「今日のヒーロー基礎学だが、オールマイトと俺ともう一人の三人体制で見ることになった」
相澤先生が教壇に立ち、これからある授業のヒーロー基礎学に変更を伝えてきた。今度は何をするのだろうか。
「はーい!何するんですかー」
「災害、水難、なんでもござれの人命救助訓練だ」
救助と聞いてクラスの中がざわざわと喋り出す。
救助はヒーローにとっての本分。具体的にどんな訓練をするのか気になるところだろう。
「訓練時にコスチュームを着るのは各々に任せる。中には活動を限定する者もいると思うからな。場所は少し離れているのでバスで移動だ。では準備開始」
相澤先生の言葉で皆が早々に動き出す。
私はコスチュームどうしようか。いくら足の稼働率を重視した着物だからと言って、水の中はとても動きにくいだろう。袖はたすき掛けで何とかするにしても……。
まあプロになったら常に着なければいけないのだから着てくしかないか。
私はコスチュームを持ってモモと一緒に更衣室に向かった。
__________
という訳で、バスに乗って移動した訓練場所に着く。
訓練場所は巨大ドームだった。
入り口部分から見えるだけでも、激流暴れる水難ゾーン、炎が燃え上がる火災ゾーン、ビルが地面に埋まっている倒壊ゾーンなど、救助訓練のために多種多様な場所がドームの中に用意されていた。
「すげぇ、USJかよ」
いや、本当にUSJみたいだよ。
そんな感想を各々が抱いてるいると、私達の前に宇宙服みたいなコスチュームを来た人が出てきた。
ああ……あれはたしか………
「凄い!スペースヒーロー『13号』だ!」
そうそれ。ナイスだ緑谷君。
13号はあらゆる災害で救助を主体としたヒーローの一人。噂では超紳士的で女性に人気が高いとか。
「ようこそ皆さん。ありとあらゆる災害を想定し、私が造った演習場。その名も
((((まんまUSJだった!))))
なるほど。なかなかユーモアのある紳士だね。
彼は一つ親指を立てると、私達にこれからの注意事項について話始めた。
「えー、始める前にお小言を1つ2つ……3つ…………4つ……」
その数に合わせて、立てた指がちょっとずつ指を増えていく。どーでも良いけどあのコスチューム可愛いな。
「皆さんは知っていると思いますが、私の個性は『ブラックホール』。どんな物も吸い込み塵と化します」
「知ってますよ!それであらゆる災害の救助を行っているんですよね!」
「ええ………ですがこの力は簡単に人を殺せる力でもあります。皆さんの中でもそういった個性を持つ人がいると思います。だからこそ、一歩間違えれば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を持っていることを忘れないでください」
13号は私達に教えを説くように話す。
「体力テストでは自信の力の可能性を知り、対人戦闘ではそれを人に向ける危うさを知ったでしょう。
ここからは心機一転、人命のために個性をどう使うか学んでいきましょう」
「君達の力は人を傷付ける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て今日は帰ってください」
なんというか13号………めっちゃかっこええやん。
他のクラスメイトからも称賛の声が上がる。とても素晴らしい演説だったよ13号。
皆が13号に意識が向いていた。だからこそ、一番早くその事態に気づいたのは相澤先生だった。
「全員ひとかたまりになって動くな!」
「えっ」
その声を漏らしたのは誰だったか。
私は相澤先生の言葉にすぐ臨戦態勢を取って、先生が視線を向ける先へと意識を延ばした。
………なんだあの黒いモヤは?
更にその黒いモヤがどんどん大きく広がり、モヤから武装をした集団が大量に出てきた。
「13号は避難を開始しろ。学校に通話を試せ。多分電波妨害を受けている可能性もある。上鳴、お前も個性を使って通話を試せ」
そう言って矢継ぎ早に指示を飛ばした先生は、あの大量のヴィランの群れへと突っ込んでいった。
緊急事態だ。
それを意識した私はモモの横に立ち辺りを警戒する。あの黒いモヤが行った事を見る限り、多分ワープ関係の個性なのだろう。いつ何処から襲われるかわからない。
相澤先生、ヒーロー名『イレイザーヘッド』は、視線を向けた相手の個性を消す個性だ。
その個性と特注の細長い布を使ってヴィランを圧倒している。
が、それは今だけだろう。
先生の個性は一対一向けの個性。けして多対一の戦闘を得意としてはいない。
だから私達は先生が注意を引いている間に避難しなくてはいけないのだが………。
「まあさせてくれないわよね」
「逃がしませんよ」
私達が出口に向かおうと振り返れば、目の前に先程のモヤが現れた。やはりワープ系の個性か………。
そのモヤはゆらゆらと揺れながら余裕ぶった態度で私達に語りかけてきた。しかも警戒している相手はプロである13号独りだけ。
「初めまして、我々はヴィラン連合。僭越ながら、このたびヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
それを見逃すほど私は甘くない。私は縮地を使って跳んだ。
あのモヤが13号に視線を向けている今、私は容易に相手の懐に入り込み、抜刀の構えを取る。
「フッ!」
気合いの入った息が漏れながら、抜刀して相手の胴に神速の突きを打ち込む。
けど………バカな。なんなんのコイツは。手応えを感じなかった。
あのタイミングで私の突きを避けた?……あり得ない。
私の第六感がワープ系の個性の近くにいてはヤバイと感じ、すぐさま飛び退いてモモの横に着地する。
「椿!?」
「大丈夫よモモ。ただ仕留め損なったけど」
モヤのヴィランに目を向ければ、爆豪君と切島君が個性を使って攻撃していた。
だが、私と同じように結果は効いていない。………あの黒いモヤが何か関係しているのだろうか?
「危ない危ない。そう………生徒と言えど優秀な金の卵」
「駄目だ、下がりなさい二人とも!」
13号が二人に声をかけるが遅かった。黒いモヤは二人を飲み込む。
「散らして」
モヤは更に広がり私達を囲う。逃げ場が無くなってしまった。
「嬲り」
私とモモの間を黒いモヤが分断した。
「ッ!モモ!!」
「殺す」
モヤに飲み込まれるモモに手を伸ばす。が、どんどん離されて私の視界が真っ黒に染まった。
__________
すぐに視界が暗い空間から真っ赤な場所へと変わった。
暑い。ここは………火災訓練所か。
周りをビルで囲まれ、そのビルの何棟から火の手が上がっていた。
そして………私を取り囲むヴィランの群れが眼前に広がっていた。
「へへへ。来たぜ来たぜぇ。ガキ共が」
「しかもなんだコイツ。コスチュームが着物じゃねーか」
武装をしたヴィラン達が下卑た視線を私に向けてくる。
まったく………舐められたものだ。
「なるほど。まだ未熟な私達を分散させて集団で各個撃破するのが目的なの………まあ確かに、良い手ではあるわ」
息を整えながら腰を落とし、抜刀の構えを取る。
「けどね、貴方達では力不足よ」
私は地面を揺らす踏み込みと同時に木刀を抜刀した。
「破山菊一文字 追閃」
一閃が衝撃波として空間を伝わり、ヴィラン達へと突っ込む。爆音と共に、私の一直線上にいたヴィラン達は吹き飛んだ。
「「「ギャアアアアアア!!!!」」」
ヴィラン達の絶叫と吹っ飛ぶ光景に他のヴィラン達は唖然とする。その隙を私が逃すはずがない。
横にいた一人の敵に縮地で迫り、速度を乗せた突きを放つ。そのまま左右にいた二人の敵を木刀で吹き飛ばした。
「グブぇッ!!」
「ガッ!!」
それにしても弱い。
呆然とした状態から意識を戻して、飛び掛かって来た一人の異形型の男を吹っ飛ばしながら思った。
こんな素人の寄せ集めでよく私達を殺せると思ったものだ。一人一人が入試のロボットと変わらない強さ。正直言って雑魚だ。
前後から同時に襲い掛かって来る二人を切り飛ばす。
それを見て接近していた敵が止まった隙を逃さず、縮地で距離を詰め意識を刈り獲る。
本当に弱い。どうすればこのメンバーでオールマイトを殺せると思えたのか。最初から動きが素人だとわかったから、どんな恐ろしい個性が来るかと思えば………結果は刃物や増強の個性で襲いかかってくる戦闘の素人。
何処から持ってきたのか異形型の男が大きな瓦礫を持ち上げて、私に向かって投げつけてきた。ちょうど私に襲ってきた男を木刀で弾き飛ばし、向かってくる瓦礫を真っ二つに切り裂いた。
「はぁ!?あれ木刀だろ!?なんで切れーーーーーー」
「いちいち隙を晒すなっての」
「ぷギャっ!!」
投げつけた異形型の男に瞬時に近づき、突き飛ばす。
その時だ。私は地中から違和感を感じ取った。
感知の精度を上げるために周囲に意識を広げ集中する。
すると私の真下に敵を察知。その場から三歩横に移動し、地中から襲ってくる敵をやり過ごす。
そのまま飛び出てきた相手の顔面に一撃を入れた。
吹き飛んで遠くに離れて行く男を気配で感じ取りながら、私は最後に残った敵に視線を向ける。
視線を向けられた男は後退り、何処かへと声を張り上げて喚き散らす。
「く、くそっ!なんでだよ!!話が違うぞ!?俺達はただガキをぶち殺せば良いって聞いてただけなのに!」
「ああ………そういうこと」
「ぶげッ!!」
戦闘終了。
ハイハイ………今しがた叫んだ最後の男の話を聞いてわかったよ。
やはりこの人達は今回ただ集められただけのチンピラのようだ。
とすると、だ。主力は相澤先生の所だろうか………。
私はこの後どうすれば良いだろうか。モモを探しに行ったとしても、素人連中の相手なら多分大丈夫なはず。むしろ早くに倒したモモとすれ違いになる可能性すらある。
確かに心配はある。だけどそれと同時に信頼もあった。
最初に私が見た感じ、主力っぽいヤバイやつは三人だ。
多分その三人が、彼らが言うオールマイトを殺す作戦の鍵なんだろう。その主力と交戦してる相澤先生の手助けをした方がいいと思うけど………どっちにしても、まずは誰かと合流するのが先か。
「さて、私はこの後皆と合流するために動くけど………貴方はどうする?」
私は一緒に飛ばされてきた少年に話しかけた。
胴着を着て、お尻から尻尾が生えている、何処にでもいそうな容姿をしている少年だ。
私と彼がここに送られると彼も戦闘に参加していたのだ。地味に。
「…………邦枝さんは凄いな。この人数を短時間で全員倒してしまうなんて………」
「何言ってるのさー。君も戦闘に参加して頑張ってたじゃん、ヤメてよねー。マジ照れる」
「あれ?なんか雰囲気が………ま、まあそうだけどさ。俺なんて数人しか倒せなかったし、一人だけだったら凄く時間が掛かったと思うよ」
「そうなの?まあその話は一端置いておこうか。………とりあえず、他の人達も何処かに飛ばされて戦闘していると思うんだ。だから私達はそれの手助けに行こうと思うんだけど………えっと」
ヤバイな。この人の名前知らないや。
私が彼の名前を知らない事が伝わったのだろう。彼は嫌な顔をせず私に自己紹介してくれた。
「ああ。自己紹介がまだだったね。俺は
「よろしくね尾白君。それでさ………これからどうする?私的には別行動に別れて他の人達の助けをしに行きたいんだけど……」
「そう……だね。俺もそっちの方が良いと思う。邦枝さんに付いて行っても俺はやること無さそうだし………なら、他の人の所に行って役に立つさ」
「いいの?この案だと尾白君が危険な目に会うかもしれないんだよ?」
「俺もプロ志望なんだ。リスクを気にしてヒーローなんてなれないよ」
か、格好いい。13号といい尾白君と言い、ヒーローの男の子は皆クサイ台詞を平然と言えるようになるのか。
私はここで一つ男の子の生態系を知った。
あ"あ"あ"あ"あ"あ"課題とイベントがあああああ!!!