魔法少女救命計画   作:先詠む人

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 お久しぶりです。
 ほぼ一月更新停止してましたがちゃんと生きてますよ?学期末テストが終わり、やっとこさ各余裕ができたので書きました。

 今回、最後の方に闇があふれてます。そう言うのが嫌いな方は大我の独白が始まったあたりで一気にスクロールしてください。





11th stage 秘めた過去のDark

「このっ!クソッ!!」

 

 スノーホワイトへ襲い掛かるように手に持った武器を振り回す敵をチェーンソーモードのガシャコンバグヴァイザーで切り裂き、スノーホワイトを庇うように立ちながら一向に好転しない状況に対してつい悪態をつく。

 仮面ライダーゲンムアクションゲーマーレベル2に変身したとはいえ、俺は未だに不利な状況を強いられていた。

 その理由は単純で、

 

「複製能力はレベル上げても有効なのかよ!!」

 

 この言葉にすべてが込められていた。

 目の前で今もなおスノーホワイトを狙って攻撃しようとしている(仮称)ゾンビバグスターは、ユニオン時の時と同様に口の横についているパイプから黒い液体がこぼれ、その液体がある程度溜まると同じ(仮称)ゾンビバグスターがその液体を入口として出てくると言った風にシャチョォがレベルXの必殺技の際に特に行っていた増殖を無限に行っていたのだ。

 

「数が………手数が足りない!!」

 

 口から悲痛な叫びが漏れる。

 いくら俺が一騎当千の力を仮に持っていたとしても、時間経過とともにネズミ算的に増えていく敵をさばき続けるのは限界があった。

 

「ごめんなさい……私も戦えたら……」

 

 後ろで庇い続けているスノーホワイトが泣きそうな顔でそう漏らす。さっきからずっと彼女はこんな感じで自己嫌悪を続けていた。しかしこの原因は彼女ではなく、どちらかと言うとハードゴア・アリスにある。

 バグスターは自らが完全に実体化するために感染者にストレスを与える必要がある。そのために感染者が大事にしているものと言った感染者に(ゆかり)があるものを徹底的に破壊することで精神にストレスを与える習性がを持ち、そのためなら手段を選ぶものはほんのごくごく一部のバグスターと、良性バグスター、そしてシャチョォを筆頭にした人間からバグスターへとなったことでもとから実体化の必要がないものを除いていない。

 今回の場合は、恐らくハードゴア・アリスが感染したときに願っていたことが「スノーホワイトに〇〇する」とでも言った風にスノーホワイト関連のものだったと推測される。

 だからこそ、目の前で未だにこちらへ猛威を振るうバグスターはスノーホワイトを殺害し、ハードゴア・アリスの精神に尋常ではないほどのストレスを与えようとしているのだろう。

 

「あんたは悪くない!どっちかってとあの黒い子のせいだ!!」

 

 飛んできた光弾を即座にモードを切り替えたガシャコンバグヴァイザーで迎撃しつつ、叫ぶ。

 その言葉は確かに彼女(スノーホワイト)に届いてはいる。だが、その心を安らげるところまではいかないらしい。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 俺の言葉を聞いても追い込まれたかのように小さく彼女はそう呟き続けていた。

 

「あぁくそっ!!」

 

 悪態をつきながら必死にヴァグバイザーを連射するものの、そんなの全く聞いていないとでもいうかのように黒い竜種をまき散らしながらこちらへとずるずると音を立てながら迫ってくるようにまでなったバグスター。

 

「………増殖に続いて不死もかよ!!」

 

 いくらなんでもレベルが上がるのが早すぎる。そう思わざるを得なかった。

 このままだとスノーホワイトを守り切れなくなる。そんな嫌な予感が頭をよぎる。その時だった。

 

「おい!こっちだ!!」

 

 そんな叫びとともに上空から大量の某苦無が飛んできてバグスターに突き刺さる。苦無による攻撃はバグスターを倒すとまではいかなくともノックバックさせるには十分な威力を持っていた。そしてその救援の主は今箒に乗っている魔女とともに逃げているはず。そう思って声がした方を向くとそこには

 

「早くつかまれ!!」

 

 すぐ後ろに着地しながらこちらへと手を伸ばす魔女(トップスピード)と、不愛想ながらも苦無を両手に持って構えるくノ一(リップル)がいた。

 

「先に行って。」

 

 確かトップスピードの箒は二人乗りのはずだ。そう思った俺はかばうように立っているスノーホワイトへそう言った。

 

「!!」

 

 俺一人を残してこの場を離れるのは嫌とでも言わんばかりにスノーホワイトは首を横に振る。しかし、このチャンスを逃せば後ろにいる二人まで巻き込んでしまう。そう思った俺は

 

「行け!!」

 

 と、そんな彼女の方を向かずにそう叫んだ。

 強い口調で言ったその言葉が後押しにでもなったのだろうか、俺の後ろからスノーホワイトは名残惜しそうに離れ、トップスピードたちの方へ向かう。

 

 スノーホワイトがトップスピードの伸ばした手に捕まり、トップスピードが必死に箒の高さを上昇させようとする。しかし、なかなか加速して上昇しない。

 その原因は単純。2人用の箒に3人分の荷重がかかっていることが原因の重量オーバーだった。

 それを視界の端にとらえて俺は

 

「こうなったら……後で怒られるかもしれんが……

 

 内心後のことを考えつつもバグヴァイザーをつけていない左手を3人がいる方へ突き出す。そして

 

排莢(ディスチャージ)!!」

 

 つい先ほどラ・ピュセルを追い出した時のように強制的にこのステージから脱出させた。

 

 上下に引き伸ばされるような形で3人の姿が消える。そしてその場に残ったのは俺とバグスターと今にも消えそうなほど体を透けさせながら体中にオレンジと黒のノイズを走らせながら倒れ伏すハードゴア・アリスだけとなった。

 

「………時間もねぇ。さっさと決めさせてもらう!!」

 

 今にも消えそうで苦しんでいるハードゴア・アリスを見て俺はそう言い、手元に黄緑色のガシャットを召喚してそれを起動した。

 

 <♪~>「SHAKARIKI SPORTS(シャカリキスポーォツ)!!」<~♪>

 

 俺の背後にMXB(モトクロスバイク)を駆るキャラクターの絵がタイトルとともにを浮かばせる半透明の画面が現れ、その中からショッキングピンクと蛍光グリーンの2色で塗装されたモトクロスバイクが飛び出してきて俺の周囲を一周してから止まる。

 

 それを確認することなく俺は手に持ったシャカリキスポーツガシャットをゲーマドライバーの外側のスロットへ差し込んだ。

 

<ガッシャット!!>

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ガシャットを差し込んですぐに開かれていたゲーマドライバーの扉を閉じる。

 

 <ガッチョーン!!> 

 

 扉を閉じたことでそんな音声が流れるが、それも気にせず俺は

 

「レベル3!!」<ガッチャーン!!>

 

 世界に宣誓するかのような叫びとともに閉じた扉を再び開いた。

 

<レベルアーップ!!>

 

 

【挿絵表示】

 

 

MIGHTY(マイティ) JUMP(ジャンプ)!! MIGHTY(マイティ) KICK(キック)!! MIGTHY(マイティ~~) ACTION(アクショ~~ン) X(エ~ックス)!!>

 

 プロトマイティアクションXを読み込んでそんな音声が周囲一帯に流れる。もし俺が変身するのがレベル2であったならば音声はそこで止まるのだが、今回変身するのはレベル3()。それを証明するかのように音声は続く。

 

A GATCHA(アガッチャ)!!>

 

 そんな音が続いた。そして

 

SHAKARIKI(シャカリキ) SHAKARIKI(シャカリキ) BAD BAD(バッド バッド)!SHAKA(シャカ)っと RIKI(リキ)っと SHAKARIKI SPORTS(シャカリキスポーツ)!!>

 

 開いた扉の奥から紫色の線で宙に描かれたヒトガタが書いてある画面と、緑色の線で描かれた宙に浮かぶ画面が合体するかのように重なり、俺の体を通り抜ける。

 画面を俺が通り抜けるのと同時にゲーマドライバーから流れ出した音声とともに俺を囲むかのように出現した光の円の縁に止まっていたモトクロスバイクが触れた途端バイクが宙に浮かぶ。そして浮かび上がったモトクロスバイクは数個のパーツに分解されて俺の体に装着されていった。

 

 それはどこかで滞ることなくスムーズに行われ、音声が終わるころにはすでに一種の鎧としてゲンムに装着されていた。

 

「シャッ!!」

 

 即座に右肩についているモトクロスバイクの車輪が変化したコマのような形をした武器を左手で投げつける。

 投げつけながらそれに追随するかのように勢いよくバグスターの元へ駆け寄る。そしてそのまま俺はゲーマドライバーからシャカリキスポーツガシャットを抜き出し、左腰につけられているキメワザスロットホルダーへと刺し込んだ。

 

<ガシャット!!>

 

 ガシャットを差し込むとそんな音声が鳴り響く。俺はそのままの流れでホルダーについている銀色のボタンを押し込む。

 

<キメワザ!!><~♪>

 

 今度は右手で左肩についている車輪が変形したコマを投げつけながらもう一度ボタンを押し込む。

 

SHAKARIKI(シャカリキ) CRITHICAL STRIKE(クリティカル ストライク)!!>

 

 その音声とともに緑色のエネルギーを身に纏いながら俺はバグスターへ突貫した。

 

 

<会心の一発!!>

 

 体の芯を突き抜き、腹部へ大穴を作るかのようにぶち抜きながら俺は砂煙を立てながら着地した。

 後ろで大爆発が起きる。

 それを確認することなく、俺も体力的に限界だったためにその場に崩れ落ちた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……………そうだハードゴア・アリスの容体は……」

 

 ハードゴア・アリスのことが心配になったので荒い息を吐きながらどうにか立ちあがろうとした……その時だった。

 ゆっくりと体を起こしたその瞳に映ったのは常識外れとしか言いようがない大きさにまで肥大した拳。

 

「」

 

 避ける暇も驚く暇もなかった。その拳は俺の顔を的確にとらえ、吹き飛ばす。その攻撃は一発でレベル3になったことで纏っていた鎧によって隠されていたHP(ライダー)ゲージを一気に減少させ、俺の変身を強制的に解除した。

 

<ガッシューン!!>

 

 体から0と1で構成された粒子が飛び散りながら俺の生身は鎧の下からさらされる。

 顔を殴られた際の衝撃波が原因か、それとも変身が強制的に解除されたことが原因か。俺が仰向けに倒れているところから少し離れたところへさっきまでドライバーへ差し込んでいたガシャットは飛ばされていた。

 

「ま……ず……」

 

 顔面を殴られた際に口の中を切ったのか鉄の味が口の中を充満する。さらに脳にも衝撃が行っていたのか視界がふらふらと揺れ、ろれつが回らない。

 

 このままじゃ死ぬ。

 

 そんな暗い予感が俺の中を走った。

 

「嫌だ……」

 

 力が入らない手に力を籠めようとする。

 

 ………入らない。

 

 立ち上がり、最後まで抵抗しようとする。

 

 ………脳震盪でも起こしているのかそもそも立ち上がれない。

 

 たとえ無様でも、何かにすがったとしても立ち上がろうとする。

 

 ………そうしようとした瞬間、視界の外からやってきた何者かに肩を蹴りつけられ、そのまま何か鋭いもので地面に

 縫い付けられた。

 

「がぁあぁあああああああああ!!!!」

 

 焼けるような痛みで獣じみた悲鳴(こえ)を上げる。

 

 肩に奔る激痛でいくらか晴れたとはいえ、未だに揺れ続ける視界の中で誰かが俺の前に立つ。その黒い影は

 

「ふ~ん、楽しそうなことになってるじゃない。今にも死にそうで、消えそう。」

 

 そう高い声で楽しそうに言った。しかし、突然声色を変えて

 

「………でもここで死ぬなんてつまらないわ。」

 

 と言うと、俺の腰に未だに巻き付けられていたドライバーへその手に持った俺からしたらなじみがあるものを差し込んだ。

 

<ガシャット!!>

 

「もう一本。」

 

<ガシャット!!><ガッチャーン!!>

 

 2回目のガシャット差し込み音声が流れ、扉が開かれた瞬間、俺の体から大量のバグスターウィルスがあふれだす。

 

「うあぁあああああああああああぁぁぁあぁあああああああああ!!!!!!!」

 

 あの時適合した時以上の激痛に意識が………跳んだ。

 

 消える視界の中で最後に俺が見たイメージは、DNAが描き出す2重らせん構造がオレンジと緑色にきれいに半分ずつ染まって光り出す光景だった。

 

 

 

 

< >

 

 私の目の前で彼はゆらりとゾンビのように立ち上がる。

 その腰につけられているゲーマドライバーに装填されているのは私がこっそりこの子の中にある棚からネコババして隠し持っていたピンク色のマイティアクションXガシャットと、彼自身が先ほど自分の中から引き出すのに成功した紫色のプロトマイティアクションXガシャット。

 

 さっきまで大量の棚と鎖と本で作られた部屋に閉じ込められていたこの身を引き出すことにつながった少し離れたところにいる気色悪い存在には悪いけどこの子を傷つけていいのは()()()なの。

 

 だから……

 

「この子に倒されて。」

 

 私がそう言った瞬間、気色悪い存在はそのステータスを書き換えられる。

 不死性、増殖性、敵の攻撃力を強制的に下げさせるデバフ能力などそれらすべてのその存在を構成するバフ効果を私は引きはがし、気に入ったものを自分のものにしていく。

 

「ふふふ……」

 

 楽しそうに嗤う私の横で、大量に噴出した粒子の中でドライバーから2本のガシャットが飛び出し、融合して分厚いガシャットへと変化する。この子はそのガシャットを握り、起動した。

 

<MIGHTY BROTHERS XX!!>

 

 虚ろな瞳で、チベットスナギツネのような表情を浮かべながらそのガシャットはこの子によって腰のドライバーに差し込まれ、この子の姿を変える。

 

<俺がお前で~! お前が俺で! MIGHTY MIGHTY BROTHERS XX!!>

 

 強い光がこの子を包み、その光が消えたとき、その場には2つの存在が立っていた。

 双子のように同じ顔で頭頂部を構成するとさかを片方の右側につけているオレンジ色と、左側につけている緑色で分け、体の色をオレンジ色と緑色の1色ずつで染めている。

 それを確認して私は自分の存在をデータへと変換してこの世界から外の世界へと出た。

 

 その理由は簡単。あの子があの姿になれた時点であらゆるバフを奪われた気色悪い存在が勝てるわけがないからだ。

 

 ほら、消滅寸前だというのにもうあの気色悪い存在の断末魔が聞こえる。

 

「ふふ………今度こそ()()()()()のが楽しみだわ。」

 

 異世界とはいえ、数百年ぶりに外の世界に0と1で作られたとはいえ自分の肉の体をもって出たことで風を感じながら私はそう呟いた。

 その手に黒と黄緑色で塗装されたガシャットを握りしめ、姿を闇へと溶かす。

 

「フフ………ふふふ………」

 

 数秒後、微かな笑い声だけをその場に残し、誰もその場からいなくなっていた。

 

 

 

ガシャット!!

 

「っ!!」

 

 急に頬に奔った痛みで強制的に起こさせられる。治癒能力でも働いたのか視界の揺れなどは既に治まっており、そのおかげもあって誰が俺のほほを叩いたのかがはっきりと分かった。

 

「なんでっ!!」

 

 澄んだ金色の瞳を持ったその少女は俺のほほを平手で交互にべちっべちっと水っぽい音を奏でるかのように叩きながら叫ぶ。

 

「なんで自分のことなんか後回しみたいなことするんですかっ!!」

 

 その瞳に涙を浮かばせながら叩き続けたことで気が済んだわけではないだろうが、少女、スノーホワイトはそう言って俺の首元に手を引っかけて持ち上げた。

 

「…………それは……」

 

 ジッと見つめる俺の性根まで見通しそうなその瞳と目を合わせたくなくて首を背け、目をそらす。背けた先には今にも倒れそうなほど消耗した様子の()()()()()()()()()、箒から降りてこちらを見ているトップスピード、そしてその後ろに立つリップルが………ハードゴア・アリス?

 

「ッ!そうだバグスター!!」

 

 ハードゴア・アリスが立っているのを見てバグスターによってやられたことで意識が跳んだことを思い出す。慌ててマウントを取るかのように馬乗りしているスノーホワイトを押しのけてから体を起こし、ハードゴア・アリスの状態を見ようとしたが…

 

「そんなことより今は私の質問に先に答えてください!!」

 

「ぅぐっ!」

 

 一度押しのけたスノーホワイトに再び力づくで抑え込まれてしまった。魔法少女の膂力で背中を叩き付けられ、肺から空気が強制的に押し出される。

 

「おいおい、気持ちはわかるけどやりすぎだって。」

 

 そんな俺とスノーホワイトの様子を見かねたのか、トップスピードが割り込んできて俺たちを引きはがした。

 

「あ、すみません………」

 

 トップスピードに謝りながらスノーホワイトは少し離れる。そんなスノーホワイトの様子を見ながらトップスピードは俺のことを値踏みでもするかのように見てきた。

 

 数秒ほど、俺をじっと見てからトップスピードは少しだけあきれた様子で

 

「リップルの言う通りこりゃだめだ。」

 

 そう確かに言った。その言葉を聞いてスノーホワイトが真意を尋ねるかのように問いかけてるのをBGMに俺はこっそりと消耗した様子のハードゴア・アリスへと近づいていた。

 

「ダメだって何がダメなんですか?」

 

「コイツ…タイガは自己犠牲を私たちがどういってもやめない人種だってこと。」

 

 ハードゴア・アリスのそばまで行って、「ちょっとごめんな」と言いながら彼女の手首に手を当てて脈をとる。

 脈拍はゆっくり、あの時見たバグスターが活性化している際に発生するノイズもでている様子はなかったので、確証こそないがゲーム病は一時的に収まっていると考えてもよさそうと思えた。

 

「なんで!!」

 

「それは……ん?リップルなんだよってお前いつの間にそっちに行って何してるんだよ!」

 

 脈拍を取り終えて「スコープがあれば未だに感染しているかどうかもわかるんだけどなぁ…」と無いものねだりを考えていると俺がいなくなったことに気付いたトップスピードが声を荒げた。

 

「何って……診察?」

 

「診察?ってなんだよ!!」

 

 声を荒げた語調のままこちらへ詰め寄ってくるトップスピードを見て俺は

 

「ゲーム病の。さっき見ただろ。あれが発生する原因であり、俺も感染している呪いだよ。」

 

 そう答えた。

 

「はぁ?」

 

 俺の返しに対して眉をひそめながらトップスピードは迫る。再び空気は一触即発状態になっていた。

 

 ブーブー

 

 一触即発状態の空気の中、誰からの連絡も、メールも、LINEも来るはずのない俺のスマホが唐突に何かの通知を受けたかのように振動した。

 

「……?」

 

 これまで生きてきた人生でこんな時に来る通知が大概ろくでもないことを知っていた俺は反射的にスマホをポケットから抜き出し、確認し、驚いて噴き出してしまう。

 

「んな!?」

 

 画面を見て唐突に驚いた俺を見て不審に思ったのか、トップスピードが俺の手からスマホを奪い取って画面を確認する。だが書いてある文字の内容が分からなかったのか、首を傾げた。

 

「このゲームスコープ?ってなんだよ。」

 

 首を傾げた後そう言いながら俺にスマホを返してくる。まぁ、トップスピードがその意味をわからないのは仕方がないと思う。

 なぜならゲームスコープ(それ)は……

 

「これで人助けができる。」

 

 スマホのスリープ画面に表示されていたのは”ゲームスコープがインストールされました。”と言うシステム通知。

 もしこれが本当ならばハードゴア・アリスが今もなおゲーム病なのか診察できることになる。

 

 通知欄からゲームスコープを起動する。するとエグゼイド本編で見覚えのあるスコープの分析画面がスマホのカメラで撮っているであろう画面にに表示された。その状態を保ったまま無言でハードゴア・アリスにスマホをかざす。

 

「やった……」

 

 画面に映っていたのはハードゴア・アリス以外何もない光景。ゲーム病に今もなお感染していた場合感染しているバグスターのアイコンが患者を囲むかのように動きながら表示されるのでゲーム病の感染から完治したと言っても大丈夫な状態にハードゴア・アリスはなっていた。

 

「何も映ってないじゃんかよ。」

 

 後ろから画面をのぞき込んだのか、トップスピードがそう文句を言ってくる。それに対して俺は

 

「何も映ってないのが健康のあかしだから。」

 

 と返し、スマホをホーム画面に戻してからスリープモードに切り替えてポケットにしまいなおした。

 そうしてそのままその場を離れようとすると、肩をしっかりと

 

「おい待てよ。」

 

 の声とともに掴まれる。

 

「結局お前はなんで自己犠牲をいとわないんだ?それだけでも聞かせろ。」

 

 掴んだ手の主であるトップスピードはそう言って自分の方へ俺の顔を無理やり向かせて尋ねた。

 

「……………」

 

 俺は無言を貫こうとする。トップスピードは意地でも俺から聞き出そうとする。

 

 言いたくない俺と聞きだしたいトップスピード、そんな意地と意地の張り合いが始まっていたが、俺も俺で眠気とか体力とかと言った限界が近かったので俺からしたらどうでもいい情報を言うだけ言ってどこかへ行こうと思った。

 

ぁんたも……」

 

 首を無理やり回されているせいでそんなに大きな声が出ない。

 

「ぁん?」

 

 俺が何かを言いだしたことに気付いてトップスピードが自分の方へ引っ張る力を弱める。俺はそれで逃げ出したりすることはなく、トップスピードたちの方を向いて告げる。

 

「あんたも、周りがみんな死んだ中でただ一人生き残ってしまったらわかるよ。」

 

 それだけ言って鉄塔の手すりから地上(した)へと身を躍らせる。

 加速度的に落ちて行く中で俺はコンバットゲーマーレベル2へと変身して空を舞いながらその場から離れた。

 

 あの日、たまたま何故か俺だけが生き残ってしまったせいで連れ込まれた地獄を思い出しながら…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 15年前、当時小学生だった俺は遠足で住んでいたG県の県境の隣にあるK市の自然公園にいた。

 

 小学校の遠足だから大体の児童は自分の弁当をもって遠足に参加する。俺もそのうちの一人で、自分の弁当と当時放送されていた仮面ライダーのレジャーシートをもって座る場所を探していた。

 

 その遠足があった日の朝に雨が降っていたせいで座れるような乾いた場所はそれほどなく、同じクラスの子たちから何故か今となっては村八分とでも言えそうなレベルで嫌われていた俺はたった一人で自分が座れそうな場所を探していたのだった。

 

 数分ほど探し続けて、やっとある程度乾いた場所を見つけたところまではよかった。問題はその場所の立地だった。

 その場所は65°程度の斜面のすぐそばにあり、その斜面の上にはむき出しの岩がゴロゴロと転がっていたのだった。そしてこれはのちにゴシップ誌が騒いだことで世間に知らされたことだが、同じ日に別の小学校の生徒たちも同じ自然公園へ遠足に来ていた。そしてその中には当然わんぱく坊主などもいるわけで……

 

 何を思っていたのかは知らないが、俺が食べていた場所の斜面の上の方でそのわんぱく坊主たちがよせばいいのに岩を持ち上げて遊んでいたのだ。

 そして事故は起きた。

 

 そのことに俺が気付いたときにはもう手遅れだった。

 一人で弁当を食べ終え、何か上が騒がしいなと見上げた幼い俺の目に入ってきたのは巨大な岩がもうすぐ近くまで転がってきている光景。

 慌てて逃げだそうとするが、恐怖で身がすくんで動けない。

 そして岩は俺が動けなくなった位置よりも少しだけ上に先っぽだけを見せて埋まっていた大きな岩へ当たって大小さまざまな破片となって俺に降り注いだ。

 

 反射的に体を丸めてその破片に当たらないようにする。しかし、その選択は間違いだった。

 

 降りそそいだ破片の中には小学校低学年にとってはかなりの大きさのものもあった。それらすべてが俺の体に直撃することになり、その中の一つが俺の頭を割ったのだ。今でもその跡が髪をかき上げれば見える程度には残っている。

 

 激痛が体中に奔り、そのままその場所で倒れ伏し、血の海に溺れる。

 真っ赤になった視界の中で擦れ往く意識が聞いたのは「ヤベーよ!!」と言う叫び声だった。

 

 

 目を覚ましたら知らない天井、知らない場所、そして白衣を着た人たちだらけだった。

 

 俺が目を覚ましたことに気付いた看護師が何か声をかけてくる。ただ、何を言っているのかがまったくわからない。

 俺は脳にダメージを負ったことによる後遺症を出していた。

 幸いなことに、ものが聞こえないなどといった肉体的な後遺症は運よく一時的なものだったので今は大丈夫なのだが、問題は俺が団体行動していない状態で事故に巻き込まれたせいで先生を含めて2人いなくなった後にクラスで起きたとある事故だった。

 俺がいないことに気付いて探しに来ていた担任の先生が血の海に沈んでいた俺を見つけ、救急車を急いで呼ぶ。

 そうなると、俺は救急車で緊急搬送されるわけだが当然クラスのほかの生徒とともに家の方まで帰ることができない。

 そのせいで俺と搬送される際に一緒に病院へとついてきてくれていた先生はクラスから離れた状態になった。

 俺が血まみれで発見されたことによって遠足は中断。急いで学校へと戻ることになり借りていた高速バスにクラスごとに分かれて生徒たちが乗り込む。

 当然俺と同じクラスの生徒もバスに乗って帰り出した……が、そのバスが高速で大型トラック4台が起こした事故に巻き込まれた。

 

 乗っていたバスが潰れるような衝撃を受け、その上で高速から落下するというような事故だったらしい。

 乗員乗客は瀕死の重傷を負った数人を残して全員即死。

 

 この事故のせいで俺のクラスは俺一人を残して生徒全員が死亡していた。

 当初、遺族の目は唯一無傷でいた担任の先生の元へ向かい、先生が叩かれていたが、その先生が無事だった理由が俺の付き添いで離れていたからだということがわかると何故か俺の方へ遺族の妬みや恨みがすべて向いた。

 俺自身も原因が別の事故とはいえ瀕死の重傷を負っていたというにもかかわらずだ。

 そしてその狂ったともいえる感情は親同士のネットワークを通じて別の子供達にまで伝播し、感染し、倫理観の敷居を下げさえする。

 

 そんな状況から担任の先生は俺を庇わなかった、いや庇えなかったという方が正しいか。

 と言うのも先生は俺が病院を退院するよりも前に校長先生が事故の事実を隠そうと別の小学校の方へ転任させていた。

 だから俺が小学校へ戻ってきたときにどんな扱いをされたかなんて俺に直接聞きでもしない限り知りようがなかった。

 

 小学生と言うのは特に心無い一言を平気で言い、罪の自覚もなしに人を傷つけるやつが多い。

 別のクラスのそう言った風に人を傷つけることが好きな奴らが寄ってたかって俺を痛めつけ、「死神」と呼んで今考えたらよく俺生きてたなと思えるような行動までしていた。

 

 靴を隠されたことなんて数えられないほどある。机に花瓶を置かれていたことなんて転校するまで毎日だった。

 

 授業中に眠ってしまって休憩になったときに目を覚ましたら首に縄とびをかけられてカーテンレールにその先を引っかけられかけていたことがある。

 

 たまたま首に不快感を感じた俺が起きたことに気付いてそいつらはみんな逃げだしたが、結局俺がその時の担任の先生に「殺されかけました。」とそいつらの名前を報告したことで全員親同伴で家に謝りに来た。

 そいつらの親は平謝りだったが、そいつらは「死神なんだから殺さないと俺らが死ぬだろうが!!俺らは正義なんだぞ!!」とよくわからない理屈をこねて結局謝ろうとしなかった。そんな奴らばっかりだったから俺は1年から通っていた小学校からそれをきっかけに近所の別の小学校へ俺は転校した。

 

 転校した先の小学校では3階の窓から外へ落とされたことがある。というか、これが原因で完全に命の危機を感じた俺は親に頼んで近所の小学校から遠いところにある小学校へと転校させてもらった。

 この窓から落とされたときは運よくゴーヤを育てるために2階の窓から垂らされていたネットの上を転がるような形で下まで転げ落ちたから助かった。しかし、もしそのネットがなかったら?

 今考えてもぞっとする。

 

 そんな風に狂った状況で幼少期を経れば当然狂った人間が出来上がり、普通ならそれらの恨みをためて全員を殺すなどと言ったトチ狂ったことをしだすのであろう。だが、幸いなことに俺は最期に転校した地域で中学、高校と小学校の頃とはまるで間反対の恵まれた環境下で生きていたことでそこまで狂わずに済んだ。

 

 ただし、結局狂って()いた。

 

 自分の優先順位が異常なまでに”下”にあるのが中学時代の頃から友人たちからも注意されていた俺の抱える問題(やみ)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が生きた地獄(それ)を人に言うつもりはない。だけど、俺の優先順位が低いのはアイツにずっと言われていた通りやっぱ治すべきなんだろうな……

 

 転校したてだった俺を引っ張って人の輪の中に連れ込んでくれ、俺の抱える事情を知った上でそれを笑って「だからなんだ」と言い飛ばした親友(あいつ)のことと、いつも俺に向かって言っていた言葉をふと思い出す。

 

『お前はその自分なんかどうでもいいって考え方やめねーとなにもできないまま終わるぞ』

 

 そんなアイツが口癖のように俺に言っていた言葉を思い出しながら俺は近くの山の中にある高台から光舞う都市を無言で見ていた。




 ブラザーズの変身音声はうろ覚えの平成ジェネレーションズの際の音声です。
 もし正規の音と一緒だったら教えてください。直します。

 感想、評価を楽しみにしています。

 ……なかなかお気に入りとか伸びないけど頑張りますよ?

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