魔法少女救命計画   作:先詠む人

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 ちょっと、今週忙しすぎて急ピッチで書いたからいろいろとおかしいかも。
 それと今俺のテンションもおかしい。2時間で一万字なんて書くもんじゃない。


16th stage 迫るCRISIS!!

『みんな~ファブだぽん!』

 

 その通知は突然魔法の端末に流れ出していた。

 

『どうにか魔法少女の減少を止められないかな~って思って龍脈の流れを探してたら魔力の流れによどみを見つけたぽん!』

 

『そのよどみをとりあえず解消してみたら~魔法の国からアイテムを受け取る分の余裕ができたぽん!!』

 

 その流れる通知の下に<BUY!>のボタンを下に置く選択肢のリストが表示され、文字列はその下に流れ出す。

 

 ・透明外套(25)

 ・四次元袋(10)

 ・元気が出る薬(3)

 ・武器(5)

 ・兎の足(6)

 

『透明外套は羽織った人が誰からも見えなくなるぽん!匂いもなくなるから犬にも匂いでバレることはないぽん!』

『四次元袋は一人で持ち上げられる大きさ、重さであれば何でも入れれる袋だぽん!もちろん四次元の名に偽りなしでいくらでも袋の中に入れておくことができるぽん!!』

『元気が出る薬はテンションがマックスになる薬だぽん!ただ別に怪我が治ったりするわけじゃないからそこんところ注意だぽん!一つの瓶に十粒入ってるけど、使い過ぎは体に毒だから気を付けてね!』

『武器はアバターコスチュームに武器を追加できるようになる権利だぽん。購入後、多数あるリストから使いたい武器を選ぶ形式になるぽん!名前を付けることもできるからかっこいい名前を付けてあげてね!』

『兎の足は大ピンチの時にラッキーなことが起きるぽん!ただ、それで本当に状況が幸せな方へ運ぶかどうかまでは保証できないからそればかりは買った君次第だぽん!』

 

『本当ならこれらのアイテムはこの脱落ゲームが始まった時点で配れるはずだったんだけど~魔獣のせいで魔法の国から直接受け取る門を開く魔力の余裕すらこの土地からなくなってたぽん!』

 

『それがよどみがなくなったおかげでその分の魔力の余裕ができたから魔法の国から回してもらえたぽん!』

 

『お代はみんなの大事なものからいただくぽん!一つに付き一人までの早い者勝ちだから注意してね!』

 

 画面に映し出されていたリストがその言葉とともに上に上がり、文字列の方が画面中央に戻る。

 

『それとそれと~ほいっ!』

 

 軽い調子の言葉とともに今度は瓶に入った紫色の液状の薬剤が入っている三角フラスコが画面に表示される。

 

『さっき言ってたよどみを魔法の国に持ち込んで作ってもらったきょうか薬だぽん!名をベルセルクと言って一瓶飲めば元気が出る薬と違って怪我も治るしテンションもマックスになるぽん!』

 

『ただし、副作用はあるかもしれないから注意してね!』

 

『こっちのきょうか薬の方に関してはキャンディーで支払ってくれてもいいぽん!一瓶につきキャンディー10個で対応するぽん!』

 

『……あ、今悲しい知らせが入ってきたぽん。ルーラが脱落と言うか消滅して死亡したぽん。何故脱落じゃなくて消滅なのかはわからないけれど悲しいぽん。およよ~』

 

『だから今度脱落する人数は4人から3人になるぽん。』

 

『それじゃあ気を取り直して!このお知らせに書いているアイテムは全部こないだのアップデートで追加したショップメニューに今日の12時から陳列されているから欲しいものは早めに勝ち取るぽん!』

 

『それじゃあみんな、アデュー』

 

 そこまで通知が流れてから画面の電源が落ちる。

 

 

 

「ルーラ様が死んだ………なんで!?」

 

 たまたまその日は学校の文化祭の用意を押し付けられたけど全然できてなくて、その分を挽回しようと夜遅くにたまになってこっそり学校に侵入していた私は自分の教室で画面を見ていた。

 電源が落ちて暗転した画面には、びっくりした表情のたまの顔が鏡に映したみたいに映っている。

 

 Boo(ブー)!

 

「ひゃっ!?」

 

 突然来るときに道具を入れて来ていたカバンに入れていたスマートフォンが振動して大きな音を立て、びっくりして持っていた魔法の端末を落としてしまう。

 

「な……何?」

 

 恐る恐るカバンの中からスマートフォンを引っ張り出してみてみると鍵がかかった状態のトップ画面に4月にクラスの中心的な子に半強制的に入れられたグループSNSに投稿された同じクラスの子の通知が届いていた。

 

 堅二

 なんか家のクラスに犬のコスプレ着た不審者いるんだけど

 

 その通知を見た途端背中から光をあてられて振り返る。すると教室の扉にあるガラスの窓越しに同じクラスの坂本君がスマホのライトをつけた状態でこちらを見ていた。

 

「!?!?!?!?!?」

 

 カシャッという音に続いてスマホの画面を流れる通知はどんどん流れていく。

 

 堅二

 この子

 

 堅二

 写真がアップロードされました

 

 堅二

 これ最近噂の魔法少女?

 

 YUKANA

 可愛い服着てるね!

 

 工作

 おいおい!それこの子じゃないか!?

 

 工作

 写真がアップロードされました

 

 

 

「あわわわわわわわ……」

 

 スマホの画面とこちらを見ている坂本君を二、三度見合わせてから慌てて鞄を握りしめ、窓を開けて外に飛び出そうとする。

 

「あ!待て!!」

 

 後ろからガラララ!!と言う扉を開ける大きな音と、引き留めるような声が聞こえたけれど私はそれを無視して開けた窓から外へと飛び出した。

 

 私のクラスがあるのは教室棟の2階。魔法少女の身体能力なら素の力だけで無事に飛び降りれる。

 

「あわわわわどうしよう……!?」

 

 魔法少女は一般人からは普通に認識されない。そうファブからは聞いていたけど、さっきのはどう見てもそんな感じじゃなかった。

 

 鞄片手に全力でその場から離れるために走っているけれども、私の中には「これからどうなるんだろう」と言う不安の塊が大きくなっていっていた。

 

 それから数分後、私はとんでもない失敗をしてしまったことに気付く。

 

「どうしよう………マジカルフォン教室に()()()()()()()……」

 

 結局学校の近くで騒ぎが収まるまで待ってたら朝方になっちゃったせいでスイムちゃんたちの所に行けなくて。マジカルフォンを回収して、慌てて家に帰って変身を解除してからそのまま制服に着替えて家を飛び出したせいでマジカルフォンでルーラ様がいなくなった経緯とかを聞くこともできなかったよぉ……

 

 

◇  ◇

 

「……たまが来ない。」

 

「来ないねー」

 

「ねー」

 

 既に誰の縁もゆかりもないせいで廃寺院となった王結寺の中で少女3人が集まって話していた。

 集まっている少女は片羽根を持つ天使のような話を頭に浮かべた異形の少女が二人と、痴女かと言われてもおかしくない大きな山を二つ持つ水着を着た少女。

 少女たち3人は廃寺院の境内の中央に集まって同じ形をした端末の画面を寄せ合わせていた。

 

「仕方ない。たまにはきょうか薬をかってもらうとしてもう準備しよう。」

 

「「りょうかーい」」

 

 ”たま”と言う少女がいないと話しておきながら、水着の少女は淡々とした様子で残りの二人に指示を出し、そのまま端末の操作を始めた。

 端末の画面にSHOPと大きく数秒ほど表示され、その画面には5つの項目が絵付きで映し出されているが、未だにその絵の色はモノクロに反転している。

 

「時間」

 

 水着の少女がそう言うのと同時に画面に映し出されている絵に色が付き、画面の色どりが鮮やかになる。

 数秒後、少女たちは一息でもつくかのように息を吐いた。

 

「……買えた?」

 

 水着の少女が残りの二人に問う。すると残りの二人の内、右側に羽根がついている方は

 

「武器をちゃんと買えたよ。」

 

 と答え、左側に羽根がついている方は

 

「薬を買えたよ。」

 

 そう答えながら手元に現れた10個の色とりどりの丸薬が入っている大ぶりな瓶を見せつけるように振った。

 

「そう、私はちゃんと外套を買えたから最初に考えてたものは全部とれた。」

 

 水着の少女が外套を物質化させながらそう言うと

 

「あーあ、ルーラとかたまが居ればあと二つも手に入れれたかもしれないのにね~。」

 

「仕方ないじゃん。ルーラは新リーダーがこの奥で監禁してたら気づいたら消えてたし、たまは今いないんだから。」

 

 片翼の天使たちはそう愚痴る。その愚痴を無視するかのように水着の少女は武器を買ったと先ほど言っていた天使の方に手を向けて言った。

 

「ミナエル、武器頂戴。外套を渡すから。」

 

「りょうかーい。……色んな種類から選べるみたいだけど武器の種類はどうする?」

 

「まかせる。」

 

 任せるの一言を聞いてミナエルと呼ばれた天使は端末から投影されているかのように浮かび上がる画面を操作し始める。

 

「………」

 

 そのような会話をしているのをこっそり隠れて眉をひそめながら見ている存在がいた。

 

「このままってまずいんじゃないのか…?」

 

 もじゃもじゃの頭を治す努力もせず、色とりどりのコードが奔るコートに身を包んだその男はそう言いながら周囲を警戒する。

 彼が持っている知識にはこの際に銃を持ったやさぐれていたときのスナイプ以上に危険な女が四次元袋を手に入れ、それを用いて大規模テロを起こすという未来の情報が含まれていた。

 

「しかもこんな時にご同類(バグスター)まで発生してるみたいだしよぉ~」

 

 彼はあるウィルスの存在を知覚していたからこそその場にいた。

 そのウィルスの感染者はウィルスが発病した場合最終的に消滅した()()()()()()()()症状に陥る。

 しかし、それはあの世界での話だ。この世界にはプロトガシャットは外部に物質として存在しない。

 あるのはあるのだが、それらすべてはとある少年の体内に紫色の特殊なガシャットを()()()厳重に封印されている。

 

 それは危険物を取り扱うという事実に対して危機感を覚えた少年の理性がなしたことであることを男は知っていた。

 その事実を知っていたからと言うのもあるが、男は過去にしてしまった(こと)の償いを兼ねて人の命を救おうとしていた。

 

「この後のハードゴアアリスとトップスピードの件は大我(アイツ)が頑張って何とかするだろうし、今俺が真っ先にするべきなのは水着(あれ)を止めることと、少なくとも物に変身する方を動けなくすることだな…」

 

 男はそう独り言ちながら懐から青色ベースの大型のガシャット_デュアルガシャットを取り出し、誰も見ていないにもかかわらず顔の横に構える。

 

「さぁ、俺の心を弾ましてくれよ…」

 

 そのつぶやきとともに右手で取り出したガシャットのターンテーブルは左手の人差し指で半回転された。

 ガッチャン!と言う重厚な音とともにターンテーブルの半分に描かれたスライムと言うよりもタコの頭のような絵柄のキャラクターが書かれているシールが浮かび上がって表示される。

 

PERFECT PUZZLE(パーフェクトパズル)!!>

 

 ターンテーブルを回したことでガシャットからそのゲーム起動音が流れるのを確認することなく、男は死角から飛び出した。

 男の背後にパズルの絵柄を背景にしたPERFECT PUZZLEと言う文字と青一色で染められたタコのようなキャラクターが描かれているバックパネルが浮かび上がり、周囲一帯にメダル上の物質を大量にまき散らす。

 

<What's the next stage!><~♪>

<What's the next stage!><~♪>

<What's the next stage!><~♪>

 

「「「ッ!!」」」

 

 急に境内の死角から飛び出した男とともに流れてきた音に反応して、3人の魔法少女たちは武器を、拳を、そして消火器に変身したその姿を構える。

 

 その一方で飛び出した男はその様子に動じることなく、右手に持ったデュアルガシャットを顔の左側の方へと移動させ、

 

変身(へん…しん)

 

 の言葉とともにデュアルガシャットについている黒いスイッチを押した。

 

DUAL(デュアル) UP(アーップ)!!>

 

 スイッチを押した途端その音とともに男の前には全体的に青いパズルで描かれた背景の上に人型が描かれているパネルが回転しながら出現し、それが男に覆いかぶさるように迫っていく。

 

 もしここにカラミティ・メアリが居れば「こいつはあの時の!!」とでも言ったのだろう。しかし、今この瞬間カラミティ・メアリはおろかあの時の戦闘に立ち会っていたものは誰もいなかった。

 

Get the glory in the Chain(ゲット ザ グローリー イン ザ チェイン)! PERFECT PUZZLE(パーフェクト パズル)!!>

 

 パネルを越えて現れた腰についた黒いボックスのようなものに先ほど操作していたガシャットをはめ込んでいる挑戦者(ライダー)は旧き良き時代と言われたこともある長ランにリーゼントをつけているかのようにも見える青色のライダー、仮面ライダーパラドクス。

 変身している男のやむを得ない事情により、舐めプをしているわけではないが赤と青が交差しているレベル99のパーフェクトノックアウトゲーマーではなく、青色のパズルゲーマーレベル50の姿で左手を掌を下にしてわしのポーズでもするかのように構えた。

 

「さぁ、ゲームを始めようぜ!!」

 

 ポーズをとってから仮面の奥で笑顔満面なのだろうなと予想できるほど喜色に染まった声をパラドクスが上げたその瞬間。唐突な襲撃を発端とする一方的な戦闘(ワンサイドゲーム)かつ完璧な戦闘(パーフェクトゲーム)が始まった…………

 

 

 

 

 

 

「くっ!!こいつ強すぎじゃない!?あぁああああああ!!」

 

「ユナっ!?こんのぉおおおお!!」

 

「ほっ!ほっ!」

 

「……」

 

「ハイ残念。」

 

 大きな音を立てながら片翼の天使の妹の方(ユナエル)はぼろぼろになった床にたたきつけられ、姉であるミナエルはそれに逆上して襲い掛かるも余裕そうな声色のパラドクスに躱される。

 その隙を突こうとしたのか、薙刀のようにもぶつ切り包丁にも見える魔法の武器を持ったスイムスイムが魔法を用いて下から襲撃するが、その攻撃をパラドクスは武器の刺突を柄を握って抑え込み、煽るような言葉とともに左手を振り回してとある物体をスイムスイムにぶつける。

 

<混乱!>

 

 その物体の色は紫、形状はメダル。表面に描かれているのは大きな?の文字と頭をひねるような様子の黒い人影。

 

「……………」

 

「リーダーっ!?」

 

 そのメダルが直撃した直後からスイムスイムは黙りこくって首をゆらんゆらんさせ始めてしまった。

 ゆらゆらさせ始めた瞬間に魔法が解けてしまったのか、下半身から下が埋まっているかのような状態で動かなくなっている。

 

「クソがぁあああああ!!!」

 

 妹は叩き付けられたダメージのせいでかピクリとも動かず、新リーダーは得体のしれない状態に陥っている。

 そんな状況に追い込まれたミナエルは悪態を叫ぶのと同時にパラドクスに殴り掛かった。

 だがその小さな握りこぶしは素早く、かつ優しく握りしめられる。

 握りしめられていないもう片方の手を勢いよく突き出す。その手も握りしめられる。

 

 両の手を握りしめられて動けなくなり、この後に起こるであろう事態に恐怖したのか今にも泣きそうな瞳でミナエルはパラドクスを見る。その一方でパラドクスは楽しそうな声で

 

「じゃあな。」

 

 と言うのと同時に軽く上に放り投げるのと同時に腰についているホルダーに納めていたガシャットをクイックドローの要領でか高速で引き抜き、操作して戻す。

 

<ガッチョン><キメ・ワザ!><♪~>

 

 

DUAL GASHAT(デュアル ガシャット)! PERFECT CRITHICAL COMBO(パーフェクト クリティカル コンボ)!!>

 

<~♪>

 

 キメ・ワザ!の音声が流れたのと同時に変身時に周囲にまき散らされていたメダルの中から6枚が浮かび上がり半分ずつパラドクスとユナエルに吸収される。そしてそのメダルが何なのかを示す音声が鳴り響くよりも前にパラドクスの右こぶしが宙で回転している状態のまま停止しているユナエルの左ほほに直撃した。

 

 直撃するのと同時に先ほど吸収され、読み込まれたメダルの音声が周囲一帯に鳴り渡る。

 

<音速化!><暗黒!><停止!><伸縮化!><混沌!><挑発!>

 

 どちらがどのコイン_エナジーアイテムの影響を受けているのかなどその後の様子を見れば火を見るよりも明らかだった。

 

「オラオラオラオラァっと。ふぅ………楽しいゲームだったぜ。」

 

 宙に浮いたまま動かないユナエルに嵌め技でも食らわせるかのようにもはや見ることすら叶わない速度で両の手を異常なまでに伸ばし拳を叩き付けまくったパラドクス。

 その一方で宙に固定されたまま殴られ続けたユナエルはポテンと言う音と共に腰に手を当てて伸ばしているパラドクスの後ろに落ちるなり

 

「ひぃぃぃいいいいいいいい!!!!嫌だ嫌だ嫌だいや……イヤァアアアアアア!!!!!!」

 

 壊れてしまったかのような悲鳴を上げながら目を手で覆い隠し、彼女を包み込むように現れた闇にそのまま包まれてしまった。

 その様子を見たパラドクスは

 

「あ……やばいな。やりすぎたか……」

 

 と言いながら近くにあったエナジーアイテムを再び近くに集め、パズルゲームでもするかのように動かし始める。

 

「えっと……これこれ。いやぁ、運がいいな!」

 

 沢山宙に浮いているエナジーアイテムの中からマッスルポーズをとる絵柄が書いてある金色のエナジーアイテムを3枚抽出し、それらを3枚とも発狂したかのような声を闇でできた繭の中から上げ続けているユナエルにぶつける。

 

<全快!><全快!><全快!>

 

 ユナエルを包んでいた繭上の闇が晴れ、その中から白目をむいて泡を吹きながらぐったりとした様子のユナエルが出てくる。

 先ほどまで叫び続けていたせいか呼吸の調子はおかしなことになっているが混沌のアイテムのせいで見ていた幻覚は収まったらしく、それ以降叫ぶような様子は見られなかった。

 

「ふぅ……。ま、こんだけやっておけば大丈夫だろう……多分。」

 

 ユナエルの様子を少しばかり観察するかのように見てからぽつりそう呟くと、パラドクスは境内の奥の方にある仏像の方へと歩き寄って行った。

 首がもげ落ちてしまっている仏像の前に立ち、仏像を横にずらす。すると仏像の奥に人一人がしゃがんで入れそうな大きさの扉があった。

 

「さて、感じるのはこっからなんだよな…………」

 

 そう告げるとパラドクスはその扉を開き、

 

「うぉっ!?」

 

 その扉の中から飛び出してきた影に襲い掛かられてその場に倒れ伏した。

 

「私は……死なないッ!!死んでたまるもんですか!!」

 

 その影はズタボロになってしまった爪をパラドクスの装甲に立て、体中にノイズを走らせながら声を絞り出すかのように叫ぶ。

 

「おいおい………まさかレーザーとかゲンムみたいにバグスター化してるのか!?」

 

 のしかかられたまま動かせる左手を慌てた様子で動かし、再びエナジーアイテムの一覧を操作して灰色の先ほどと同じ絵柄のエナジーアイテムをのしかかっている相手にぶつけた。

 

<回復!>

 

「うぐぅ……」

 

「あ!ちょっと待ってくれよ……お~い…」

 

 アイテムをぶつけられたその影は呻くのと同時に体を震わせて辛うじて保っていたであろう意識を投げ出し、パラドクスの胸にしなだれるかのようにピクリとも動かなくなってしまった。

 

「困ったな……」

 

 死屍累々の情景を背景にパラドクスは変身を解除し、謎の男の姿に戻る。

 

「仕方ないか……あいつに任せ………ッ!?」

 

 言葉を紡ぐ途中で何かに驚くかのように男は息を詰まらせる。

 

「マジかよ……あいつまで来たのか!?」

 

 目を見開いて男はそう呟き、慌てた様子で自分の上で意識を失ってもなお杖を握りしめている女性を背中に背負い駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は数分前にまでさかのぼる………

 

 

 

◇  ◇

 

「……………」

 

「たいが!!たいがぁ!!」

 

 雨の中目の前で痙攣しながら吐血を続けるたいがに障ることすらできないせいで声をかけることしかできない。そんな不甲斐ない自分に腹が立つ。

 ただ、此処で腹を立てても状況が変わるわけではないから自分にできるたった一つのことである声をかけることをひたすら続けていた。

 

「トップスピードさんたいがさんがどうかしたんですk……たいがさん!?」

 

 どんどん消えかけているたいがにひたすら声をかけ続けているとスノーホワイトがやってきて消えかけているたいがを見て驚きの声を上げ

 

「たいがさん!!」

 

 俺の横に座り込んでたいがの肩を揺すろうとし、俺がやったときと同様にすり抜けるのを目の前にしてとても驚いていた。

 

「たいが!!」「たいがさん!!」

 

 二人並んで、必死に声をかけ続ける。

 

 見たことのない症状、病院に担ぎ込もうにもこの場所から動かしようがない状況。

 打つ手がすべてない状況で俺は昔、同じ仲間(チーム)の奴から聞いたこういう時には声をかけ続けると回復することがあるという話に頼るしかなかった。

 普段は奇跡なんてもん信じちゃいない。だけど、今この瞬間ばかりは願うしかなかった。

 

「たいがが助かりますように!!」

 

 と。

 その願いが届いたのかはわからない。だけど…

 

「うぐ……」

 

 目の前で消えかけていたたいががその存在を取り戻すかのようにオレンジ色のノイズを走らせながらではあったものの存在感を増して行っていた。

 

「ゲホッ!!………すぅ……すぅ…」

 

 最後にどこから出たんだと言いたくなるほど拳ぐらいの大きさのデカい血の塊を吐いたかと思うとたいがはそれ以上消えかけることもなく寝息を立て始めた。

 

「よかった……よかったよぉ………」

 

「ですね……」

 

 横に座りこむスノーホワイトと共に雨に打たれてびしょびしょになり、涙で腫れぼったくなってしまった目を合わせて何故かおかしくなって笑ってしまう。

 

 たいがが消えなくて済んだ。そのことだけに注意していたせいで俺は、いや俺たちはあることに気づけていなかった。

 そしてその時たいがの身に起きていたことのせいでたいがのこの後の運命が決まってしまったことも。

 

 その事実を知っているのは雨の重さで揺れているたいがの頬の辺りに生えた片側3本の計6本のやけに細長い髭のみだった。

 

 薄く開けられた瞼の下で瞳孔が縦に細長く一瞬だけなり、瞳自体が()()()()と薄く開いた瞼は再び閉じた。そのことを含めて吐き出された血の塊の血が雨で一部はがれてそこから見慣れた形状の物体が出て来ていることに俺も、横にいるスノーホワイトも気づけなかったんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇   ◇

 

「……」

 

 無言で画面を見つめる。見つめる画面にはキャンディー10個で買えるというきょうか薬が映し出されていた。

 

「この腕がすぐに治るなら…いいかもねェ。」

 

 ズタボロになってしまった利き手を見ながらそう呟いて画面上に映し出されている<BUY!>のボタンをクリックする。

『購入が完了しました』の文字が表示され、目の前に三角フラスコの中に紫色の液体が封入されているものが現れた。

 

「……四次元袋が本当に何でも入ったんだ。きっとこれも本当に効果があるさ。」

 

 そう呟いてフラスコの中身をあおった。

 

「ンクッ……ぷぃ~」

 

 気持ち悪い色をしているが意外と口当たりはよく、一度飲みだすとそのままするりと飲めてしまった。

 

「ん……痒い!!」

 

 薬を飲み終えるのと同時に右手が異常な痒さに襲われて我慢できずに右手を包む包帯をはぎとる。

 

「おぉ!!」

 

 はぎとった包帯の下は初めて変身したときのように力にあふれた瑞々しいものになっていた。と言うところで気づく。

 

「あぁん?そう言えば変身解けてないかィコレ?」

 

 そう呟きながら近くに置いていて、この間イライラから銃弾をぶつけて大きなひびを入れた姿見を見るとそこには魔法少女(カラミティ・メアリ)と同様の年齢にまで若返った山本奈緒子(わたし)の姿があった。

 アルコールの影響で年齢以上に老けて見えていた原因となっていたしわやたるみはすべて消え去り、ぴちぴちな肌に。手入れしていないせいでぼさぼさになっていた髪は艶やかなものに。そんな風に若返った体に対して最後に変身したときのままの服装のおばさんみたいな感じがとてもアンバランスさを出している。

 

「これは……すごいねェ…」

 

 鏡に手を当ててそう呟く。ただ、変身が解除されている以上あっちの姿(カラミティ・メアリ)の右手が治っているのかがわからない。

 だからこそ私はすぐにマジカルフォンを握りしめ、割れた姿見の前で顔の横に近づけてポーズをとる。

 

「カラミティミラクルクルクルリン 魔法のガンマンカラミティ・メアリにな~れ!」

 

 その言葉を唱えると私の姿は光に包まれ、もはや虐待してぼろぼろになっていた娘の顔よりも見慣れた気がしてきたカラミティ・メアリのものへと変わった。

 

「治ってるねェ。むしろ今の方が調子がいいのかもしれないねェ…」

 

 怪我をする前よりもきれいになっている気がする右手をグーパーと開いたり閉じたりしながら調子を確認する。

 薬を飲む前はひっつった動きしかできずにいた右手は完全に治っていた。

 

 気分がいいままに近くにあったワインを掴んでラッパ飲みする。

 

「さぁ、明日だ。………明日こそキャンディーを全部もらうよ。幸い他の魔法少女を殺しても生き残れるようになってるみたいだしこの機会に気にくわないリップルも殺すかねェ…ククク…アッハッハッハ!!!」

 

 

 空き瓶が散乱し、力を貸している鉄輪組から派遣された下っ端が部屋の外でなんだ!?とでも言わんばかりにビクついているのも気にせず、カラミティ・メアリは笑い声をあげた。

 

 陽が昇り、陽が南天を通過して、陽が沈んで夜が来る。

 月明かりが照らす廃ホテルの屋上にはすぐ横にドラグノフやAK‐47を並べ、腰には大量の武器が入っているせいでちょっとした火薬庫と化している四次元袋をつけているカラミティ・メアリが屋上の落下防止のでっぱりに足をかけてマジカルフォンをいじりながら立っていた。

 誰かにメールでも送っているのだろうか、『送信中』と表示されているマジカルフォンをしまいスイッチをどこかから取り出す。

 その眼下には人の営みがあることを示す明かりが灯り、人の喧騒が未だに大きく響いている。

 カラミティ・メアリはそれをまったく気にすることなく

 

「さぁ、パーティーを始めようじゃないか!!」

 

 そう言って右手にゆるく握ったそのスイッチを押し込んだ。

 

 

 

 

 

 街のあちこちに数日にわたって設置されたC4プラスチック爆弾がスイッチに連動して発火した雷管により爆発する。

 

 ……その日、名深市は火に覆われた。

 名深市史上最悪のテロと後に呼ばれるようになる事件はまだ

 

「アーッハッハッハ!!ハッハッハッハッハッハハハハハハ!!!」

 

 ………始まったばかりである。

 

See you next Stage!!




感想、評価を楽しみにしています。

今週は頭痛くて死にそうだから次回予告はなし。次回のサブタイトルだけ置いておきます。

次回、17stage 「決死なるSniper!」

お楽しみに……o==

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