加賀美大我が山の中にある展望台で夜景を見ながら黄昏ていた丁度その時、同じ山の奥にある廃コテージ群の一室にて電気もつけず、光源は窓から入ってくる月明かりのみの部屋でエルフのような女性と体を白と黒の二色で染め上げた存在がしゃべっていた。
『もう体の調子はいいのかポン?』
「えぇ。予想以上に素早く、しっかりと仕上げることができたのでそろそろゲームを加速しましょうか。」
『なら、例のものを配る準備をしておくぽん。』
「お願いしますね。」
『あ、それとあの後もマスターがご執心の奴はまだ生きてるぽん。』
「そうですか……ですが、あれはメインディッシュ。今から軽く準備運動でもかねて一人単独行動している騎士ぶった魔法少女でも狩って来るとしましょうか。」
『ついに
「ええ。では手筈通りに。」
エルフのような女性はそう言い残すとコテージの扉を開けて外へ出ていく。部屋の中に残された白と黒の謎の存在_ファブはそれを見て
『結局、あれもなんだかつまらなくなってきたぽん。もっと面白いことないかな~だぽん。』
そう言いながらその姿を消した。
そして部屋にだれもいなくなった…………はずだった。
「うふふ……」
少し高い女性の声が空になった部屋の中に響き渡る。
「クソっ!!クソっ!!クソっ!!」
分かっている!分かっている!!分かっている!!!
今の自分は自分が決めた
彼女を守る、人を守る騎士であれと自分を律しているはずなのに今の私はそれすらできていない!!
あの月の夜に彼女を守るのは自分だと手に持っている剣に誓ったはずだ……はずだったんだ!!
それなのに実際はどうだ。ぽっと出の黒い得体のしれない奴に彼女の隣は盗られそうになっているし、肝心の彼女の身は魔獣が守ってしまっている。私は……俺は……圧倒的な暴力の前では無力でしかなかった……。
殴り続ける籠手の下から血がしたたり落ちるのも気にせずに私はひたすら手近にあった木に衝撃を与え続ける。
弾性のある木と言う素材は魔法少女の膂力でもコンクリート違って一撃で壊れることはなく、殴られるたびに軋み、音を立ててその表面を削っていくだけに被害をとどめている。
しかし、いくら弾性があるとはいえ5発、10発、100発と数を重ねられれば許容量を超えて木は折れてしまう。
殴りつけた回数が100を超えたあたりでミシミシと音を立て始めていた目の前の巨木は大きな音を立てながら倒れた。
倒れてしまった木をちらりと横目で見つめてから、端から見れば恨みのこもった眼とでも言われそうな鋭い目線で周囲を睨みつける。
何でこんな森の中で
約半刻前にあの魔獣に謎空間から放り出されてしりもちをつかされ、気が付けばこの今いる森の中だった。
今私がどこにいるのかもわからず、空を見上げても鬱蒼とした木が邪魔をして空を見ることなどできない。魔法少女の優れた身体能力で上へと飛んでから枝伝いに登り、木の上から周りを見てみたのだが、周囲一帯は360度どこを見ても木!木!木!!
結論から言うと私は遭難してしまっていた。
「クソッ!全部あの魔獣のせいだ!全部!!全部!!!」
木を殴り倒したとはいえ全然気持ちは晴れず、逆に思い通りにならない現実にストレスを感じてしまっていた。だからだろう。
「うふふ…」
あの悪魔の誘いに乗ってしまったのは、そんな精神状態だったからに違いない。
「あなたに力を挙げましょうか?」
「ッ!?誰だ!!」
木陰から本来朱と白に染まっているはずの巫女服のカラーリングを白の所を黒に、朱の所を蒼に染めたものを着た女が歩いてくる。
女の表情は何か楽しいことでもあったのか、喜悦に染まっており、その顔立ちは魔法少女のように整って万人が万人美少女とでも言いそうなものだった。
「先ほどまでの話を聞いていた感じだと、自身に力がないせいで秘め事も決め事も守れずにとてもストレスを感じているご様子。」
「な…」
さっきまでの痴態を見られていた、その
「今あなたが望むものを私は上げることができます。」
「望んでいるものなどない!!」
「嘘でしょう?あなたはホントは黒いコートを着た青年を恨み、つらみ、そして殺したいほど憎んでいる。」
「……ち、違う!!」
「今声が震えましたね。本当はわかっているのでしょう?今のあなたでは勝てないが、彼がとても憎たらしいと。」
こちらへと歩き寄りながら女は私の心の中を見透かしているかのように指摘し続ける。その指摘されるのが怖くて私は後ろへと無意識のうちに剣を構えたまま下がっていた。
「今のあなたには率直に言って力がない。しかし、これを受け入れさえすればあなたは彼と同じ力を、同じステージに立てるようになる。」
「い……要らない!!騎士にそんなものは不要だ!!」
「いいえ、あなたはわかっていますでしょう?」
女は私の顔の目の前までその顔を近づけた。
「その欲望、どす黒い気持ち、全て開示なさい。」
そして女は私の耳元でそう呟くと躊躇なく私の中に右手に持っていた何かをねじ込んだ。
「カハッ!!」
みぞおちに女の拳ごとその何かをねじ込まれたせいで肺から勢いよく空気が排出され、地面に倒れ伏す。
体がはじけ飛びそうなほど体の芯から熱が生じてきて、意識が跳びそうになる。
そんな風に苦しむ私の様子を見ながら女は
「それでは、私はこれにて。」
と言いながらカランコロンと下駄の音を軽やかに鳴らしながらその場を離れていった。
そしてその場には龍を模していたはずの装甲がまさしく龍そのものになりつつある龍騎士のみが残された。
闇の中に浮かび上がる両の瞳に浮かぶ竜の目のような形をした虹彩が朱に染まる。
背中からオレンジ色の粒子が吹きあがりそれが翼を形成していき、花の花弁を模したように膨らんでいたアームカバーなどの下から黒い竜のうろこが浮かび上がり、カバーを破って表出する。
手元にまで
「うぅぅぅぅぅううぅうううううゥゥゥゥゥウウウウウウウウUUUUUUGAGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
和装の女がした何かによって人の形こと保てど人ならざるものへと至った存在が数秒後、そこで天へ向けて叫んでいた。
その叫びを聞いて
「……こちらですかね?」
「……ん?」
異様な経験を持った
「うぅぅぅぅぅううぅうううううゥゥゥゥゥウウウウウウウウUUUUUUGAGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
展望台から夜景を見ているとそんな叫び声が聞こえた。
「……ん?」
半分寝そうになっていたせいで手すりにほとんど全体重を預けていた頭を上げ、耳を澄ます。
「………どっからだ?」
俺は耳に集中して適当な方角だけでも探ろうとしていた。だが、その必要はなかった。
ドゴーン!!
大きな土煙とともに爆音が鳴り響く。俺がいた展望台から左斜め前に数キロメートル先の方でダイナマイトでもさく裂したんじゃないかと思うほどの量の土が舞い上がっていた。
「あそこか!」
腰にゲーマドライバーを装着してオレンジ色のガシャットを手元で回転させながら取り出す。
<♪~><
夜の闇の中でガシャットが起動したときに発行するオレンジ色の光は夜目に少し痛い。
「変身」
目をしばしばさせながら右手でしっかりと握った
<ガッシャット!!>
<
<
俺の周りを囲むかのように現れた15個の窓の内、オレンジ色で囲われたミサイルのような顔をしたキャラクターの絵がかいてある窓にサマーソルトキックの要領で上から足を叩き付ける。
叩き付けられた窓はゲームによくありそうなフォントで<SELLECT!!>の文字を浮かばせ、その文字を躍らせながら回転し、そのまま白い粒子になって俺へと降り注いだ。
粒子が消えた後、その場にいたのは頭をミサイルの弾丸のような流線型で構成し、それを黒く染め上げた頭が黒いイカのような3頭身。
その胸には○ボタンで構成された十字キーの意匠を受けたかのようなマークと、HPゲージのようなバー、そしてドリルと銃のマークが描かれていた。
その状態で俺は即座にドライバーの扉に手をかける。そして
「マップ2。」
中にある液晶を隠そうとしているかのように存在する扉を開いた。
<ガッチャーン!!><レベルアーーーップ!!>
<
回転しながら目の前に映し出されたオレンジ色の線で描かれたスクリーンに飛び込み、戦闘機を模したコンバットゲーマーレベル2へと変身する。
宙で回転しながら体制を整え、俺は土煙が今もなお上がっているその場所へ急行した。
「………なんじゃこりゃ……」
その様子を見てついそう漏らしてしまう。というか、誰もがみな俺が見た光景を見ればそう漏らすだろう。
・爆弾でも爆発したのではと思うほどめくれ上がった地面
・所々溶けているかのようにキラキラと光っている地面
・2メートルほどの大きな
これらの情報が一気に視覚野へ飛び込んできたのだからそう漏らすのは仕方がない。
龍人はその手に
「
瀕死のけがを戦闘中に負ったのか、左手をなくし顔を血まみれにしたクラムベリーが切っ先を避けるかのように動いていた。
クラムベリーは剣先をかわし、龍人に迫り、手刀を叩き付けて切り裂こうとする。しかし、その手刀は龍人の肉体にまったく食い込まず、むしろ跳ね返していた。
そして足元に垂れた血に滑ったのかクラムベリーが倒れ、そこを龍人が振るった刃によって右足を切り飛ばされる。
魔法少女育成計画の物語を簡単に終わらせるにはここでクラムベリーが死ぬのを黙ってみているのが正解だったのかもしれない。けれども…
<ガッシューン!!>
<♪~><
<ガシャット!!><ガッチャーン!!><レベルアーーーップ!!>
「……?ってあなたは!?」
<
「よぉ。まだ死んでねーよなぁ?」
俺は無意識のうちに飛び出し、クラムベリーに下ろされた剣先を握りしめて止める形で彼女を庇ってしまっていた。自分でもバカみたいだと思う。だけど俺がしたいのは”命を救う”だからここで見棄てたらと思うと体が勝手に動いていた。
ロボットゲーマーに変身して剣を握り続けている俺を見るなり目の前の龍人は
「MxaAaAAAAJUUUUUUUUuuuuuuuuuuuuuuu!!!」
と叫ぶ。そしてその振り下ろす剣の重みを強めてきた。
「ッ!?いきなり剣が重くなったってことはまさか!!」
剣をクラムベリーがいる右側とは逆の左へそらしながら目の前の龍人をしっかりと観察する。するとあることに気が付いた。
「おいおい!!だれがどういった経緯でゲーム病発症してんだよ!?」
目の前の龍人からはオレンジ色の粒子が勢いよく吹き出し、それが風に乗って遠くへ流れて行っていた。その上龍人の体中を奔るノイズ。
この2点を同時に引き起こすような存在、または現象を俺はゲーム病に関係する物しか知らない。
また、さっき叫んでしまった誰がについては実は心当たりがついていた。
今さっき剣が龍人の意思に呼応するかのように重くなっていた。
もしゲーム病によって魔法少女の能力がバグスターに影響を及ぼしているのならば?
その仮説を実証するためにも今こうやって考えている最中でも殺す気で剣を振り下ろしてくる目の前の
そう思った俺はレベルアップと同時に装着されたナックルについているAボタンを高速でひたすら連打し、そのまま一度に大量の空気の拳を浮かび上がらせてそれをぶつけ吹き飛ばす。そしてスマホを取り出すために変身を解除した。
変身を解除してからすぐにスマホを取り出し、ゲームスコープと書かれたアプリを起動して目の前の龍人にかざした。
「ドラゴナイトハンターZのウィルスとタドルクエストのウィルス……あと一つなんだよこれ。」
画面に浮かんでいたのはタドルクエストのバグスターウィルスであるアランブラの顔を模したアイコンとドラゴナイトハンターZのバグスターであるグラファイトを模したアイコン。
そして桃と桜の花を半分にしてくっつけたようなアイコンが目の前の龍人にかぶさるかのように画面で踊っていた。
「とにかく、ゲーム病患者なら治す。それは俺の取るべき責任だ。」
この世界にバグスターを持ち込んだのは俺だ。それは間違いないと思う。だからこそ俺は後ろを振り向いて
「あんたは逃げろ。こいつは俺が狩らないといけない獲物だ。」
立ち上がろうとするが足を切り飛ばされたせいでうまく立ち上がれないクラムベリーへ告げた。
「私に逃げろと?」
「あぁ。大方アンタは龍騎士の魔法少女でも狩ろうと思っていたんだろうが失敗したんだろう?だったら次は俺の番だ。レイドイベントでもよく言われるだろ?次の人が並んでいたら
「知りませんよそんなこと。」
そんな風に怒ったような感じでこちらへと文句を言ってくるクラムベリーを放っておいて俺は
「さぁ、狩の時間だ。」
目を赤く染めながら金色のガシャットを構え、口端をゆがませた。
<
本来は4人で協力プレイ用の狩りゲームのガシャットが起動し、俺の背後にドラゴンが現れた。
「さぁ、狩の始まりだ!!」
感想、評価を楽しみにしています。
明日は広島はエグゼイドやらないです。
次回の魔法少女救命は!!
「シネシネシネシネシネ!!!」
部不相応の力に溺れて壊れていく龍騎士。それを助けるために世界で唯一のライダーが龍を纏う!
「ドラ!ドラ!ドラゴナイトハンター!!Z!!」
「ノーミスで全てを変えてやるぜ!!」
知っているが変わりつつある未来を変えろ!!
13th stage 龍を纏うBraver!!
お楽しみに