規模から言って自殺だと思うけど………飛び込み自殺だけは止めた方が良いと思う。
電車は止まるし、そのせいで他の人は迷惑かかるし、運転士さんはトラウマ抱えるし、自殺した家族の人は損害賠償何千万って払わないといけない時もあるし。
社会がツラいのはわかるけど、そのせいで誰かも自殺する原因になるかもしれないから本当に止めた方が良い。
私は尾白君と別れ、一人山岳地帯へと向かった。
何となくだが、こっちにモモがいる気がするのだ。こういった私の勘は馬鹿に出来ない。何故なら感知の半分が勘だから。これに私は幾度となく助けられたことか………。
そんな事を考えていたら山岳地帯の方から、放電のような光が見えた。
………あれは誰の個性だろう。最悪敵だとしてもモモなら絶縁体を作り出せるから………ハッ!!
私はこの時、第六感とも言うべき閃きが頭の中を駆け抜けた。
もしモモがあの放電を防ぐために人を覆える絶縁体の何かを創り出していたら………モモの衣服が弾け飛ぶじゃないですか!!こうしてはいられん!!
私はモモがいるかどうかも定かではない場所へと、今出せる限界の速度で走り抜けた。
そんで着いた。
その場に着いてみれば、倒れ伏す人々と、俯いてる金髪の少年と、シートのような物が何かに覆い被さって小さな山が存在していた。
そのシートの山の端が捲れたのを見た瞬間、私はその隙間へと突入した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお、モモォォォオオオオオオ!!!!!」
「きゃっ!な、何ですか!?」
可愛らしい声を聞き取りながら、私は細く滑らかな曲線を描く身体、そして顔に吸い付く肌触りの良い二つの柔らかいメロンに抱きついた。
「モモぉぉぉぉぉ!!!なんて格好をしているの、早く着替えなさぁぁぁぁぁいい!!!」
「そ、その前に椿がはなッ………ゃあっ!」
「くっ!なんて反発力と肌触りの良さ!!そしてこの細く引き締まった抱き付きやすいお腹!!こんなクッションが欲しい!!」
「椿ッ………ほ、ホントにやめぇッ!」
「あんたは何やってんのさ………」
私がひたすらにもふもふスリスリさわさわしていると、隣から凄く呆れたような声が聞こえた。
シートが覆い被さっているせいで中が暗く見えないが、この声と気配は響香だとわかった。
「あっ、響香。貴女も一緒にいたんだね。無事でいて何よりだよ」
「それより早く百から離れれば?なんかシートがプルプルしてるよ?」
おっと。
今にも怒り出しそうなモモに気付いた私は、シートから出て退散する。
ふむ………しかし派手にやったものだ。
私は周りに倒れている敵らしき者達を見てそう思った。
皆焦げている所を見るに、やはりかの光は放電だったのだろうと当たりを付けて、その放電の犯人らしき金髪の少年に目を向ける。
そこで私は思いっきり噴いた。
「ブハッ!」
「うぇ~~~いうぇい」
間抜け面を晒しながらうぇいうぇいサムズアップを繰り返すこの少年。入試以来のその姿に思いっきり笑ってしまう。
く、苦しい!お腹が…お腹がねじ切れる!
倒れ伏すヴィラン達の中で、一人だけ立って変なことしているこの少年のシュールさと言ったら………というかコイツらこんなアホ面に負けたのか………!
お、お腹が………お腹がッ!!
そんな一人の少年と悶える私で場が更に混沌としていると、シートから着替えたモモと響香が出てきた。
「椿………貴女何やってるんですか……」
「あ、あれ………あれ、見て………ブフッ」
「ブハッ!なにそれ上鳴!笑っちゃうから止めて!!」
どうやら、私がプルプルしながら頑張って指した方向に目を向けた響香は、私と同じお腹痛い村の住人となってしまったようだ。
というか上鳴君と言うのか彼は。………ヤメテ、その顔と行為をヤメテよ!ツラい!息が出来ない!
その時だった。
お腹を抱えて私が蹲っていると、突如上鳴君の足下の地面から一人の男が飛び出してきたのだ。
「「!!?」」
「く、苦しい………」
飛び出してきた男は、そのまま上鳴君の背後に回り彼の襟首を掴むと、その顔を手で覆った。
「テメーら。手ぇ上げろ。個性も禁止だ。じゃねーとこのコイツをぶっ殺す」
「上鳴さん………!!」
「しまった!完璧に油断した!」
「同じ電気系の個性だから殺したくはないが………仕方ないよな」
「うぇ、うぇ~~い………」
「ブハッ!!」
どうやら男は、頭がイッてる上鳴君を人質に捕ったようだけど、私はそれどころじゃなかった。彼の姿を直視できないのだ。
は、反則過ぎる………人質にされてるのに、未だサムズアップを止めないとは………も、もうダメッ!
「アハハハハハハ!!ヒィー、お腹痛いッ!!シュール過ぎだからその顔!」
「ちょっ、椿。あんた真面目にやりなよ」
「だ、だってぇ」
私は声を大にして大笑いしてしまった。恥ずかしいが、声を抑えることが出来なかったのだ。
何とかモモと響香の方を見れば、二人は手を上げて降参のポーズを取っていた。その顔は真剣だった。
「おい、そこの女!テメーもさっさと手ぇ上げて大人しくしろ!じゃねぇとこの人質ぶっ殺すぞ!」
「まっ………うくっ、そっちを見るとまた笑いが………い、息整えるから、少し待ってぇ………」
「早くしろよ!」
男はそう言うと、モモと響香の方に視線を向けた。どうやら笑っている私は暫く動けないと思い、警戒を二人に絞っているようだ。
「ヒィヒィッ………スゥー……ハァー………」
よし。大分息が整ってきた。呼吸方もバッチリOKだ。
何時ものように深い呼吸をして身体を落ち着かせる。そして着物の袖から見えないように五本の針を手に取り、男に向かって投げつけた。
「ぐっ、ぃぃがぁぁぁ!!」
見事私の針は男の方へと吸い込まれるように向かい、ナイフを持つ手の甲と、肘、脇を深く貫いた。
その痛みでナイフを取り落とした男を見て、すぐさま男に迫り木刀でぶっ叩いた。
「ぶげらッ!!?」
男は私の一撃を受けて吹き飛び、そのまま動かなくなった。
フゥ………一時はどうなるかと思ったぜ。
「いくら相手に戦意が見えないからって視界から外しては駄目よ。演技かも知れないんだから」
「ナイス奇襲ですわ。さすが椿」
「あれは絶対演技じゃなかったと思うけど………」
それはそれだ。気にしちゃいけない。
とにかく最後の一人を倒した私たちは、未だうぇいうぇいやってる上鳴君の無事を確認して現状把握に努めた。
「さてと。こうして私たちは合流出来たわけだけど………どうする?」
「やはり他の方々の所へ向かった方が良いのでは?」
「待って。先生達の所に無事なことを伝えるのも大事だと思うよ」
「そうだねー………なら、二手に別れよう」
まあ、こうするのが無難だろう。そちらの方が効率が良いし。
問題はこの上鳴少年なのだが………
「でも上鳴はどうするのさ?コイツがいる方は凄く大変じゃない?」
「てか上鳴君はどういう状態なの?」
「電気の使いすぎでショート状態なのかな。私達もよくわかんないけど」
頭がショート状態………えっ?脳が焼き切れてんの?
私、回路の事なんて詳しく知らないけさ。よく生きてるねこの人。
まあ、生きてるのだからたぶん大丈夫だろう。なら………
「とりあえず殴れば治るんじゃない?」
「「えっ?」」
という訳で、私は硬直してしまった二人を他所に上鳴君に向き直る。
そして、固く握り締めた拳を彼の顔面に叩き付けた。
「ぶぇい"!!!」
クギョッと、首から鳴ってはいけない音を出した上鳴君は四、五メートルくらい吹っ飛び、顔面で地面を滑っていった。
………………
「………つ、椿?大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ」
「………地面滑ってたけど」
「大丈夫だよ」
そんな掛け合いをしながら私達は上鳴君に近付いてみる。
………うん。右頬が腫れてるね。真っ赤だ。虫歯かな?
ツンツンとブーツの爪先で突っついてみる。
………反応がない。ただの屍のようだ。………いや、まて。確かに今動い
「動いてませんから」
「………止めてよ。私の心の中読むの。………ハッ!これが以心伝心という奴か!」
「というか完全にトドメさしーーーーーー」
「いてて………あ?皆俺の事見下ろしてどーした?てかいつのまに邦枝来たんだ?」
上鳴君が起き上がった。生きていたらしい。
フッ………やはり流石私だな。あー言う機械関係は叩けば治ると相場で決まっているのだ。
私の家電製品はポンコツだから手の施しようがないくらい壊れてしまうが、上鳴君はなかなか高性能らしい。
「大丈夫かしら上鳴君。頭がショートしてたらしいけど」
「………なんか、すげー右頬と首が痛ぇんだけど」
「………そっか!大丈夫そうだね!」
「へっ?………あ、ああ………」
良かった良かった。人質に捕られた上鳴君も無傷で救出できたし。
女子二人から責められているような目で見られてるけど、気にしない。
私は視線を無視して先程の話に会話を戻した。
「さて。これで上鳴君も起きたことだし、二手に別れよっか」
「………そうですわね。なら、どのように分けますか?」
「そうだね………私としては一人で先生の所に報告に行きたいかな」
だってその方が早く着くし。モモの個性を使えばモモも着いてこれるけど、出すのに時間がかかるしね。
そんな事を考えていると、上鳴君が待ったをかけてきた。
「ちょっと待ってくれ邦枝。話がよくわからないが………この状況で女を一人にはできねーよ。その役を俺にしてくれ」
「あんた私達より弱いじゃん。さっきまで足手まといになってたし」
「まてまて!………さっき見ただろ?俺一人の方が他を巻き込まないで済むんだよ」
ふむ。上鳴君も男気溢れるヒーロー気質な少年のようだ。
だけど悪いかな。正直いらないです。
「うーん………上鳴君には悪いけど、この役は速く動ける人の方がいいんだよ。伝達役だからね。それにあっちの状況がわからない以上、臨機応変に動ける私が適役なんだ」
「あー………そうなのか。すまんな、余計なこと言って」
わかってくれたようだ。まあ彼の心意気はありがたく受け取っておこう。
「んじゃあ悪いけど、私はすぐ行ってくるね」
「ええ。頼みましたわ」
そんなモモのありがたい言葉を受けて、私は地面を強く蹴って跳び出した。
頑張れレッド!
明日は間に合わんかも