東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
ロボボ非想天則モードとでもいうべきか。
巨躯を手に入れたロボボは一歩、また一歩と踏み出す。
巻きつく蔓など気にすることはない。
その重量と馬力で引きちぎるのみ。
「なんなのサ、なんでこうもうまくいかないのサァァァ!」
蔓を使った防御網も、ハルバードからの絶え間ない砲撃や集まった強者達の連続攻撃により、最早形を保つのが限界。
花状のユニットからロボボへ向けて黒い電撃が走るが、その程度の損傷など気にはしない。
ロボボは大きく左の拳を振りかぶる。
そのまま、蔓の防御網へと叩きつける。
それが最後の一押しとなり、防御網はバラバラと砕け散る。
「キィイイイイイイ!!」
花と融合したマルクの体が光る。
反撃するために集約するエネルギー。
だが、カウンターを放つよりも、ロボボの右の拳が突き刺さる方が早かった。
ブチィ!! という太いチューブが破断ような音とともに、花と融合していたマルクは引きちぎれる。
椿が花を丸ごと落とすように、マルクも花弁ごと吹き飛ぶ。
巨悪の根源が消滅したからだろうか。幻想郷を覆っていた蔓が、先の方から枯れ、そして溶け込むように消えてゆく。
全ての蔓が消えた時。
歓声が巻き起こった。
それは間違いなく、勝利を喜ぶもの。
危機を乗り越えた者があげるもの。
勝鬨が、大きなうねりとなって、戦場を包み込む。
「ん? これは……」
魔理沙は足元に転がっていたものに気がつく。
それは、マルクに奪われていたスターロッド。
ポップスターなる場所にあるべきもの。
ならば、その世界の者に返すべきだろう。
「おーい、カービィ!」
「ぷよ?」
一緒になって踊っていたカービィを魔理沙は呼び止める。
テコテコと走り寄ってくるカービィに、スターロッドを返す。
だが、スターロッドがカービィへ渡る直前。カービィの視線がズレた。
魔理沙の後ろへと。
そして感じる、何者かの接近。
振り向かなくとも、わかっている。
この背筋を刺すような、禍々しい瘴気を放つ存在は、つい先ほどまで相手をしていた。
まだ生きているのか。
まだ戦うのか。
まだ執念は癒えないか。
まだ怨念は晴れないか。
まだ平穏を許さないか。
蔓から引きちぎられた姿のまま、マルクは飛んでいた。
より毒々しく、より狂気を孕んだ姿で、再び相対する。
その目に僅かにあった理性は最早一欠片も残っておらず。
その口から漏れるのは罵詈雑言ですらなく、意味のない絶叫か呻き声のみ。
「おお……おおお……なんということなのね……セクトニア様の御身体に残っていた奇跡の実! その力が、まだ残っていたのね……!」
タランザの喘ぐような声。
カービィは、デデデ大王は、ワドルディは、思い出した。
嘗て欲望に支配された女王が死より蘇った時の代償を。
マルクもまた、その代償を支払い、蘇ったのだ。
「……はは、まるで屍じゃないか……」
マルクは炎に包まれる。
そして巨大な火球へと変貌する。
この獄炎に焼けぬものはないと言わんばかりの熱量。
それが直撃して、焼け落ち融けぬものなどありはしなかった。
ボールのように跳ねながら、着弾点を火の海に変えてゆく。
操縦士のいないロボボにも衝突し、一撃で粉砕する。
狂気、狂気、狂気。狂気のままに、破壊を撒き散らし、朧げな目的のために、ただ憎悪をぶつける。
「なんだよこれ!?」
「……」
「手……つけられないよこれ……」
誰かを狙う攻撃の方がまだ良かったのかもしれない。
マルクが行うのは、ただの破壊行為。
無差別に、美しき幻想郷を壊してゆく。
「っ! 炎が消えたぞ!」
「今だ! 今こそ総攻撃を!」
メタナイトの号令で、再びハルバードの砲台が火を噴く。
燃える剣、必中の槍、無数のナイフ、死を運ぶ蝶、剣撃、乱舞する鎌鼬、致死の呪い、重い拳、法界の火、ハンマー、宝剣、エアライドマシンの突貫、結界を張る符、レーザー、他弾幕……
それら全てがマルクに向けて放たれる。
だが、それらは十分な威力を発揮しなかった。
確かに、最初の方にマルクへ向けて放たれた攻撃は効果を及ぼした。マルクの体を焼き、傷をつけた。
だが、マルクの姿は唐突に掻き消えたのだ。
「転移……ですって!?」
そう、0時間移動、転移。
紫も良く行う、シンプルにして強力な術。
それを理性がないのにもかかわらず、嘲るように転移を繰り返す。
予想外の方向から、笑い声とともに現れるマルク。
しかし霊夢は、自らの勘を信じていた。
目を閉じ、ゆっくりと心を無にする。
その勘が、ついにマルクの場所を捉えた。
最悪の場所だった。
逡巡している余裕など、無かった。
符を展開しながら、弾かれたように霊夢は飛ぶ。
その先にいるのは、魔理沙とカービィ。
「退きなさい!」
「霊……ぐふっ!?」
そして魔理沙を弾き飛ばした。
途端、さっきまで魔理沙がいた場所から、マルクが飛び出す。
当然、霊夢はもろに直撃する。
だが、それも予測済み。
自らの身を犠牲にして、展開した符から結界が張られる。
狂化したマルクのことだ。永続的に閉じ込めることはできまい。
だが、それでも、動きを止めることはできた。
「おい、霊夢! 大丈夫か!?」
「ぽょ……」
「ゲホッ、喋らせないでよ、痛むんだから……そんな事より、折角私がアイツの動き止めたんだから、ちゃんとケリをつけなさいよ……」
「霊夢、良くやったわ。休みなさい」
いつの間にか来ていたのだろう。紫が霊夢の横に座っていた。
その目は慈しみのもの。
やがて、結界にひびが入る。
破れるのは、時間の問題。
「……やるか、カービィ」
「ぽよ!」
他の戦士たちも、その目は決意に満ちていた。
次の一撃に、力を溜め、その時を待っている。
その時。
「おーい! カービィ!」
彼方から声が聞こえる。
聞き覚えのある声。
見れば、ハイドラに乗るシャドウカービィの後ろに、バンダナワドルディがいるではないか。
その手には風呂敷に包まれた光り輝く実が入っていた。
「村に残っていた最後の一個だよ! 頼んだよ、カービィ!」
ぽいと投げられる実。
そう、奇跡の実。
それをカービィは吸い込んだ。
そして、虹色に輝くカービィ。
しかしその姿は以前と違った。
風呂敷ごと吸い込んだからだろうか。その頭にはバイザーが乗っかっている。
「カービィ!」
その姿を見た霊夢がカービィを呼び止める。
「私を、コピーしなさい!」
「……ぽよ!」
光は放たれた。
ひときわ大きな輝きがカービィを包み込む。
その姿は、誰もが予想した通りのもの。
そこにいたのは赤いリボンを結び、霊夢の巫女服の袖を装着した、虹色に輝くカービィだった。
「……へへっ、どうやら私の相棒は鬼巫女と決まっているようだな」
「ぷぃ?」
「カービィ、これ返すぜ。……さぁ、気張りどころだ!」
「ぽよ!」
スターロッドを構え、マルクに相対する。
そして結界は、破られた。