東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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集え、旧き者よ

「お前は……チルノ……なのか?」

「だからそういってるでしょ? あたしはチルノだよ。氷の妖精、チルノ」

「なんか、私が知っているチルノとはだいぶ違うんだが……」

「うぃ……」

「それは暖かくなった世界のあたしでしょ? そりゃ姿形も変わるよ」

「いや、それ以外も色々と……」

 

 バカで有名な氷の妖精チルノ。

 しかし目の前にいるのは極めて知的な喋り方をするチルノ。

 常識が現実に打ち砕かれた者に相応しい表情を魔理沙とカービィは浮かべる。

 

 だが今は戦闘中。チルノの意外過ぎる過去を目の当たりにしたところで、ゼロが動き出した。

 だがチルノはそれを許さない。

 

「凍てつけ!」

 

 手を広げ、ゼロに向ける。

 その途端、氷柱が出現した。

 その氷柱はレーザーか何かと紛うほどのスピードで成長し、ゼロを殴り飛ばした。

 さらにそれで終わりかといえば、そうではない。弾き飛ばされ吹き飛ぶゼロが地面に着弾した途端、その地点から針山の如き氷塊を出現させる。

 その規模は巨体のゼロを封じ込めて尚余りがあるほど。

 

「おいおい……なんだこの出力は……」

「ふぅむ……スノーボールアースの時はもっともっと出力あげられたんだけどなぁ」

「まじか……」

 

 チルノは妖精。つまりは人外。

 普段気がつかないだけで、これが本当の妖精の脅威なのだろう。

 

 とはいえ、相手もこの程度では折れ伏すようなヤワではない。

 自分の体積の何倍もある氷を弾き飛ばし、その姿を再び現すゼロ。

 それを見たチルノは不敵に笑う。

 

「さすがに骨があるやつみたいだね。ここからが正念場、といったところかな? それじゃ……やるよ!」

「おうよ!」

「ぽよっ!」

 

 

●○●○●

 

 

 メタナイトと藍はつい先ほどまで殺しあった相手と背中を合わせ、共闘していた。

 相手は、自分達。

 悪意を増幅させた、自分達だ。

 荒涼とした荒地に、剣撃と爆音が鳴り響く。

 

 ただなりふり考えず殺すことにのみ傾注する自分は、強い。

 傾国の美女として悪逆の限りを尽くした時の藍は、恐ろしい。

 黒く濁った自分ほどの脅威はない。

 しかも、これだけではない。

 奥から高みの見物を決め込む、ダークマインド。

 本体と言うべきものが後ろに控えているのだ。

 その姿は仮の姿ではなく、火球に金色の瞳が輝く本来の姿。

 二つの影を支援するように弾丸を放つのがいやらしい。

 

 二対三。相手は同格かそれ以上。

 これだけでも絶望的なのに、メタナイトと藍は先の闘いで決して軽傷では済まない怪我を負っている。

 藍の腹部からは血が滴っているし、メタナイトの生命力は減り続けている。

 勝敗は、最早明らかに見えた。

 

 だが、それでも尚相手に飲み込まれないのは。

 悪しき自分に飲み込まれないのは。

 悪しき心よりも、自らの善性、そして信念が優っているからであろうか。

 

 しかし理由などどうでも良い。

 その結果、間に合ったのだから。

 

「久しぶり、メタナイト。なかなか苦戦しているみたいね? 手を貸さないこともないわよん?」

 

 ボン、と突如として爆発が起きる。

 その爆風に自らの影が吹き飛ばされる。

 そして彼女は舞い降りた。

 地球、月、異世界を模した球体を浮かべる、地獄の女神、ヘカーティアが。

 

「誰!?」

「ラピスラズリ殿、どうして!? ……いや、助太刀感謝する!」

「ま、感謝の相手は違うと思うんだけどな」

「それは……?」

 

 疑問符を浮かべるメタナイトと藍に、ヘカーティアは不敵に笑う。

 

「ほらほら! クエスチョンマーク浮かべる前に目の前の敵倒さなきゃ!」

 

 

●○●○●

 

 

「いやはや、全く、こんな事で呼び出される日が来るなんて思わなかったねぇ」

 

 ソレは杖を振るう。

 杖から撒き散らされるのは、高速の弾丸。

 それは、一つ一つが霊力の塊。

 その霊力弾とも言うべきものは、幾つも浮かぶ黒い一つ目の球体……ダークマターに突き刺さる。

 当たるたびにダークマターの纏う闇が霧散してゆくあたり、相当効いているのだろう。

 

 ハルバードを持つデデデ大王、アシストするタランザ、拳を振るう萃香、量産型ロボボに乗り込むワドルディ達も、無数にいるダークマターと戦ってはいるが、やはり消耗した彼らにとって、ソレの乱入は非常にありがたいものだった。

 乱闘中、突如として空間の裂け目に落とされ、草原に落とされた時は混乱した。

 そして無数に現れたダークマターに、一時は絶望した。

 

 だが、しかし、ソレは突如として現れたのだ。

 

 先端に三日月を象った杖を持ち、太陽の描かれたリボン付きの三角帽を被り、緑の長髪を戦場に靡かせる女性。

 その下半身は、非実態の幽霊然としたもの。

 

 彼女は自身を魅魔と名乗った。

 

 大陸語でサキュバスを名乗った彼女は、その名にふさわしく妖艶に、そして美しく、闇たるダークマターを討ち払ってゆく。

 

「お前は、何者だ?」

「悪霊さ。ちょっと有名な、ね」

「……寡聞にして私は知らんぞ?」

「……そうか。ちょっと寂しいね。ま、誰かが覚えてくれていたから、私は今もいるんだけどね」

 

 寂しそうな顔をしながらも、魅魔は杖を振るう。

 

「……お前も元は幻想郷の者だろう? ……こちらには来ないのか?」

「私が行けば、均衡は崩れるかもねぇ。……なら、ここに留まるさ。年長者は、年少者に台を譲るのが役目ってね」

 

 最後のダークマターが討ち払われる。

 そして、そこから空間の裂け目が現れる。

 どうやら、空間の裂け目を分霊の依り代としていたようだった。

 

「さぁ、いきな。折角平穏を掴んだんだろう? なら、こんなところで終わらせてくれるな!」

 

 

●○●○●

 

 

「ああ全くもう! 私の魔界に変な奴送って来るんじゃないわよ!」

 

 激情に任せ、レーザーを放ちまくるのは赤い衣に身を纏う、銀髪の少女。しかしその背中からは六枚の黒翼が生え、決して人間ではないことを教えてくれる。

 

 ワドルディ達にはこう名乗った。魔界の神、神綺と。

 相対するはドロシア。だが、それは絵の具をめちゃくちゃに混ぜ合わせたような球体に、黄色い五つの目と大きく裂けた口を持った本性の姿、ドロシアソウルの姿。

 

「そう怒らないでよ。報酬もちゃっかり貰ったんでしょ?」

「うっさいわね、ワドルディ! ああもう結構しぶといし!」

「ひぇえ……藍しゃま、この人怖い……」

「何よ!」

「ひぃ!」

「大丈夫だよー。この人こう見えていい人だよー。たぶん」

「たぶんってなによたぶんって!」

「気の所為だよ」

「あーもう、ムカつく。追加料金請求しようかしら」

 

 ブツブツと呟く神綺。

 そこでワドルディは気になったことを戦闘だろうが構わず聞いてみる。

 

「ところで、神綺さんってボクらを助けるようあらかじめ誰かに頼まれたんだよね? 一体誰に頼まれたの?」

 

 なにもこんな時に聞かなくても、と言う顔を神綺はするが、それでも答えてくれるあたり、短気な割には優しいところもあるようだ。

 

「ああ、そいつはなんと名乗っていたか。たしか……」


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