東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
「へぇ! そこのピンク玉が勝負を挑むってかい?」
「ま、そんなところだ。話でも聞いてやってくれ」
「うぃ!」
「んー? なにいっているかわからんぞ?」
「ってなわけでボクが通訳を」
魔理沙の後ろからひょっこり現れたのはバンダナのワドルディ。
そして身軽な動きで箒の舳先に立つ。
「簡単に言えば、カービィはキミ……正邪がどういった理由で今回の異変を起こしたのか知りたいのさ」
「うぃ!」
「ハハハ! なんだそんなことか! ……教えてやーらね」
そして後ろを向きおちょくるように舌を出す鬼人正邪。
しかしカービィはそんな挑発に乗るほど馬鹿ではない。
……というより、挑発を挑発と理解していない節がある。
カービィは自らの言葉で正邪に語りかける。
「うぃ! ぽよ、ぽよぉ、ぷぃっ!」
「それは天邪鬼という妖怪だから、下剋上をしたのかい?」
「さぁ、どうだかな。私がしたいことをしただけだよ」
「ぽよ、ぷぃ、うぃっ!」
「それは妖怪としての欲求?」
「さぁ〜それはどうでしょう?」
答えをはぐらかす正邪。
カービィは少しの間、沈黙する。
そして、静かに言った。
「……うぅ〜やっ」
「理由は妖怪としてのサガであってほしい」
「は? どういうわけだ?」
「ぽよ、ぽぃ、ぷゅ。うぃうぃ、ぽよっ」
「妖怪は人からの想いを糧にするために、人を襲うと教えられた。それならば、それは妖怪にとっての食事なんじゃないかって思う」
「だから、どうした?」
「ぷぃ、ぷぃ。うぃ」
「食事は自分だって取る。だから、それならば、許されるべきだと」
「ぷっ、アハハハハハハ!」
笑い出したのは正邪だ。
腹を抱え、脚をバタつかせ、思いっきり笑っている。
そして、凶悪な笑みを浮かべた。
「ったく、善玉野郎が。ムカつくんだよな、そういうの。なにが許されるべき、だ」
「ぷぃ、うぃ、うぅい。ぽよ、ぽょ、ぷぃ。ぷよ……」
「君が悪いことをしたのは事実。でも本当に悪いわけではないとも思う。だから……」
カービィは自分の周囲にあるものを浮かべた。
それは橙、黄色、緑、青、藍色のスターロッド。
それがゆっくり光を放つ。
「ぽよっ!」
「弾幕ごっこで、全部決めよう」
「なんだ、私が勝ったらチャラにしてくれんのか?」
カービィは、その質問にコクリと頷いて返す。
そして……弾幕は放たれた。
迫るのはスターロッドより放たれた星型の通常弾幕。
星型弾がまるで星を描くように迫り来る。
「あれ、カービィってあんな技あったっけ?」
「私が弾幕ごっこを教えたんだ。まさかこんなに早く自分のものにするなんてなぁ」
「数は多いけど、すごく威力が弱く見えるんだけど?」
「そういうもんさ。弾幕ごっこは他人の命を奪わない勝負だからな」
「つまりある種スポーツってことだね」
「そういうこった」
傍観の姿勢を決めた魔理沙とワドルディは静かに戦局を見渡す。
正邪はその手に四尺マジックボムと懐にひらり布を持っているようだった。
「ハッハッハッハッ! 私がかわしてきたものと比べると、生温いな!」
通常弾幕だから、というのもあるだろうが、確かにカービィの弾幕は易しい。
仕方はあるまい。カービィは元々弾幕を放つ攻撃はもっておらず、直接的な攻撃しか知らないのだから。
「うぃ!」
カービィの弾幕発動者側の被弾回数を超えたため、通常弾幕は破られる。
しかし、ここからだ。
正念場は、本番は、ここからだ。
カービィはカードを取り出す。
それは宣言に使う『スペルカード』
それを掲げることにより、ルール上宣言されたとみなされる。
スペル名は「始符『グリーングリーンズ』」。
そして、カービィを中心に噴水状にリンゴ型の中型の弾幕が放たれる。
さらに同時に、高空から黄色い棒……一言で言い表すのならば、アイスの棒のようなもの。
人の身長以上のそれが、雨あられと降ってくる。
さらにその巨大アイスの棒に垂直になるように、横から黄色い、星の模様が描かれたブロック状の弾幕も飛んでくる。
なぜ、カービィにこんなことができるのか。
当然、周囲に浮かぶ分割された五つのスターロッドの力である。
夢に力を与え、夢を叶えるアイテムであるスターロッド。
その力を利用し、『カービィの思う弾幕』をスターロッドに『夢』として具現化させているのだ。
「おっと! ……ゆるい雰囲気の弾幕だな!」
正邪はその弾幕をスイスイと避けて回る。
リンゴ型の弾幕は中型であり、ランダムなため、軌道の予測が難しい。
しかも、上から降るアイス棒のようなものと横から流れるブロック状の弾幕が移動を制限する。
だが、幾多の鬼畜弾幕をかわしてきた正邪にとって、その程度では脅威にはならない。
ルール無視のアイテム四尺マジックボムを使用し、危機も回避する。
だが、魔理沙はその弾幕に瞠目していた。
なぜかはわからない。
その弾幕から、なにかの記憶が流れ込んでくるかのような感覚がしたのだ。
そう、それはまるで……カービィが歩んだ道のようだった。
これはスターロッドの見せる、幻影なのかもしれない。
しかし、流れ込んでくるものには妙なリアルさがある。
流れ込んできたのは、妙に現実離れした形をした丘や木が生える世界。
なぜか、モノクロに見える。
そこではやはり一頭身、もしくはそれに近しい者が跳梁跋扈している。
そんな群れを蹴飛ばしながら、カービィがたどり着いたのは、何処かで見た、立方体を重ねたような建造物。
その最奥で待ち構えるのは……デデデ大王。
ハンマーを構えるデデデ大王を吹き飛ばすカービィ。
そこで、魔理沙の見た幻影は途切れた。
それと同時に、カービィのスペカは破られた。
「なんだったんだ、今のは……」
「カービィの歩んだ道だね」
「お前も見たのか?」
「うん。スターロッドの効果かな。にしてもあれはカービィが初めてプププランドに来た時のだなぁ」
どこかしみじみとした様子のワドルディ。
そんな時、カービィは2枚目のスペルカードを宣言していた。