『"上を行く者には更なる受難を"。雄英に在籍する以上、何度でもこの言葉を聞かされるよ。これぞ
ミッドナイトは更に説明を続けた。
制限時間は15分間。メンバーが持つポイントの合計がそのチームのポイントとなり、騎手はそのポイントが表示されたハチマキを装着。終了までに奪い合い、合計ポイントを競うようだ。
ハチマキはマジックテープ式。取ったら首から上に巻くのが原則らしく、ポケットなどに隠すのは駄目らしい。
一位から四位までの騎馬が次に進める。つまり最低でも8人は進めるのだ。
最後に、ハチマキを盗られても騎馬が崩れても脱落にはならないらしい。
つまり、42人からなる十数組が、常にフィールド上にいるという事。逃げるだけの私としては少しツラい。
『でも、あくまで騎馬戦! 悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード! 一発退場とします!
それじゃこれから15分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!!』
ミッドナイトの言葉を聞いた瞬間。私はモモに飛び付いた。
「モモ!一緒に騎馬組もう!私とモモなら最強の騎馬が作れるよ!!」
付き合いの長い私達だ。当然、モモは二つ返事でOKしてくれると思っていた。だから、次のモモの言葉に、私は愕然としてしまった。
「…………椿。悪いのですが、今回は貴女とは組みません」
「………へっ?」
意味が…よくわからなかった。………私と、組まない?何で、モモはそんな結論に至ったのだろうか………。いや、今はそれよりもだ。
「ど、どうして?私………モモに何か悪いことでも…したの?………ごめん!謝るから機嫌直してモモ!私が悪かったからッ!ねっ?」
「いいえ。椿何も悪くありませんわ。ただこれは私なりのけじめです。貴女が気にすることではありませんわ」
「なんで……?そんな事言われてもわからないよモモ………私のことが嫌いになっちゃったの?」
「だから違うと言ってるでしょう!」
「ひっ!」
モモの少し大きな苛立ちの声を聞いて、私はガラにもなく怯えてしまった。
怖かったのだ。恐ろしかったのだ。モモに嫌われることが。最愛の人に愛されなくなってしまうことが。
「あ………」
「ご、ごめんなさいモモ…………そう、だよね。私、モモが組みたくないって言ってるのに、無理やり組もうとして………嫌な奴だよね。本当にごめんね。それにモモも、いつも私とくっついてたら気持ち悪いって思っちゃうよね。………気づいてあげられなくてごめんね」
「つ、椿?ちがッーーーーー」
「わかった。私、他の人と組むよ。邪魔しちゃ悪いからもう行くね。頑張ってねモモ!応援してるから!」
私はモモの話を聞くのが怖くなって、その場から逃げだしてしまった。
何処へ行こうとか、誰と組もうとか、そんな事今の私にはまったく頭に無かった。ただ、私は出来るだけモモから離れた位置に移動したかった。
「お。おーい椿。ウチと組もうよ………って、何かあったの?」
声を掛けられた方向に目を向ければ、そこには私の友達の響香がいた。
そういえば、今は体育祭の真っ最中だと彼女の存在によって気付かされた。
ああ………そうだよ。今は、体育祭。全国の人が見ている催し物。当然、
私は邦枝家としての責務があったんだ。心月流の矜持があったんだ。
モモの為に、自分の為に、優勝しなければならない誓いがあったんだ。
「響…香………ううん…何でもないよ。じゃあ一緒に組もうか!他に誰誘う?」
「うーん………やっぱ騎馬だから男が一人欲しいよね。障子とか?」
「後は早さも欲しいな。飯田君とか」
となれば早速仲間を集めるために移動しないと。私は響香を連れてそこら辺を散策してみた。
__________
……しかしアレだね。意外とこんな自殺点なのに話しかけられるね。
「じゃあ宜しくね!拳藤さん!」
「一佳でいいよ」
と言うわけで拳藤一佳ちゃんを私はGETした。
片一方をオレンジ色の髪でサイドテールに纏めた髪型に、凛とした姿勢がとてもカッコいい女性だ。
彼女はかなりいい人らしく、あの態度だった私にも気さくに話しかけてくれた。
「それにしてもあの入試一位がこんな明るい性格だと思わなかったよ」
「まあ……アレ見た後だとね。と言うか何で宣誓であんなことしたの?」
「いや、だってさ~………私、事前に何も言われなかったんだよ?しかも他の人達は凄く陰口言ってくるし。だから、口だけの奴に私は負けないぞ、って意味だったのさ」
「あー………ごめんな?なんか色々。皆、実戦を経験したA組が羨ましいんだよ」
なるほど。私達にとってはトラウマになるかもしれなかった事件だけど、他の生徒に取って見れば羨ましいのか。
隣の芝生は青いと言うことかな。
「まあいいさ。一佳みたいな人もいるってわかったしね!でも、いいの?私めっちゃ狙われるよ?」
「逃げ切ればそれで勝ちでしょ?まあ多少しんどいとは思うけど、それでもトップを目指すなら乗り越えなきゃいけない壁だと思ってるよ」
おお。なんて向上心の高さ。なんか、少しモモに似ている気が…するな…。
………モモは……なんで私といるのが嫌になってしまったのだろう………。単純に、私の事が嫌いになっちゃったのかな……。
私がモモの事を思い出して少し落ち込んでいる時だった。
唐突に私の肩に痛くないくらいの衝撃が迸った。
下を向いていた顔が思わず上がる。見れば、一佳を何を思ったのか、彼女はいきなり私の肩に手を置いてきた。
「そんな顔しないの。………さっきのふてぶてしい態度はどうしたのさ。トップ獲るんでしょ?なら自信持たなきゃ」
………さっき、いい人と言ったのは訂正しよう。
この人メチャクチャ好い人だ。モモ一筋の筈の私が思わずキュンと来ちゃうくらいには。なんと言うか………そう。彼女の事をお姉ちゃんと呼びたくなる。そんな魅力を持っている人だ。
「あ………不安そうな顔、してた?ごめんね。心配かけて。それと、ありがとね」
「いいってことよ。それじゃあ残りの一人を探しに行こっか」
「………なんか、ウチ空気じゃね?」
後ろで響香が何か言ってるのを尻目に、私は一佳に手を引っ張られながら彼女の後に付いていった。
__________
その後、私達はいろんな人に声を掛けた。
先頭を誰かガタイのいい人か足の速い人にお願いしようと思ったのだけど………障子くんは峰田君や梅雨ちゃんと。飯田君はモモや轟君と組んでしまったようだ。
モモ………いや………今は競技に集中しなければ。
そして運良く私はある人を捕まえることができた。
先程、一佳から聞いた彼女の『大拳』の個性と、響香の『イヤホンジャック』の個性と、その補助のスピーカー。
牽制と横からの奇襲に対して強くなったけど、後は正面の攻撃と防御だ。
攻撃ーーーーーつまりハチマキの奪い合いは私が勤めるとして、足りないのは焦凍や上鳴君のような攻撃に対しての防御力。
本当はモモが理想的だったのだけど、この際仕方ない。
「と言うわけで頼むよ常闇君!」
「何がと言うわけなのか理解しかねるが、任せろ」
最後のメンバーは常闇君。影を縦横無尽に操る事ができる個性。これによって防御力は格段に上がっただろう。
遠距離を響香、盾を常闇君、私のサポートを一佳、攻撃が私。実にバランスの良いチームとなった。
私達は逃げるだけで良いので、本当なら騎馬を速く移動できる個性持ちがいた方が有利なのだけど、背に腹は代えられない。
ちなみに持ち点は1000万と360ポイントだ。
やっぱり1000万だけ浮いてる………頭おかしいよねこの数字。
「改めて役割分担の確認といこうか。まずは常闇君が『黒影』を使って全体の防御に専念。響香は爆音で敵の牽制。一佳は私のサポートだね。色々やるからお願い」
「わかった」「アイヨッ」
「OK」
「やってやるさ」
「…よし。じゃあ、頑張ろー!」
『そろそろいくぜ!残虐バトルロワイヤル、カウントダァウン!!』
私達が気合いを入れ直していると、プレゼントマイクから再び実況が行われる。
騎馬と騎馬のスタート位置はかなり離れているが、個性であればその距離が仇となる可能性も出てくる。
私の意識が切り替わった。
『3!2!』
集まる視線。皆の狙いは………
『1!!』
当然、私だ。
『START!!!』
____________________
邦枝チーム 1000万335P
鉄哲チーム 670
轟チーム 640
爆豪チーム 635
緑谷チーム 495
峰田チーム 390
物間チーム 285
ーーーーー …… …