東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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2017/09/29追記:作者活動報告にて、重要なアンケートがあります。


End roll
幻想郷が見たひとときの夢


 空は晴れている。

 雲ひとつ見当たらない。

 ……出航日和だ。

 

 魔理沙は外を見やる。

 その隣には、カービィがいる。

 

「……じゃ、行くか」

「……うぃ」

 

 カービィを箒の先に乗せ、大空へ飛び立つ。

 

 最初にこうやってカービィを乗せたのはいつだろうか。

 あの春の終わりの日だったか。

 

 懐かしい思い出に耽りながら、魔理沙は地上を見渡す。

 

 あの時の決戦が嘘のようだ。

 幻想郷につけられた傷は全て消え去り、元の美しい状態に、完全に修復された。

 これらは妖怪とポップスターの住人……主にワドルディのおかげだ。

 デデデ大王配下のワドルディのボランティアがなければ、ここまで早く復興しなかっただろう。

 

 最初で最後の全員での宴会は、楽しかった。

 食べ物が根こそぎなくなったり、マイクを握り出したりとヒヤヒヤしたこともあったが、酒の入った皆はそれすらも楽しんでいた。

 

 彼方には戦艦が見える。空飛ぶ帆船も見える。

 

 あれに乗って、カービィは帰るのだ。

 

 カービィには帰る場所がある。

 そしてその場所は、幻想郷ではないのだ。

 

「来たわね。あなたが最後よ」

「悪いな」

 

 その近くにはメタナイトやデデデ大王、ワドルディ達の姿があった。

 そして、今回の一件に関わった幻想郷の住人達も。

 

 魔理沙は霊夢に招かれ、着地する。

 腕にはしっかりとカービィが抱えられている。

 

 と、その時、カービィが魔理沙の手から離れた。

 

「あっ、チルノ!」

「カービィ! 次はあたいが勝つんだからね!」

「チルノちゃん、そもそも勝負なんかしてないでしょ!」

 

 カービィをひったくったのはチルノ。

 それが皮切りとなり、カービィを回して各々が挨拶をするという、バケツリレーじみたものが行われ出す。

 

「あの時は失礼したな」

「また来るんだよー!」

「また楽しませてくださいね!」

「こっち向いてー、笑ってください……ハイオッケーです」

「また、いつでも来ていいからね?」

「またお茶しましょうね〜」

 

 各々が挨拶を済ませ、やがてカービィは魔理沙の元に戻って来る。

 

 何を言おうか。

 こういう時に限って、最も長く暮らした者に限って、言葉は出ないものだ。

 言葉は出ないのに、視界は滲んで来る。

 

 やがて耐えきれなくなって……

 

「マリサ!」

 

 カービィが魔理沙の名を呼ぶ。

 ふと気がつけば、カービィは満面の笑みを浮かべていた。

 

「ああ、そうだよな。別れぐらい、笑顔で行かなきゃな」

 

 魔理沙は袖で乱暴に顔を拭う。

 そしてちょっと赤くなった顔で、にぱっと笑ってみせた。

 いつもの、魔理沙のいたずらっぽい笑顔。

 

「……では、そろそろ」

「……ああ。じゃあな、カービィ。またいつか」

「ぽよっ!」

 

 カービィは、子供達に見せた夢のような存在。

 

 しかし若い時はすぐに過ぎる。

 子供はいつか大人になる。

 辛く悲しいことがあったら、ボクを思い出してね。

 

 カービィは言葉を話さない。

 でも、そんな風に言われた気がした。

 

 船の錨が上がる。

 ウイングは展開され、マストの帆は降ろされる。

 

 ローアの舳先から、異空間への穴が開く。

 そして、ローアは、皆を乗せたハルバードは、その穴の中へと入っていった。

 

「じゃあな、カービィ! 達者で暮らせよ!」

 

 帰るべき場所へ戻ったカービィ達に、魔理沙は大きく手を振った。

 

 

●○●○●

 

 

「夏になって、妖怪も活き活きして来たし、そろそろ私の出番だな!」

 

 澄み渡る青空。彼方に見える入道雲。

 夏真っ盛りの幻想郷の空を飛ぶのは、夏の活気で活き活きした魔理沙。

 眼下に映るのは、例年通りの夏の幻想郷。

 

 そう、例年通りの。

 

 ワドルディの集落は、まるで元々無かったかのように、消えていた。

 あの立派な城も全て消えていた。

 立ち去る時、ワドルディ達が撤去してしまったのだろう。

 しかも、跡地にはしっかり植林していくという徹底ぶりには脱帽せざるを得ない。

 

 ワドルディ達はその集落以外にも様々な場所に拠点を置き、妖怪達と様々な取引をしていたようだが、それも一箇所も、基礎も残さず消滅していた。

 取引の時に使った書類すら、残っていない。

 

 月から持ち込んだ夢の泉やスターロッドは、この幻想郷には不要なものだからと撤去された。

 

 天狗達が撮ったカービィ達の写真やそれを掲載した新聞もいつの間にか消えているか、写真や記事全てが黒塗りになっていた。

 ワドルディ達が夜な夜な作業していたのだろう。

 天狗達は皆絶叫をあげていた。

 

 何も、痕跡は残らなかった。

 恐らく、『カービィ達が居た』という事実が、双方の世界にとって予想外の事態を招くことを防ぐ為だろう。

 普通ならば『交わってはならない』世界なのだから。

 

 それを悲観するものは多かった。

 思い出が形として残らないのは、あまりにも悲しいと。

 まるでカービィ達と暮らした時間が、単なる白昼夢であったような気がして。

 

 だが───────

 

「……お、蝶の妖精か? 丁度いい。ちょっと揉んでやっか!」

 

 アゲハチョウの羽を持つ妖精を見つけた魔理沙は、箒の向きを変え、突撃する。

 

 ───────魔理沙は、別に悲しくもなんとも無かった。

 

 何故なら、魔理沙は知っているからだ。

 

 カービィ達と過ごした夢のような時間は、決して夢ではないことを。

 

 カービィ達と過ごした証は、“ここ”にある。




応援、ありがとうございました!










もうちょっとだけ続くんじゃ

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