魔法少女救命計画   作:先詠む人

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 さて、キリヤさんどうなるんだろうねー
 考察班によるとリプログラミング前と後で蹴り方が違うから何か影響があるのではとか言われてるし、個人的には映画の予告で白衣にいつものアロハだったから大丈夫だと信じたい……(ハイパームテキを買いに今朝は本屋の上にある電気屋のおもちゃ売り場へときっと走ってるはず)←これ書いたの月曜日

 ………滑り込みセーッフ!!(これ書いてるの19時48分)

 ハイパームテキは無事購入できました。そのあとに続いたお使いミッションのせいでまだ箱から出していないのでこれから開けたいと思います。


9th stage 交わるInformation

「よっこらせ……っと。」

 

 鉄塔の先端についている電波送信機をメンテナンスするときに使用する梯子に手をかけ、昇る。

 一段、また一段と昇っていくうちに高さはかなりのものになったが、それでも俺は昇るのをやめなかった。

 

 5分ほどの間ひたすら無心に昇り続けていると、上の方から物騒な気配を感じた。

 微かに聞こえてくる声の感じからしてラ・ピュセルが何かしたのだろうか。

 

 そんなことを考えながら登るペースを上げる。

 

「よっこらせっと……」

 

 そうして俺は最期のタラップに手を伸ばし、首から上を鉄塔の先端付近にあるメンテナンス作業用に取られているスペースへさらした。

 そうやってさらしたその目に映ったのは張り詰めたかのような雰囲気を纏いながら大剣を道を塞ぐかのように構えるラ・ピュセルとその剣によって道を妨害されて不機嫌な様子のハードゴア・アリス。

 その奥にはスノーホワイトが三角座りをしているし、ハードゴア・アリスよりもこちら側にはリップルとトップスピードがいた。

 

 あまりにも緊張している様子だったが、俺としてはこの梯子にしがみついている体勢でずっといるのはいつ落ちるかわからない恐怖と戦い続けなくてはいけないから精神的に厳しいので声をかけた。

 

「えっと……来いって昨日言われてたから来たんだけど……これって修羅場?俺いない方がいい?」

 

 ぶっちゃけ、いない方が良いならこのまま帰ってゲームエリアにでも飛んで寝たい。そんなことを考えながらそう尋ねるとつば広の帽子をかぶったトップスピードが驚いたかのような表情で振り返り

 

「嘘だろ……」

 

 と、呟いた。

 リップルもこちらを見て何故か驚いた様子で見ている。

 スノーホワイトも伏せていた顔を上げてこちらを見ているし、ラ・ピュセルは目を丸くしてこちらを見ているし、ハードゴア・アリスは…………あ、スノーホワイトの方にゴキブリのようにサッと迫ってスノーホワイトが白目剥いて気絶した。

 

「とりあえず、上がってもいいか?この体勢地味につらい……」

 

 ひとまず疲労が腕に結構キていたので上がっていいかどうか尋ねる。

 それに対してトップスピードが

 

「いいぜ!上がって来な!!」

 

 と言ってくれたので

 

「じゃ、遠慮なく。」

 

 と言いながら最後の段を上がり切って体をメンテナンス作業用のスペースに放り投げた。

 

「ふぃ~」

 

 ここまでの間ずっと全身運動のような負担がかかっていたせいでかなり疲れていたので、肩に手を当てながら脱力する。

 そうやってだる~んとでも効果音が付きそうな感じでだらけていると

 

「おい。」

 

 と言いながらラ・ピュセルが俺の顔のすぐ真横に剣先を突き刺した。

 とがった剣先はメンテナンス作業用のスペースの床を構成している金網の隙間に突き刺さって嵌まる。

 

「決着をつけるぞ。今ここで殺すから遺言があるならば言え。」

 

 冷たい目でこちらを見下ろしながらラ・ピュセルはそう言った。

 

「遺言……ねぇ………」

 

 そう言いながらチラと横目で周りを確認する。まだスノーホワイトは白目をむいたまま回復していないからストッパーにならない。ハードゴア・アリスは横に入れて満足そうだからラ・ピュセルを止めないだろうし、他の2人は困惑している様子が強い。

 

「ハァ………」

 

 ため息をつく。まさか、原作知識を変な使い方しなきゃマズイ事態になるとは思ってもいなかった。

 未だに自分が優位な立場にあると思っているのかラ・ピュセルは余裕そうな表情を浮かべてこちらを見下している。

 

「ほっ!」

 

 ダンスとかで頭を軸に回転する技とかがあるけれど、それの要領で体を回転させて素早く身を起こす。そして俺が急に動いたことで剣を抜こうとするが、金網に剣先が引っかかっているせいで剣を素早く抜けないラ・ピュセルの耳元でこう囁いた。

 

 「そっちこそ()()()()致命的な秘密を抱えているくせに……変態。」

 

 と。

 

「-----!!!!」

 

 囁いたすぐ横でラ・ピュセルの顔が憤怒だろうか、恥ずかしさだろうか。どちらによるものかまではわからないが真っ赤に染まる。

 

「ハハハハハハッ!!」

 

 |いつも彼氏気取りみたいなクイック宝具の復讐者《エドモン》のような笑い声を上げながら少し下がる。何故か某作品の声が渋い麻婆の気分が分かったようなわからないような気分になったがすぐに気持ちを切り替えた。

 

「別に取って食おうとしてるわけじゃねーし、俺は情報交換しに来ただけだよ。」

 

 両手に何も持っていないことを証明するかのように顔のすぐ真横でWピースしながらその指先をピコピコと曲げ伸ばしする。

 

 それを見てラ・ピュセルは落ち着く………

 

「そんなこと知るか!!お前それをどこで知ったぁぁ!!!」

 

 

…………わけがなかった。まぁ、当然と言えば当然か。

 

「……こないだ偶然見かけた。」

 

 まさか、「転生者だから知ってる」なんて言えないから適当にごまかす。

 

「こないだ………?何時だ?何時なんだ?

 

 どうも目の前の竜騎士は心当たりが結構あったみたいで頭を抱えて思考にふけり出してしまった。

 それを見て少しだけ考えて呟く。

 

「………ま、ほっとくか。」

 

「ほっとくのかよ。」

 

 即座にトップスピードからのツッコミが入ったが。そうやってグダグダしていると

 

「……本題は」

 

 リッピルがそう言ってこちらの方を見ながら急かしてきた。それに対して俺は

 

「スノーホワイトこのまま気絶させておくわけにもいかねーし、少し寒くなってきたし、情報交換するにもなんかのみもんあった方が良いだろ?」

 

 と、トップスピードとリップルの2人に尋ねた。二人は顔を少し見合わせてからリップルがそっぽを向く。

 

「確かにできればそっちの方がありがたいかなぁ~、でもそんなのできないだろ。」

 

 そっぽを向いたリップルとは対照的にトップスピードが苦笑いしながらそう言ってきた。まぁ、確かに今から普通の喫茶店とかに行くのは無理だろうけれど……

 

「いや、あるぞ。この時間に空いてて確実に安全で情報漏れがない店。」

 

 俺には()()がある。

 

「全部セルフでやらないといけないのがたまにキズだけどな。」

 

 そう言いながら俺は腰にゲーマドライバーを当て、赤と黄色で塗装されたガシャットを取り出した。

 

「「!!」」

 

 目の前の2人が身構える。

 

「まーまー、そうやって構えんなって。別に変身するわけじゃねーから。」

 

 俺はそう言いながらスイッチを押し込んだ。

 

JUJU(ジュージュー) BURGER(バーガー)!!> <~~♪>

 

 軽やかなリズムで手を叩くような音とラッパのような音が鳴るのと同時に赤と黄色で描かれたグリッド線が周囲一帯に走る。

 

「ステージ移動。」

 

 それを確認してから俺はドライバーの左腰についているキメワザスロットホルダーのスイッチを押し込んだ。

 

<STAGE SELECT!!>

 

 俺の周囲を囲むかのように13個の窓が浮かび上がり、その中からMのロゴが浮かんでいる窓を選択する。

 

 その瞬間、メンテナンス作業用の小さなスペースを囲むかのように光の柱が一瞬だけ浮かび上がり、その光が消えたときには()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

◇ブブブンブブンブブブブブン!!◇

 

 周囲を覆うように光の柱が立ち、そのあまりのまぶしさに目を閉じてしまう。

 すると昔一度だけ昇一とデートで言ったことがあるような高層ビルのエレベーターで高い階から一気に下の階へと降りたときに感じた感覚と近い感覚に襲われた。

 

「うッ」

 

 魔法少女の姿の時はおなかの中の子供に影響はないはずなのに、ちょっとえずきそうになった。

 体感時間的には数秒ほどだろうか。それぐらいの時間を超えると、さっきまで鉄塔の上のスペースだったはずの場所は某ファストフードの店内のような雰囲気の場所へと変わっていた。

 

「は?」

 

 開いた口が塞がらないと言う言葉はこういったときに使うべきなんじゃねーの?そんなことを考えていると

 

「さてさて、ちょっと失礼っと。」

 

 そう言いながら魔獣はカウンターの奥の方に入っていき、

 

「当分起きないかもだからこれ掛けといてしばらく寝かせてあげておこうか。」

 

 そう言いながらいまだに白目をむいて気絶しているスノーホワイトに持ってきた毛布を掛けてやっていた。

 それを見てすぐ横に立っているあの黒い魔法少女がぺこりと頭を下げる。

 

……………はっ!?どこだここは!!魔獣、貴様何をした!!」

 

 そんな風に魔獣と黒い魔法少女がしていると、さっきまで混乱していた様子のラ・ピュセルが復活して強い口調で問いただした。

 

「何って……ステージ移動?まぁ、瞬間移動的なものだと思っといて。」

 

 昔お世話になったときに警察の爺さんにやられたときみたいに強い口調で問い詰めるラ・ピュセルの追及に対して魔獣はさらっと流し、

 

「コーヒー居る人~。」

 

 と、のんきに聞いてきた。

 

「お……おぅ。」

 

 とりあえず手を挙げる。なんというか、疲れてきた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分ほどして、魔獣が自分の分として持ってきたウーロン茶と俺の分のコーヒー、後黒い魔法少女が欲しいといったコーラを持ってきた。

 

 魔獣の誘導に従ってひとまずテーブルに座る。

 

 スノーホワイトは黒い魔法少女とラ・ピュセルがバチバチ言わしてる間にリップルが何気に背負ってそのまま運んでいた。

 

「ま、とりあえず確認したいことがあってそれからでいいか?それ済ましたらちゃんとそっちの質問に答えられる範囲で答える。」

 

 席に座るなりそう言って魔獣はさっきまでとは違って真面目な雰囲気を出しながら切り出した。

 

「いいぜ。とにかくこっちにはたくさん聞きたいがあるからな。」

 

「………」

 

 リップルがテーブルの下で苦無を抜いて今にも投擲しようとしているのを必死に抑えながらそう答える。

 

(投げるなよ……!!)

 

 内心そう思いながらも俺は目の前の魔獣がどんな質問を聞いてくるのか待った。

 魔獣は何かを躊躇するかのように少しの間口を開けたり閉じたりしていたが、最終的に覚悟を決めたかのように目を閉じてからこう尋ねてきた。

 

「……一昨日俺に会ったか?会ったのならその時の俺の様子も教えてもらえるとありがたいんだけど……」

 

「………は?」

 

 その質問の意味を捉えられず、聞き返す。

 

「だから、一昨日俺に会ったかってまず聞いてるんだ。会ってないなら会ってないでいいし会ったのならその時の俺の様子を教えて欲しい。」

 

「……なんでそんなことを聞く?」

 

 リップルが横でそう口を開き、言葉を物質のようにできるのならばきっとイガグリ並みにとげとげしい気配を出しながら放った。実際俺も同じことを思っていたから首をかしげながら

 

「それを聞いてお前にとって何になるんだよ?」

 

 と、たずねる。すると

 

「俺にとってはそのどうでもよさそうなことが結構大事なことだからな。それで?どうなんだ?」

 

「…………ウザ。」

 

「リップル!!あ~、もう怒るなって。……一応俺らっていうか、リップルが一応一昨日お前が人助けするのを近くで見てる。俺は遠くから見てたからどうなのかわからないけどな。」

 

「そうか、なら正直に教えて欲しい。俺の目、その時に()()()()()()()()()()?」

 

「!?」

 

 横でそっぽを向いていたリップルが息を詰まらせるような気配を見せた。

 

「……その感じだと、光ってたんだな………道理で一昨日の記憶がねーわけだよ……」

 

 魔獣としては小さな声でつぶやいたつもりだったんだろうが、その言葉は俺の耳に引っかかった。

 

「一昨日の記憶がない?どういうことだ?」

 

 反射的にそう尋ねる。すると、魔獣は

 

「うぇッ!!」

 

 と、驚いた様子を見せてから

 

「………若しかして聞こえてた?」

 

 そう聞いてきた。俺はそれに対して黙ってうなずく。すると魔獣は

 

「………聞こえてたのなら仕方ねーや。正直に言って俺の記憶が一昨日の丸一日分無いんだ。」

 

 突然のカミングアウトをしてきた。その言葉をうまく呑み込めずにいる俺たちを置いておいて魔獣は話し続ける。

 

「そこで気絶している白い魔法少女の子(スノーホワイト)には昨日の時点で言ったけど、俺の記憶は3日前の年増との戦闘の時から昨日廃墟になった倉庫で気づくまで飛んでる。」

 

「……嘘はついていないんだな?」

 

 正直敵キャラとしてファブから説明を受けている子の目の前の男を信用できないせいで半目になりながらも尋ねる。すると

 

「これに関しては嘘ついてたら黙ってこの首突き出してやるよ。」

 

 目の前の魔獣は笑いながら自分の首を切り裂くかのように手刀を左から右へと動かし、そう言った。

 だが、口こそ笑っているが、目はまったく笑っていなかった。それを見て俺は口を開いた。

 

「……そうか、なら信じてやる。」

 

「っ!!」

 

 俺がそう言うと横でリップルが動き出そうとして、すぐさまその腕を抑えつけた。

 

 「落ち着け。こいつは嘘をついたら自分から首を差し出すって言ってるんだ。今ここで動くわけにはいかねーだろ!!」

 

 小声で必死に苦無を投げさせないようにしながら釘をさす。その必死な様子を見てリップルは数秒後

 

「チッ…」

 

 舌打ちをしながらだったものの手に入れる力を抜いた。

 

「ふぅ……」

 

 安心して俺も握っていた手を放す。そうしていると魔獣が

 

「そう言えば俺はそっちから魔獣って呼ばれてるけど、俺はそっちのこと知らない。それってアンフェアじゃね?」

 

 と言いだしたが、

 

「お前に教える名なんてない!」

 

 横からラ・ピュセルが唐突に割り込んできてそう言った。すると、魔獣は

 

「………ま、そっちがそのつもりならいいけど。」

 

 と言ってから

 

「ふぅ……」

 

 と一息ついた。そして

 

「話の邪魔になりそうだし昨日からずっとあんたから謂れのない悪行言われてこっちも腹立ってんだよね。」

 

 そう言いながら魔獣はラ・ピュセルに指をさし、告げた。

 

「退場。」

 

 その瞬間、ラ・ピュセルの身体が一瞬だけ縦に引き伸ばされたかのように見え、

 

「貴様一体なn」

 

 言葉を発している途中でピチュンと言う音とともに()()()

 

「「!!」」

 

 すぐ横でリップルが苦無を両手の指の間に挟んで構える。俺も箒を取り出して、いつでも殴り掛かれるようにした。

 

「そんな殺気立つなって!!別に殺したとかそう言うわけじゃなくてこのエリアから退場してもらっただけだから!!現実に戻ったら普通に合流できるから!!」

 

 そんな俺たちの様子を見て魔獣は慌てたかのように手を目の前でぶんぶんと横に振りながら訴えてきた。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 3人の中で緊張感が高まる…………その時

 

「ケプ…お代わりもらえますか?」

 

 ラ・ピュセルがいなくなったことで何か思うところでもあったのだろうか、どこか満足そうな顔をした黒い魔法少女がそう言いながら俺たちがいるテーブルに空になったLサイズの紙コップを置いた。

 

「あ、お代わり?」

 

「あららら……」

 

「……チッ」

 

 立ち込めていた緊張感が一気に霧散する。

 俺は気が抜けてしまったし、魔獣のほうも魔獣の方で人心地ついてしまったようだ。

 

「それじゃあ、撮ってくるからちょっと待ってて。」

 

 そう言いながら黒い魔法少女の頭を軽くなでて魔獣はカウンターの奥へと入っていく。

 

 テーブル周りには俺とリップルと、不気味な黒い魔法少女だけが残された。スノーホワイトはすぐ横の方のテーブルに備え付けられた椅子をベッドの代わりに眠っている。

 

「「「…………」」」

 

 一瞬、場に沈黙が流れたが、黒い魔法少女が

 

「………あなたたちはあの男の人を信頼していないかもしれませんが」

 

 と口を開き

 

「あの人が私たちに害をなそうとしていないのはこれまでのことでわかるはずです。それだけは信用してあげるべきでは?」

 

 そう続けた。

 

「「…………」」

 

 俺もリップルもその言葉に対して黙ることしかできなかった。

 

「お待たせ。お代わり持ってきたから。」

 

 そう言いながら魔獣がLサイズ紙コップ並々にコーラを注いだものをもって戻ってくる。

 

 それを見ながら俺はコーヒーが入ったカップに口をつけた。

 

「………ぬりぃ……けど、〇ックのだ。」

 

 口をつけたコーヒーは冷めたせいで渋みが出てうまさがどこかへと行ってしまっていたが、確かにその味は昔仲間と夜通し走り回った後にドライブスルーで購入していたコーヒーと同じ味だった………

 そんなことを考えていると

 

「さて、それじゃあやっと本題に入りますか。」

 

 魔獣がどこかから回転する椅子を持ってきて背もたれの方に腹を預けるような座り方でそれに座り、告げた。

 

「俺が求めるのは情報、そっちが求めるのも多分同じ。だったら答えは単純。情報交換でもすればいいだけの話だ。」

 

 そんなことを言いながら座ったままで回転いすを魔獣は回転させる。

 

「そっちが求めるものはなんだ?」

 

 そして数回ほど回ったあたりでこちらを向いて止まり、そう聞いてきた。

 

「「「………………」」」

 

 場に沈黙が発生する。

 そんな中で俺は最初に口火を切った。

 

「ひとまず、お前の目的ってなんだよ。」

 

「俺の目的は人助けだ。」

 

「お前が最初に聞いてきた質問の意味は。」

 

「記憶が飛んだ理由について俺が立てた仮説があっているかどうか確かめるためだ。」

 

 と、質問と答えの応酬をしていると

 

「あなたはあの時子供と一緒にバスに轢かれてどう考えても死んでた。なのになんで死んでない?」

 

 リップルがそう言いながら割り込んだ。それに対して魔獣は

 

「あの時って言うのがどの時なのかがわからない。バスに轢かれた覚えもない。」

 

 と答える。どうも、目の前で見る限りさっき言っていた記憶がないというのは間違いなさそうに思えた。

 

「………昨日、俺らは街中でお前が子供助けようとして一緒にバスに轢かれるのを見たんだよ。」

 

 俺は昨日見たことを説明し始めた。その説明を聞くと魔獣は

 

「……いや、ホントに覚えがない。ただ、何が起きたのかぐらいはわかると思う。」

 

 と返してきた。そして

 

「たぶん、話を聞く限りエナジーコインで自分の速度を上げてその場から高速で離脱したんだと思う。」

 

 と真顔で言ってきた。

 

「エナジーコイン?」

 

 言っている単語の意味が分からずに聞き返す。すると魔獣は

 

「ヒゲの配管工で言うキノコとか、大乱闘するゲームで出てくる必殺ボールとか、そう言ったゲームとかで言う強化アイテムみたいなのだな。色んな種類があって重ね掛けすることもできる。」

 

 と答えてきた。

 

「はぁ。」

 

 ヒゲの配管工のゲームは小さい頃にやったことがある。確かにあのゲームの主人公はキノコを食べたら大きくなったり花を食べたら火を吹くようになったりしてた。

 それの代わりにコインって言いたいんだろうか目の前の魔獣は。

 

「訳が分からんって顔してるけど実際そうだからな。」

 

 気づかぬうちにアホ面でもさらしていたのだろうか。魔獣は俺に指をさしてそう言ってきてから。

 

「とにかく、そうやって多分俺は子供を抱えて?その場から離脱したんだろうさ。それで聞きたかった理由としては」

 

 と話を切り上げ、

 

「俺の身体が()()()()()()()可能性があったからだ。まぁ、実際そうだったみたいだけど。」

 

 何の前触れもなく爆弾発言をしやがった。

 

「乗っ取られ………どういう意味だよ?」

 

 困惑を隠しきれずにそう尋ねる。すると

 

「俺が使ってるこれ」

 

 といいながら魔獣はコートの下から先ほども出していた黄色と赤の二色で染め上げられた謎の物体と同じ形をした黒いものを顔のすぐ真横の方へ持ち上げた。そして

 

「ガシャットっていうんだけどな。これを使う際に人によっては中に入ってる術式に体乗っ取られる場合があるんだよ。」

 

 そう言いながらその物体_ガシャットをテーブルの上に置いた。

 

「俺はこれまで大丈夫だったから問題ない人かとずっと思ってたんだが、案外そうじゃなかったらしい。」

 

「なんでそんなことがわかるんだよ。」

 

 問題ない人だと()()()()()と言ってきたからその根拠はなんだよと反射的に問い返す。

 

「問題あったら今頃俺は()()()()()()()()()からだよ。」

 

 その俺の問いに魔獣は据わった眼付をして答えた。

 

「このガシャットの中に入ってる術式はかなりの効果を所有者にもたらす。だけどその分危険(リスク)がデカいんだよ。適合しなかったら死ぬ。適合しても下手したら死ぬ。まぁ、ワクチン接種してもインフルエンザに感染することがあるみたいなもんだ。」

 

 魔獣はその眼付きのまま続ける。

 

「俺は運よく適合出来てな。問題があったら体が霞んだりとか熱っぽくなったりとかそう言った現象が起きるはずなんだが、それがなかった。だから大丈夫だと思ってたんだが……」

 

 そして魔獣はそこで言葉を一回きり、

 

「目が赤くなった俺が目撃されたってことは体を乗っ取られてる証拠だし、うまく適合していなかったか始まりの男と同じ状態になったか……どっちかってことだ。」

 

 始まりの男と言うのが誰なのか正直気になったが、続きを聞きたかったのもあって促す。

 

「まぁ、乗っ取られてるにしては暴れてる様子が見られなかったし後者の可能性が高いから少し安心だけど……」

 

 色々と気になる言葉が出て来たせいでついていけなくなりそうになった。

 

「ま、とにかく乗っ取られたそうじゃないはこっちの都合だからそっちが気にしなくていい。他に何か聞きたいことでもあるか?」

 

 そんなこっちの都合なんてまったく関係ねぇとでも言わんばかりに魔獣はそう言って尋ねてくる。すると

 

「……魔獣さんこの間駅前の広場で歌ってましたよね……」

 

 未だに顔色が白く、震えているがスノーホワイトがよろよろとこちらへと歩いてきた。

 

「そうだけど聞いてたの?」

 

「はい。けど、その時の魔獣さん他の人から聞いたみたいにノイズも何もかかってませんでしたしこの姿で会ったときもラ・ピュセルと違って私ははっきりと姿が最初から見えてました。」

 

「……ちょっと待って、ノイズ?どういう事?」

 

「えっと、魔獣さんって前にルーラさんたちと戦ってましたよね?」

 

「ルーラってのが誰なのかはっきりとわからないけど………そうだな。多分そうだと思う。」

 

 魔獣は頭を掻きながらそう答えた。

 

「その時に魔獣の声には変なエコーがかかっていて聞き取れず、その姿はノイズがかっていて見えなかった。って聞いてたんです。」

 

「は?俺は知らんよ?」

 

 魔獣はまったく知らなかったみたいでアホ面を見せながらそう言った。

 

「だからあの時、魔獣さんって聞いてたのと全く同じ特徴の人が普通に歌ってるのを見て私は何かおかしいなって思ったんです。とはいっても一昨日の夜に会うまでは人違いであってほしいと思ってたんですけどね。」

 

 魔獣を見ながらいまだにプルプルしつつ、スノーホワイトは魔獣と話し続ける。

 

「っても知らないもんは知らないからなぁ…………心当たりもないし。」

 

 そう魔獣が言ったタイミングで俺も口を開いた。

 

「俺は最初から普通に見えたし、普通に話せたぜ?だからチャットの内容をみて変だなって思ってたんだけど、俺だけじゃなかったのか。」

 

「あ、そうなんですか?」

 

「………変ですね。」

 

 場に活気がなくなった。数秒ほど沈黙が続いて、

 

「…………もしかして何か条件があるんじゃないか?昼に一度俺に会うか何かしてるとか、接触したら大丈夫とか。」

 

 魔獣がそう言いながら口を開いた。

 

「………それだぁ!!」

 

 その言葉で気づいた俺は立ちあがり、叫んだ。

 

 魔獣がそれにびっくりしたのかビクッと体を震わせる。

 俺は一応、変身前も後も昼の間に魔獣に会ってる。スノーホワイトも同じみたいだ。2人分しか情報がないからはっきりそうとは言えないけれどもその可能性は高いと思った。

 俺がそのことを説明すると

 

「………となると、魔獣って言うのはファブが勝手に言ってるだけ……ってことですか?」

 

 スノーホワイトが首をこてんと傾げながらそう尋ねる。

 

「てか、俺は正真正銘人間だぞ?」

 

 その言葉を聞いたのか、魔獣がそう抗議してきた。

 

「純粋に人間なのに獣呼ばわりされるわ、襲われるわ、殺しにかかって来るわ話通じてる気配ないわ、賞金首にされてるみたいだわやってられないって思ったし。」

 

「うぅ……」

 

 その言葉を聞いて何か思うことがあったのかスノーホワイトが唸り声を小さく上げた。

 

「………名前。」

 

 ぽつっとさっきからずっと黙っていた黒い魔法少女が銜えていたストローから口を話してそう呟く。

 

「???」

 

 怯えながらも今度は気絶しなかったスノーホワイトを除いて全員の目がそちらへと向く。

 

「…………魔獣じゃないのならば、名前を教えてください。私の名前を知りたいのならば先に答えます。」

 

 4人分、合計8つの目を向けられているにもかかわらず黒い魔法少女は物怖じしていないかのようにそう言った。

 そしてそれを聞いて魔獣も

 

「あ、そっか。そう言えば名乗るどうこう以前の問題だったから未だに俺名乗ってねーわ。」

 

 と、今更な事実に気付いたかのような顔を見せ、

 

「俺の名前は…」

 

 口を開いて音を紡ぎだした。

 

 

 

 

 

◇ガシャット!!◇

 

「俺の名前はかがm………」

 

 ハードゴア・アリスの言葉を聞いてから初めて自分の名前を名乗ってないことを思い出した。

 それじゃあ…と本名を名乗ろうとして、ふと気づく。

 

(あ……何らかの理由で俺の本名がルーラとかに伝わったらこれかなりヤベェんじゃねーか…………?)

 

 と言うある意味簡単で結構死活問題になることに。

 ルーラの魔法には相手を指定するという意味で名前を呼ぶ必要が条件として入っている。

 

 俺が覚えている限りルーラの魔法が発動するのに相手を指定する項目以外で必要な条件は以下の3つ。

 

 ポーズ、杖、筋力の3つだ。

 

 先に上げた3つはほとんど名前と関係ないが、それは逆に名前を知られたらヤバいということを同時に差している。

 そんな状態でもし俺の本名がバレた場合、ルーラの魔法の有効範囲の射程内に簡単に俺が入ってしまうんじゃないだろうか?

 

 そんなことを考え、動かしていた口を止める。

 

「……どうしたんですか?」

 

 急に押し黙った俺のことを心配したのか、スノーホワイトが心配そうに俺の顔を覗き込む。

 

「……あ、いや。何でもない。」

 

 それを見て俺は若干の罪悪感に襲われながらも()()を吐くことにした。

 

「…………………俺の名前は、マドカダイゴだ。」

 

(ま、昔から遊びの時とかに使ってるある意味本名と言ってもいい偽名だけどね………)

 

「ッ!!今嘘つきましたね!!!」

 

 そんなことを考えたせいだろうか、即座に緑色のオーラを身に纏ったスノーホワイトからの指摘が入る。それに対して俺は

 

「あいにくと、昔嫌なことがあったせいで俺は他者をあまり信用できない性質(タチ)なんでね。この街にいる魔法少女の中に名前で人を操れる能力を持った奴もいるかもしれない。だからそんな魔法少女はいなくて、本名を知られても完全に安全って保障ができるまではこの名前で通させてもらうよ。」

 

 そう悪役のように告げてケラケラと笑う。そうでもして無理やり笑わないと精神を保てそうになかった。

 

 はぁ……信頼されないといけないのに嘘つかないといけないとか罪悪感に押しつぶされそうだ………。

 

 心が可視化できるのならばべっこべこにへこんでいく様子を幻視しながらそんなことを考える。しかし、そうやって考えていることがバレたらまずいので顔に考えていることが出ないように内心ため息をつきながら俺は印象操作のために無理やりニヒルに嗤いつつ、少し震える手でココアシガレットを口に銜えたのだった………

 

「………………」

 

 …………………こっちをそんな死んだような瞳でじっと見られると、本気で小さいころに友人に誘われて初めてやって恐怖のあまり失禁しかけたバイオハザードに出てきたクリーチャー思い出して怖いから止めてくれハードゴア・アリス…………

 

See you next Stage!!




 感想、評価を楽しみにしています。

 今週がゴルフなんて知らねぇなんて勢いで書いたので来週はその反動で死んでるかも……

 なお、偽名の由来はちょっとした言葉遊びと特撮知識でわかります。
 感想欄でご自身の推理を披露してみてください。解答解説をお返事の際に書かせていただきます。

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