東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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 マルクソウルは倒された。

 幻想郷の安寧は保たれた。

 世界は、救われた。

 

「やった……やったぞ、カービ……い?」

 

 だが、ここで魔理沙は気づいたのだ。

 

 先ほどまで箒の先に居たはずのカービィが、まるで最初からいなかったかのように消え失せていることに。

 いや、カービィだけではない。

 ハルバードはどこへいったのか? メタナイトはどこへいったのか? デデデ大王はどこへいったのか? ワドルディ達はどこへいったのか? マホロアは? ローアは? タランザは?

 幻想郷始まって以来の激戦だったはずなのに、その爪痕すら消えていた。

 

 まるで、全てが夢だったかのように。

 いや、夢であるはずがない。

 現に皆、集まるはずもない者たち皆が、ここに集まっているではないか。

 皆激戦を終えた後のように疲れているではないか。

 ここにいる全員が、ちゃんとカービィ達のことを覚えているのだ。

 

 なのに、何故。

 

 いないのか。

 

 

●○●○●

 

 

「……ああ、私のミスか」

 

 詳しい場所はわからない。

 だが、そこは世界の果ての最下層ということだけはわかる場所。

 そこで、彼女は溜息をついた。

 

「ご主人様、やっぱり諸共消えてます」

「そう。ありがとう、クラウンピース」

 

 松明を持った地獄の妖精、クラウンピースは、自らの主人……ヘカーティアに無情な報告をする。

 ある程度予想はできていたのか、ヘカーティアは軽く返す。

 

 いつになく辛気臭い主人にいたたまれなくなったのか、クラウンピースはおずおずと質問する。

 

「……ご主人様、一体何が起きたんですか?」

「知りたい? そりゃ知りたいわよね」

 

 ヘカーティアは地獄の空間そのものに、まるでソファのように腰掛ける。

 そして淡々と語り出す。

 

「私は強いわ。幻想郷の、月の住人の誰よりも」

「わかってます」

「そしてあのスキマ妖怪が現実と空想の境界を弄ったおかげで、例え向こうの人類が滅びても、私たちは存在し続けることができる」

「それも知ってます」

「でも、一つだけ勝てないものがある」

「え?……それは?」

「向こうの人間が用意した、『シナリオ』」

 

 ヘカーティアは虚空に手を伸ばす。

 するといつの間にか手には酒瓶が握られていた。どこかの洋酒だろう。

 

「全く、素面じゃ言えないわこんなこと。飲む?」

「あ、いただきます」

 

 ヘカーティアはグラスを二つ用意し、それにクラウンピースが琥珀色の酒を注ぐ。

 そしてヘカーティアは一気に煽る。

 

「ふぅ……外の者が用意した『シナリオ』は絶対。新しい『幻想郷の住人』が生み出されると、まるで昔からいたかのように歴史が改竄される。私たちも幻想郷にはいないとはいえ、似たようなものね」

「なるほど……しかし、それが今回の一件とどんな関係があるんですか?」

「カービィ達の世界も、カービィがスキマ妖怪の力を使ってこの幻想郷と同じ立ち位置になった。これで例え外の者がカービィ達のことを忘れ去っても、彼らは自分たちの世界で生活することができる。でもね……」

 

 ヘカーティアはもう一度酒を煽り、喉を湿らす。

 

「……絶対である『シナリオ』にそぐわない事象が起きたら、その事象に合わせて『シナリオ』は変化する。外の者が幻想郷を『シナリオ』によって過去改変するように、『シナリオ』を、ひいては外すらも改変してしまう。そして、カービィ達が倒したマルクソウルは、『ボス』達の融合体は、単なるカービィ達の世界の者ではない。カービィ達の世界では既に彼らは死んでいる。あれは怨念であり、残滓であり……彼らの存在、そのもの」

「つまりは、カービィ達は『ボス』達全ての存在を消しちゃったわけですか? あ、つまりは……」

「そう。カービィ達の世界の『シナリオ』から全ての『ボス』が消える。それはつまり……最早『シナリオ』として成り立たない。……『シナリオ』及び外の過去改変が起き、『ゲーム』としてのカービィシリーズは『過去にも未来にも存在しない』事になる」

「うわぁ……」

 

 絶句するクラウンピース。

 ヘカーティアは虚空で手を動かす。

 するとまるで液晶テレビのようなものが現れた。

 しかしそれが映し出すのは番組なんかではなく、ある一室。

 紅い壁、紅い床が特徴的な部屋に、数多の人妖が慌ただしく動いていた。

 

「時間を戻して、過去改変が起こる前に戻る、か……あのメイドの力を応用すれば、魔女達の力を結集する事により、可能かもしれない。でも、忘れているのかしら? マルクソウルの暗躍によって幻想郷とカービィ達の住まう世界は近づきすぎた。それによって双方の世界は壊れつつある状態に戻る。どちらかが壊れる運命しかないのに」

「あ、スキマ妖怪も協力してますよ? ……流石に忘れているわけじゃ……」

「だろうね。知ってて賭けているんだろうね。多分、彼女は何が起きたのか、把握しているんでしょうね。把握した上で、協力している……でも…………いや、いいか。しょうがない。力を貸そうかしら」

「何をする気ですか?」

「機械と魔術を使って過去に戻そうとするつもりらしいわ。でもあれじゃ不十分。だからここから過去へ巻き戻す力を貸してあげるのよ」

「でも、過去に戻しても、結局マルクソウルを止めなきゃいけないわけで……」

「それ以上は、彼らに賭けことにするわ。さぁ、見せて頂戴」

 

 

●○●○●

 

 

「まだ出来ないのか!?」

「やってるわよ! これが限界よ!」

「くそ、出力が足りない! 紫! なんとか出来ないのか!?」

「……私も、これ以上は無理よ」

「クソ……」

 

 目の前にあるのは、無数の歯車で構成されたカタマリ。それにまた無数の魔法陣が描かれている。

 人の意識をそのままに、事象を全て過去へ巻き戻す術式。

 それを使い、カービィ達が消える前……マルクソウルとの最終局面時に時を巻き戻す。

 咲夜の能力を応用すればできると思っていた。

 しかし、そんな神がかったことが簡単にできるはずがなかった。

 

「魔理沙……諦めるつもりはないのね?」

「当たり前だ!」

「そう……あんたは?」

「私も、信じてますよ!」

 

 霊夢は離れたところからその機械を眺めている。

 早苗は雑用をこなし、なんとか貢献しようとしている。

 

 冷静に考えてみれば不思議なことだ。

 全く無関係の世界の人間が、異世界の者を、技術を費やしリスクを冒して助け出そうとしている。

 

 なぜ、こんなことができるのだろうか。

 正気の沙汰とは思えない。

 もしかしたら、自分たちも消えるかもしれないというのに。

 

 いや、しかし、考えてみれば異世界の者だってそうだ。

 特に、カービィ。

 彼は進んでリスクを冒す。

 世界を救うという、人の為にリスクを冒す。

 その世界には自分も入っていると考えることは可能だが、それでも全く関係のないはずの事件にも進んで突っ込もうとする。

 

 不思議なヤツだ。

 理解できない。

 でも、だからこそ……幻想郷の者達は、彼らを助け出そうとしているのだろう。

 借りか、報いか、それとも。

 

 その時。

 

「あ、ま、待って! ……これは、何、この異常値は……!」

「どうしたパチュリー!」

「皆、伏せて!」

 

 パチュリーの警告を待たずして、突如歯車のカタマリは稼働した。

 異常なエネルギーを放出し、循環させながら。

 その出力は、まるで神が降りたかのようであった。

 

 その神がかった力は、その術式を完璧な形で発現させた。

 

「オ、オ、オ、オ、オ、オ、オッ!」

 

 マルクソウルがいた。

 狂化した、魂の、怨念の、残滓の塊が。

 落とされる無数のタネ。

 そこから湧き出す気色の悪い蔓。

 

 そして、それを避ける、奇跡の実と、霊夢と、スターロッドの力を得たカービィ。

 ハルバードもある。

 メタナイトもいる。

 デデデ大王もいる。

 ワドルディ達もいる。

 全員が、元に戻っていた。

 

「カービィ!」

「ぷよっ!?」

 

 思わず魔理沙はカービィに抱きついた。

 わけのわからないカービィはただただ慌てふためくのみ。

 

「良かった、カービィ!」

「ぷ、ぷぃ?」

「魔理沙……やってる場合じゃないでしょ」

 

 霊夢の言葉……それも消え入りそうな声により、我に帰る。

 そこにいたのは傷つき倒れた霊夢。

 そう、時が戻ったのならば、霊夢は傷ついた状態で戻ることになる。

 

「すまん。それじゃ、頼むぞ、霊夢」

「そっちもね。同じ失敗はしないわよ」

 

 魔理沙はもう一度、飛び上がった。

 もう一度、マルクソウルに立ち向かった。

 

 つい先ほどの絶望を、単なる悪い夢に変える為に。

 

「さぁ、コンテニューだ!」


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