東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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『XX』

「アハハハハ! さあさあ、どうしたのサ!」

「くっ……!」

 

 狂気に満ちた嘲笑が、洞窟に響く。

 その声は紫のもの。しかしその中身は別物。

 紫の身体を得たマルクである。

 その嘲笑の先にあるのは、傷だらけになった霊夢であった。

 

「他人の体を乗っ取って戦う……全くいやらしいヤツね」

「ボクにはそんな能力、元々はなかったのさ。ボクと融合したダークゼロの力なのサ! ほら、見るがいいサ!」

 

 ピシリ、と何か裂けるような音がする。

 その音と同時に、空間にヒビが入る。

 そしてそのヒビは、霊夢に向かって伸び始めた。

 スキマを長く開くことにより生み出す空間の断絶。それを行なっているのだ。

 空間そのものを裂く攻撃を受け止める手段に乏しい霊夢は跳びのき回避するすべしか用意されていない。

 だが、跳びのき回避した方向に用意されたスキマから、幾つもの光弾が飛ぶ。

 

「ハァッ!!」

 

 咄嗟に結界を張り、被弾を防ぐ霊夢。

 しかし。

 

「……あーあ、止まってたらいいサンドバッグにしかならないのサ」

 

 霊夢の張った結界を覆うように、四方八方からスキマが開く。

 そして、無数の道路標識が飛び出した。

 四方八方から現れた道路標識は霊夢の張った結界を削り、ひしゃげさせ、ついには破壊した。

 道路標識の包囲網から辛くも逃れるが、その際何本かの道路標識が霊夢の体を強く打ち付ける。

 

「ぐっ……舐めるな!」

 

 苦し紛れに放った博麗神社の符。

 だがそれは、紫……いや、マルクの前に現れたスキマに呑まれてしまう。

 

「んー? その程度なのかなー? つまらないのサ。折角幻想郷も、ポップスターも、全ての世界をボクのものにしたのに」

「……ふざけないで。そんなこと、させるはずがないでしょ」

 

 傷つき、血を滴らせながらも、霊夢の闘志は衰えない。

 その目は鋭く、不退転の決意に満ちていた。

 しかしマルクは、その目を嘲る。

 

「そう怖い目をしないで欲しいのサ! ……それに何か勘違いしているみたいなのサ」

「……ああ?」

「ボクは全ての世界をボクのものにするよう、ボクのオモチャにするよう願った。つまりは……」

 

 ミシリと音がする。

 その音はだんだん大きなものとなり、ついには地響きへと変化する。

 そして、洞窟の天井が吹き飛んだ。

 そこから見えるのは、青く透き通った昼の空ではなく、星々が輝き月の照らす夜の空でもなく、朱に染まった夕暮れでも、全ての始まりを告げる朝日でもなく。

 

 真っ黒な空に、歪んだモノが浮かんで見える、どの世界にもない空だった。

 

「つまりはぁ、この世界は全部ボクの支配下! オモチャ! オモチャを壊すも直すもボク次第! 全てはボクの掌の上! 」

「まさかっ……!」

「そうさ! この世界全てが人質さ! これもボクの完璧な計画が順調に進んだおかげなのサ! ま、許してちょーよ! おっほっほっほっほっ、ほほほほほほほほほ!」

 

 最悪だ。

 幻想郷、いや、全ての世界が人質だなんて。

 例えこいつを圧倒したとしても、幻想郷もろとも消される可能性がある。

 なら、世界とマルクとの繋がりを絶つ方法はどうか?

 夢想封印ならそれくらいできるだろう。

 だが問題は……夢想封印の準備中に、マルクはどこまで世界を壊せるか、ということ。

 マルクはほぼ一瞬で洞窟の天井を、触れることなくぶち抜いた。

 夢想封印を撃つまでに、死なば諸共と人里を破壊するかもしれない。

 そうなれば、人里あっての幻想郷は崩壊だ。

 

 詰んだ。

 既に飛車と角行を取られ、歩も金将も銀将も桂馬も香車も半数以上取られ、隅に王将が追い詰められた状態。

 絶体絶命。……もはやその手を下ろす以外ない。

 

 そして、その降伏の意思を汲み取ったのか、拍手が鳴り響く。

 ずっと静観していた、魔術師マホロア。

 ゆっくりとマルクの方へ近寄る。

 

「ブラボー、ブラボー。素晴らしいネ! 僕が以前立てた支配計画よりもずっと完璧だヨォ!」

「当然なのサ。ボクは融合体。ある意味宇宙の叡智だって手に入れているのサ!ボクの計画に狂いはなかったのサ!」

「ウンウン! スターロッドでマルクの願いを叶えた時点で、もう全ての勝敗は決したも同然! もはやこの計画は覆せないネ!」

 

 そしてマホロアはマルクに優しく触る。

 瞬間、紫の体と、マルク本体に分離した。

 解呪と封印の術式。それであると霊夢はすぐさま見抜いた。

 突然のことに呆然とするマルクに、マホロアは笑いかける。

 

「でも一つミスがあるヨォ。ボクの裏切りを全く想定していないことダヨ」

 

 解呪によって憑依が解け、封印によって世界との繋がりが断たれたマルクは、狂気と闇と、そして恐るべき力を放出しながらヒステリックに激昂する。

 

「マホロアァァァ!!! 裏切ったなァァァ!! いいだろうゥ! 封印している間に殺そうしているみたいだけどコノ封印も一時間と持たないだろうサ! そんな短時間で、クラウンも破壊されたお前が、このボクに、勝てると思っているのかァァァ!!!」

「ウン、無理だネ。勝てないヨォ」

 

 あっさりと、マホロアは白状した。

 しかし、その顔は余裕に満ちていた。

 

「でも、一体いつから……ボク一人で戦うと勘違いしていたのカナァ?」

 

 マホロアの背後から、巨大な時空の裂け目が開く。

 そこから現れる、ハルカンドラの守り神、四体のランディア。

 ハルカンドラの秘宝、天翔ける船、ローア。

 

 そして……

 

「全く……驚かせおって」

「ひやひやしたぞ、全く」

「ごめんネェ。でもこれしかないと思ってネ」

 

 傷だらけのメタナイトと藍が現れる。

 

「うわぁん! 藍しゃまぁ!」

「ふぅ、なんとか生還できたよ。ありがとマホロア」

「いいってことサ」

 

泣きじゃくる橙とそれを見守るバンダナのワドルディが飛び出す。

 

「全く。別に私を連れてこなくてもいいだろう?」

「何言ってんだ。あんな悲しいこと言われちゃ、連れてこないわけにはいかんだろ」

「水臭いことは言わないで欲しいのね」

「そうそう! デデデもいいこと言うねぇ。よっ、大王!」

「あれ、魅魔もついてきたノ?」

「ああ。ってなわけで、追加報酬よろしくね」

「エエエ……」

 

 デデデ大王とタランザと萃香と大量のワドルディ、そして彼らに連れてこられた魅魔が顔を覗かす。

 最後に。

 

「ぽよっ!」

「へへっ、面白いことをしやがるな、マホロア!」

「褒めてくれて嬉しいヨォ」

 

 雪まみれになりながら飛び出すカービィと魔理沙。

 

 これで、異世界に放り出された全員が、生還したことになる。

 

「なぜだ、なぜ、ナゼ死んでない!? 劣悪な環境下に消耗した状態で放り出したのに、ナゼ!?」

「そこはボクの出番ダネ。予めキミと相談した場所に現地、もしくは世界を超えられる強者に協力要請を出しておいたんだヨォ。報酬にテーマパークの利益ゼンブつぎ込むつもりだったけど、みんな優しくて助かったヨォ。……若干一名ボッタクられたケド」

 

 スッと目をそらす魅魔。

 メタナイトは呆れたように溜息を吐く。

 

「私に教えてくれたっていいじゃないか。寿命が縮んだぞ?」

「敵を欺くにはまず味方からってネェ。難しいね、ダブルスパイ。勉強になったヨォ」

 

 笑うメタナイトとマホロア。

 それを見てマルクはわなわなと震えだす。

 

「ボクの、ボクの完璧な計画が……!」

「気付くべきだったネ。一人の独裁なんて、誰も認めたがらないことヲ」

「フザケルナァァァ!!! 全員、殺してヤルのサ!」

「サァ、形成逆転……ダネッ!」


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