魔法少女救命計画   作:先詠む人

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ギリギリ間に合ったぁーーー!!!

今週はいろいろと忙しすぎて落としそうになりましたが、どうにか間に合いました。
それでは、Game Start!!


4th stage 猛烈Burst!!

 変身して戦闘を始めてからずっと、たまたちによる魔法少女の壁を越えてルーラに殴りかかろうとしているが、全然うまくいっていない。

 その原因はルーラが一度解けた魔法を再びかけなおしたからだ。

 

 このままだと殺さ(やら)れる。

 

 そう思った俺は右手でドライバーについている扉のハンドルを握りしめた。

 

「ギア2nd!! 」

 

 そう叫んでからドライバーにつけられた扉のグリップ_アクチュエーションレバー_を引っ張る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

<ガッチャーン!!>

 

<レベルアーーーップ!!>

 

 ガシャットからやけにハイテンションな音声でレベルアップすることが宣誓される。

 そして扉に隠されていた液晶画面_ハイフラッシュインジケーター_が俺の前に激突ロボッツのガシャットのクリアパーツに描かれている絵を浮かび上がらせた。

 それに俺は躊躇することなく飛び込む。

 

<♪~><GEKITOTSU ROBOTS(ゲキトツロボッツ)! GEKITOTSU ROBOTS(ゲキトツロボッツ)!><~♪>

 

 

 光に包まれた空間で鋼鉄製のリングを潜り抜けながら白い重装甲を脱ぎ捨てつつ加速。そしてボクシングのリングのような空間で決めポーズをとる。

 

 その瞬間現実世界に戻ったが、その時点で俺の姿は先ほどまでのレベル1ではなく、

 

 ・先ほどまでとは基本デザインこそ変わらないが、より洗練されたデザインとなった頭部

 ・赤を基調としたスーツに身を包み、所々にロボットだということを示すかのようにパイプを模した装甲がつけられている胴体

 ・銀色の拗ねあてと膝カバーが先ほどまでと違ってシュッとした作りになっている

 

 それらの特徴を兼ね備えたレベル2になっていた。

 3頭身から6頭身への急な変化にあっけにとられている表情のままでもルーラの魔法のせいで襲い掛かってくるたまたち。それに対して俺は

 

「シッ!!」

 

 一瞬だけ逃げるかのように背後に下がるように見せかけてバク宙をする。

 振るわれたたまの腕を華麗にかわし、着地と同時に全力で踏み込むことでものすごい勢いで玉砂利を蹴散らしながらスイムスイムを横に立たせたルーラのほうへと加速する。

 近くにいたたまと天使姉妹はその行動(フェイント)と加速に反応することができない。

 本来一般人以上の身体能力を持つ彼女たちがそのフェイントに引っかかったのはなぜか。その理由は極めて単純な話だった。

 今の彼女たちはある意味生きたロボットのような状態で、ルーラから受けた命令に沿って最適なルーチーンをなぞる形で動いている。

 それは思考の半分以上を、割り振られた命令を実行することに当てることにつながり、普通の状態ならば柔軟に対応できるものも対応できなくなるということにつながることだ。

 そして柔軟な対応ができないと突発的に起きた異様(イレギュラー)な行為に対して反応は遅れるのは道理。

 だから俺はわざと普通なら回避の時にやろうとしない()()()という行為を一度挟んだ。

 あえて()()()()()()()()をはさむことで思考の空白を生んだのだ。

 

 障害となる壁2枚(いや、3枚か?)を抜け、恐らく本来ならレベル3で使うガシャットのために異常な出力が出ているロボットゲーマーレベル2の脚力で勢いよく距離を詰める。そして俺は距離を詰めながら、拳を背中のほうへと引き寄せた。

 

<ガシャコンナックル!!>

 

 拳を引き寄せた瞬間そんな音声が鳴り響く。それと同時に、俺の周りをまわるかのように赤を基本色とした拳の絵が描かれている小窓が浮かび、回りだした。

 

「チッ!!」

 

 俺が何を狙っているのか気づいたのか、ルーラが舌打ちをするのが見えた。

 その一方ですぐ横に立つスイムスイムは感情の読めない表情のまま魔法を発動して沈んでいく。

 

 スイムスイムが使用する魔法は『どんなものにも水みたいに潜れるよ』というもの。

 だから、彼女は地面や建物の床、場所を問わず水面に潜む忍者のように潜むことができる。

 それは確かに隠密性に長け、急襲するのにも大きな助けになるだろうが……

 

(ま、いくら地面に潜られようと別に問題はねーんだよ!!!)

 

 沈んでいくスイムスイムを見ながらそう考えつつ、俺は装着された巨大なナックル_ガシャコンナックル_を思いっきり振り上げ

 

「ハッ!!!」

 

 ため込んだ空気を一気に吐き出すかのように口から吐き出しながら地面を振り上げた拳で全力全開の一撃をたたきつけた。

 

 加速したことと、武器による威力強化などの上昇効果も加えたことで19.5tにもなる衝撃(インパクト)が地面に大きなへこみを作り、大量の土砂を巻き上がらせる。

 

 巻き上がった土砂のせいで視認性が下がった廃寺院の庭園の中を更に加速する。

 地面中に衝撃が伝わったことでスイムスイムが無表情だった顔に慌てたようすを浮かべながら浮上してきた。

 それをしり目に俺は仄かに緑色の光が見えている場所へ飛び蹴りを放った。

 

「くっ!!」

 

 苦悶の声をあげながら巻き上がった土砂の壁を突き破るかのように姫様のような恰好をした女性が吹き飛んでいく。

 その手には()()()()()()()()が握られていた。

 

「っシャア!!」

 

 そのすぐ後を追うように気勢を上げながら俺は飛び出し、そしてドライバーから激突ロボッツガシャットを引き抜く。

 

「これで閉幕(ゲームセット)だ!!」

 

 そう叫んでからナックルについていたスロットに激突ロボッツガシャットを差し込み、拳を握りなおした。

 

<キメワザ!!><~~~~♪>

 

 拳の中に置かれたスイッチを握りしめたことで待機音が鳴り響く中、俺はそのまま水面(地面)に上がって呆けたような表情でこちらを見ていたスイムスイムの後ろへ回り込むかのようにナックルについていたバーニアで加速する。そして

 

「でらぁっ!!」

 

GEKITOTSU(ゲキトツ)………>

 

 勢いよく拳を回り込んで無防備になっているスイムスイムの背中にぶち込んだ。

 

 後ろからの半ば不意打ちに近い必殺技だったが、スイムスイムはそれに反応して体を液状化させた。

 振るった拳がスイムスイムの体を抵抗なく、水に手を突っ込むかのように貫通していく。スイムスイムはそれを引き抜くかのように動きながら俺に攻撃しようとした。突き出す拳がスイムスイムの体から外れる。

 本来ならば焦るべき場面になるのだろう。しかし俺は余裕の表情を仮面の下で浮かべていた。なぜなら

 

CRITHICAL SMASH(クリティカルスマッシュ)!!>

 

 俺の攻撃は終わっていないし、まだ必殺技も発動していないのだから。

 ナックルの中で拳をしっかりと握りしめ、スイッチを再び押す。

 握りしめるという行動(アクション)に対応してクリティカルスマッシュと音声がナックルに装てんしたガシャットから流れたその瞬間、ナックルから大量の衝撃波が発生する。

 その衝撃波は、こちらへ振り返って攻撃しようとしていたスイムスイムの体を吹き飛ばした。

 

「コフッ!?」

 

 口から血を吐いてその白い水着の一部を紅く染め上げながらスイムスイムが飛んでいく。

 だが、それだけじゃあ終わらなかった。

 スイムスイムを弾き飛ばした衝撃波は、距離を置いていてもいまだに健在で、スイムスイムをさらに吹き飛ばしながら天使姉妹を巻き込んだ。

 

 吹き飛ばされた三人は衝突の勢いによりダメージに加えてダメ押しのように追いかけてきた衝撃波でズタボロになる。

 

「ふぃ~。」

 

 それを見て俺も仮面の下で気の抜けた息を吐きながら、ドライバーに差し込んでいた赤いガシャットを引き抜いた。

<ガッシューン!!>

 

 まとっていた白い装甲が0と1で構成された光の粒子となって消えていく。

 

「さて、あとはこの場から去るだけだな。………こうしたいとは願ってはいなかったけれど…」

 

 変身を解除し、周囲を見ながらそう口からこぼしてしまうのも無理はない。

 なんせ、先ほどまで静かだった廃寺院の庭には、うめき声がと、小さな泣き声が充満していたのだから。

 それは俺が望んでいた光景ではなかった。

 

 廃寺院の上がり框にもたれかかるかのようにうなだれてピクリともしないルーラ。

 庭の隅のほうに重ねられるかのように積み上げられて苦痛の声を上げているスイムスイムと天使姉妹。

 

 そして……

 

「まぁ、こんな惨状作り上げた俺が言えた義理じゃねーかもしれないけど。」

 

 そう言いながら、おびえた表情でこちらから後ずさる少女のもとへ歩き出す。

 

「別に俺は魔獣ってわけじゃねーんだ。ただ単に生き延びたいだけ。」

 

 疲れからかあまり感情が表情に出てない気がするが、それでも近づく

 

「けど、こんな風に力使っちまったらさすがにただの(ケダモノ)と変わんねーよな。」

 

 半分自嘲しながら俺はその少女のもとへたどり着いた。

 

「ま、何が言いたいかっていうと」

 

 その両目を恐怖で染めあげ、腰を抜かしたまま変な方向を向いてしまった左手を右手で抑えているたまのもとへ。

 

「力におぼれんな。」

 

 そう言葉を続けながら頭のほうへ手を伸ばす。

 その行動(アクション)に対してたまは口から言葉にならない悲鳴を小さな声で上げながら後ずさろうとした。だが、そこはすでに寺院を覆うように立っているブロック塀のそば。

 いくら下がろうと下がる場所はない。

 それに気づいてたまは絶望の表情を浮かべた。おそらく俺の言葉は届いていないのだろう。だけど、俺はこれだけは伝えたかった。

 

「無理はすんな。自分に価値がないと思っている人でも無理したらきっと悲しむ人はいるんだから。」

 

 そう言いながら俺はたまの犬耳がついているフードのような物越しに頭を少し乱暴に撫でた。

 

「そんじゃーな。どうしても嫌なことがあるなら白い魔法少女にでも相談してみたら?きっと彼女なら聞いてくれるだろうよ。」

 

 そう言い残して俺はその少し離れた個所のブロック塀に足をかけて上へと昇り、そのまま敷地の外へ飛び出した。

 

 そしてそのまま俺はさっきまで暴れていた事実から逃げるかのように全力で走り出した。

 

 行く先は決まらない。

 そもそもどこに行けばいいのかすらわからない。

 誰に相談すればいいのかわからない。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 深夜の時間帯に叫びながら街の中を駆け抜ける青年。

 人生の迷子ならぬ生き方の迷子がそこにはいた。

 

 なお、その声に驚いて警察に通報した名深住人がその日たくさん出たということを俺は知らない。

 

 

◇わん!!◇

 

 その日は突然だった。

 いつも通りお寺に集まってユナちゃんたちと話しているとルーラちゃんがやってきてこういった。

 

「システムの変更で一つ分かったことがあるけれどもそれは次善策としておいて、例の魔獣を捕まえて一攫千金を狙うわよ!!」

 

 とスイムちゃんを連れて入って来るなり告げて、策を練り始めた。

 その時だった。

 

 ジャリッ!!

 

 境内の中に敷かれている玉砂利が鳴る音が聞こえた。

 

「「「「「!?」」」」」

 

 本尊の前でその物音に反応してみんなが固まった…と思った次の瞬間ルーラが

 

「誰!?」

 

 そう言いながら勢いよく音の方を振り向き、

 

「誰だぁー!!」

「誰だぁー!!」

 

 ユナちゃんとミナちゃんがそう言いながら音のした方へと飛び出し、

 

「……」

 

 スイムちゃんは無言のまま二人について行っちゃって私もそれを追いかけた。

 距離も短いし、数秒ほどである方向を見て固まっている3人の所にたどり着く。するとそこには……

 

「……ひゃうっ!?」

 

 その姿を見て驚いて口に手を当てた。

 

 そこには月明かりに照らされるかのように黒いフードを被り、顔が隠れるかのように()()()がかかっている何かが立っていた。

 

 それが何かなんてすぐにわかった。

 

 そこに立っていたのは例の6億個のキャンディーを賭けられた()()だった。

 

 口を押えて立つ私の後ろにルーラちゃんがゆったりとやってきて

 

「フン。運がいいわね。()()が向こうからやってきてくれたわよ!」

 

 そう言っていつも持っている棒で魔獣を指さした。

 その瞬間魔獣から感じられる気配が一瞬おかしくなったかと思った次の瞬間、魔獣は勢いよく後ろの方へ駆け出した。

 

 それを見て「あれ?おかしいな……なんか聞いてた話と違う気が……」と思っているとルーラちゃんの命令(こえ)が聞こえた。

 

『たま、あの魔獣の足止めを、もし出来そうなら止めを差すところまで行きなさい!!』

 

 その瞬間、私の体は私の意思を無視して動き出す。

 

 背を向けて逃げる魔獣に迫り、魔法を発動する条件を満たすために腕を振るう。

 魔獣は私の魔法の発動条件を知っているのか大きく私の腕をかわし、そのまま今度は追い打ちをかけるかのように迫ったユナちゃんたちを翻弄し始める。

 

 お寺のお庭の中の全面を使うかのように私たちは追いかけっこを続けていた。

 

 すると突然ルーラちゃんの魔法が薄れ始める。

 まさかと誰かに襲われたんじゃあと思って魔獣が攻撃を避けたタイミングでルーラちゃんの方を見ると、ポーズをとりながら顔を真っ赤にして腕を震えさせているだけだった。

 

「もしかしてあのポーズ辛いのかな…」

 

 その光景を見てそんなことを思った……次の瞬間だった。

 

「ウグ……」

 

 お腹に痛みが走る。驚いて前を見るとそこには足を振り上げ、そのまま縦に回転している魔獣がいた。

 魔獣は縦に回転しながらユナちゃんたちの武器を地面にたたきつける。そしてバク転をしながら私たちから距離を取った。

 魔獣は無言のまま腰にライトグリーンの大きめのバックルを付けて立ち上がる。そして

 

「avenhilevaitunjoriahutapoh!!!!」

 

 魔獣がいる方から何か叫び声が聞こえた。だけど、何を言っているのかまではわからない。

 何が言いたいんだろうと内心首を傾げたその瞬間、私にかけられていたルーラちゃんの魔法が切れて、私の身体も心と同様に首を傾げた。

 

 その時魔獣はいつの間にか手に持っていた赤色の古いゲームカセットのようなものを自分の目の前にかざした。

 

GEKITOTSU(ゲキトツ)……ROBOTS(ロボッツ)!!><~~~♪>

 

 魔獣はそれを握りしめた。握りしめた途端、深夜と言うこの時間帯には不釣り合いなハイテンションな音声が流れるのと同時に、魔獣の後ろに赤いロボットのような絵がかいてあるスクリーンみたいなものが出てくる。

 

「?」

 

 突然空中に投影された見たことのないものに疑問を抱いて首をかしげる。

 そのスクリーンには―Game Start―と言う文字が点滅していた。

 

 そんな風に疑問で私の頭がいっぱいになっているうちに魔獣は顔の前に左手をかざし、それを勢いよく振り切ってからまたわからない言葉で

 

「augnlrouw!!」

 

 と叫ぶのと同時に両手を前で交差してから先ほど腰につけていたバックルにその持っているカセットを刺し込んだ。

 

<ガッシャット!!>

 

「!?」

 

 私は突然流れた音声に驚いて固まる。

 

<~~♪Let’s(レッツ)ゲーム! ムッチャゲーム!! メッチャゲーム!! What’s your name(ワッチャネーム)!! >

 

 その音声が流れ出すのとともに、魔獣を囲むかのように数多くの?が書いてあるプレートが現れて回り出す。

 そしてその中の一枚を魔獣は()()()()()()()()()

 それを見て内心「えぇ!?」と驚く。

 だけど、その破壊されたプレートは<SELECT!>の文字を浮かばせて魔獣に吸い込まれていった。

 魔獣を包み込むかのように0と1で構成された光が魔獣を包んでいく。

 そしてその光が消えたとき……

 

 

 多分その瞬間、私たちはみんな驚きで固まっていたと思う。

 なぜなら、さっきまで黒いコートを着ていた魔獣がよくわからない行動をした次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()3()()()になっていたのだから。

 

「あ、かわいい。」

 

 その姿を見て私は素直に感想を言ってしまう。

 

「なんだあれ?」

 

 ユナちゃんがそう言って姿が変わった魔獣を見て笑った。

「チョーウケるんですけど!!!!」

 

 ミナちゃんもそれに追随するかのように嗤う。

 

「………」

 

 スイムちゃんは、姿の変わった魔獣をいつも通り表情が薄い顔でじーっと見つめていた。

 そんな風に思い思いの反応を見していた私たちに正気に戻ったルーラちゃんが

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょこの馬鹿どもが!!」

 

 と怒鳴りつけてきた。その怒声に私は今ここが戦場だということを思い出す。

 ある意味混乱の絶頂にあった私たちに対して姿を変えた魔獣は両手を胸の前で交差してからそのまま頭上に掲げる。

 

「「「「「?」」」」」

 

 そのなぞの行動に対して不審に思い、警戒する私たちをしり目に魔獣はその上げた手の内、右手を胸の前に、左手をプランと脱力させたかと思うとそれを上下させた。そして

 

「あvぶねらいつあヴぇなぴう!!」

 

 そう叫ぶのと同時に襲い掛かってきた。

 

 恐怖から目を反射的にそむけたくなるけれども、体は命令されたことを実行しようと勝手に動き出す。

 攻撃を与えるためにも腕を振るい、爪をどうにか掠らせようとする。だけど、目の前の魔獣はそれを華麗に避け続けた。

 

 ユナちゃんたちが避けた体勢でいる魔獣に襲い掛かる。

 だけど、その攻撃すら魔獣は避けた。

 

 そして

 

「g232nd!!」

 

 そう叫ぶのと同時に魔獣は腰につけたバックルを操作する。

 バックルについていた扉は魔獣が開いたことでその下に隠されていたガラス窓のようなものを表面に露出させ、そこから大きな画面のようなものが投影された。

 そしてその画面のようなものに魔獣が飛び込む。

 

GEKITOSU ROBOTS(ゲキトツロボッツ)! GEKITOSU ROBOTS(ゲキトツロボッツ)!>

 

 そんな音声とともに画面から出てきた魔獣はその姿を大きく先ほどまでと変えていた。

 

 それまでの3頭身のかわいらしい姿から6頭身のより戦闘に特化したかのような、まるで戦闘ロボットであるかのような姿に。

 

 そこには先ほどまでのゆるい感じはない。

 いうなれば狩人(ハンター)のような存在が立っていた。

 

 そして魔獣は再び動き出す。

 先ほどまでと違って身軽になってそうな容姿になった魔獣が逃亡するのを防ぐための意味もあって地面に爪を掠らせようとする。

 その瞬間、一瞬だけ魔獣の姿がぶれた気がした。

 

 そして気づいたときに左腕に走ったのは激痛。

 嫌な予感がして左手を見ると、そこには本来曲がるはずのない場所で曲がっている左腕があった。

 

「ひぃ……」

 それを見てルーラちゃんの魔法がかかっているにもかかわらず私はへたり込みそうになってしまう。

 

 そんな私たちの様子を見て何を思ったのか、魔獣は私たちのすぐそばに一瞬だけ近づいたかと思った次の瞬間、背後の方に飛びながら空中で回転した。

 それにつられて私は左腕をかばいながら、ユナちゃんたちはさっき叩き付けられたときに破損した武器を構えながら魔獣との距離を詰めようとする。しかし、

 

「!?」

 

 魔獣は着地と同時に私とユナちゃんたちの間をすり抜けるかのように加速して抜けていった。

 

「あ」

 

 そう思った瞬間にはもう遅かった。

 

 ルーラちゃんとの距離をすでに詰め終わっていた魔獣はそのまま地面をいきなり大きくなった拳で叩き付けた。

 

 沢山の土砂が舞い上がる。その瞬間、私にかかっていたルーラちゃんの魔法が解けた。

 

「ルーラちゃん?」

 

 無意識のうちにそう漏らす。私にとってあの人は怖い人だった。

 なのに、どうして……今私はあの魔獣に対してルーラちゃん以上の恐怖を抱いているのだろうか?

 そのせいでスイムちゃんがルーラちゃんの近くにいるはずだから心配になる。

 スイムちゃんの無事をこの目で確認したいと思うけれども、舞い上がる土煙のせいでスイムちゃんたちが経っている場所は全く見えない。

 けれども、きっと魔法で地中に潜ってそれを避けているんだろうと思っていた。()()()()()()()

 

GEKITOTSU(ゲキトツ)………>

 

 そんな音声が煙の向こうから聞こえてきて私は口の端をひきつらせてしまう。

 その音はさっき魔獣が白いずんぐりむっくりや、狩人のような印象を覚えさせる赤い身軽な姿になるときに聞こえたものと酷似していた。

 

「スイムちゃん!!」

 

 反射的に叫んでしまう。だけど……

 

CRITHICAL SMASH(クリティカルスマッシュ)!!>

 

 そんな音声がお庭に鳴り響いた。

 風が土煙の向こうから大量に吹いてくるのと同時に、スイムちゃんがとんでもない勢いで飛ばされてくる。

 そしてそのまま近くにいたユナちゃんたちを巻き込んでお庭の端の方へと吹き飛ばされていった。

 

「ひぅ……」

 

 もし、今私がたまじゃなくて犬吠埼珠の姿ならきっと恐怖で漏らしていただろう。

 吹き飛ばされた土煙の向こうで立っていた魔獣の姿が、赤い姿から黒いコートを着たモノへと変わる。

 

 そしてノイズが走る顔の中で、その目だけが赤く光っているのが見えた。

 

 魔獣が周囲を見渡すかのように首を回す。

 そして徐々に私のいる方に近づいてくる。

 

 「こ……殺さないで……」

 

 口から小さく漏れるその言葉はちゃんとした音になったのだろうか。

 恐怖のせいで歯の根が合わない。さっきまではずっと痛んでいた左手も恐怖に塗りつぶされて何も感じなくなった。

 

 魔獣はジャッ、ジャッと玉砂利の中を甲高い音を立てながら歩いてくるのに対して私は反射的に右手だけで後ろへと下がる。

 

 近づいてくる。

 

 後ろに下がる。

 

 近づいてくる。

 

 後ろに下がる。

 

 それを何度も繰り返しているうちに私はお庭の端まで追い詰められていた。

 

「あ……あぅあぅあぅ……」

 

 視界が涙であふれてにじんでいく。

 

「死にたくないよぅ……」

 

 心の底からそう思い、顔を隠すかのように下に向ける。その時だった。

 

「無理はすんな。自分に価値がないと思っている人でも無理したらきっと悲しむ人はいるんだから。」

 

 とてもクリアで、心にしみわたるような声が聞こえた。

 そして頭をわしゃわしゃと少し乱暴だけど撫でられる。

 

「え……?」

 

 理解ができずに魔獣が経っていた方を見ると、そこには顔にノイズなんてかかっていないきれいな顔をした男の人が立っていた。

 

 その顔は以前どこかで見たことがある気がして、けれども、それが()()なのかが思い出せない。

 そんなことを考えながら月で照らされて幻想的な笑顔に見惚れていた。

 

 数秒後、彼の顔を的確に照らしていた月が雲で隠れるのと同時に撫でられていた手が離れる。

 その瞬間、彼の顔は再びノイズで覆われて見えなくなった。

 

 しかし、

 

「そんじゃーな。どうしても嫌なことがあるなら白い魔法少女にでも相談してみたら?きっと彼女なら聞いてくれるだろうよ。」

 

 さっきまでと同様なクリアで澄んだ声が私の耳に届いたのと同時に、彼はブロック塀に足をかけてそのまま敷地の外へ飛び出して行ってしまった。

 

「白い魔法少女……スノーホワイトの事?それより、なんで顔にノイズがかかったりかかってなかったりしていたの…?」

 

 さっきまでの出来事に呆然としてしまう。

 もしかしたら嘘なのかなぁと思ったりもするけれども、頭にはさっきまで撫でられていたぬくもりが残っていた。

 

 頭を少し乱暴だったとはいえ、撫でられたのはいつ以来だろうか。

 祖母が死んでしまった時以来じゃないだろうか。

 

 ほほが自分の思いと裏腹に緩んでしまうのを感じてしまう。

 

 ……結局、私の緩んでしまった頬は、そのあとにルーラちゃんに「たま、あんた何笑ってるの?足止めすらできなかったんだから反省しなさい!反省!!」と怒鳴られるまで戻ることはなかった。

 

 大きくゆがんでしまった腕は治るまでに時間がかかりそうとルーラちゃんは言っていた。

 だからなのかはわからないけれども、「私がシスターナナに連絡しておくから今すぐ行って自然治癒力を高めてもらってこい!!」と怒鳴られて慌ててその場からみんな揃って立ち去る。

 

 でも、シスターナナの元へ行ってこいって言われても………

 

「どこに行けばいいのかわかんねーしー」

 

「ねー」

 

 ユナちゃんたちが私の考えていることを代弁するかのように言った。その時だった。

 

「お困りだと聞いてやってきました。」

 

「………」

 

 後ろからおっとりした様子を感じられる声をかけられる。

 後ろを向くと、そこにはキリスト教の教会に居そうなシスターのような恰好をしたシスターナナと、それを警護するかのように立つウィンタープリズンがいた。

 

「そうですか………そんなことが……」

 

「でしょ?ありえないしー!!」

 

「もう乙女の体が痛いのなんのってー!!」

 

 さっきまでの話をしながらシスターナナの魔法を浴びる。

 いまいち実感がわかないのだけれど、きっと自然治癒力が上がっているんだと思う。多分。

 

 そう思いながら左手をさすっていると、ウィンタープリズンが

 

「たま。君が最後の最後まで意識があったようだとあそこの2人から聞いた。魔獣はどんなふうに暴れたんだ?」

 

 と聞いてきた。それに対して私は

 

「え~っと…」

 

 とこぼすことしかできなかった。頭をなでてくれたところまで言えばいいのかわからなかったからだった。

 

 きちんと答えられない私を疑うかのようにウィンタープリズンの視線が厳しいものになる。

 だけど、そんな私をカバーしてくれるかのように

 

「最初はかわいいって感じの白い3頭身。気づいたら赤い6頭身になっていた。」

 

 一番傷が軽かったらしいスイムちゃんが私の代わりに説明してくれた。

 

「白い3頭身?赤い6頭身?どういう意味だそれは?」

 

「文字通り。頭身が途中で変わった。」

 

「バカにするのはよしてくれ。………本当なのか?」

 

「嘘はつかない。」

 

「………武器は?何か武器を使っていたんじゃないのか?」

 

「拳」

 

「は?」

 

「正確にはナックルカバーとでもいえばいいのかも。」

 

「と言うことは実質素手で魔法少女にこれだけの傷を負わせたというのかい?」

 

「……」

 

 スイムちゃんは最期の質問に対してコクと小さくうなずいて答えた。

 

「これは……かなりまずいことになってしまったな。」

 

 そう言いながらウィンタープリズンは顔に手を当てて困惑したかのように零す。

 

「素手で魔法少女にこれだけの傷を負わせることができる存在がこの街に放たれたということになる。」

 

 その言葉はあの幻想的な笑顔が脳裏のこびりついている私にとって何も染み渡らないものだった。

 

 

 

 

◇ガシャット!!◇

 

 叫びながら西門前町を駆け抜け、気づいたら城南地区までやってきていた。

 

「………もぅいやだ。なんでこんなことに……」

 

 叫んでもすっきりすることなんてなく、今の状況に対して弱音を零してしまう。

 だが、

 

「6億個のキャンディーが向こうから偶然入って来るなんてラッキーだねェ……」

 

 やけに某白モヤシを連想するような喋り方が聞こえた。

 俯きがちになっていた顔を上げる。

 

 時刻は深夜。

 人は外に何ておらず、町は閑散としている。

 

 そんな中に異彩を放つ女性が立っていた。

 

「………テンガロンハットに()って……」

 

 その姿を見て俺の背筋に寒気が走り、生き延びるために腰にゲーマドライバーを当て、黒いガシャットを取り出す。

 その瞬間、

 

「さァ、アタシのエサになりなァ!!」

 

 西部劇から出てきたような魔法少女のその手に構えられた30口径の黒星(ヘイシン)から魔法で強化された弾丸が俺の眉間めがけて放たれる。

 

 閑静な町中に乾いた音が鳴り響いた。

 

 SEE YOU NEXT STAGE!!




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