それなのにゲームクリアまでが遠い遠い……
「てか、そうそう簡単に見つかるかもんなのかね?」
コートを靡かせ、右手首を左手を添えてぐるぐる回しながら呟く。
結局あの夜にトップスピードたちと話した結果、学生でないために昼から動ける俺が昼間からラ・ピュセルが居そうな暗いところとか法的にアウトそうなところを探し、トップスピードとスノーホワイトとハードゴア・アリスの3人は夕方から夜にかけて様々なところを探すということになった。
リップルの場合は「あほらし」の一言でばっさり斬られ、いくらトップスピードが宥めすかしても態度が変わることはなく、探すつもりは一切ないらしい。
「……っと」
考え事をしながら歩いていたせいか、気づくと目の前に白いスーツを着た頬に刀傷をつけた男が近づいていたのでそれを一度止まって横にずれることで避ける。
「ふぁ~」
目の前を通り過ぎる男に興味を持つことなく、俺は欠伸しながら再び歩き出そうとした……が
「……は?」
チャキという少しばかり高い音に続いて後頭部に当てられた硬く、冷たい感触。生理的嫌悪感から体を動かしてそれを避けようとするがその行動は
「おっと動くなよ。」
「
その一言とともに横の方に合った裏路地から現れた黒いスーツを着た男によって右ひじを極められることで妨害された。
「姐さんが言ってた男ってコイツで合ってるか?」
俺の後頭部に何かを突き付けている男が俺の肘を極めている男が出てきた裏路地の方へ問うと、その影から深くフードを被った3人目が現れ、答える。
「あぁ。間違いないよ。」
「お前……っ!?」
路地から現れた3人目の声を聴いて俺は驚きに顔をゆがませた。その事実を彼女が知れば必ず悲しむとわかっているからこそそれを信じたくない気持ちを抑えきれずに大きな声で問いかける。
「お前、自分を見失った挙句そこまで堕ちたのかよ!!」
「なんとでも言え。
俺の問いに平坦な声でそう告げると3人目は手を横にサッと振り、再び裏路地へと入って行った。
「待て!!待てっつってんだろこん……の騎士崩れがぁあああああああ!!」
闇の中へ姿を溶け込ませるその背中に必死に後ろから拘束されそうになるのから抗いながら叫ぶ。しかし、その背中は闇の中へと溶けて消えた。
「おい!さすがにこれ以上騒ぎになるのはマズイ!!」
「ああ。っの……いい加減黙れこの
「あっgkj!!」
後ろ手に拘束されてもなお暴れながら叫びをあげる俺の声に気付いたのか大通りの方から人が来る気配がして焦ったスーツの2人は俺の首をそのままどこかから出したロープで縛りあげた。
喉から変な音が出、強く絞められたせいで血が滞り、その影響で血液に乗って俺の頭に回るはずの酸素は急速に減少していく。
「カヒュッ!!」
そして俺はそんな微かな音を残して意識を失った。……その直後にゴキンという看過し得ない音が真っ暗になった世界に鳴り響いたが………それはそのまま深い闇に飲まれて行っていた俺にとって気にできるものではなかった……。
「………んッんん……」
目を覚ますと目の前は真っ暗だった。
腕は後ろで何かに括り付けるかのように縛り付けられ動かせず、足は自由に動かせるものの腕をしっかりと固定されているために肩の挙動範囲内しか前に進むこともできない。
「……どこだ……ここ……?」
徐々に暗順応してきたもののまだはっきりとしない視界で周囲を確認する。
ここはどこかの廃墟らしき場所であるみたく、ぼろぼろになった机が周囲に散乱し、所々が外れたり切れたりしているパイプ椅子が高く積み上げられている。
風がどこかから入ってきているのか、冷たい空気の流れが俺のほほをなでた……と思った時だった。
「やっとお目覚めかィ?」
カツン、カツン、と高い音を立てながら高く積み上げられたパイプ椅子の山の影からテンガロンハットを被り、西部劇から出てきたかのような格好の女がこちらへと歩いてくる。
「やくざかと思ったらテメーかよ……」
その女は左手に持ったランタン型懐中電灯でこちらを照らしながらこちらを嘲笑うかのように口端をゆがませていた。
テンガロンハットに西部劇風の衣装。そしてそのように口端をゆがませる笑い方をする女で俺のことを知るものを俺はこの世界では一人しか知らない。
「……カラミティ・メアリ」
「ハン!」
女、カラミティ・メアリは左手に持ったランタン型懐中電灯を廃墟?の床に置き、俺の方につかつかと歩み寄ってきて俺の頭を掴み、叫んだ。
「さて、話してもらおうか。アンタのせいでこっちはいろいろと迷惑こうむってんだよォ!!」
「………は?俺が?アンタに?何の迷惑をかけた?そっちが勝手に襲ってきた。俺は死にたくないから戦った。それだけじゃないか。責任はアンタにあるだらガガガ……」
俺がそう言っている途中にカラミティ・メアリは俺をもっと締め付けるかのように頭を握りしめながら
「……んだよ。」
と漏らした。
「?」
漏らした言葉を聞き取ることができず、頭に走る激痛に耐えながら眉を顰める。
「戻れないんだよォ!お前と倉庫で戦ったあの日から戻れないのサ!!お陰でこちらはいい迷惑だ!!酒を買いに行っても店員が認識してさえくれない。お陰で下っ端走らせる手間が増えたじゃないか!!お前を殺すためにお前を探させていたのにもかかわらずな!!」
「……知らねぇよ。そんなの。」
実際俺は何が原因でそんなことが起きているのかなんてわからない。ただ、謎のバグスターウィルスに感染していたラ・ピュセルの場合はそれが関連している可能性があると考えただけだ。だからこそ俺は知らないと言い切る。
「貴様が知らないことなどと言うことがあるか!!」
俺がそう言い切るといつの間にそこに居たのか、フードを深く被ったあの時の3人目がこちらへと怒鳴り散らしてきた。
「知らねぇもんは知らねぇし自分の信念見失った挙句ヤーさんに肩入れしているようなてめぇにとがめられる筋はねぇな。なぁ、気づいてんのか?あの子、お前探して謝るためにキャンディー探すの断念してひたすら探し続けてんだぞ?それすらも理解できないっつーならお前はもう二度と騎士名乗んじゃねぇ。」
3人目を睨みつけながら俺は告げる。しかし、その声は
「貴様の言うことなど信用できん。せいぜい僕らのキャンディーのいけにえになれ。」
「だそうだ。さて、どう殺そうか。私のストレスの解消につながる様にしながら、かつなんで私たちが戻れないのかを聞き出せるように殺さないといけないからねェ。……どこから撃ち抜こうか。」
………届くことはなかった。
そして3人目の言葉を聞いて俺の頭を未だに握りしめていたカラミティ・メアリは俺の額に銃口を突き付けながら楽しそうに俺の殺し方を考え始める始末だった。
カチッ
その言葉を聞いて俺の中でそんな風に何かが外れる音がした。
「あっそ。」
こんな絶望的な状況だというのに笑みがこぼれてくる。
そんな俺の様子に気付いたのか3人目からは剣呑な気配がこぼれてきたがオレをどのように痛めつけるかに気を取られているカラミティ・メアリはそれに気づかない。
「だったら………
暴れる準備は………
バンッ!!
ある夜にやくざが多くいることで有名な町の一角にある廃ビルから乾いた音が鳴り響くのと同時にハスキーな声の叫びが周囲一帯に鳴り響いた。
その叫びから数十秒後、廃ビルの7階のとある窓跡から黒いコートに身を包んだ影が空へとその身を躍らせた。
それを追うかのように
フードが翻り、中にある端正な顔立ちだが、濁った瞳の少女を月明かりのもとに映し出す。
少女は下に大きな衝撃を与えながら受け身を取って着地した。しかし、先に空へと身を投げた影は
「どこだ……どこにいる魔獣ぅぅぅぅぅうううううう!!」
蛇のように縦に伸びた瞳孔で周囲を睨みつけながら少女は叫んだ。しかしその声に応じる者は誰一人いない。
たまたま近くを通りすがって声を聞いたのだろうか、一瞬だけその姿を見せた制服姿の少女がいたが睨みつけられるなりその場から走って逃げて行っていた。
そのようにもはや狂人の域にまで達していると言っても過言ではない少女がいる一方で少女と影が飛び降りた7階の窓跡の方には新たな影が現れていた。
「……フフフ……なめ腐ってくれたもんだねェ……」
そこにいたのは体中を血まみれに、なおかつ手の中で爆弾が爆発でもしたのだろうか、辛うじて手としての形を保ってはいるもののグズグズの状態になっている右手を左手で抑えながら立つテンガロンハットを被った女性だった。
「もう手段は選ばない。どんな手を使ってでもおびき寄せて殺してやる!!」
そう言ってその女性は
「………なはは……」
それだけで何故か笑えてしまう。そんな若干おかしなテンションになっている俺はとあるビルの屋上に寝転がった状態で動けずにいた。
その原因はさっきやった無茶の反動で腰が抜けているから。
さっきの絶体絶命の状態で俺が何をしたのか。それを簡単に説明すると銃を暴発させてそれによって生まれたすきをついてその場から逃走。
そのまま腰にゲーマドライバーを当ててゲンムに変身しようと思っていたがドライバーそのものを取られていることに気付き、断念せざるを得ず……
結局ドライバーを探そうにも後ろから血走った眼でこちらに迫ってくる彼女の攻撃を避けるのにいっぱいいっぱいでできるわけがなかった。
最終的に変身できないから現状をひっくり返せず、剣戟を避けるために半ばやけくそでビルの窓の跡から隣の少し低いビルへと全力で飛び、運よくとても強い追い風にも見舞われて隣のビルの屋上に飛び移れたというのがすべての事実だった。その一方で何故か
「は~……どうしよ。」
転がるのが止まった状態の仰向けに寝っ転がったままで空を見上げながらそうこぼす。
ドライバーが手元に無い以上俺が変身することはできない。となると、俺は魔法少女との戦いが発生した場合足手まといどころかただの的にしかならなくなる。
「さすがにヤバいね……これ。」
夜空に瞬くオリオン座の下でそう零しながら乾いた笑いをしていた俺の視界にとんがり帽子の影が差した。
「お~い、どうしたよ?」
箒を片手にすぐ近くに影は降り立ち、尋ねてきた。
「ラ・ピュセルとヤクザとカラミティ・メアリに襲われて、最終的に逃げきれたけど腰抜けた。」
と端的に起きたことを伝えると影の正体であるトップスピードは目を白黒させて
「お前バカかぁ!?」
と襟首をつかんで怒鳴ってきた。
「バカっつーか向こうから襲ってきたから俺にはどうしようもねぇって……まぁ、確かに俺がバカなのは認めるけどさぁ……」
大学受験に大失敗した過去があるために精神的にへこみながらそう答えると、トップスピードは半ばあきれた様子で
「シュンとするなら最初からするなよ……」
と言ってから続ける。
「それで、ラ・ピュセルが居たって言ってたよな?どこにだ?」
「どうもカラミティ・メアリと一緒に行動しているみたいだ。ただ、もうあの子の横には立つつもりはないみたいな感じだし俺に対しての対応はもはや狂人の域だなあれは。」
「それで?今どこにいるのかわかるか?」
「ごめん、それはわからない。いかんせんそこから飛び出した俺を追うかのように窓から飛び出してたけどそのまま地上へ落ちて行ってたからそのあとはわかんねーや。」
「そこって……お前まさか!?」
「そこのビルの窓跡から全力で跳んだって……
「お前はなんでそんなことばかりしてんだ!!」
俺が跳んだ窓跡の方を指さしてから跳んだことを告げるとトップスピードが怒った表情で俺の襟首をつかんだまま屋上の床にたたきつけて怒鳴る。
「ケホッ!!……仕方ないじゃないか!!もしそうしなかったら今頃細切れにされていたのかもしれないんだぞ!それよりはまだ逃げれる道を探すよオレは!!」
「っ……そうかもしれないけどな!それでもお前が傷ついたりすると心配するやつがいるってことを忘れるな!!」
「……あんたは俺のことを心配してくれるのかよ!?」
「当たり前だろうが!!」
「………」
「………」
両者ともに睨みあう。これはあくまでも維持と意地のぶつかり合い。そして折れたのは
「……ごめんなさい。」
俺だった。そして俺のその謝罪を聞いて満足したような表情のトップスピードだったが、ふと何かに気付いたようにこちらを見て聞いてきた。
「分かったならいいんだ。……ってそう言えばなんであの時みたいに姿を変えなかったんだ?」
その質問に答えたときのトップスピードの表情を俺は一生とは言えなくても忘れることはできないし、誰も見たことがないだろう。
「ドライバー盗られた。」
「……は?」
俺が質問に答えたとき、驚きと言う概念を纏めたとでも言えそうな表情がそこにはあった。
「さっき逃げる前に気絶させられてたんだけどその時に盗られたっぽい。」
「はぁあああああ!?」
トップスピードの叫びがビル街に響き渡り、落ち着かせるのに10分ぐらいかかった。
「それで?どうするんだよ、お前は。」
ようやく落ち着いたトップスピードがそう聞いてくる。それに対して俺は答えた。
「まずはドライバーを取り返す。この後どうするにしてもまずはそれからだ。」
「そうか、なら協力するぜ。」
俺の答えを聞いて箒を振り回しながらトップスピードは答える。
「良いのか?カラミティ・メアリと戦うことになるかもしれないけど。」
一応不安になった俺がそう尋ねると自信満々な様子で答えが返ってきた。
「あぁ。だってさっきからなんかキャンディー入ってるし、多分これ人助けにもカウントされてる。」
「そう言うもんなのか。」
「そう言うもんじゃないの?」
「ふ~ん。なら、”いのちだいじに”で頼む。」
「”いのちだいじに”ってドラ〇エじゃないんだから」
「そうじゃなくても身重だろあんた。」
「……そうか、もうたいがには見られてたね。」
俺が身重だろと突っ込むと、ほのかに笑いながらトップスピードは立ち上がって箒につけていたきんちゃく袋からタッパーを取り出して割りばしと一緒にこちらへ渡してきた。
「ほら、今日はかぼちゃの煮物だから。」
「ありがたい!!」
それに飛びつき、タッパーを受け取り、即座に口に箸を銜えて箸を割る。
「うーまー!!」
久しぶり(数週間ぶり)に食ったかぼちゃの自然な甘みはすっと身体に沁みこみ、俺を歓喜させた。
「うまうまうま………」
幼児退行でもしたんじゃないかと心配になりそうなほど語彙が消失した状態を保ちながら目の前でかぼちゃの煮物をがつがつ食べているたいがを見て俺はあの時のことを思い出した。
(数日前)
「え?たいが、お前ご飯それだけなのか!?」
ラ・ピュセルが行方不明になったことを知った次の日の夜、たまたまビルの屋上で会ったときにたいがは某有名チェーンにそっくりな包み紙に包まれたハンバーガーにかぶりつこうとしていた。
「ん……これだけ。と言うかやむを得ない事情があって三食コレ。(モグモグ)」
ハンバーガーにかぶりつき、咀嚼しながら答える大我の見た目はどこか不健康そうで、その様子はもうすぐ母となる身であると同時に姐さんでもあった俺の姐さん気質を刺激した。
「今度いろいろと持ってきてやるからさ。それも食いなよ。それだけじゃあ不健康だぜ?」
「ん。わーった。」
そうして俺の魔法少女としての活動にたいが分の食事の差し入れが加わった。まぁ、もともとリップルにも作ってあげてたから1人分が2人分になるのは大差ない。
むしろツンデレなリップルと違って素直に受け入れてうまうまと言いながら食べるたいがの方がかわいく見えた。性別は男なのにな。
「うまうまうまう………っ!」
ずっとうまうま言いながら食べていたたいがだったが、突然止まる。
「どうしたたいが?」
「……誰か……来る?」
目を見開いて、少し震えながら不安を隠せずに聞いた俺に答えるたいがの様子は変だった。
「何が……来るんだ……?」
恐怖に震えた手で虚空を掴むかのようにわずかに開いた状態の左手をそのまま腰に当てる。すると不思議なことが起きた。
「たいが………お前それ……」
空の状態だったはずの左手が腰に添えられた瞬間、その手の中には見覚えのある蛍光色で染め上げられた大きなバックル、ドライバーを握られていた。
「……変身」
たいがは声を震わせながらポケットからとり出した右手の水色のガシャット?とやらのスイッチを押し込む。
<♪~><
たいがの後ろに現れたゲームのタイトルみたいな画面から周囲に宝箱が大量にまき散らされる中、たいがはガシャットをドライバーに差し込んだ。
<♪~>
<
たいがの腰につけられたドライバーの前に<-GAME START->の表示が出るのとともに水色の光で構成されたサークルがたいがの周りに展開され、それに沿うように何個もの窓が現れる。
そしてたいがはその中の一つ、水色で枠を彩られたずんぐりむっくりの騎士のような絵柄が書かれている窓が左側へ来るのと同時に左手をスナップさせるように叩き付けた。
<
白が目立つずんぐりむっくりな4頭身になった状態でたいがは周囲を警戒するかのように腰を下ろした状態で左手についている盾を構えた。そして数秒ほどその状態を保っていたかと思うと次の瞬間
「そこか!」
と叫びながら5時の方向へと駆け出して行く。盾で弾き飛ばすかのように虚空へと盾を突き出すと、それをかわすかのように全身真っ黒にも見える少女がそこから飛び出してきて、宙返りを決めた。
「あらあら~。みつかっちゃったっ!」
「お前……誰だ…?」
俺はその少女を見てそう漏らす。
俺はそれなりに顔が広いこともあってこの名深の魔法少女の顔は全員知っている。だけど、今目の前にしなを作っているこの少女の顔は見たことないし、ファブから新しい魔法少女が加わったという話も聞いていない。
と言うよりも、この状況で新しく魔法少女を銜えるなんてことをすれば「だったらなぜ俺たちに脱落ゲームを指せているんだ!!」と非難が来ること間違いないのだ。
それに対してたいがは左手を横に突き出して虚空から取り出した剣を構えたまま、右手でドライバーの扉を引っ張った。
「術式レベル
叫ぶのと同時にドライバーの扉の下に隠れていた液晶部から水色の光の線で描かれたヒトガタが宙に投影され、その中にたいがが飛び込むと頭身が変わって出てきた。
「はぁっ!!!」
さっきからずっと握っている剣に炎を纏わせながら少女にたいがは躍りかかる。
「危ないわね~。私は何もしてないわよ?………それとも
「っ!!」
剣を片手で止め、そのままたいがの耳元に顔を近づけた少女はそんなことを言いながらたいがを翻弄するかのように舞を踊り出す。
それを見ながら俺はもし何かあったらすぐにたいがを捕まえて逃げれるように準備はしていた。
この得体のしれない少女からは不穏な気配しか感じない。ばりばりの
その直感を俺は信じていたからこそ俺は何があってもいいように警戒していた。
しかし……
「ほ~ら鬼さんここまでおいで~」
「カハッ!?」
一瞬だった。ほんの一瞬だけ瞬きをした瞬間、俺はあの少女に箒を盗られて投げ飛ばされ、屋上にたたきつけられていた。
そしてそのまま少女は俺の胸を踏みつけて固定した状態で流れるように心臓めがけて突きを放とうとする。
「!!」
箒がない俺は戦闘能力もないこともあって戦いの際に選べる選択肢が限りなく少なくなる。
そしてこの場合は押さえつけられている以上避けることも不可能に近かった。
唐突に訪れた死の恐怖に両の手を交差したうえで反射的に目をそらす。
「やめろぉぉぉおおおおお!!!!」
<レガシーッ!!>
迫る貫手への恐怖からそらした方とは反対の方からそんな音とたいがの悲痛な叫びが聞こえた気がした。
…………恐怖が続く中、いつまでたっても胸を突かれる痛みはなく、代わりに轟音が鳴り響く。
「………?」
轟音に驚いて閉じていた目を開ける。すると目の前には俺を庇うかのように立つ逆手に剣を構えている
「そんな!?私はそんなことできるなんて想定してない!!」
轟音の時に怪我でもしたのだろうか。さっきまでと違ってぼろぼろになっていた少女はそう言い残してその場から猫のようにしなやかな動きで別のビルへと飛び去って行った。
「はぁ……ガァ……ゴフッ……」
少女が飛び去ってから数秒後、俺を庇うかのように立つ騎士はその場に剣を支えに膝立ちになる様に崩れ落ちる。
<ガッシューン!!>
そしてそのまま倒れ伏しながらその体を白い光で覆いつくした。その光の中から現れたのは……
「たい……が?」
瞳孔が完全に開いた状態で釣り上げられた魚のように痙攣しながら大量に吐血し、吐き出した血で周囲一帯を赤く染め上げていく今にも死にそうなたいがの姿だった。
「たいが!?たいが!!」
叫びながら痙攣し続けるたいがの肩に触ろうとする。だがその手は立体映像に触ろうとしたかのようにすり抜けた。
「!?」
その異常な事態に驚きながらたいがを見ると大我はオレンジ色のノイズを体に走らせながら透けて行っている。
「たいが!?おいどうしたんだよたいが!!」
近くでただ呼びかけるしかできない俺の悲しみを示すかのように曇天の空は粒を落とし始めた。
……降り出した雨は周囲一帯を覆いつくす赤を流すには十分すぎるものだった。
「っ!?」
家に帰れないせいで放浪した結果辿り着いた寝床にしているホテルの一室で跳ね起きる。
「夢……か……」
以前と違ってとげとげしくなってしまったうえに戻ってすらいない自分の手を見ながら呟く。
跳ね起きる寸前まで見ていたのは妙に現実感を感じる最悪な夢だった。
「そうちゃん!!」
黒いコートを庇うかのように必死の形相で立ちながら目の前で名前を呼ぶぼろぼろになった彼女。その雪のように白く細い首筋に伸ばされるごつごつと、なおかつとげとげした鎧に覆われた腕。その腕は抵抗する彼女を抑えつけ、持ち上げ、容赦なく彼女の首をごきっと言う音と共にへし折る。
抵抗する力を出すために必要な指示すらもなくし、力なく垂れさがる手足。細い、芸術品のような首をへし折ったまま抱えるその手の中で彼女は淡い光とともに白く幻想的な姿から黒いセーラー服へと姿を変える。
物言わぬ骸となった彼女をごみでも捨てるかのように投げ捨てた近くにあった鏡に映しだされていたのは……
「いや、あれは夢だ。夢に違いない。」
頭を振って今さっき見た悪夢を否定する。
いくら彼女と決別してしまったとはいえ、こんな理想とかけ離れた所まで堕ちてしまったとはいえ、僕が彼女に手を挙げるなんてありえない。
「そうじゃないと困るんだ!!」
室内で心が割れそうになりながら叫ぶ。
このままだと
そのうえ自分の手で護りたかったものを
「僕は……」
そこまで考えたところでぶるっと寒気が背中を走る。
もし、もしだ。僕が彼女を殺してしまったとしたらその時、僕はもう僕ではないのかもしれない。
そこにいるのはもう僕の皮を纏った、化け物なのかもしれない。
何処までも堕ちて行く自分を感じながら僕はホテルの部屋からふらふらとしながら出た。
「ンン?起きたのかィ?」
部屋から出てふらふらと彷徨う僕を見つけたのか包帯を巻いていない方の手に緑色の大きな瓶を持った
彼女もまた、僕と同様に魔法少女の姿から戻れなくなっていた。
「あぁ。いやな夢を見てね。」
「そうかい。」
彼女は一度そこで言葉を区切ると
「明日辺りに大きな花火を上げるからその時にアンタの殺りたい奴を殺りな。こっちはこっちで勝手にやる。」
と言いながら僕の横を通り抜けていった。
カラミティ・メアリと言う魔法少女は僕が目指した
ならばなぜ僕が一緒にいて、なおかつ親しげに話していたのか。
その理由は同類だからの一つで収まる。
同じ境遇に陥った者同士、合うところでもあったのだろうか。
それ以降、僕は寝床としてこのホテルの一室を提供してもらっている。
ふと思い立って窓越しに外を見る。
僕が寝る少し前に降り出した雨は未だに強く降り続いていた。
「………」
その雨に何故か打たれたくなった僕はホテルの屋上へと向かって歩き出した。
キキーッっと高い音を立てて立て付けが悪くなりつつある扉が開く。
土砂降りの雨は、全てを洗い流すかのように降り注いでいた。
「………」
雨に打たれながらこれまでしてきたことを思い出していく。
「………」
最初は彼女と一緒に人助けしているのがただ幸せだった。
しかし今、僕がしているのは彼女を悲しませていることだろう。
気持ちを抑えきれず、感情に身を任せた挙句僕は彼女を泣かせてしまった。
そして謝ることすらできずに今ここにいる。
あの女がたくらんでいる計画は一応聞いている。
もしそれが実行されたならこの街は火の海になるのだろう。
それに伴って多くの人が死ぬに違いない。
「僕は……何をしてるんだろうな……」
自嘲気味に嗤いながら呟く。
町が火の海になったのならば彼女はきっと困っている人を助けるために駆け回るのだろう。そしてあの黒いのも一緒について回るに違いない。
だが魔獣は?あいつはもともとこの街にいた存在じゃない。
ならば騒ぎに乗じてこの街から逃げるかもしれない。それを斬ろう………と話を聞いてからずっと考えていた。
だが、そのために騒ぎを起こす。
その騒ぎの時に人が死ぬ。
それを見過ごすのは僕が僕であるというよりも、”私”と完全に決別するということにつながるのではないか?
この姿は僕の
過去の自分の理想と夢。捨てたつもりで実は捨てれていなかったそれの扱いに迷いに迷う。
……結局僕は結論を出せずにびしょびしょのまま部屋へと戻り、柔らかいソファに身を預け、再び眠りに落ちた。
「………ぅぅっ!!」
迷っているのもあったのだろう。結局僕は悪夢から逃れることはできなかった。
目を覚ますと、空は昨日降っていた雨が嘘のように晴れていた。
鎧を脱いでインナーのみにし、カラミティ・メアリが巻きあげたが結局着るには小さすぎたという理由で着ていなかったという地味な色彩のコートに身を包んでホテルの外へと足を運ぶ。
同様にして外を出歩いていた一昨日と違ってやけに視線が突き刺さるのが気になったが、僕は町を歩き続けた。
「ママどこ~!!」
歩き回り、公園に差し掛かったところでそんな泣き声が聞こえてしまい、これまでと同様にそちらを見てしまう。
公園の噴水のそばには風船を持った小さな女の子が泣きながら母親を探して泣叫んでいた。
「………」
こんな時、彼女ならどうしただろうか。何故かそんなことを考えた。
「僕は…いや、私は!!」
頭を振って自分がしようとしていることを否定する。今のお前にはその権利はないと。
しかし、それでいいのかと聞いてくる自分もいた。
迷いに迷い、僕は女の子の方へと歩み寄って声をかけた。
「どうしたの?」
と。
もう一度彼女の隣に立つために。彼女の騎士としてふさわしい自分を取り戻すために。僕は再び”私”になることを決意した。
感想、評価を楽しみにしています。
次回、魔法少女救命計画。
「たいが!」「たいがさん!!」
「おいおいあいつまで来るのかよ」
驚きの顔を浮かべるもじゃもじゃ頭の青年
「さあ!パーティを始めようじゃないか!!」
「魔法少女救命計画」は「魔法少女育成計画」の二次創作です。
魔法少女救命計画は
あらゆる二次創作を受け入れる ハーメルンにて
以下のサポートでお送りしました。
・感想
・仮面ライダーエグゼイド
・魔法少女育成計画