東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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待たせたな!(CV.大塚明夫)

すまない……日常編じゃなくて本当にすまない……(CV.諏訪部順一)

まぁ、はじめの辺りは日常のようなものをして、後半に連れて最後の“シメ”をしていこうかな、と思っております


Extra
遭遇と橙玉


 私は、一体どこで道を踏み外したのだろうか。

 

 目的の為に全霊をかけ、文字通り命を賭して挑んだのだ。

 

 払った代償は大きかった。

 

 望んだのは、本当に些細なことだ。

 

 私の犯した過ちを、無かったことにしたかったのだ。

 

 そんな些細で自然な望みのために、私は奔走したのだ。

 

 だから……そんなに私を責めないでくれ……許してくれ……許しておくれよ…………

 

 

●○●○●

 

 

 季節は再び均衡を取り戻した。

 

 桜はあるべき春へ帰り、西瓜は夏の終わりとともに姿を消し、雪は冬まで持ち越しとなり、紅葉の舞い散る秋に変わった。

 とある秘匿された神の罠であった異変は、今までの異変がそうであったように、きっちり解決された。

 

 そして異変のない、呆れ返るほど平穏な幻想郷の日常が始まる。

 

 異変の解決者の一人、魔理沙は紅く染まり出した山を背に、箒に跨り空を飛ぶ。

 目的は何か。おそらくは、レアアイテム探しだろう。

 『レアな天気の日にはレアなアイテムがよく見つかる』。魔理沙の持論、もしくは験担ぎに過ぎないが、『全ての季節がいっぺんにやってきた後の日』なのだから、レアな天気の日であることに間違いはないだろう。

 おそらくはあの秘匿された神、もしくは二人のバックダンサーが落として行ったアイテムでも探す魂胆であろう。

 

 ……が、彼らは例え“全てを見せていた”としても、“秘匿された”神。そんなヘマはするはずがない。

 

「くそう、何にもありゃしない。レアアイテムどころかマシなアイテムすら見つからん」

 

 お眼鏡に叶うものが見つからない魔理沙は苛立ち半分焦り半分で帽子の上から頭を掻く。

 こういう日はどうあがいても見つからない。それを賭博師の経験則に近い形で知っている魔理沙は深い溜息と共に人里外れに降り立つ。

 そして、単なる一般人のように歩いて人里へと入る。

 

 全くもっていつも通りの人里。

 はっきり言って、異変が起きてもちょっと騒がしくなるだけで、いつだってここに住まう者たちはここの外のことを何も知らない。

 それはある意味、幸せなことなのだろう。

 

 が、しかし人里の中心地近くまで移動した途端、魔理沙は少しばかり足を止める。

 そこにあるのは人だかり。その中心では誰かが何かを叫び、周りはそれに応じて何かを言っているようだった。

 どうやら、誰かが演説し、それに聴衆が同調しているようだった。

 

 そして聴衆の輪のちょっと外れに、魔理沙の見知った顔があった。

 思わず魔理沙は彼女に声をかけた。

 それもちょっといたずらっ気をだして、後ろから。

 

「ようっ! 小鈴!」

「ひやぁあっ!!? あ、魔理沙さん!? 驚かさないでくださいよ!」

「はは、すまんすまん。なんかこう、ちょうど油断してたもんでつい」

 

 「つい」じゃないですよー、と頬を膨らませ抗議する小鈴。

 それをどうどうと宥めながら魔理沙はさりげなく尋ねた。

 

「んで、なんだこの人だかり」

「ああ、剣の名門の柳葉家って居ますよね?」

「たしか、西の方の?」

「そうそう。そこの師範による道場のちょっとした客引きです」

「道場が客引き?」

「ええ。ほら、ちょっと前に天を衝くような巨大な花の妖怪が妖怪の山近くで出たじゃないですか」

「……ああ、あれね」

 

 小鈴の言う『天を衝く花の妖怪』。魔理沙には心当たりがあり過ぎた。

 間違いなく、あの時封じ込めたマルク、及びその他怪物の融合体だろう。

 それと同時に、桃色のアイツとの記憶もまた、蘇る。

 しかし会話の途中に物思いに耽るわけにはいかない。

 押し寄せる思い出を今は封じ込め、小鈴の話に集中する。

 

「それを見て危機感を覚えたらしくて、我々人間も妖怪に対抗せねばならないー! というわけで、柳葉流の護身を主とした剣術を学ぶ事を推奨しているらしいです」

「『対抗せねば』とか言っている割には教えるのは護身なんだな」

「そりゃ、妖怪と人間では力の差があるので。柳葉さんならともかく、流石に一般人じゃ倒すのは無理なんじゃないかと」

「ふーん、ま、妥当な判断だな。妖怪を舐めちゃいかん。んで、小鈴は剣術でも学ぶのか?」

 

 悪戯っぽく聞けば、小鈴が返したのはどっちつかずの答え。

 

「うーん、私には剣とか無理だと思うんですけど……でももし妖怪に襲われたらと思うと……非力な女性、子供に向けた剣術とか、忙しい人向けの短期集中式とかあるらしいし……」

「迷ってるんだな」

「迷ってるんです。でも店番とかあるし、それに私がいるところは人里の中でも中央近いから、別にいいかなぁ。いいですよね、魔理沙さんは魔法が使えるから木っ端妖怪くらいなら鎧袖一触でしょ?」

「へへへ、まぁそんじょそこらの妖怪に負ける気はしないな」

「あー私も魔法使いの方が向いているのかなー」

「やめとけやめとけ。蛇も触れん奴はなれないぜ」

「うげ……そういやこの前蛇を帽子の中に入れてたよね……うーん、無理!」

「それがいい、それがいい。それじゃ、私は忙しいんでな!」

 

 そう言い残すと魔理沙は小鈴と別れた。

 

 この傾向が良い傾向か、悪い傾向か、と問われれば、確実に前者だろう。

 幻想郷は、外から隔離した人間によって恐れられ、畏れられることによって生き延びている妖怪達のための世界。

 だからこそ、妖怪に対して護身術を身につけようという動きは妖怪への恐れが高まってきた証左でもある。

 そしてそれが護身術であるが為に、人間が妖怪に刃向かう、という危険性もあるまい。更には妖怪への恐怖と適度な力により、人間の生存率も上がることだろう。

 これは妖怪、人間、双方にとってプラスに働くはずだ。

 

「にしても剣術か……私もちょっとは習ってみるかな」

 

 脳裏に浮かぶのは半人半霊の銀髪少女。

 半人前だが、ちょっとくらいかじることはできるだろう。

 

 そんな事を考えているうちに、魔理沙は人里の中でも田んぼが広がる地へと足を踏み入れていた。

 既に稲は刈り取られ、残った根が所々に残るのみ。

 そこにはミヤマガラスが群れで降り立ち、ひょいひょいと軽快に落穂を啄ばんでいた。

 

 例年通りの秋の風景。妖怪の山の秋の姉妹神の仕事もひと段落といったところか。

 

 だが、その例年通りの秋の風景に、魔理沙は見出した。

 大地に同化した彼らを見つけるのは至難の技であっただろう。

 だが、その観察眼こそが単なる人の子でありながら妖怪と関わる魔理沙の真骨頂であり、それを鑑みれば必然と言えた。

 

「な…………!?」

 

 それは、かの戦いより、一人残らず消えたもの。

 

「なぜ、ここにいる!?」

 

 それは、かの戦いより、足跡一つ残さず消えたもの。

 

 魔理沙は堪らず駆け出し、田の土を跳ね飛ばし、その一体をタックルするような体勢で捕獲した。

 

「なぜ、ここにいるんだ、ワドルディ!?」

 

 そうだ。かの戦いより、数え切れないほどいながらも、一人残らず元の世界へ帰還した存在、ワドルディ。

 それが、頭に藁を被り、藁をまぶしたカバンを背負い、稲刈り後の田に、ツーマンセルで潜んでいたのだ。




エクストラとして、続編を書いていきます。
そこまでは長くならないかな、と思います。前のよりは多分緩めかと。

ハイドラ更新? 知らない子ですね……

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