかのように消えた。

 

「大丈夫、殺しはしない。それは俺の存在意義(レゾンデーテル)に関わるからな。ただ、()()()()()()()だ。」

 

 遠くにいるはずの魔獣の通るクリアな声とともに世界が0と1の渦に包まれ、公園から何かへと書き換わる。

 

 質量をもってこちらへと迫ってくる0と1の数字は私を押し流し、気づけばどこかの廃品(スクラップ)置き場のようなところに立っていた。

 

「さぁ、始めようぜ。」

 

 いつの間にか目の前に立っていた魔獣は、そう言って青色の大きな、けれど少し懐かしい形のカセットをコートの下から取り出し

 

PERFECT(パーフェクト) PUZZLE(パズル)!!>

 

 そのカセットについていた黄色い円盤を回した。

 

<~♪What's the next stage! ~♪What's the next stage!~♪>

 

 やけに電子的な音声が聞こえる。その音は嫌なもの_弾丸を全て切り裂かれたあの日_を思い出させた。

 その音は、このままだとあの時のように変な姿に変身されるという予感を引き起こすには十分だった。

 だから

 

「フッ!!」

 

 即座に銃を構えて発砲する。しかし、

 

「変身。」

 

 DUAL(デュアル) UP(アップ)!!>

 

 もはや手遅れだった。

 放った弾丸は魔獣の目の前にいきなり出てきた()()()()()()()()()()()()()()()()()によって防がれ、そのバリアーとコインでできた壁の向こう側からそんな音声が放たれる。

 

 そして……

 

Get(ゲット) the() Glory(グローリー) in(イン) the() Chain(チェイン) PERFECT PUZZLE(パーフェクトパズル)!!>

 

 その音と共に壁の役割を果たしていたコインが一気に散らばる。

 そして散らばったコインの壁の向こう側には

 

「仮面ライダーパラドクス。パズルゲーマーレベル50(フィフティー)

 

 右掌を顔の下に構えるかのように動かし、ポーズをとる全体的に青で統一したカラーリングのシュッとした何かが立っていた。

 その頭部は古いヤンキーがしていたようにリーゼント状になっており、それが顔の中央の鼻があるであろう場所まで垂れている。

 胸と首にかけて金色の装甲を纏っており、その装甲の内の胸元の部分はクリアパーツの下にパズルのような絵柄が書かれている。

 

 全体的に白いスーツに身を包んでおり、上半身のその装甲だけが異様に目立っていた。

 

「(よくわからないが、姿が変わった以上さっきまでと一緒と考えない方がいい)」

 

 そう思い、再び銃を構えたその瞬間だった。

 

 

「そう簡単に銃を撃たせると思ったか?」

 

 その言葉と共に様々な色のコインが360度あらゆる方向から複雑な軌道を描いて飛んでくる。

 

 それを避けながら間隙を縫うように弾丸を放つが、その弾丸もまた別のコインによって防がれる。

 

「さぁ、ワンサイドゲームのスタートだ。」

 

 コインを避け続けている間、目の前の魔獣はずっと手を何かを操作するかのように動かし続けていたが、その手を止めてそう告げた。

 

「ぁん?」

 

 魔獣が言った言葉の意味がわからずに唸るかのような声が出る。

 

 その次の瞬間だった

 

 〈マッスル化〉〈高速化〉〈透明化〉〈分裂〉

 

 魔獣の頭上にいつの間にか並べられていた四枚のコインがそんな音声を流しながら魔獣に吸い込まれる。

 

 そして気づけば

 

「ッ………ガハッ⁉」

 

 私は地面に叩きつけられ、トレードマークのテンガロンハットも奪われていた。

 

「ははっ‼」

 

 目の前であまり感情の起伏がない声で嘲笑いながらこちらを向く魔獣。

 

「な……何が起きたんだいッ⁉」

 

 この状況に地面に伏したまま呆然とする。

 そして、すぐさま自分の失態を晒させられたことに気がついた。

 

 烈火の如く顔を真っ赤にしながら魔獣を睨み付ける。

 すると仮面越しでもこちらを嘲っているような目で見ているのが雰囲気でわかった。

 その瞬間頭が沸騰するかのような感覚に襲われる。

 

「その瞳で………私をっ‼…………私をその目で見るなぁ‼」

 

 腰のホルスターに入れていた一番威力が強い銃を構え、魔法で強化した弾丸を放つ。その弾丸は確かに魔獣に直撃した。だが……

 

 〈鋼鉄化〉

 

 その弾丸は体中を鋼色に染めた魔獣の体の表面で火花を散らしただけで終わった。

 

 更に絶望は続く。

 

 カチッ

 

 軽い引き金を引いた瞬間そんな音が鳴った。

 その音が意味することはただひとつ。弾切れだ。

 

「チックショォ………」

 

 こちらへとゆっくり魔獣が歩いてくる。

 それを見ながら悪態をついた………その瞬間だった。

 

「うッ‼」

 

 その言葉と共に目の前の魔獣にノイズが走り、その姿が所々霞む。

 

「あー、時間切れか。運が良かったな。お・ば・さ・ん。」

 

 そう言い残すと魔獣はノイズに体を覆いつくさせてその場から消えた。

 その瞬間、世界が縦に引き伸ばされてさっきまでいた公園へと戻る。

 

「先輩‼」

 

 地に倒れ伏す私を見てマジカロイド44が走りよってきた。

 

 そして持っている魔法の道具で私を治療し出す。

 

 私はそれを無理矢理突き飛ばしてから立ち上がった。

 

「先輩?」

 

 こちらを困惑するかのような表情でマジカロイド44が見つめる。それを無視して私は立ち上がり、適当に乱射できる銃を空へと構えた。そして

 

「私を………………カラミティ・メアリを見下すなァァァァァァァァ‼」

 

 パパパパパパパパパパパパパパッ‼

 

 連続した発砲音が公園になり響く。

 

 粗方弾倉に入っていた銃弾を放ち終わり、最後の数発を未だに少し離れたところで意識を失ったまま倒れていた青年めがけて適当に乱射した。

 

「ナッ!?」

 

 すぐ横でマジカロイド44が困惑の声を上げているが、そんなこと気にもしない。

 憂さを晴らすかのように放った弾丸は青年のわき腹、首筋、そして頭蓋に当たって石榴のようにモツをまき散らす……はずだった。

 

 カンカンカンッ!!!

 

 銃口から放たれた全ての弾丸は、どこからか現れたオレンジ色の大量の粒子によってつくられた盾によって防がれる。

 

「チィッ!!!」

 

 その光景を見て自分の憂さすら晴らさせてもらえないことにいら立ちが募った。

 

「あたしをイラつかせるなと言っているだろうに…………」

 

 そう呟いてから貫通力の高い銃へと持ち替えようとしたその時、遠くからサイレンの音が聞こえた。

 

「…………ポリ公かい。」

 

 ある意味聞きなれたその音に若干冷静になりながら呟くと、

 

「先輩!!逃げマショウ!!流石ニ公的機関ヲ相手取るのハまずいデス!!」

 

 そう言いながらマジカロイド44が服の裾を引っ張ってきた。

 

「………そうだねェ。」

 

 そう言って今にも逃げたいとでも言いたそうなマジカロイド44の先導に従ってその場を離れる。

 

 

 数分後、マジカロイド44に導かれて辿り着いたのはどこかの工場跡地だった。

 

「恐らくここマデ来れバ大丈夫でショウ。」

 

 そう言いながらマジカロイド44は近くに置いてあったドラム缶の上に座る。

 

「悪いねェ。手間かけさせた。」

 

 一応、公的機関との抗争を避けることができたので礼を言っておくと、

 

「イエイエ、こっちもそこを含めてキャンディーの契約を交わしてる訳デスシ。」

 

 そう言って機械の顔なので本心までは読み取れないが、若干ハスキーな声でそのような答えが返ってきた。

 

「そうかい………。ところで今何時かわかるかィ?」

 

 ふと、マジカロイド44の手元を見て、その手にあった道具がなくなっていることから例の魔法を思い出して尋ねる。

 今が12時(てっぺん)を回った後ならば、新しい未来の道具を引き寄せることができるはずだ。

 

「そうデスね……丁度10分前ニ日ガ変わったみたいデスが……いいんですカ?アタリが出るトハ限りませんヨ?」

 

「ハン!もともと魔法少女になる前からガチャはこの時間に回した方がいいのが出たんだよ私は!」

 

 実際問題、魔法少女になる前のアプリゲームの時にキャンディーを使って回すガチャはこの時間帯にいつも回していた。ファブがやってきたのも大体同じ時間帯だ。

 

契約者様(そちら)がイイと言うのならバやりますガ……出ましタ。」

 

 私が急かしたことで魔法を発動したマジカロイド44はそう言って出てきた未来の道具とやらをこちらへと見せに来た……が

 

「ぁんだいこれは?」

 

 その道具を見て私は首を傾げた。

 

「ハテ、ワタシにもわかりまセン。何でしょうコレは?」

 

 そう言ってマジカロイド44も首をかしげる。

 マジカロイド44がこちらへと持ってきたその道具は、碧色の変な形の端末だった。

 裏面と思わしき場所には二つのくぼみがあり、表面らしき方は赤いボタンと蒼いボタンの二つがついていた。

 赤いボタンのほうにはA、蒼いボタンのほうにはBと刻印されており、中央にある液晶画面らしき場所はいくら操作しても真っ暗なまま沈黙している。

 そして側面には均等な位置に配置された二つのボタンと、何かを嵌めるらしき穴がある出っ張りがついているが、そこに何を嵌めるのかすらわからない。

 

 極めつけに訳が分からなかったのは一緒に出てきたらしいグリップのようなもの。

 これを拳に嵌めてついている()()()()で殴れとも言うのだろうか。

 

「ハズレだねェ……もうちょっとマシなのが出ればいいと思ったんだけド。」

 

 そう呟き、失望しながら後ろをむく。そしてそのまま今日使った銃の手入れを始めようとしたときにそれは起きた。

 

「もしかして……ア!」

 

 と、マジカロイド44が言ったのと同時に

 

<ガ・チャーン!!>

 

 そんな低い男の声が聞こえてくる。

 

「何してんだィ……?」

 

 急に聞こえたその音に対して何をしているんだと思うが、そのままいつも使っている銃の回転式シリンダーを引っ張り出した………その時だった。

 

「ウワッ!!」

 

 そんなマジカロイド44の驚くような声と、

 

 ンピューイ

 

 そんな気の抜けた音が鳴った。

 

「!!」

 

 マジカロイド44の驚いた声のせいで何かあったのかと反射的に手入れをしようとしていた銃を音が聞こえた方へと向ける。するとそこには

 

「先輩、使イ方わかりまシタ。」

 

 そう言いながらでっぱりがついていたグリップにあの端末を嵌めて、機械の顔だとしてもわかるレベルで楽しそうな雰囲気を出しているマジカロイド44が立っていた。

 

 See you next Stage!!




………ちゃうねん。漫画版見たらわかると思うけど、ホントにカラミティ・メアリが剣の上に足乗せてぐりぐりとかやってんねん。
そこからさらに発展させただけだから。いや、ホントに。

感想、評価を楽しみにしています。(やべぇ、こえー)

マジカロイドが当てた未来の道具……一体何ドライバー何なんでしょうかねぇ……

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