東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
『カービィは不浄』と綿月姉妹は言っていましたが、彼ら月人は『生きているものみんな不浄』『ぶっちゃけ月以外に住む奴みんな不浄』という考えをお持ちです。だからカービィが不老でも純粋無垢でも彼らにとっては等しく不浄扱いです。月人のメンタルすげぇ。
素粒子レベルで森を浄化する月の技術。
その力は凄まじく、その範囲は戦略兵器の爆発に値する。
しかも、その範囲内は綺麗さっぱり『浄化』されるのだ。
浄土である月の都で行使した場合、これ以上浄化しようがないために光が溢れるように見えるだけだが、もしここに不浄なるものがいれば一瞬にして『浄化』されていたことだろう。
「他愛ないわね。そもそも私達二人を同時に相手にした時点で貴方の敗北は決していたというのに」
豊姫はつまらなそうに扇子をくるりと回す。
依姫は何も言わないが、同意とばかりに静かに刀を鞘に収める。
だが、その時であった。
直接戦闘に秀でた依姫だからこそ、気づけた気配。
依姫は瞬時に降ろす神を決め、そしてその身に神を下ろした。
「
降ろしたのは岩と土の男神。
その神の力により、大地から分厚い壁が生えた。
それは人の作り上げたどの城塞の城壁よりも分厚いもの。
しかしそれは、まるで巨人の持つ破城槌で突かれたかのように、たった一撃で大穴を開けられた。
その穴から飛び出してきたのは、カービィであった。
カービィが乗り込むのは、竜を模した飛行物体、ドラグーン。
それによる突貫であった。
なぜ、カービィは浄化されることなく今も生きているのか。
確実に、このドラグーンによる強制離脱を試みたのだろう。
カービィは再び綿月姉妹と相見える。
カービィはドラグーンを使い突貫する。
迎え撃つは、依姫。祇園様の剣を構える。
『カービィ! 下から来るぞ!』
魔理沙の指示に従い、カービィは高度を上げる。
地面から剣が生えるならば、届かないくらいに高度を取ればいい。非常に単純明快な対処法である。
しかし……依姫は笑う。
豊姫は数メートルほどの小惑星を運動エネルギーを保ったまま召喚しカービィに投げつけると言う荒技を敢行する中、依姫は剣を“空間に”突き刺した。
その刃が中程から消え、代わりに無数の刃がカービィの周囲に、まるで空間を突き破るかのようにして現れる。
『なっ!? こんなことができるなんて、聞いてないぞ!?』
「残念だったわね、魔理沙。私はあの時、実力を全て発揮していたわけではないのよ」
嘲りを多分に含んだ声色で種明かしをする依姫。
そしてカービィを囲んだ刃は、そのまま大砲のごとく射出され、カービィへ殺到する。
絶対にやったといった状況に、依姫は笑う。
何せ、神の刃が殺到したのだ。並みの生物ではまず対処はできず、たとえ神であっても無傷ではむまい。
そして、炸裂音が鳴り響く。
神の刃と神の刃の超速で衝突。
当然神の刃は砕け散り、美しいダイヤモンドダストのように太陽光を反射する。
だが次の瞬間、目の前の景色は瞬時に変わった。
この感覚は知っている。姉、豊姫の転移能力だ。
いつの間にか自分はさっきいた場所よりも10メートル以上後方に飛ばされていた。豊姫も同じように元の位置から離れていた。
「どうしたのです、姉上」
「……依姫、あれを見なさい」
「……ああ、なるほど」
豊姫の視線の先。
そこには、超速の刃を受けながら無傷のカービィがいた。
しかも、その姿は先ほどとは全く違う。
緑色の三角帽子と剣を持った姿。
その姿に、魔理沙は見覚えがあった。
「ソード……なのか? いやしかし……」
口でそういってみるがなんだか違う気がする。
以前実験で見た時よりも、どこか強力に見える。
三角帽子は大きく、先のポンポンは星型。側面には剣を模した飾りがつき、正面には光る星が取り付けられている。
持つ剣は通常のものよりも分厚く、大きく、そして豪華であった。
「ソードではあるが、若干違う。あれは『ウルトラソード』だ」
「ウルトラソウル?」
「ウルトラソードだ。飲み込んだかの剣は神剣と見た。ならば通常のコピーで収まるはずがない」
「ウルトラソード……普通のものとどう違うんだ?」
「見ればわかるさ」
メタナイトはスクリーンに映された映像を眺める。
丁度、カービィは依姫に斬りかかる時であった。
ドラグーンの運動エネルギーも利用した一撃はさぞ重いだろう。
直接戦闘に秀でた依姫はその刀を構え、豊姫はサポートに回る。
岩の壁を貫通するぐらいの力ならば、依姫も怪力の神の力を力を借りれば受け止めることはできる。
だがしかし、襲いかかる斬撃は想像を超えるものであった。
カービィが剣を振るう瞬間、突如としてその剣が何倍にも相似拡大したのだ。
依姫よりも、その刀身は大きい。
しかも日本刀のような細身の剣ではなく、非常に太く分厚い剣である。その総重量は計り知れない。
しかもその超重量の剣を、ただの棒切れを持っているかのような速度で振り回すのだ。
ドラグーンの速度、剣の重量、カービィの振るう速度、そして意表をついた攻撃。
豊姫はそれらを冷静に判断した結果、再び転移によって回避を図る。
当然、カービィの剣は空を切り、巨大化した剣は元に戻る。
だが、騎乗するドラグーンの機動力は馬鹿にできない。すぐさま急旋回し、こちらへ向かってくる。
「その剣は素晴らしい。だが、鋼では神を下せん!
巨大化した剣が依姫に迫る中、依姫は神を下ろす。
瞬間、カービィの持つ剣は砂塵へと帰した。
そしてその剣を再構成し、操り、カービィに斬りつけた。
「ぶぃ!」
『カービィ!』
苦痛の声と、魔理沙の悲痛な声が同時に響く。
斬られたカービィに大きな傷は見られないが、確かに苦痛の声を漏らし、ダメージを負っているようだった。
すかさず豊姫がチャージの終えた月の扇子を使い、浄化の風を巻き起こす。がしかし、それは未知の技術によってすり抜けるように避けられた。
とはいえ、先に一手を取ったのは間違いない。
しかしカービィの戦意はその程度では削がれない。
剣もまた、再生している。
質量を自由に操れる剣だ。再生くらいはできるのだろう。
そして再び、同じように突貫したのだ。
「愚かね。同じように突貫することしかできないとは」
「なるほど……所詮は不浄なる民の狂犬にしか過ぎないか」
カービィは剣を振りかぶる。
依姫は手を向ける。
しかしカービィは恐れることなく剣を振るう。
そして剣は、先ほどの巨大な剣ではなく、巨大なハリセンへと変化した。
「がっ!?」
依姫の降ろした神は、いかなる金属も自由に操ることができる。
しかしそれは、金属以外は操れないということ。
そしてそのハリセンは───信じられない強度を持つが────金属ではない。
綿月姉妹は揃って大地に叩きつけられる。
やがてハリセンは元の剣に戻る。
そのハリセンの下からは窪んだ大地と、未だ両の脚で立つ綿月姉妹がいた。
傷はある。しかし戦闘に支障が出るほどではない。
やはり彼女らも、神の血族であった。
「……なるほど、面白い。どうやらお前は私と同じように引き出しが多いようだ。……八百万の神を降ろせる私とどちらが引き出しが多いか比べるのもまた一興」
「カービィと言いましたね? あなたの戦い方はなんとなくわかりましたわ。トライアンドエラー、といったところですか。ならば、我慢比べといきましょう。不浄なる身が浄土でどこまで持つかは知りませんが」
そしてその一撃は、二人の闘志に油を注いだ。