東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
ブレード状のエネルギー体が弧を描きながら迫り来る。
それを打ちはらい、跳ね返すメタナイト。
その隙に藍が光弾を放つ。
完璧なタイミングで放たれたカウンターというものは回避が非常に難しい。
光弾はマルクに命中し、表面を焦がす。
しかしその程度ではマルクにはダメージとも思われない。
放たれるのは、黒い雷撃。
マルクの固有の技ではない。融合したダークマターのもの。
もっとも、同時に数十を超える本数を放つあたりで、最早元の面影もないのだが。
さすがに予備動作なしの雷撃には対応できないものも多かった。
消耗していた橙や萃香、デデデ大王やワドルディ達に被害が及ぶ。
しかし得てして大技とは隙を誘うもの。
「お返しだオラァ!」
「砕け散りなさい」
「ギィイイイイイ!」
萃香と魅魔の連続攻撃により、奇声を上げ吹き飛ぶマルク。
地面に叩きつけられたところで、その着弾点を狙った魔理沙の無慈悲なマスタースパークが炸裂する。
さらにマホロアの歯車弾による攻撃、ランディアの火球も追加され、爆炎が夜空を染める。
だが、それでもなお、生きていた。
それも当然だろう。その程度で倒せるほど、ヤワではない。
「鬱ッッッッ陶しいィなぁァァァ!!!」
マルクは大口を開け、エネルギーを吐き出す。
それは高出力の極太レーザー、マルク砲。
地をえぐり、空を切るエネルギーを、マルクは薙ぐようにして吐き散らした。
どういう原理か、着弾点が爆発し、木々が、大地が吹き飛ぶ。
「くそッ、皆無事か!?」
「ワドルディ数体が吹き飛ばされた! 乗ってる量産機はもう使い物にならんぞ!」
「なら操縦者には援護を!」
「ちょっと待ちな……マルクはどこいった?」
魅魔の忠告に、我に帰る一同。
いつの間に、マルクの姿は掻き消えていた。
逃げたか、爆炎に紛れたか、それとも……
「あっ、下なのね!」
「ッアッハッハッハッハッ!!」
タランザが地を滑る影に気がつくが、遅かった。
不意の影からの突撃には耐えられない。
標的になったのは、カービィと魔理沙。
魔理沙も、カービィも、箒から投げ出される。
「魔理沙っ!」
「ヴ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!!」
霊夢は魔理沙の元へ飛ぼうとするが、狂い飛ぶマルクはそれを許さない。
近代兵器もかくやというほどの矢の連射、アローアロー。
それを地上へ向けて放つ。
弾幕とは違い、隙間のない矢。
しかし、自軍にいるのは歴戦の戦士と妖怪。
たとえ弾幕ごっこという遊びで戦いを封じられようとも、その牙は鈍ってはいなかった。
全ての矢弾を回避してのけた猛者は、更にマルクへと集中砲火を行う。
隙間などない。避けることなどできない。
はずだった。
「オッ、オッ、オッ、オッ、オ……」
マルクの体が、縦に裂けた。
そして裂けた体は沸騰する毒々しい赤と青のインクの塊のように変化する。
確たる実態が消失した相手に光弾などは効果を発揮しない。
全ての攻撃を避け切ったマルクは、そしてその体を四散させる。
そして降り注ぐ、赤と青の液体の雨。
液体が落下した場所はジュウジュウというおぞましい音を立てながら侵食される。
「くっそ、なんだこいつ!」
「変幻自在の道化、ってところかしら?」
「気に食わんな、この戦い方は。まだ素直なデデデの方が好みだ」
「それは喜んでいいのか?」
「ホラホラホラァ! そんな余裕こいてていいのかい?」
「マズいヨ! 来るヨ!」
轟と空気を搔き乱し、接近するマルク。
それを迎撃せんと構える幻想郷勢。
間も無く衝突する、そう思われた。
しかし、それは爆風によって遮られた。
「ンァああああ!? 誰なのサ!」
マルクの怒りを多分に含んだ誰何に、それは答えた。
『我ら、メタナイト様の忠実なる僕、メタナイツ! 遅れながら加勢するダス!』
彼方に飛ぶは、拘束から逃れたハルバード。設置されたスピーカーから、メイスナイトが一騎士として名乗りをあげる。
それは、メタナイツ全てを代表するもの。
ハルバードに設置された全ての砲台が、マルクへと向けられていた。
そして、全ての砲台が砲弾を……その暴力装置を稼働させた。
圧倒的火力は、 圧倒的精度でマルクへと吸い込まれるように着弾する。
絶え間ない爆炎、爆音。閃光は直視すれば目が焼き切れそうなほど。
「ギィイイイイイイイイイ!!」
そして微かに聞こえる、マルクの悲鳴。
「うぉ……効いて……いるのか!?」
「みたいなのね」
「このまま押し込めることができれば……ん?」
藍の目は、爆風に呑まれるマルクから外れた。
そこにあるのは、不自然な地面の盛り上がり。
まるで、何かが大地より生まれ出でんとするかのような、そんなモノ。
その直感は正しかった。
ゴボリと土が膨れ上がり、そこから太い蔓が持ち上がった。
千年杉もかくやというほどの太い蔓。
それがあちこちから伸びてきたのだ。
そして爆風に包まれるマルクを優しく覆い隠した。
その瞬間。
天地開闢により分け隔てられた天地を再び混沌へと帰すかのように、更に無数の蔓が、大地から巨大な蛇のようにのたうちながら現れたのだ。
近くを跳ね飛ばし、天へと蔓は伸び、寄り固まり、そして一つの大樹となる。
そう、それは赤と青が混じり合うことなく混在した、一つの大輪……十メートルを遥かに超えた花を中心に置く、花の木。
ポップスターに居たものならば記憶に新しい、かの妖艶の悪女が遺した名所の起源。
ワールドツリーが、この幻想郷に根を下ろしたのだ。
その根の総延長は幻想郷を10周してなお余る。
その根は幻想郷を覆うように、囲うように、支配するかのように、張り巡らされた。
そして霊力を、魔力を、神力を、この地が持つ力という力を、吸い始めた。
悪逆の女王が、嘗てそうしたように。
「ちょ、なんだこれ!?」
「スケールが違いすぎるでしょ!?」
「まずい、メタナイツに告ぐ、すぐさま退避を……」
ハルバードなど、ワールドツリーからしてみれば単なる巨大な的。
だからこそ、退避を命じた。
だが、遅かった。
「ギャハハハハハハハァァァ!!!」
赤と青の花弁が開き、中身が露わになる。
そこにあるのは狂気に満ちたマルクの顔、四つに別れた特徴的な翼。
それが開いた途端、その巨体に相応しい、極太という表現すら生易しい、ただ一瞬で面制圧が可能な程の太さを誇るレーザーが発射された。
シールドを展開しているとはいえ、ハルバードもさすがにこのレーザーには耐えられなかった。
脆いウィングが焼け落ち、みるみる高度を落とすハルバード。
しかし、それに見入っている暇はない。
一つ目の……オリジナルとは違い、まるでダークマターじみたものが花弁の中央にあるユニットが、無数に襲いかかってきたのだ。
それと同時に、凶悪な棘だらけの太い蔓が無知の如く襲いかかってくる。
あちこちで破砕音が聞こえる。
あちこちで苦悶の声が聞こえる。
ユニットから放たれるレーザーが身を焼く。
蔓の棘が体を裂く。
コピーのないカービィもまた、弾き飛ばされる。
そして、マルク達はカービィに殺されたものの怨霊。
カービィを優先的に追い詰めようとするのは、当然であった。
だが、カービィも、マルクも、誰もが気づいて居なかった。
そこから飛来する、灰色の流星に。