東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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前回の答え合わせ:カービィが歌っていたのは『Bad Apple!』でした。


月の姉妹と桃色玉

 カービィの目の前に現れた二つの影。

 片方は長い金髪にリボンのついたモブキャップを被り、扇子を持っている。もう片方は長い紫髪を黄色のリボンでポニーテールにしており、日本刀を装備している。

 共通項としては二人とも白と紫のワンピースのようなものを着ている事と、前者は天真爛漫そうで、後者は生真面目そうな対称的な雰囲気を放ちながらも、どこか似ている部分がある事か。

 

 先程の空間が割れたような感覚は、かの魔術師が全力でかけた防御魔法が無事発動した、という事だろう。

 しかし、かの魔術師が得意な空間操作系の魔法を全力で駆使してもギリギリ防げた、という感じだった。つまり、それだけ相手の力が優れているという事。

 しかも、それ以外の防御魔法はかけていない。というより、先の魔法に全力を出しているために、かけられない。しかも相手の手札はこれだけではないはず。かの魔術師の全力でやっと戦線に留まることができる、と行った状態。はっきり行って有利でもなんでもない。

 さらに、これだけやっても力を抑えられたのは金髪の片割れのみ。紫髪の片割れの弱体化はノータッチだ。

 その紫髪の片割れは“純粋な戦闘能力”のみで評価するならば金髪の片割れを上回る。おそらくタイマンでは最強の部類。

 

 そして金髪の片割れがその扇子を突き出す。

 

「一体何処の国のものかは知りませんが……あなた方は不浄の地の出ですね? 不浄の者がこの浄土へ足を踏み入れることは許されておりません。退去願いましょう」

「速やかに聞き入れよ。さもなくばここで浄化してくれよう」

 

 上位者だからこそできる高圧的な態度。

 それに答えたのはカービィではなく、その腕につけた無線機。

 

『まずは名乗るのが礼儀ではないのかね? 月の都の姉妹よ。私の名はメタナイト。目の前にいる者はカービィという』

 

 聞こえてきたのはメタナイトの声。

 全く予想外な場所から声が聞こえたため、二人は若干眉をひそめるが、特に反応することもなく答える。

 

「不浄な侵入者に教える名はない」

『そうか。それは残念な事だ、綿月依姫殿』

「あらあら……名乗る必要はあったのかしら?」

『綿月豊姫殿、貴女方は高貴な生まれの様子。ならば様式美というものも理解できますでしょう?』

「なるほどね。伊達に騎士(ナイト)を名乗ってないわけね。良いでしょう。不埒な侵入者に名乗るというのも粋ですわ」

 

 そして金髪の片割れ……綿月豊姫はワンピースの端をつまみ、優雅に名乗る。

 決して、不浄な侵入者の前に頭を下げたりはしない。

 

「私は月の使者のリーダーを務めております、綿月豊姫です。短い時間ではありますがよろしくお願いいたしますわ。ほら、依姫も」

「姉上……はぁ。私は綿月依姫。姉上と同じ月の使者のリーダーだ。以上」

 

 紫髪の片割れ……綿月依姫はぶっきらぼうに名乗る。

 そして刀をカービィに向ける。

 

「……で、何が目的だ」

『簡単なことさ。ちょっとした探し物をここでしているのさ』

「つまりは前のような盗人という事ですか。本当、地上に生きる者たちの考えはどこまでも下賤でくだらないものです」

『さて、どうだかな。我々が探しているのはどちらかと言うと元々は我々の道具であったはずなんだがな』

「だからと言って浄土に無断で立ち入る理由にはならん。この地は絶対的な聖地。貴様らのような不浄な者共が足を踏み入れて良い場所ではない」

『なるほど、な……なんと言うべきか、野蛮だな』

「野蛮、だと?」

 

 空気が変わった。

 綿月姉妹の顔に浮かぶは明確な怒り。

 

「浄土に住まう私達を野蛮と言いますか。地上に住み、生命を奪って生きるあなた方の方がその言葉はふさわしいように思えますが?」

『ふっ、どうだか。私はその力を他人に行使する時点で野蛮だと考えている。それが例え聖なる力の行使でも、命を奪いうるならば、それは野蛮な行為だ。つまりは、野蛮性において我々も月人もそう違いあるまい』

「我々が行うのは浄化だ。貴様らの命の奪い合いとは違う」

『……ああ、そうか。月人。“お前たち”は生を否定する滑稽な生命だったな。すっかり失念していたよ。カービィ、勝手にやるといい』

「ぽよ!」

 

 カービィは威勢良く返事をする。

 綿月姉妹はメタナイトの言葉に含まれている挑発に乗る形で、その武器を構える。

 ……が、ふと豊姫があることに思い当たった。

 

「……メタナイト、一つ聞くわ。あなたの目的は月にあるアイテムの回収だったわよね?」

『ああ、そうだ』

「……まさか……生命のない別働隊を使っているわね?」

 

 豊姫の言葉に、依姫もハッとしたようにカービィを、いや正確にはカービィの腕についた無線機を見る。

 対する返事は、笑い声。

 

『ハハハ、流石に以前の侵入と同じ手口ではばれるか』

「なんだ、勝機ともいえる貧相な策も露見しているではないか。所詮は不浄の民だな」

『……しかし、気がついたところでどうする?』

「……なに?」

『月人は生命の察知は非常に敏感だ。だがしかし生命なき者を察知するのは難しい。故に簡単に都に侵入を許してしまう。だが、今回のように無生物の存在の侵入がわかれば、人海戦術で簡単に捉えることができるだろう』

「自分でわかっていて、なにを言っている?」

『わからんか、今の状況を。人海戦術を行えるだけの兵士がこの場に“残っている”のか?』

 

 そこでようやく、綿月姉妹は思い出した。

 このカービィという生命体によって、住人や兵士のほぼ全てが行動不能に陥っていることを。

 テレパシーに不明なユニットが接続されたことを察知できたのは綿月姉妹のような高位の者達だけ。そしてその高位の者達は揃って後方で都の住人ほとんどが行動不能になってしまったこの異常事態の解決に回されている。

 つまり、圧倒的人手不足。

 

「依姫! こいつに構っている暇はないわ! 早くこいつの同胞の捜索を……」

『どこへ行こうというのだ? せっかくであったのに、すぐに別れるというのは寂しいではないか』

 

 どこかへ行こうとする豊姫の足元に、何本かの太い針が突き刺さる。

 その針が飛んできた方を見れば、そこにいるのはトゲトゲした帽子をいつの間にか被ったカービィ。

 帽子についていた針が飛んできたのだろうか。飛んできた針と帽子の針は同じもののように見えた。

 

 そのカービィの目からは、この場からは逃さない、という意思が透けて見えた。

 

『貴女達の相手は今目の前にいるカービィだ。逃さんよ。たとえ綿月豊姫殿の力で逃げようとも、貴女達は月の都の守護のために月の都から離れられない。逃げられる範囲が決まれば最早我々の索敵能力と砲撃から逃れられると思うな』

「……言うじゃないの、不浄な野蛮人。とはいえ、私達をその舌のみで翻弄したのは評価してあげるわ。それに満足して、大人しく往ぬがいいわ。あなた方不浄な者共の不浄なる所以は地上に生き、地を這い蹲り、そして地で死ぬこと。存在自体が不浄であり、この地は不可侵にして絶対の浄土であると、思い知らせてあげるわ」

 

 最早その言葉によるコミュニケーションは意味をなさない。

 この後行われるのは──綿月姉妹は否定してはいるが──野蛮な力のぶつかり合い。

 

 依姫はその剣を地に突き立てた。

 瞬間、針山の如くカービィの足元から剣が生える。

 依姫の能力は八百万の神を一瞬でその身に降ろす能力。

 依姫を相手にすることはすなわち、八百万の神を敵に回すのと同義。

 その強さの前に、霊夢も、魔理沙も、咲夜も、レミリアも敗北を喫した。

 

『カービィ! 祇園様の剣だ! 下から来るぞ!』

 

 そしてその恐ろしさを知る魔理沙は、メタナイトから無線を奪い、カービィに指示を飛ばす。

 その指示に従ったかどうかは不明だが、カービィは丸まって帽子を使い四方八方に針を伸ばす。

 針は固く、そしてカービィの体は軽い。

 剣に弾かれるようにしてカービィの体はかち上げられ、傷を一切負うことなく離脱する。

 

 だが、その後ろには豊姫が待ち構えていた。

 豊姫の能力は山と海を繋ぐ……言わば転移能力。

 しかしそれは単なる転移ではなく、概念の隙間すら操れる紫同様どこまでも応用の効く能力。

 

 背後の気配に気づいたカービィは針を四方八方に飛ばした。

 だがその針は……あろうことか、豊姫の体をすり抜けた。

 能力の応用であることは確か。

 そして無防備なカービィへ向け、その扇子を向けた。

 

 森を素粒子レベルで浄化する、月の最新兵器。

 それの行使により、あたりは光に包まれた。


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