東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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捜索と桃色玉

 御触れが出てから8日目。その日も日が暮れようとしていた。カービィはまだ帰らない。

 だから、魔理沙はある程度の目星をつける事にした。

 カービィが立ち寄りそうな場所は何処か。魔理沙は考えに考え抜いた。

 そして魔理沙は、一つの結論に達した。

 

 カービィの同胞、ワドルディ達の集落に行けば、何かわかるかもしれない。

 

 彼らは自分よりもカービィと長く過ごしてきたはずだ。

 ならばカービィの思考もわかるかもしれない。

 ワドルディは喋れないのがほとんどだが、前のように絵で伝えてくれるだろうし、それに青いバンダナを巻いた喋れる個体だっている。

 行ってみる価値はあると、魔理沙は考えた。

 

 思いついた事をすぐ行動に移すのは、魔理沙の悪い癖でもあり、良いところでもあった。

 すぐさま魔理沙はワドルディの集落へと向かった。

 

「頼むぞ、ワドルディ」

 

 その時胸にあったのは、ワドルディへの淡い期待であった。

 

 やがて魔理沙はワドルディの集落へとたどり着く。一度来たことがあるだけに、迷うことはなかった。

 しかし、前来た時とは決定的に違う箇所もあった。

 

「なんだ、ありゃ?」

 

 まるで大きな直方体の上に小さな直方体を乗せたような、そんな建物。

 その四辺には頑丈な柱が建っている。

 他の建物とは一線を画す建造物に魔理沙は戸惑った。

 だが、それと同時に、魔理沙の勘はそこへ行くべきだと囁いた。

 

 魔理沙はその勘を信じた。

 

 近づけば、その建物の大きさに驚かされる。

 一体いつの間に建てたのか。ワドルディの技術力には驚かされる。

 

 取り敢えず魔理沙は建物の前に降り立った。

 正面にあるのは、大扉と、その両脇で槍を構えて佇むワドルディ二人。

 恐らくは門番の役割を果たしているのだろう。

 魔理沙はその門に近づいてみた。

 

「……」

「……」

「うおっと! やっぱりか……」

 

 するとやはり、手に持つ槍を突きつけられた。

 しかしだからと言ってハイそうですかと引き下がるわけにはいかない。

 魔理沙はその門番のワドルディ二人に話しかけた。

 

「ワドルディ、ここにカービィが来なかったか?」

「……」

「……」

 

 問いかけられたワドルディはお互いの顔を見合わせ、そして頭を横に振る。

 

「そうか。……ここにカービィが来るかもしれないから、ここで待っていたいんだが、いいか?」

「……」

「……」

 

 またもワドルディはお互いの顔を見合わせた後、一体のワドルディが扉の向こうへと消えて行った。

 どうやら、誰かに確認を取るつもりのようだ。

 魔理沙はしばし扉の前で待つ事にする。

 その間、残ったワドルディは槍を向けたまま直立不動の姿勢を保っていた。

 

「お前達もなかなか不思議な存在だよな」

「……」

「なに、独り言だ」

 

 魔理沙のつぶやきに、ワドルディは首をかしげる。

 そんな事をしている間にも、さっきのワドルディ(皆同じ顔なので自信はない)が扉を開け、戻って来た。

 しかも、後ろに意外なものを連れて。

 

「ん? 誰かと思えば魔理沙か?」

「デデデじゃないか!」

「大王をつけろ大王を!」

「あ、魔理沙さんおひさです」

「おぉ、バンダナもいる」

 

 出て来たのはデデデ大王と喋れる不思議なバンダナのワドルディだった。

 

「で、なんのようだ?」

「カービィがここに来そうだからここにいさせてほしい」

「……単刀直入過ぎて話が読めん」

「もしかしてカービィを探しているの? カービィって結構自由気ままなところもあるからね。わかるよ」

「バンダナは察しがいいな。そういうわけだ」

 

 魔理沙はデデデ大王とバンダナのワドルディに状況を説明する。

 話を聞いていたデデデ大王は頭をポリポリと掻き、そして踵を返して言い放った。

 

「好きにしろ」

「入っていいって!」

 

 デデデ大王としては格好つけたつもりなのだろうが、姿は太ったペンギンである。その上バンダナのワドルディの一言で色々と台無しになっている。

 笑っているのがバレないように口元を押さえながら、魔理沙は中へと入る。

 

 内部は豪華であった。

 しかし、ゴチャゴチャしたような雑多さはない。

 豪華でありながら、無駄を省いた、ある種洗練された内装。それは紅魔館と通じるものがあった。

 金の毛で縁取られた柔らかな赤いカーペットが中央に敷かれ、それはまさに『大王の通り道』と表現するのに相応しい。

 石レンガを積み重ねて作り上げたのだろうが、綺麗に着色され、その目地材にすらこだわりがみられ、美しい模様を描いている。

 この大王が働いて作ったとは思えないから、大方ワドルディの仕事だろう。

 ワドルディのハイスペックさに驚いていると、さらに驚愕すべきものに出会った。

 

 前から歩いて来るのは、一頭身の象と呼ぶべきもの。

 像の頭から直接足が生えたような生物だった。

 

「なんだ、こいつ?」

「ファンファンだよ。荷物運びとかも手伝ってもらってるよ」

 

 ファンファンなる一頭身の象の横を通り過ぎると、次に現れたのは二足歩行する紫色のクワガタのようなもの。

 

「こいつは?」

「バグジーだよ。この人も運送係だよ」

「なんか……人外の宝庫になっているな……」

「あはは、そうだねー」

 

 どうやら知らないうちに、ワドルディの集落は人外魔境と化していたらしい。

 霊夢にバレたら一大事と思うと同時に、なぜこんな人外がここにいるのか、興味がわく。

 

「こいつら、いつの間に来たんだ?」

「大王様がプププランドのお城から呼び寄せたんだ」

「つまり、元々デデデ大王の仲間なのか?」

「仲間というか、手下だがな」

 

 これに答えたのはデデデ大王だった。

 

「意外と人望あるんだな」

「意外ととは失礼だな。でなきゃ大王なんてやってられるか」

「まぁ、そうだわな」

 

 これだけ大量のワドルディが付き従っているのだ。

 もしかしたら、デデデ大王は意外と強力なカリスマを持っているのかもしれない。

 

「で、なんだ? カービィを探しているだと?」

「ああそうだ。昨日から姿を見かけなくてな……」

「あー、そりゃ当分帰ってこないな」

「なんでだ!?」

「カービィは普段、食っちゃ寝食っちゃ寝の自堕落な生活をしている。お前もわかるだろう?」

 

 思い返せば、確かにそうだ。

 大人二人分以上の食料を一気に平らげた後はすやすや眠り、気ままに散歩し、気ままにはしゃぐ。カービィはまるで子供……というか、幼子のような生活リズムで生活していた。

 しかし、それがどうしたというのだろうか。

 

「そんなカービィが自堕落な生活から飛び出してどこかへ行く……そういう時は大体、簡単に解決しない危機が迫った時だ。何日だってプププランドに戻らないこともよくあった」

「そう……なのか?」

「まぁ、ショートケーキ一切れを追い求めて地の底から宇宙まで行った奴だから、動機ははっきり言って想像つかんけどな」

「……ありえそうなのがまた困る」

「つまりは、諦めた方がいいってことだよ〜」

 

 カービィの行方についてとうとう予想もつかなくなり、魔理沙が途方にくれたところでバンダナのワドルディがトドメを刺す。

 とはいえまだ諦めきれない。

 

「でも、ここによるかもしれないだろ?」

「分の悪い賭けにしかみえんぞ? まぁ、勝手にしろ。幻想郷はポップスターと比べれば狭いし、宿を借りに来るかもしれんしな」

「それじゃ、夕飯にしよう。夕飯担当が今日は鶏の唐揚げっていってたよ」

「唐揚げ? 珍しいな」

「なんか夕飯担当が竹林を散歩していたら唐揚げが落ちてたんだって。それで急に唐揚げが食べたくなったそうだよ」

「竹林で唐揚げをあげる奴がいたのか? つくづく不思議な場所だな」

 

 デデデ大王とワドルディが魔理沙を置いていって会話をしたため、最後の方はよく聞こえなかったが、どうやら食事に誘われたらしい。

 しかし今は食べる気にはなれなかった。

 

「すまん。ありがたいが、カービィを迎えてからでいいか? 外で待っていたいんだが」

「別にいいが……先に食べてるぞ?」

「おう」

 

 

●○●○●

 

 

「……以上が私がここにいる理由だ」

「うぃ」

 

 巨大なテーブルの上にこんもりと盛られた唐揚げの山を挟み、カービィと魔理沙は相対する。

 カービィは大量の唐揚げを頬張りながらもはっきりと返事をするという器用なことをやってのける。

 そのテーブルの上座にはデデデ大王が座っていた。

 そのデデデ大王がカービィに質問する。

 

「で、なぜお前は飛び出したんだ?」

「ぽよ! うぃ、むぃ、ぽぉよっ!」

「すまん、何いっているかわからん」

「なるほど、御触れのことが気がかりなのか」

「……デデデ、お前わかるのか?」

「大王をつけろ大王を。……まぁ、なんとなくわかるな」

「で、なんて言った!?」

「『お尋ね者の子が気になって追っていた』だそうだ。あの御触れのことだろう? 俺はよく知らんのだが」

「ああ、天邪鬼……鬼人正邪だな。前の異変の首謀者で、幻想郷を壊そうとした。そのせいで今はお尋ね者だ」

「ぷぃ、ぽよっ! むむぃ、うぃ!」

「……『もしかしたら理由があるかも。事情は知るべき』か」

「ぽよぉっ!うぃ、うぃ!」

「……まぁ、確かにな。救いのない話が多かったものな」

「そっちで納得してないで通訳してくれよ」

「『もしかしたらまた手遅れになるかもしれない』だとさ」

「また? どういうことだ?」

「さて、どこから話したものか……」

 

 デデデ大王は腕を組み、滔々と語り始めた。


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