私はビルで囲まれた街を跳ぶ。
ポイントは今のところ61ポイント。多分順調だとは思う。
先程プレゼントマイクの音声で、残り時間6分程度だとわかった。以外と制限時間が短かったなぁ、という思いが過った。けど、残りのロボット達も少なくなってきているし、むしろ時間が多かった方なのかなとも思わなくもない。
それにこの会場ではニ千人程の受験生がいるんだ。ロボットを造る個性がいたとしても受験生の人数が多過ぎる。だから振るい落としも兼ねて時間を短縮しているんだと思う。
私はポイントをできるだけ多く集めるために、少なくなってきたロボット達の下へと跳ぼうとした。
その時だった。爆発音が街全体に響き渡り、地面が揺れた。
私や周りの受験生が驚いて音の方向へと目を向け、そしておののく。
「あれは……流石に倒すのはキツイでしょ………」
音の発生源は倒壊するビル。その中から出てきたのは、ニ、三十メートルはあるかと思われる巨大なロボットだった。
あれがプレゼントマイクの言っていた0ポイントのお邪魔虫くんなんだろうね。お邪魔虫と言うより怪獣の方がしっくりくる気がするよ………。
受験生の人達はあのロボットを見てすぐに戦意を無くし逃走を図っている。
私もあれを相手にするのは酷く面倒だと思い、その場から撤退しようとした。
けど、それが出来なかった。なぜなら、退散しようとして振り返ると目の前に変な少年がいたからだ。
「うぇいうぇいうぇいうぇ~~~~~い」
よくわからないけど、親指を突き立ててサムズアップを繰り返す、うぇいうぇい言ってる変な顔の少年だ。
あまりの間抜け顔に、試験であるにもかかわらず一瞬吹き出しそうになるぐらい、緊張感の抜けた顔と行為だ。
いや、むしろ試験だからこそ、場に合わない行動と表情がツボに嵌まるのかもしれない。
ヤバイ………笑える………。
私がなんとか声を押し殺しながらも、腹筋崩壊寸前になりそうな時、後ろから轟音が響き渡る。
その音で今自分達がピンチであることを思い出した。
危なかった。こんな危険な場所なのに、私達だけシュールな光景になっていたよ。
「そこの貴方。何をしてるのかわからないけど危ないよ。早くこの場から離れないと」
「うぇいうぇ~~~い」
ダメだ。完全に頭がイカれているのか個性の反動なのかわからないけど、私の声が聞こえてないのはわかる。
ロボットの巨体が仇になっているのか、動きが遅いからまだ私達は襲われていない。けど、このまま彼を放って置いたら絶対にあのロボットの被害を受けると思う。なんせ瓦礫がボールのように辺りに飛び散っているくらいなのだから。
少年とは言え同世代の男の人を担いで運ぶのは筋力的に厳しい。とするとあのロボットを壊さないといけないのだけど、あの大きさと力が危険だ。
試験で、しかも何の得点にもならない相手に危険を犯して倒すのはアホだし………
「……っと、ヤバイわね。こっちにも瓦礫が飛んできたか」
あの機械は鈍足なりに着々と近づいてきている。丁度私のいる位置に巨大な瓦礫が飛んできたのだ。私は木刀を一閃し、縦に瓦礫を切ってやり過ごす。
やはりあのパワーは厄介だなと考えたとき、ふと思い直した。
そうだよ。あのロボット凄く遅くない?
それに気付いた私は、そのロボット目掛けて縮地で跳ぶ。
頭のおかしい男子のいる位置に飛んで行くだろう瓦礫を、出来るだけ地面に叩き落としながら近づいた。
ビルの合間を駆けて跳んで来る私を捕捉したのか、巨大なロボットは私にこれまた巨大な腕を伸ばしてきた。
けど動きがとても遅い。
ビルの側面を蹴って伸びてくる腕の上を跳ぶ。そのまま腕に着地して、さらに縮地でロボットの頭の横に移動。息を整えて木刀を抜刀する。
「壱式 破岩菊一文字」
私が今できる最高速度の抜刀で、そのロボットの胴体と頭を切り離した。
ロボットは胴体から頭がずり落ち、そのまま地面に落下した。ドシンッ!と重い音を立てたロボットは、今度は胴体も倒れる。
さらに響き渡る鈍重な音をBGMに、私は残心を残したまま地面に着地して、溜めていた息を吐く。
「ハァーー……」
息を吐いたのと同時に汗が頬を流れる。
やっぱり心月流抜刀術は神経を削る。まあ、私の力を最大まで振り絞った一撃だったからしょうがないのだけど。まだまだ未熟かな………。
『終了~~!!!!』
ここでプレゼントマイクから試験終了のお知らせである。
結局私のポイントは61………これが良いのか悪いのかわからないけど、多分大丈夫だとは思いたい。
でもなぁ………雄英ってたしか40人未満しか合格できないって聞くし、ちょっと危ないかもなぁ……。
不安で押しつぶれそうになりながら私は出口に向かって歩き始めた。
途中で間抜け面を晒していた彼のことを思い出したけど、まあ多分不合格で二度と会うことも無いだろうと思い直し、すぐに思考の彼方である。
____________________
一週間後。筆記試験も終えた私は家で日課の稽古を行っていた。
筆記はかなりの手応えなので自信はあった。そちらの面は個性の影響で明るい方だし、天才の友達が勉強の面倒を見てくれたし。抜かりはないわ!
ただ試験結果内容はとても心配だ。私立の併願校は受かっているけど、やっぱり雄英じゃないとダメ。
なんと言っても雄英に落ちれば推薦組のあの子がとても心配になる。あの天才の友達はとても天然なのだ。
簡単に人に騙されるし、露出に対する羞恥心が全く無いのが問題だ。あれだけ忠告しているのに服を創れば問題無いなんて台詞を宣う。
あのダイナマイトボディを隠すのに私が中学時代どれだけ苦労したことか………見せられるごとに私の何かもゴリゴリとすり減るし……うぅぅ………私だってそれなりにあるのに……あれを見ると自信が無くなってくるよ………。
稽古を終わらせたのになぜか暗い気持ちになりながら、道場から出て玄関のポストへと歩く。ポストの中を見ると、雄英高等学校と書かれた封筒が目に入った。
来た!!合格安否の知らせ!!
先程の暗い気持ちは何処へやら。私はポストから封筒を取り出す。持ってみると何か硬く重い物が入っているのがわかった。何だろうかと思いつつも、封筒と何か大事な物っぽいのが入っているのだ。きっと私は合格したのだろう。
ルンルン気分で家に入り、リビングまで行ってソファに腰を下ろす。ワクワクしながら封筒の封をを開けた。
中に入っていたのは何かの機械だった。
ボタンが付いているので押してみると、いきなり空間にホログラム映像が写し出される。
『私が投影された!!!』
「わっ!?お、オールマイト!」
なんと写し出されたのはオールマイトである。一人だけ画風の違う姿に鳥肌が立つ。
けど、何故雄英からの手紙なのにオールマイト?卒業生だから??
『邦枝椿女子。君は不思議に思っているだろう?何故私が写し出されたのか。答えは簡単。私が今年から雄英に勤めることになったからさ!』
「おおー……」
これはビックリである。あのNo.1ヒーローが学校の先生。私もオールマイトの一ファンであるから嬉しくないわけがなかった。
『さて、結果報告だが邦枝女子。筆記はほぼ満点。実技も61ポイント。さらに
「わぁ………やったぁ!!!」
私は年甲斐もなく喜んでしまった。と言うかレスキューポイントなんてモノもあったのね。知らなかった。
まあ、ヒーロー科なのだ。当然と言えば当然なのか。
『雄英に入ってからも苦難は色々あると思うが、まずは合格したことを素直に喜んでくれ!それでは今度は学校出会おう。またな!!』
そう言うとオールマイトが写し出されていたホログラム映像は途切れた。
だが私は映像が終わっても喜びで興奮が抑えられなかった。この喜びを分かち合う為にスマホを取り出し、友達に電話をかける。
三回程のコール音の後、通信が繋がった。
『おはようございま』
「聞いてよモモ!私、雄英に受かったわ!」
『まあ……ほんとですか!?それは大変喜ばしいことですわ椿!』
「うん!これでまた一緒の学校ね!やった!」
『私もとっても嬉しいです!本当によかったぁ……』
どうやら私はモモにも心配をかけていたらしい。スマホから安堵の声が聞こえてくる。私は良い友人関係を持ったものだ。
「これから手続きとか色々やらないとだけど、今度遊びに行かせてよ。その時に雄英合格おめでとう会でもやろ?」
『ええ、良いですわ。私も準備して楽しみに待ってます!』
「うん!じゃあまた今度電話する。じゃあね!」