東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
この次の章も短めになると思います。
ただその次の章は物凄く長くなるかと。
デデデ大王は語った。
現実世界を妬み、全世界を絵に変えてしまった一枚の絵画の話を。
デデデ大王は語った。
美貌と支配欲に溺れ、自分を見失った虫の女王の話を。
デデデ大王は語った。
娘を救うべく機械に頼り、そして機械に飲み込まれたある父親の話を。
彼らは皆、手遅れだった。
だから、カービィの手によって葬られた。
だがやはり、こう思ってしまう。
もし、助けられたのならば、と。
「まぁ、カービィはその時できる最善を尽くした、と俺は思っている。しかし誰でも真実を知れば、救いはないのか、と思うだろうな」
「ぽよ……」
「なるほどな……それで正邪を追っているわけか……」
「うぃ」
カービィの過去は、その天真爛漫さから明るいものばかりだと思っていた。
確かに、聞いた限りでは明るい話も多い。しかし同時にドロドロとした暗い話も多かった。
「しかし……正邪にそんな背景あるのか?」
「ぽよっ!」
「『あるかもしれない』だそうだ」
「そうなのかなぁ……私には単なる愉快犯にしか見えなかったんだけどなぁ。あいつを探すのには賛成するぜ? 捕まえれば報酬が出るからな」
「何か事情があるなら見逃してやったらどうだ?」
「事情ねぇ……まぁ、懲りずに再び幻想郷の転覆を図ったあたり、その諦めの悪さには何か裏があるんじゃないかと思わなくもないがな」
打ち出の小槌による幻想郷の転覆が阻まれた後、魔力の残る道具でまた幻想郷の転覆を図った正邪。
そこまで執着する理由はなんなのか?
そこに何か想いがあるのか?
妄想しようと思えばどこまでも妄想できる。
「取り敢えず、捜索は明日だな」
「ああ。今日はここに泊まってゆくといい」
「お、本当か! ありがとなデデデ!」
「だから大王をつけろ大王を!」
●○●○●
御触れが出で九日目。
カービィはドラグーンに、魔理沙は箒に乗り、幻想郷を飛び回る。
しかし、そう簡単に見つけることはできなかった。
やがて日は天頂に登り、カービィの腹の虫が鳴く。
「お昼にするか」
「うぃ」
「さて、どこで食べようか……」
普段なら人里のどこかで食事をしたかもしれないが、今は人外のカービィがいる。
さすがに白昼堂々と人里を連れて歩けない。
そんな中、ある建物が目に入ったのは、やはりいつもの癖なのか。
「……よし、それじゃ、お邪魔しますか」
「ぽよ?」
魔理沙はひとり呟くと、旋回してある場所へと向かう。
それは幻想郷の東の端。誰もが知る彼の地。
そう、博麗神社に。
「よう霊夢! 昼飯くれ」
「いきなりきたと思ったら、たかりに来たのか」
障子の開けりた縁側の前に着地した魔理沙は、山盛りの素麺を食べようとしていた霊夢を見つけ、するりと中へ上がりこむ。
カービィも素麺につられ、卓袱台にへばりつく。
「いいじゃないか。こんなにあるんだし」
「……まぁ茹ですぎたのは認めるけど。でも別に一人で食べるわけじゃないのよ?」
「ん? 誰かいるのか?」
「そこにいるじゃない。ちっこいのが」
霊夢の指差す先。
そこにはお椀を防止のように被り、着物を着た小さな小さな少女がいた。
その姿は小人と称するに相応しい。
そしてこの少女こそ、下剋上の異変の表向きの黒幕。
「たしか……誰だっけ?」
「針妙丸! 少名針妙丸だよ!」
「ああ、そうだったそうだった。しかしなんでここにいるんだ?」
「あの時小槌の反動で前よりも小さくなったからね。襲われたら大変だからうちで預かっているのよ」
「へぇ、霊夢のくせに優しいな」
「なにその言い方」
「あのー、ちょっといいかい? その桃色玉はなに?」
霊夢と魔理沙の会話を遮るように、針妙丸は質問する。
その声には多分に怯えが含まれていた。
「ああ、そいつはカービィ。どこか異世界からやって来たらしい。食いしん坊で子供っぽくていいやつだぞ?」
「その『食いしん坊』ってのが怖いんだけど!? こっち見て涎垂らしてるよね!?」
「カービィ、お椀被っているけどそれは食べ物じゃないぞ」
「ぽょ……」
「あっ、今残念そうな顔した! 絶対食べる気だったでしょ!」
「ほらカービィ、素麺やるから」
「ぽよ!」
いつの間に用意したのか、つゆの入った器を渡す魔理沙。
そして器用に箸で素麺を掴み、つゆをつけて啜り出す。
そして魔理沙も躊躇いなく素麺に箸をのばした。
「また勝手に……んで、本当に昼飯をたかりに来ただけなの?」
「ああ」
「おい」
「あ、そうだ。正邪見なかったか?」
「正邪? 昨日見たわよ?」
「本当か!?」
「ええそうよ。にしてもいきなりどうしたのよ。あと素麺食い過ぎ」
正邪という単語と素麺に異様な食いつきをみせる魔理沙とカービィに驚く霊夢。
霊夢と針妙丸に魔理沙はカービィの思惑を語った。
聴き終えた霊夢と針妙丸は難しい顔をする。
「あいつにそんな裏はあるのかしら……いやでも天邪鬼か……」
「変に強がって見せない、なんて考えられるね」
「でも天邪鬼だから本当にやりたいことだけやっているようにも見える」
「実際かなり傍若無人だからね、あいつ」
「結局のところ、わからないんじゃないか」
魔理沙の鋭いツッコミに、返す言葉もない針妙丸。
だが、霊夢はそうでもないと返す。
「動機はわからない。でもいつどこに現れるかは判るわよ」
「お、そうなのか?」
「明日、日が沈む前に紫がじきじきにでばるそうよ」
「つまり、あいつを追えと? 神出鬼没なあいつを? 正邪よりも難しいだろ」
「あいつが本気の一部でも見せるなら、空間は僅かなりとも歪むはず。それを辿ればいい。できないなら私が探すわよ?」
「それくらい、私だってできるぜ! ま、情報ありがとな」
「うい!」
「はいはい……って、素麺ないじゃないの!」
「逃げるぞカービィ!」
「うぃ!」
「まてコノヤロー!」
疾風のように神社に現れた二人は、また疾風のように去っていった。
そして、御触れが出て10日目の夜。
「ハッハッハッハッ! ついに賢者様の手からも逃れた! これで自由! 自由の身!」
月夜にけたたましく笑うのは、鬼人正邪。
逃亡に成功し、自由の身となれたことへの歓喜が、その身をくすぐっていた。
しかし、その喜びに冷水をかけるような声がかかった。
「おっと、その自由はもう少し後にお預けにしてもらおう」
「あぁん? まだいやがったか……って、あん時の魔法使いか。しつこいな」
正邪の振り返った先にいたのは、自らの野望を打ち砕き、そして正邪を追って来た者の一人、霧雨魔理沙。
しかし、魔理沙に戦闘を行う兆候は見られない。
「なにしに来たんだ? ご自慢の八卦炉を構えるわけでもなく」
「用があるのは私ではないんでな。用があるのはカービィだ」
その時、魔理沙の陰に隠れていたものが姿をあらわす。
それは龍を模した乗り物に乗る、桃色の球体だった。