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「終わっ………た………」
目の前で緑色の粒子をまき散らしながら消えていくそれを見ながらマイティノベルXガシャットを抜きながらそう呟く。その時の俺は確かに気が抜けていたのだろう。
ドシュッ!!バキッ!!
ファブを乗っ取って最終的にハイパームテキを取り込んだゲムデウスクロノスと化したあの女を死力を尽くして倒し、肩で息をしながら変身を解除したその時、そんな水っぽい音が周囲一帯に響き、俺の手元にあったマイティノベルXガシャットが破壊された。
「コフッ………」
みぞおちの方を中心に激痛が体中へ広がっていく。口からは生暖かいものがこぼれ、鼻の中を鉄の臭いが抜ける。
倒れそうになるのを必死に耐えながら前にいるみんなの方を見ると、みんなは驚きの表情で俺の後ろを見ている。
「あ……あ………あ」
後ろが気になるもののまずゆっくりと、首を動かすのもつらいほどの激痛に耐えながらゆっくりと下を見る。
「づ……
激痛の中心点であるみぞおちからは俺の身体を突き貫いているかのように漆黒の翼が飛び出していた。
「生け捕りとのことですが、致命傷を負わせても死なないとの報告を受けていますので別に死ななければそれほど問題にはなりませんよね?」
そんな声が後ろからするのと同時に俺の身体から翼が引き抜かれる。
翼が抜かれるのと同時に膝から下すべての力が抜け、膝から崩れ落ちた。
「「たいが(さん)!!」」
俺の状態を見てトップスピードとスノーホワイトの声が響き、俺の方に二人は駆け寄ろうとする。
しかし、俺の後ろに立つ翼をもつ何者かはそれを許さない。
「お前たち全員には問いたいこともあるからそちらでしばらくの間お静かに願おうか。」
そう言うと、俺の後ろにいる存在は二人の目の前に翼を突き刺し、引き抜く。
翼が突き刺さった地面がそこであちらとこちらに切り裂かれ、それに驚いた二人が
そこまで見たところで俺の頭は素足か何か、柔らかいもので踏みつけられた。
踏みつけられたことで俺の苦悶の声がその場に響く。
「魔法の国、外交部門所属魔王パムの名のもとに、これより魔獣に鉄槌を下したのち回収して検体とさせていただく。」
「なんでそんなことをするんだ!!」
「そうです!!たいがさんは何も悪いことをしていません!!」
冷酷に周囲に響き渡る魔王パムと名乗るそのさっきとは別の女性の声に、反論する二人の声が聞こえる。しかし、
「『魔法少女に対して魔法少女でない存在が抗することができる手段がある』という事実そのものが魔法の国で問題とされています。」
俺の頭を踏みつけているのか、それとも別の少女なのか。どちらかはわからないが先ほど最初に発言した女性の声はそう言いきる。そして続けた。
「本来ならば完全に消滅するまでの処置をするのが
その言葉に体の奥底に灯が入る。
先ほどの声は「ウイルスとやらが魔法の国の発展に使える」と言った。その言葉が指し示しているウィルスとは風邪とかインフルエンザウィルスとかそう言うのではないだろう。
今俺がこの場にいるメンバーの中で一番体の中に抱えているウィルスとは『バグスターウィルス』に他ならないのだから。
『バグスターウィルス』はぱっと見だけで見れば感染した人間を消滅させる生物兵器ともとらえることができる。とはいっても
しかし、それを言ったところでこいつらは信用しないだろう。恐らく魔法の国とやらも同様だ。
きっと彼らはバグスターウィルスを『暗殺した相手の遺体が消滅する足のつかない暗殺道具』としか認識していないのだろう。それは俺のことを検体、要はサンプルとしか認識していないような発言から推測することができた。
だからこそ、俺はここでこのまま指くわえて伏せたままでいるわけにはいかない。何か、この状況から脱するものを手に入れる必要がある。
………そう考えながら周囲のことをよく見る。
数メートル離れたところに大きく切れ目が入った地面。そのすぐそばには立ちすくむトップスピードとスノーホワイト、そしてそこから少し離れたところにリップルとハードゴア・アリスの計4人が立っている。
その一方で敵は俺の頭を踏みつけているのとそれともう一人。合計二人だが、先ほど「魔法の国」と言っていた以上トップスピードたちに助けを求めるということは彼女たちを危険に巻き込むということにつながることに俺は気づいた。
「助けはない」
それだけのことが分かっただけでも十分だった。脳裏にあるガシャットを思い浮かべながら右手を軽く握り、決断する。
「………」
この決断はきっと
付き貫かれたみぞおちからどんどん体が冷めていく感覚に襲われている。きっと、これ以上時間がかかると俺の意識がまた無くなる可能性が高かった。
そうなるともう
だから意識があるうちに俺は動き出す。
「うぉおおおおおお!!」
口から血を流しながら腹の底から声を出す。
それに驚いた様子の俺を踏みつけている誰かの足を左手で握りしめて左へと引っ張り、頭から足が外れたタイミングで俺は一気に前に跳んだ。
後ろから翼が跳んでくる音がする。上下さかさまになった世界でそれをはっきりと認識し、そして手をついてその2枚の翼根をかわした。
翼根をかわしたのち、ハンドスプリングの要領で宙で回転してから背後からいきなり俺を襲ってきた何者かたちと相対するように俺は膝をつく。
俺の血で真っ赤に染まった先端を持つ翼をつけている悪魔のような少女とどこか会社の秘書のような恰好をして、眼鏡をつけている少女がまず見えた。そしてその後ろにまだまだ数人ほど魔法少女がいるのもわかった。
「ははは……こりゃ詰みゲーだわ。」
「たいがさん!?」
俺が零した言葉にスノーホワイトが驚いた声を上げる。人数差もひどいことながら彼女たちに迷惑をかけることなんか俺が彼女たちに助力を願うことなんかできるわけがない。
「けどな。」
そう呟きながら右手の中で大きなガシャットを握りしめる。それはマイティブラザーズXXのような形をしているが、マイティブラザーズXXとは大きな違いがあった。それは色である。
マイティブラザーズXXの色はオレンジと緑。しかし、俺が今握りしめているそのガシャットの色は白と赤。
これはバグスター側の敵キャラの中で一番最悪と言われたゲムデウス。それのパンデミックを止めるために
『ドクターマイティXX』
それが今俺が握りしめているガシャットの名前だった。
「まず先に言っとく。ごめんな、命を大事にするって約束守れねーわ。」
「え?」
「たいがお前何を!?」
スノーホワイトとトップスピードにそう告げてから俺はガシャットの起動スイッチを押した。
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マイティブラザーズXXの起動音のような音声が鳴り響き、周囲に白と紫の波紋が広がる。それはマイティブラザーズXXの起動時のようにも思えるが、そのタイトルコール音と波紋の色は違う。
そして俺は今握りしめているものを決意とともに
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ゲーマドライバーに差し込んだ。その瞬間、
「ぐぅっ!!!」
体中に先ほど以上の激痛が走る。当然だ。バグスターと半分同化しているような状態である俺がこのガシャットを使うとどうなるか。その答えはわかり切ったことだ。
「つぅっ!!」
身体の半分、バグスター寄りになっている部分がゲムデウスワクチンへと強制的に変換され、空へと舞い上がる。
俺の身体から赤と青、そして緑とオレンジの4色のグリッドが物凄い勢いで噴出した。
「たいが……さん?」
後ろからそんな戸惑うような声が聞こえ、後ろを振り返る。そこには泣きそうな顔でこちらを見るスノーホワイトの姿があった。
「……ああ、泣かないでくれや。これは俺が選んだ選択だから。」
そう言ってから前を向く。先ほどからガンッ!!ガンッ!!と俺から少しばかり離れた位置に翼が突き刺さっている。きっと噴き出したゲムデウスワクチンのせいで俺を視認できなくなった魔王パムと名乗った少女がやたらメったらに翼を突き刺しているのだろう。時間がない、急がないといけない。
激痛に対する覚悟とともに2つのものをイメージする。すると今度は両の手に重みを感じた。
右の手に握られているのは銀色の大きなガシャット。そのガシャットにはエグゼイドの顔が突き出すような形で存在している。
一方逆の手に逆手に握られるのは不思議な形をしたキーパッドが付いている剣。
俺はその剣_ガシャコンキ―スラッシャー_に銀色のガシャット_マキシマムマイティガシャット_を装填した。
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装填されたことを示す音が鳴り響き、目の前から翼が迫ってくる。しかし、俺は慌てず騒がず。………十分にことをなした。
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持ち手についているトリガーを引き、一気に腹部に刀身を突き刺す。
「ぐぅっ!!」
その瞬間、俺の身体を桃色の光で構成された球体が覆い隠し、翼が弾かれる。
そして一瞬の後、光の球体は解けるように消え、俺の身体から光の粒子が立ち上り始めた。
「「「「………」」」」
後ろのいる4人が絶句しているのが雰囲気だけでもわかり、
「な……」
前にいる多くの魔法少女たちの困惑がよく伝わってきた。
「お前らに……」
そんな中で俺は命を削りながら告げる。
「お前らみたいなこの力の価値を分かっていない奴らに渡してたまるかダボが!」
中学時代の、アイツらと話していた時と同じ口調で、
「これは、この力は人を守るためにあるもんだ!断じて
同じ雰囲気であの頃に戻ったかのような遅咲きの中二病特有の全能感に浸りながら言い放つ。
「それすらわからないアホばっかだな魔法の国とやらは!!」
感覚的にもわかり切っている。もはや俺の限界は近い。震えながら中指を立てた左手を前に突き出す。そして
「全部持っていく…………この力は……
その言葉とともに俺の身体は一瞬だけ光を放ちそこかしこに散らばって眠っている嘗て魔法少女たちだった彼女たちを視界の端にとらえながら真っ暗な闇にとらわれた。
真っ暗な中で世界の中で響いた無慈悲なそのアナウンスが、俺と言う存在が消滅したことを証明していた。
「 」
「 」
「 」
「 」
「 」
目を覚ます。
天井は真っ白いリノリウムで覆われており、視界の右端には点滴のようなものが見える。
「………夢の中で誰かと何かを話してたような気がするんだけど……」
何か大事なことを忘れている気がする。そう思いながら俺は体を動かそうとするも
「つっ!!いってぇ……」
首筋に走った激痛で起き上がることすらままならず、ベッドに身を預けた。
仕方なしに左手を動かしてたまたま握ることができたナースコールのスイッチを押し込んだ。
……看護婦が駆けつけてくるまで、5分もかからなかったとだけ言っておく。早い。
その後やってきた医者から聞いた話によると首にある大動脈がガラス片によって切れたことで大量出血による失血死になりかけていたそうだが、同じバスの乗客の中に免許の更新のために乗っていた
しかし、かなりの血をなくしたことから脳に血が回らない状態に一時的に陥っていたらしく、それも含めた複合的な原因で昏睡状態になっていたそうだ。
最悪の場合植物状態も覚悟する必要があると親には告げられていたらしい。
そんなことを聞いたりなどしてから日もたち、ベッドの上で目を覚ましてから2週間後、俺は無事退院することができた。
………目を覚ましてからの2週間はかなり激しいものになった。
公務員試験の合格の報告に大学に行ったのは7月のはじめ。一応卒業論文を提出する前段階である題目届などはあの日、教授に提出していた。
しかし、そのあとに学校側から形式変更の連絡があったらしくその対応に他の人たちが追われている中、俺は意識不明状態でベッドの上の人だったため病院側に止められるまで死に物狂いで書かなければならず、しかもその提出期限が俺が目を覚ました日から数日後だったため、親に頼んでPCを持ってきてもらって書いていた。
だが、3週間も意識不明になっていた上に2週間の検査入院をはさんだせいで大学の授業を4回欠席することになり、必須授業のゼミの単位を落とすことになってしまった。
一応、ゼミの担当の教授は俺がバス事故に巻き込まれて意識不明になっていることを知っていたので大学の方に説得を試みてくれてはいるそうだが、一応題目届訂正版を書いていてくれとのことだった。
だから取り合えず書ききったのをメールに添付して提出した。これで俺の扱いがどうなるかは神のみぞ知っている。
後はあのバスに衝突したトラックのことなんだが、どうも事故の原因は車体側の故障らしいということを聞いた。
そして運転手はあの事故の際に死亡したことも。
俺はその話を聞いて運転手の冥福を祈りながら目を閉じた。
退院してから親が迎えに来てくれなかったので一応と言うことで病院に貸してもらった松葉づえに身を預けながら家に帰ろうとバス停に足を向ける。
ロータリーの方に向かっているとやけに長いリムジンが止まっているのが見えた。それの横を通り過ぎる。
ガチャ
後ろの方で扉が開く音がした。そして
「加賀美大我様であっておりますでしょうか?」
「はい。俺が加賀美大我ですが……どういったご用件でしょうか?」
声をかけられ、不安に思いながら振り返りつつ答える。
振り返った先にいたのはどこかの学校の制服を着た少女。
「わが主があなたとの面談を希望されています。一緒に来ていただくことはできますでしょうか?」
「は……はぁ。」
誘導されるままにリムジンに乗り込む。中は結構広めのつくりになっており、そして別の先ほどの少女と同じ制服の少女がいた。
「いやはやすまないね。大方退院してからすぐに帰ろうと思っていたんだろうけれども。」
乗り込んですぐにその少女からそう声をかけられる。
「まぁ、そうですけれど……あなたはいったいどちら様でしょうか?」
「ん?あぁ、すまない。名乗り遅れたね。私の名前は
「はぁ……それでその本社の娘さんがなぜ一被害者である自分のもとに?」
グループとでも言うのなら(聞いた覚えはないが)大企業なのだろう。だけど、何でそんな傘下の企業のものを送ればいい傘下の企業が起こした事故の被害者に本社の娘さんが会いに来たのだろうか。頭の中で話がつながらずそんなことを思い、つい尋ねてしまう。
「いやいや、一つ二つほど君に聞きたいことがあってね。無理を言って私が行けるように計らってもらったんだ。」
「聞きたいこと…?」
何か獲物を狙うかのような目をしながらこちらを見る人小路と名乗った少女を見ながら不審な思いを抱く。
この少女の視線にはこちらを値踏みするかのような印象が感じられたからだ。
「なぁに、簡単なことさ。数回ほどの会話で済むことだ。加賀美大我君、君は『魔法少女育成計画』と言うものに聞き覚えはないかい?」
ドクン。不整脈のような鼓動が耳の奥で響いた。
「知らないですね。そもそも自分は特撮ものとかはともかく魔法少女とかにはあまり興味がない人種なので。」
妙な音を立て続ける鼓動を無視するかのように、言葉をつづる。
「そうかい?なら質問を替えよう。君は「魔獣」と言う言葉に聞き覚えはないかい?」
その言葉を聞くとともに脳裏に変な光景が走ったのと同時に激痛が腹部を襲った。
みぞおちの方が穴など開いていないはずなのにこじ開けられるような幻痛、ファントムペインに襲われ、無意識にみぞおちに手を当てて顔をしかめてしまう。
「い……いえ。魔獣と聞いて思いつくのはゲームに出てくる敵キャラクター程度ですね。」
とりつくろえているかはわからない。だけど、これ以上このリムジンの中にいるのは危険だと第六感が叫んでいた。
「俺はここで下していただけますか?あとは自分で帰れますので。」
そう言ってリムジンから下ろしてもらおうとする。しかし、
「そんな冷たいことは言わないでもいいじゃないか。まだこちらの謝罪は済んでいないのだから。」
腕を掴まれそう告げられる。
絶対に逃がさない。言外にそう告げられているような気がした。
腕を掴まれたまま一瞬、窓の外を見る。外は住宅地、車の通りはまばら。逃げようと思えばギリギリ逃げることができるか?
「謝罪は結構です!!失礼します!!」
握られていない方の手で後で病院に返せないと面倒なことになる松葉杖を握りしめ、腕を振り払ってリムジンから飛び出す。
幸いなことにその場所は俺の家から少し離れた所の住宅地で、中学校が同じ校区だった関係で何度か来たことがあったために家までたどり着くことができた。
マンションの門を開け、建物内に駆けこむ。
「はぁーはぁ…」
建物内に駆け込み、ガラス張りの扉から少し離れた場所の柱に身を寄せ、息を整える。
ギャギャギャ!!と言うドリフト音のような甲高い音が聞こえるのが少しばかり気になったが、俺はそのまま家へ帰るために階段を登った。
鍵を開け誰もいない家へと帰り、自室へと入る。
「え……」
自室に入った俺が見たのは机の上に鎮座しているショッキングピンクカラーに塗装された見覚えがあると言えばある手のひらサイズのボトルと、ベランダへと侵入しようとしている車いすに乗って空を飛ぶ眼帯少女。
「まだ話は済んでいないと言っただろう?」
「うあああああああああああ!!!!!」
大魔王から逃げられないと言わんばかりの恐怖のあまり反射的に机の上にあったボトルを握って振りながら気絶してしまった俺を責めれる人はいないだろう。
「はっ!!」
ガバリと音を立てながら身を起こす。見覚えのある場所、そこは近所のバス停の屋根だった。
「今のは……夢…?」
顔に手を当てながらそう自分に言い聞かせるようにこぼす。
「魔法少女何て現実にいるわけない。あれは夢。そう、夢だったんだ……」
目を覚まして以来ずっと脳裏によぎり続けている彼女たちを裏切ってしまった過去の自分から目をそらすかのようにそう言い聞かせる。
いつの間にかポケットの中に入っていたとある硬いものをポケットから出して確かめもせずに。
◇ ◇
「よかったのですか?お嬢様。」
人小路へと帰るリムジンの中でお嬢様に私は問いかける。
「いいんだ。彼が、魔獣本人、もしくはそれに関係する物だろうということが分かっただけでも収穫だ。本音を言えば家で保護したいのはやまやまだけどそれをすると彼はきっと壊れてしまうだろう。それは私的にもいただけない。」
お嬢様はそう言いながら窓越しに外を見ている。
「魔法の国に対抗するためには手駒は多い方が良いんだがね……」
憂い顔でお嬢様はそうこぼす。
過去に花の音楽家クラムベリーよって名深市にて行われた魔法少女選抜試験。
『魔法少女育成計画』とはその際に受験者を効率よく集めるためにクラムベリーと共謀した使い魔ファブが利用したアプリの名前であり、今も活動している名深市の魔法少女たち
その際に彼女たちを含めた16名は互いに殺しあう様にクラムベリーに誘導され、8名が一時的に死ぬ事態になった。
しかしその際に「死の天使」と名乗る少女の介入があったらしく、死亡した魔法少女たちは得体のしれない能力とともに復活、その後魔獣の消滅とともに魔法少女としての能力、死の天使によって後付けされたと思わしき能力、記憶の消滅と引き換えに一般市民に戻ったと魔法の国の記録には残っている。
その試験に現れたのが「魔獣」。
まるでゲームに出てくるキャラクターのような容姿をした様々な姿と、その姿の頭身を変えたと思わしき姿。
そして黄金色に光る無双と言う言葉を体現したかのような武勇を残した姿の何種類もの記録が残っているが、この魔獣の正体はわかっていない。
理由は魔獣本人が頑なに口を開かなかったこともあるとされているが、お嬢様から依然渡されて読んだ記録を見る限り自分の命を救ってくれたにも等しい人物を目の前で処刑しようとしたともとらえられる行為をした魔法の国に名深の魔法少女たちが口を閉ざしたことも大きい理由の一つと予想できる。
その一方で私とお嬢様は同じクラムベリーの試験で魔法少女としての正式な権利を得たが、彼女たちと同様に殺し合いをさせられている。
幸いなことに私がお嬢様と殺しあうという状況にはならなかったが、それでもそのあとに記憶を操作され、そのせいで新たな殺人ゲームに巻き込まれたことに対しては不満がないかと言えばあると言える。
そしてその際に、お嬢様は魔法の国のよどんだ事実を知り、それ以降裏で暗躍しながら魔法の国を変革しようとしている。
お嬢様の発言からして彼は、いや彼こそが魔獣だと確信しているようですが、それでも一歩踏み出せないのは…
「護。」
お嬢様の顔を見ながら考えごとをしているところでこちらを向いたお嬢様に声をかけられた。
「はい、お嬢様。どうしましたか?」
「緊急の連絡が入ったみたいだ。これを見て。」
そう言いながらお嬢様は魔法の国の端末をこちらへと見せてくる。そこに映っていたのは
「—暗部所属の暗殺者がB市方面に逃亡。至急対策チームを送るので周辺地域を担当する魔法少女たちは注意願いたし。-ですか?」
「あぁ。そうなると……」
お嬢様はそう言いながら後ろを、先ほどまでいたB市がある方を振り返るかのようにしながら
「彼が私のもとにやって来る日は近いかな?」
優雅な笑みを浮かべながらそう言った。
その手に握られているのは傘下の清涼飲料水を主に販売している企業でい・ろ・〇・すという名前で販売されている清涼飲料水のボトルをショッキングピンクに着色し、<KAMENRIDER EX-AID>と書かれ、その文字の横に人型の影が描かれているラベルが巻かれている手のひらにすっぽりと収まるサイズまで小さくしたようなボトル。
さっき、彼_加賀美大我_が気絶する直前に手に取り、私の魔法で改造したお嬢様の車いすの機能で外から窓を開けて入ろうとしていたお嬢様を殴り飛ばした際に握っていたものだ。
彼自身の記憶がどこまで残っているのかはわからない。だが、彼がこのボトルを全力で振ったその瞬間、一瞬だが桃色の粒子がボトルからあふれ、それが彼の拳を覆っていた。
そのせいでお嬢様は車いすごと宙に殴り飛ばされることになりましたが、それは人間の、ましてやけがで入院していた人物が出せる腕力ではないです。
そうなると必然的にこのボトルとこれからあふれ出ていた粒子が何らかの関係を持っていると考えられます。
そう思って気絶した彼を運び出す際にこのボトルだけを拝借してきまして、お嬢様にお渡ししました。きっとこのボトルには何かあるのでしょう。
それはあの魔獣が使っていた力かもしれないし、もしかしたらそれ以上のものなのかもしれないです。
私は期待に胸を膨らませながらそれをコトンとテーブルの上に置くお嬢様をただ黙って見守っていました。
◇ ◇
とぼとぼと、そしてたまによろけながら家に帰る。
マンションまでたどり着くとマンションの前にたくさんの人だかりができていた。
「……?」
何でこんな人だかりができてるんだ?そう思いながら人だかりの中をすり抜けていく。
やっとの思いで人だかりを抜け、マンションの敷地内に入ろうとするとそこには非常線が張られていた。
「え……」
非常線の先にあったのは青いビニールシート。そして床のタイル沿いに流れている赤い液体。
そしてせわしなくビニールシートで隠されている所と、そうじゃないところを入れ代わり立ち代わりで動き続けるビニールでできた帽子をかぶり、カメラやピンセットを持った鑑識官の人たちだった。
「殺人…?」
こんな閑静な住宅街のど真ん中でそんな事件が起きたなんて聞いたことがない。
そう思いながら別の入口からマンションに入ろうと踵を返したその時だった。
「それにしても息子さんに続いて親御さんまでもねぇ……」
「あそこの御家、呪われているのかしら?」
「息子さんが今日退院だっておっしゃっていたのにねぇ…」
「やだやだ、怖い怖い。」
「え……」
そんな声が人だかりの中から聞こえてきて足が止まる。
「っ!!」
思考が最悪の可能性に至り、持っていたスマホを起動して通話記録から『おかん』と書かれた番号に電話を掛ける。
ピリリリリリリ!!ブルーシートの向こうから着信音がする。
その一方でこちらのスマホはコール音しかしなくて電話は繋がらない。耳からスマホを離し、振り返って俺は非常線へと突撃した。
「おい君!!ここは入ったらだめだ!!おい聞いてるのか!!」
「放せ!!」
当然、非常線の近くで待機していた警官に止められる。しかし、止まるわけにはいかなかった。
「家の親かもしれないんだ!!放せってば!!」
そう叫びながら暴れた。
おかんと表示された通話画面は変わることなく、電話はは未だ、つながらない。
◇ ◇
「さて、君は混ざってしまった世界でどう生き抜くんだい?今度は死んで逃げるなんて手は使えないぜ?」
どこかの庭園をイメージさせる場所で赤いポンチョを着て真っ赤な帽子をかぶった少女は小さな何かを見ながら笑う。
その何かには必死に暴れながら声を荒げている大我が映っていた。
「さぁ、苦しめ苦しめ。お前だけが生きているなんて許さない。苦しんで苦しんで狂い死ね!!」
少女は空を見つめて呪いをかけるかのように声を大にして呪詛をぶちまける。
その瞳は狂気に染まり、口は半月状に裂けているかのように開かれていた。
その狂気に反応するかのように庭園の月が赤く染まる。
そしてたらりと黒い何かを垂れ流し始めた。
コールタールのようにどろりとした様子を見せながら黒い何かはゆっくりと月から庭園の花へと降り立つ。その瞬間庭園の花に火が付き、庭園は一瞬で地獄絵図と化した。
火が燃え盛り、暴風が吹き荒れる。
その最中、少女は教会へと入っていくと同時に協会が一瞬だけ光って消える。そして残されていたすべては業火によって燃え尽くされるか、あるいは黒く染まって何か別のものへと変化した。
ダラリ
黒く染まった花から何かが出てくる。
それは黒髪の女性のような姿をしていた。
これで終わりです。
本音を言えば全部ちゃんと書きたかったし、もっと話を続けたかったです(隠している伏線もあったので)。
けど、どうしてもそう言うわけにはいかなかったですし(小説を書きたくても書く暇がなかった、今後もあるかわからない)、1年も待たせてしまっているのでこうするほかなかったのかなと…自分でも迷っています。
もし……もしもの話ですが。また小説を書くことができるような時間をとることができれば間の書けなかった部分をちょこちょこと書いていこうかなぁ……