原作だと彼女の立場がありますんで、そのせいでこのシーンの扱いに困ったんですよね。
人に相談して、それを参考に考え抜いてこうなりました。
「
「よくこんな風にうまい話のように語れるもんだよな。要はデスゲームに参加させる参加者の選考やるためだけのダミーでしかないのに」
ゲームストアのアプリを開いた状態で握っていたスマホの電源をスリープモードにし、ジュージューバーガーのゲームエリアから持ち出したそのままだと味がそんなにしないパンを嚙み千切りながらそう呟く。
「にしても、だいぶ変わっちまったな………俺。」
スマホをポケットにしまい、自分の顔に若干かかる前髪をいじりながらパンを咀嚼しつつ無意識のうちについぼやいてしまう。
あの時バグスターウィルスに適合するにあたって受けたダメージのせいなのか、それともただ単にあの戦闘で受けたダメージのせいなのか。
どちらが原因なのかはわからないが、あの戦闘以降丸一日眠っていた俺が目を覚ますと、髪の色を含めていろんなところが変わっていた。
元々ぼさぼさで濡れたカラスの羽のように黒かった髪はまっすぐで透き通るような銀髪に。
公務員試験に受かるために家にほぼ引きこもって勉強していたせいで太っていた体は、所属していた部活の関係で一番痩せていた中学の時みたいに筋肉質に。
そしてこれが一番何故かはわからなかったが、身長がぐんと伸びた。
具体的に言うと166cmぐらいだった身長が175cmぐらいに。10cm近くも急に身長が伸びたせいで体のバランスがうまく取れなくて困る。
そう言った要素が原因で若干ふらつきながらも俺は座っていた駄菓子屋の前に置かれていた椅子から立ち上がり、歩き出した。
「あ、ばあちゃん。きなこ棒とお茶ありがとね。」
勿論、場所を提供してくれた上にお茶ときなこ棒を一袋くれたおばあちゃんにお礼を言うのを忘れない。お礼を言うのって大事だしな。
駄菓子屋から出て、ふらふらと歩きながら周囲を見渡す。しかし、黒いコートを着て昼っぱらからふらついてる成人男性にかかわろうとする人がいないのか、俺の方を見てもそのまま目をそらして誰も寄ってこない。
目的地などつい先日いきなりこの街の森の中に飛ばされた奴が知るわけなんてないので足の向くままに歩いていく。
すると、駅前……とでもいえばいいのだろうか。タクシーのロータリーやバス停が沢山あり、駅前アーケードと書かれたアーケードがある場所へ行きついた。
(大阪駅よりかはやっぱりちっせーな……)
過去に暮らしていたことがある大阪の中心街にある大阪駅の駅前…と言うか、駅ナカ?のことを思い出しながらそのアーケードの入り口をくぐるが、
「あぁー、やっぱパンだけじゃたんねー。肉食いて~肉。」
アーケードの中には揚げたてのコロッケを現在進行形で作り続けているコロッケ屋さんとか、焼き立てのパンの臭いを外にまで放出しているパン屋。さらにはステーキハウスと書かれた店まであったせいで無性に口の中が寂しくなった。
スマホの時計も腕時計も両方が転生?の影響なのか狂っていたのでわからなかったが、今は丁度昼時らしい。
因みにスマホだと今の時間は夕方の5時になっている。腕時計はデジタル部分の液晶が割れている上にアナログの針も7時を示して止まっていた。
そんな他愛のないことを考えながらアーケードの中を通り抜けていく。
赤地に黄色いマークの有名店とか、お店のシンボルである髭面のおじさんが川に投げ込まれたことで有名な店など、各種様々なファストフードの店舗には数多くの人が並び、外においしそうな肉の臭いを放出していた。
臭いにつられてパンでパッサパサになった口の中に唾液が大量に分泌される。
パン一個ときな粉棒以外は水分しか入っていない腹はギューっと締め付けるような痛みとともに”ぐー”と大きな音を鳴らした。
「………しゃーねぇか。推測があってたらの話だけどあのエリア飛んでハンバーガー作ろ。」
そう無意識のうちに呟くが、特に何ら変わることはなかった。
大きな音を鳴らし続ける腹を抑えながら人通りがない場所をアーケードから外れて探す。
十数分ほどかけてふらふらとし続けたことで運よく誰一人人通りがない通りに面した公園を見つけた。
その公園はそこそこの広さと数多くの遊具があったが、今はお昼時なことも原因の一端となるのかは知らないがだれ一人いなかった。
周囲を見渡して、だれ一人いないことを確認してから木陰に隠れて待機状態のドライバーを腰に当てる。
腰に当てられた瞬間にドライバーから灰色のベルトが飛び出し、腰を囲うかのように回りながらドライバーを俺の腰と密着させる。
それを確認もしないで空の右手を空にある何かを握るかのようにしながら脱力させる。
すると一瞬だけ手の中が光ったかと思うとその次の瞬間空だった右手には赤と黄色で染められたガシャットがクリアパーツを下にして握られていた。
「金がないといろいろ困るからやっぱり何かで稼がないとヤバいかねぇ……」
思考をダダ漏れにしながら手に現れたガシャットを掌の上で半回転させ、起動スイッチを押し込む。
<
ガシャットを起動すると起動音と陽気な音が鳴り響き、俺の背後にはローラースケートのようなものを履いたハンバーガーを持つキャラクターが大きく描かれているジュージューバーガーのスタート画面が表示された。
「ステージ移動。」
<STAGE SELECT!!>
俺の周囲に浮かび上がった十数枚の窓_ステージ_からジュージューバーガーのステージをセレクトし、そのエリアに飛ぶ。
目を開けるとそこは某うわさが絶えない男性がCMに出てるファストフード店の厨房そっくりな効率よくバーガーを作ることができるキッチンと、カウンター、そして客席がある空間になっていた。
「さて、ビッグ〇ックのセットでも作るかねー。」
そう言いながら冷凍庫に置かれている
パンズをトースターで温め、その間にふと思いついてナゲットとかサラダがないか厨房を探してみる。
探してみるとやはり両方とも沢山在庫があった。放送時にも言われていたが、どうやらこのエリアは〇ナルドがキャラクターを務めている幸せセットを子供向けに売り出す店がベースになっているようだ。
そんなことを考えていると肉の良い臭いがし始めたので慌ててひっくり返しまた焼く。
そうして焼けた肉をビッ〇マックを作るかのようにソースなどを載せていき、最終的に『ビッグ』と書かれた包み紙に巻いてから保温台の上に一度置いた。
冷蔵庫からサラダを取り出し、胡麻ドレッシングをその中に入れて全力で振る。
全体にドレッシングが馴染んだかなと思うところで振るのをやめ、それをトレーの上に載せて保温台の上に置いていたバーガーの方へ持って行った。
「っと、のみもん忘れてた。」
バーガーをトレーに載せて客席の方へ歩き、草原が見える窓ガラスと対面するかのように作られたカウンター席に置いたところで飲み物を準備し忘れていたことに気が付く。
一度厨房に戻り、コーラをMサイズの容器に入れ、それを席まで持っていく。
そして
「いただきます。」
そう手を合わせて言ってからガツガツと勢いよく食べ始めた。
自分で作ったハンバーガーは店で食べていたものよりは劣っていたが、それでも確かにおいしいのには変わりはない。
トレーの上に置いてあるものを食べ終わり、ごみをあらかた片付けてから一度烏龍茶を注ぎに厨房の方へと戻った際にふと気づく。
「スタッフルーム?」
厨房の揚げ物カウンターの所から数歩後ろへ歩いたところぐらいにそう書かれたプレートがつけられている扉があった。
「なんでスタッフなんかいないはずのこの空間にそんなものが……」
そう言いながら扉に手を駆け、ノブを下に下ろす。
ノブは簡単に動き、その先の部屋へと続く扉を開いた。
「あ、休憩室的な感じだ此処。」
その部屋の中にあったのは結構大きめなソファと洗面台。それとテレビだった。
洗面台にはパッケージに入ったままの歯ブラシと歯磨き粉が置かれてあり、ソファには毛布が置かれていた。
「………魔法少女たちが本格的に動き出す夜まで時間あるし仮眠でもしとくか。昼に行ったとしてもクラムベリーはあそこにいないだろうし、しかも夜闇に乗じて逃げられないから厳しくなるしな。」
そう決めてから行動するまではすぐだった。洗面台の前で歯を磨き、ソファに寝転がって毛布をかぶる。
「起きたらすぐに動かないとな。じゃないと間に合わなくなr………スゥ………」
この体は寝落ちしやすいのかはわからないが、ソファに横になって毛布をかぶってから数秒後、俺は欠伸をしながらそのまま眠りに落ちた。
まさか間に合わなくなるなんて知らずに。
この世界が
そして”俺”と言う
それが悲劇を呼ぶことになるなんてちっとも予想できていなかったんだ。
俺が仮眠を取ろうと眠ってから数秒後、その眼が開く。だが、その眼は赤く光っていた.
しかし……
「まだ
そう言って再び目を閉じる。しかし、その時すでにその眼を光らせていた赤い光は消え去っていた……
◇
夜。
それは名深市にいる魔法少女たちがキャンディーを集めるために本格的に活動しだす時間であるのだが、今夜は週一回行われる魔法少女たちが集まるチャットで重大発表をするため、全員が絶対参加するようにとファブに事前に忠告されていた。
「結局今日は何について話し合うのかなぁ…そうちゃんはどう思う?」
広い名深市の中でかなりの高さを誇る電波塔の上で私はスノーホワイトに変身したままでそうちゃん、幼馴染の岸部颯太が変身したラ・ピュセルに話しかける。
「わからない。ただ、最近チャットの参加者が少ないからファブが多くの魔法少女を参加させるためにそう言っているだけじゃないのかな?あとさ。今の姿でそうちゃんって呼ぶなよって前も言っただろ。今の私はラ・ピュセルなんだから。」
見た目が龍騎士のような姿の魔法少女と今はなっている私の幼馴染はそう言って笑ってからふてくされたかのよううな顔でそう言った。
「あ、ごめんごめん。」
私は照れて頭を掻きながらその抗議に答える。
今の私は姫河小雪じゃなくて魔法少女スノーホワイト。白い学生服をモチーフとした衣装に身を包んでいる。
幼いころから私は魔法少女が好きだったし、憧れだった。
だからこそだろうか、「魔法少女になれる」と言う噂があった魔法少女育成計画をプレイしていて、ファブが突然現れたときは驚いたけれども内心にはその状況に対する喜びがあった。
「あなたには資格がある。魔法少女になる資格が。」
そう言ってファブは私の夢をかなえるチャンスをくれた。
「世のため人のため魔法を使う魔法少女」と言う私の夢にぴったりな魔法を与えてくれた。
「困っている人の心の声が聞こえるよ」
この魔法は私が目指す魔法少女に完全に合致した魔法だった。
仮に遠くにいても私の耳にはその人の困った声が届く。あとはその人の元へ向かって助けてあげればいいだけだった。
例えば重い荷物をもっているせいで陸橋を登れないおばあさんを後ろから抱き抱えてあげることで陸橋の上まで連れて行ってあげたり、風船が木に引っかかって取れなくて泣いている子にその風船を取ってあげたりしたりね。
私は夢と希望が叶ったから充実した毎日を送っていた。
そして今、私がそうちゃんと呼んだことで今もまだむくれているラ・ピュセルの顔を見てほほが緩むのを止められないでいると
「時間だ。……そう言えばファブがあの時言っていた『マジカルキャンディーを一杯集めているといいことがあるよ』ってどういう意味なのか聞き損ねていたな。どういう意味なんだ………?何かイベントが始まるのか…?」
「ラ・ピュセル……?」
9時になったとラ・ピュセルが私に伝えるのと同時に、前にファブが私たち二人の前に現れたときに言っていた言葉を思い出して考え込み始めた。
それは4日前のことになるかな。
『『キャンディーを?』』
私たちのマジカルフォンの画面の少し上に空間投影された黒と白の二色で染め上げられたマスコットキャラクター_ファブ_が言った言葉に私たち二人は首を傾げた。
『そうだぽん。来週ちょっとしたこと発表をするんだけど、それに関してのお知らせだぽん。』
ファブはそう言いながら投影されている体を小刻みにメトロノームのように揺すった。
『ちょっとした発表って何なんだ?』
ラ・ピュセルがそうファブに尋ねる。だけど、
『それは来週のお楽しみだぽん。それじゃ、ファブは他の子たちの所にも回らないといけないからこれで。シーユー。』
ファブはそう言ってはぐらかして消えた。ファブはもともとそう言った喋り方をすることが多かったからその時はあまり私もラ・ピュセルも気にしていなかったんだけどやっぱり気になるよね…。
「まぁ、イベントならきちんと今日の集会で教えてくれるだろうしいいか。」
私がそのことを思いながらラ・ピュセルの顔を見ると、とても険しい顔をしていた。その顔に不安な思いを隠せないまま私が名前を呼ぶと、ラ・ピュセルはそう言って私の方を見てから
「さ。早くチャットルームに入ろう。きっとイベントを始めるなら始めるできちんと教えてくれるはずだ。それに…」
ラ・ピュセルはそう言って一度言葉を区切ってから
「何があっても私が君を守るよ。スノーホワイト。」
そう言って私の方へ笑顔を向けた。
その笑顔に安心して私もマジカルフォンを操作して魔法少女チャットルームにログインする。
その時まで、私たちは夢の中で生きることができた。
だけど、夢が永遠に続くことは決してない。
それを証明するかのように始まりの
その事をその時は全く知らない、いや、知る由の無い私たちは空間投影された画面の中で会議室を模したチャットルームの入り口を開き、チャットルームに入室した。
☆スノーホワイトさんが魔法の国に入国しました。
☆ラ・ピュセルさんが魔法の国に入国しました。
☆たまさんが魔法の国に入国しました。
☆マジカロイド44さんが魔法の国に入国しました。
スノーホワイト:こんばんは!よろしくね!
マジカロイド44:コンバンハ、レアキャラデス
ルーラさんが魔法の国に入国しました。
ラ・ピュセル:よろしくたのむ
たま:わんっ
☆ミナエルさんが魔法の国に入国しました。
☆ユナエルさんが魔法の国に入国しました。
ミナエル:ハーイ
ユナエル:いぇーい
☆クラムベリーさんが魔法の国に入国しました。
ルーラ:よろしく
クラムベリー:♪
☆シスターナナさんが魔法の国に入国しました。
☆ウィンタープリズンさんが魔法の国に入国しました。
シスターナナ:こんばんわ皆さん。よろしくお願いします。
ウィンタープリズン:どうも
☆ねむりんさんが魔法の国に入国しました。
ねむりん:どもども
☆リップルさんが魔法の国に入国しました。
☆トップスピードさんが魔法の国に入国しました。
☆スイムスイムさんが魔法の国に入国しました。
トップスピード:ちーっす
スイムスイム:ども
☆カラミティ・メアリさんが魔法の国に入国しました。
カラミティ・メアリ:私が最後かい?(使用が禁止されている言葉です)
空中投影されているチャットルームが魔法少女で満杯になったことで少し見づらくなった。
カラミティ・メアリが入室してから数秒後、
☆ファブさんが魔法の国に入国しました。
ファブがチャットルームに入室した。あの時言っていたようにファブが全魔法少女に絶対参加を呼び掛けたせいなのか、今いない人はいない。
それを確認したのか、ファブは
ファブ:まずは、全員来てくれてありがとうだぽん。
と言った。
するとトップスピードさんが
トップスピード:そういや、新しい魔法少女が来るって俺の所に来た時言ってなかったか?なんかいないみたいだけど。
と、私たちが聞いていないことをファブに聞いた。その問いに対してファブは
ファブ:その子が来るのは来週からだぽん
ファブ:実は今日みんなに集まってもらったのはその子のことにも関係しているんだけど…
と前置きをしてから説明を始めた。
名深市では現在15名の魔法少女が活動している。そして来週から新規で魔法少女が加わることによってその数は16名となる。
魔法少女が16人と言うのはいかに広い名深市とは言え多すぎる人数となる。
そしてその魔法少女たちが使う魔法の源になる魔力は土地に依存していて、もし16人の魔法少女がフルに活動するといかに潤沢な
そこまで一気に説明してからファブはこの場所に全員を集めた理由を話した。
ファブ:と言うわけで、増えすぎちゃった魔法少女の数を減らすことにしたぽん。半分の八人にするぽん。
一瞬だけ、画面が静止したのかと思うほど画面が固まった。その直後、私がファブが言った言葉の意味を理解したのと同時に画面は他の魔法少女たちのコメントで嵐のようになった。
各魔法少女をデフォルメ化したアバターから出てくる吹き出しは、出てくる速度が速すぎて全部は読めないけれども不平不満、ブーイングを言っていることだけは辛うじて読み取れた。
水面に石を放り投げたときに出てくる波紋のように吹き出しが飛び出る中、ファブはひたすら平身低頭で謝り続けるため、なおさらヒートアップしていくかのように吹き出しが出る速度が加速していった。
私はそれをただ黙ってみていたんだけれど、そのまま画面の中の吹き出しが出る速度が徐々に遅くなっていき、最終的に出てくる吹き出しの中身が疑問に変わっていた。
半分にするって
するとファブは
ファブ:この魔法少女チャットは一週間に一度、開かれているぽん
ファブ:週に一度、このチャットで脱落者を一人発表して、翌週また一人、というように
ファブ:今週から八週間で八人の魔法少女に魔法少女を引退してもらうぽん
ファブ:その週で一番マジカルキャンディーの少ない魔法少女が
ファブ:一人ずついなくなっていくぽん
「マジカルキャンディーが少ない人が…だから集めろって言ってたんだ…」
私は空中投影された画面を見ながらそうこぼす。
そうちゃ…じゃなかった。ラ・ピュセルも同じことを考えていたみたいで私と顔を見合わせて零した言葉に同意するかのようにうなずいた。
ファブ:それじゃあ、今週の脱落者を発表するぽん
ファブ:今週一番キャンディーが少ないのは……
ファブ:ねむりんだぽん
ファブ:夢の中でのキャンディー集めに精を出してたからこうなったぽん
今週の脱落者がねむりんだと伝えられた瞬間、チャットルームに参加している魔法少女たちの反応は大きく二つに分かれた。
冷淡に何も感じていないかのように黙りこくるものと、私のようにねむりんとの別れを惜しんで会話するもの。
ファブ:ねむりん
ファブ:これで終わりになるけど何か一言残しておくぽん?
ねむりん:みんなのことまとめサイトから見て応援しているからね~
ねむりん:頑張ってね~
ファブ:もういいぽん?
ファブ:じゃあさよならぽん
ねむりんのアバターがチャットルームの中で手を振る中、ファブがそう言ってねむりんをチャットルームから退出させた。
☆ねむりんさんが魔法の国から出国しました。《Account lost》
ねむりんが消去されました。
ねむりんのアバターがあっさりと消える。
先ほどまでねむりんがいた場所は、赤字でアカウント消失と英語で書かれたアイコンにねむりんと入れ替わるかのように変わっていた。
ファブ:このように、毎週一人ずついなくなっていくぽん
ファブ:今回はみんなに大変な苦労を掛けてしまって大変申し訳ないと思っているぽん
ファブ:ホントにホントにごめんなさいだぽん
トップスピード:おい、いくらなんでもあんまりな消し方だろ!
ファブ:消し方にどうもこうもないぽん
ファブ:ねむりんはもう魔法少女じゃないぽん
トップスピード:なんだよそれお前本当に無責任だな
チャットルームの中が魔法少女たちのブーイングで埋め尽くされる
それに対してファブは不遜な態度で答え続けた。
そして、未だにブーイングが続く中、ファブは次の
ファブ:それと重大なお知らせ二つ目だぽん
ファブ:これはみんなの命にかかわることだからよく聞くように
リップルさんが何かを聞いたのにも答えずに、ファブはそう言って話を無理やり切り替えた。
命がかかわると言われればさすがにみんな黙らざるを得ない。そうしてみんなが沈黙したタイミングでファブは話し始めた。
ファブ:魔法の国で捕獲、研究していた新型の魔獣が脱走したぽん
ファブ:そしてその魔獣がこの街にやってきて、クラムベリーを襲って大けがを負わせたぽん
ファブ:クラムベリーに大けがを負わせたその魔獣は今も逃亡中で、みんなに危害を加える可能性があるぽん
ファブ:我々魔法の国はそのことを大変重大な問題とみて、みんなにその魔獣の討伐を頼むことにしたぽん
ファブ:その魔獣の特徴はみんなのマジカルフォンに送っておくぽん
ファブ:しっかり確認しておくことだぽん
ファブ:それと、ただ討伐するだけじゃあみんなにはメリットがないよね
ファブ:だからその魔獣を倒した魔法少女に魔法の国から報酬として六億個のマジカルキャンディーを与えることになったぽん
ファブ:まだ他の魔法少女に比べてあまりキャンディーを持っていない子や、人と差をつけたい子には大チャンスだぽん
ファブ:そしてみんなのマジカルフォンを特徴を送るのに合わせてアップデートしたからそれも確認しておいてほしいぽん
ファブ:連絡は以上ぽん
ファブ:じゃあ、また一週間後にここで
ファブ:シーユー
☆ファブさんが魔法の国から退出しました。
ファブがチャットルームから退出すると、一時的にチャットルームの中は騒がしくなったけれども、その内容はいなくなってしまったねむりんの事ではなく、六億と言う膨大な数の報酬を掛けられた魔獣の事で大きく占められていた。
ラ・ピュセルがチャットルームから退出したのに合わせて私も退出する。
「魔獣ねぇ……。ゲームの時は出てきたことがあったけど今になってまた遭遇するとは思ってもみなかったなぁ…」
目の前のラ・ピュセルが半ば呆然自失と言った風に言う言葉に内心同意する。
魔獣はまだ「魔法少女育成計画」がゲームの時に敵キャラとして遭遇したことは何度もあったけれども、ゲームが現実のものになってからは一度も遭遇したことがなかった。
ゲームの時の攻略の難易度は種類にもよるけど大体中堅クラスのプレイヤーが一ターンで倒せる程度って聞いたことがあるけれど、私は何度か挑戦した末に何とか倒せた覚えがある。
そしてその時にファブがスマートフォンから現れて私は魔法少女になった。
その時のことを思い出さ衣ていると、ラ・ピュセルが
「これを見て。件の魔獣はこういった姿をしているみたいだ。」
そう言いながらマジカルフォンの空間投影されている画面をこちらに向けて近づいてきた。
私もその画面を横に顔を近づけてのぞき込む。
一瞬だけ隣のラ・ピュセルが息をのんだ気がしたけれども私は画面の中に映っていた魔獣の姿に驚いていた。
「ラ・ピュセル。これって……」
驚きのあまり画面を指さしながら震えた声で尋ねる。
「あぁ。この魔獣、ぱっと見
そう言ってラ・ピュセルは深刻そうな顔で私の言葉に答えた。
画面に映っていたのは上に向かって吠える黒いフードを被った身長が大体高校生ぐらいの男の人と思わしき影。
フードの中までは画像を撮られた際、周囲が暗かったのか映ってはいなかったけれども、人型の魔獣と言う事実は私たち二人にある危機感を発生させるには十分だった。
「この魔獣って人に紛れて人を襲うことがあり得るよね……」
「あぁ、これは一大事だ。」
二人で顔を見合わせ、私たちは一緒にいた鉄塔の先端から飛び出した。
六億と言う桁外れな報酬を目の前にちらつかせられた魔法少女たちの、欲にまみれたチャットで覆われたルームから退出し、コンパクトのような形をしたマジカルフォンをベッドの上に放り投げる。
『森の音楽家』、クラムベリーは高並山の山頂近くににある建設途中で放置されたリゾートの中にあるコテージの一つの中に置かれた擦り切れたシーツが敷かれているベットにから体を起こし、すぐ横に置いてあるピアノへと近づく。
「さて、ゲームは始まりました。」
そう言いながら滑らかなシルクのような見た目の手でクラムベリーはピアノの鍵盤に手をそっと乗せた。
(あなたはどう動くんですかね……名も知らぬ強者さん。)
そんなことを考えながら乗せた手を動かし始める。
鍵盤の上をすべるように動く手が紡ぐ旋律はやがて音楽となった。
右手で奏でる主旋律は基本的に同じフレーズを繰り返す、ある意味単調で、ある意味重層な曲。
バッヘルベルのカノンを。
月明かりに照らされながらピアノを弾くその姿は二つ名の『森の音楽家』を言葉通りのものとしていた。
たとえ、月が照らす窓から少し離れた森の一部が
クラムベリーが山奥のコテージでカノンを引いているのとほぼ同時刻。
クラムベリーがいる山奥と同様に静かではあるが、逆にものにあふれた市街地の中にある住宅街の中の二階建ての一軒家。
その二階でベッドの上でごろんと横たわったままファブと話している女性がいた。
「夢の中だと八万個集まってたんだけどね~」
マジカルフォンから投影されるかのように空で踊っているファブにおっとりとした様子で話しかけるその女性は、ぼさぼさに伸びた髪をツインテールと目にかからないようにおでこの上にチョンとまとめたような髪形をしており、着ている服もゆったりとしたスウェットに赤いジャージと、ラフな格好をしていた。
また、着ているジャージには『三条』と彼女の苗字であろう文字が書かれている。
「夢の中で集めたキャンディーはさすがに無効だぽん。それをオッケーにしたら他のみんなは夢の中でキャンディーを集めたりできないんだからフェアじゃないぽん。人生の三分の二は睡眠でできてるから尚更だぽん。」
「だよね~。ま、仕方ないか。そろそろ働かなきゃって思ってたし、夢を見るのも潮時かもね~」
どこか達観した様子で女性はそう言うと、
「それで、私はいつまで魔法少女でいられるの?さっき説明してくれなかったよね。」
と、ファブに聞いた。その問いに対してファブは
「
そう言って、端末から消える。その瞬間、
「うぐっ!!」
突然女性は胸を押さえてベッドの上で痙攣した。
その後、必死に手をばたつかせ、最後にマジカルフォンを握りしめたかと思うと、光に包まれ、その姿を変える。
先ほどまでいかにも部屋着と言った風体だった格好は、寝間着と言った方がいいようなパジャマに枕を持った姿に。つい先ほど脱落が言い渡された魔法少女ねむりんのものへと変わっていた。
そして何かを発動したかのような光に包まれた後、ねむりんの姿は先ほどまでの女性のものに戻る。
ばたついたときに発生した大きな物音に対して何か心配になったのだろう。下の階から女性の声で
「
と、心配するかのような声が響いた。階段を上がるような小刻みな音が響き、部屋を中年の女性がのぞき込む。
「合歓?明日会社の面接なんでしょう?こんな夜遅くまで騒いでてて大丈夫なの………ってまたこの子ったら電気付けたまま寝て!」
そう言いながら女性は部屋の中へと入り、先ほどまで痙攣していた女性の肩を揺すった。
「…合歓?」
呼びかけに返事はない。普通、人を揺すったら何かしらの反応があるがそれすらもなかった。
揺すったことで女性の手から卵型の端末が零れ落ちるが、それに中年の女性は気づかない。そして零れ落ちた端末はその姿をノイズを残して消した。
「合歓!?ねぇ、合歓!!起きて!!起きてよ!!合歓!!!」
大事なわが子が既に永久の眠りに落ちていることなど知らない母親はどんどん冷たくなっていく娘の体を必死に揺さぶる。
上の階から聞こえる妻の半狂乱の叫びが階下にも響いたことで父親がそれに気づき、慌てて二階に駆け上がってくる。
部屋を覗き込んで事態を悟り、急いで持っていたスマートフォンで救急車を呼んだが、すでに手遅れと言うことに誰も気づけるものはいなかった………
甲高い音を立てながら赤と白で染め上げられた救急車が街を今後のために歩いて視て回っている俺のすぐ横を交差するかのように通り過ぎていく。
その救急車の中にだれが乗っているのか。
そんなことを気にするものは一人もいない。
しかし、通り過ぎた救急車から嫌な予感がして俺は振り返った。
「…………ねむりん?……いや、まさかな。」
一瞬だけその可能性を考えて、すぐ近くにあったデジタル掲示板に表示された時刻を見て否定する。
映っていた時刻は夜の11:45分。ねむりんが死んだのは脱落が言い渡された日が変わる瞬間だったから早すぎる。
そう思い、俺は自分の中に浮かんだ直感を『ありえない』と判断した。
それがすべての間違いの発端で、そしてその救急車のサイレンが俺自身の命を脅かすゲームの開始を告げるサイレンだということに気付けなかったのだ。
そして俺は次の日の夜に
「狩り、開始」
「死んでたまるか!!」
魔法少女との二度目の戦闘を迎えることになる。
SEE YOU NEXT STAGE!!
ねむりんファンの方、ごめんなさい。
ただ、彼女はまだ出番ありますし、むしろここからが本番のようなものなので許してください。
感想、評価を待っています。
ゴールデンウイークなのでいろいろと立て込みます。なので一寸来週は更新できないかも…
あ、それと今回のねむりんの脱落シーンはコミカライズ版とアニメ版を融合させた形になっています。
なので、いきなりな展開になりました。
変に思われた方、ごめんなさい。それはただ単に先詠む人の技量不足です。
はい。