東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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お遊びの日常回です。


幕間のカービィ
ピンクボール 〜 少女密室


「うぃ、うぃ!」

「楽しそうだな、カービィ」

 

 箒に跨り、空をかけるのは魔理沙。

 その箒の柄の先には、風呂敷に包まれぶら下がっているカービィがいた。

 自分もドラグーンやホバリングで飛べるのにもかかわらず、大はしゃぎしている。

 

 二人はちょっとしたお出かけをしている。

 向かうは紅い吸血鬼の館……紅魔館である。

 正確には、紅魔館のある施設が目的だ。

 

「お、見えた見えた」

 

 そして霧の湖を超えた先には、いつものように紅魔館が鎮座していた。

 門番の美鈴はいるが、あろうことか門の前で居眠りしている。

 

「よし、カービィ、衝撃に備えろよ!」

 

 そして魔理沙はカービィを柄の先から外し、自分の小脇に抱える。

 そのまま敷地へ急降下した。

 

 何度も侵入しているので、目的地への最短ルートも頭に入っている。

 速度を緩めず、ドアを蹴破りながら突き進む。

 そして、一際大きなドアを蹴破り、カービィを床におろし、声を張り上げた。

 

「よう、パチュリー! いるんだろう!」

 

 魔理沙の張りのある大声。

 返ってきたのは、魔理沙の声と比べると弱々しいものだった。

 

「いつもここにいるわよ、全く……」

「おお、いたいた。いつも本に埋もれているからわからんかったぜ」

 

 その声のする先。

 そこには大量の本に埋もれるようにして、なにやら紫っぽいものが動いていた。

 

 いや、そこだけではない。

 人の背丈の数倍の高さはある巨大な本棚があちこちに並び、そこには隙間なく本が並べられている。

 そしてその光景がどこまでも続いている。

 ここにある本の総数は一体どれほどのものになっているのだろうか。

 

 魔理沙は躊躇わず、本に埋もれる者の近くへと寄る。

 そして身を乗り出し、その者の顔を覗き込んだ。

 

「よっ、パチュリー。いつものように顔色悪いな」

「余計なお世話よ」

 

 その者、パチュリーと呼ばれる者は、薄紫色のネグリジェらしきものを着ていた。そして頭には三日月のアクセサリをつけたドアノブカバーのようなモブキャップを被り、そこから紫色の長髪が垂れている。その顔色はお世辞にも良いとは言えないが、それが平時なので問題ない。

 彼女こそ、紅魔館内部にあるこの図書館の主人であり、種族としての魔女であるパチュリー・ノーレッジである。

 

 その顔は、あまり魔理沙を歓迎しているようには見えなかった。

 

「またどさくさに紛れて魔導書を盗りに来たのね?」

「おいおい人聞き悪いなぁ。借りているだけだろう?」

「で、その期限は?」

「私が死ぬまでだ」

「そんなの倫理的に許されるはず無いでしょう」

「いいだろう別に。人間の一生なんて妖怪とかの人外にとっちゃ一瞬みたいなもんだ。人外は日々惰性に生きているからな」

「私は日々惰性に生きていないから。それに時々必要なものも盗んでいくからタチが悪い」

「お前は日々惰性に生きている方だと思うんだがな」

 

 なかなかの詭弁を繰り出す魔理沙に呆れ果てるパチュリー。

 と、ここでようやく魔理沙が小脇に抱えるものに気がついた。

 

「……あら、それは何時ぞやのピンクボールじゃない」

「ん? ああカービィのことか」

 

 自分の名前が呼ばれたことに気がついたカービィは風呂敷からひょっこり顔を出す。

 そして小さな手を目一杯挙げ「はぁい!」とお決まりの挨拶をする。

 その突然の挨拶に戸惑って正常な判断が出来なくなったのか、パチュリーはたじろぎながら小さく手を挙げ「は、はい……」と返した。

 

「……ぷふっ」

「な、何よ」

 

 自分でも柄にでもないことをしたことに自覚があるのだろう。

 顔色の悪いパチュリーの顔が若干赤らんだ。

 それを隠そうと平静を装いつつも全く隠せてない事が、さらに魔理沙の笑いを呼ぶ。

 

「ま、まぁそんな事はどうでもいいわ。それにしても、カービィねぇ……」

「なんだ、興味あるのか?」

「ぽょ?」

「そうね。そんなところかしら」

「へぇ、どんなところだ? ま、可愛いしなぁ」

「……いや、そうじゃなくて……あの時、フランが暴れた時、カービィはフランの姿形を真似、能力を真似ていた。……その能力に興味があるの」

「ああ、そっちか。まぁお前らしいな」

 

 パチュリーの興味はカービィの能力に向いていた。

 パチュリーはこの紅魔館において頭脳の役割を果たしている。

 その役割を果たしているだけあって、知的好奇心は旺盛である。

 だからこそ、カービィの特異な能力についてこの際調べたいと思っていたのだろう。

 

 しかし智の求道者としては申し分ない性質のパチュリーのひとつ残念な点がある。

 それは、極端な出不精な点であろう。

 外へ出て見識を深めれば、更にその知識は深みを増していたかもしれない。

 本の知識だけでは、足りない部分も多いというのに。

 

 ……いや、それもパチュリーは分かっているのかもしれない。

 もしパチュリーが本の知識のみで満足するような魔女であったならば、目の前に興味の対象であるカービィが現れた時、今のような貪欲な目にはならなかったであろう。

 

 知的好奇心に刺激されたパチュリーは、小悪魔に命じて大量の実験器具、さらには大量の日用品までも持ち出した。

 

「パチュリー様、こんな感じでいいですか?」

「問題ないわ」

「それにしても可愛いですねぇ、これ」

「はぁい!」

「はぁい! なんちゃって」

 

 長い赤髪に蝙蝠の羽のようなものを頭から生やした小悪魔はカービィとノリノリの挨拶を交わす。

 それをパチュリーは何か言いたげな目で見つつも、すぐに視線を逸らし、ものを漁る。

 そして、あるものを取り出した。

 

「……これとかいいわね。カービィ、これの性質を真似できるかしら?」

 

 パチュリーが取り出したのは、何かよくわからない小鳥の剥製。

 しかし相当痛んでおり、もう廃棄寸前といった感じだ。

 果たして、フランの時のように性質を真似できるのだろうか。

 そう期待しつつ、パチュリーは剥製をカービィへ渡す。

 するとカービィは、それを目の前で飲み込んだ。

 驚く間も与えず、カービィの体は光り輝き、そして次の瞬間には色鮮やかな鳥の羽根を纏った姿に変わっていた。

 そしておもむろに手をばたつかせると、それに連動して羽根が一斉にはためき、飛翔した。

 ホバリングとは違う飛び方だ。

 

「ふぅん、鳥を食べると飛べるようになるのかしら」

「あれ、うちでは普通に鶏肉を食べているけど、こんなになったりしないぞ?」

「……調理したからダメなのか、羽根がないからダメなのか、はたまたカービィの意思で能力が発現するのか……ああ、ちょうどいいものがあるわね」

 

 次に取り出したのは、水の入った水差し。

 今度はそれをカービィに渡す。

 

「次はその中の水の性質を真似して見て頂戴。……魔理沙、カービィは普通に水を飲むわよね?」

「ああ、飲むな」

 

 魔理沙に確認を取っている間に、カービィはいつの間にかいつもの姿に戻る。

 そして、躊躇いなく水を飲み込んだ。

 すると、また光が集まり、こんどは頭を囲う金属の輪と、頭の上にまるで水の注がれた見えないコップを乗せたかのような、そんな姿のカービィが現れた。

 

「おお、まじか。こんな姿は初めてだぜ」

「……決まりね。カービィは自分の意思によって摂食したものの性質を真似ることができる……小悪魔を食べさせたらカービィも小悪魔になるのかしら」

「パチュリー様、冗談ですよね?」

「今後の働き次第ね」

 

 目に見えて小悪魔の血の気が引いているのがわかる。

 しかしそんなことは気にすることなく、パチュリーは次のものを取り出す。

 

「……風邪薬と胃腸薬か……まずは風邪薬を真似て見て」

 

 パチュリーが渡したのは風邪薬。

 それを飲み込んだカービィは、白衣とメガネをかけた医者のような姿になる。

 そして次に渡したのは胃腸薬。

 すると、さっきと同じ医者のような姿に変わった。

 

「なるほど、風邪薬と胃腸薬の差はないのね。……なら毒はどうなのかしら」

「おいおい、そんなもの飲ませるのか……」

「大丈夫よ。笑いが止まらなくなるだけの即効性毒で致死性はないし、いざとなればふりかけるだけで効果を発揮する万能解毒薬もあるから。さ、性質を真似て頂戴」

 

 そしてカービィにフラスコごと毒を渡す。

 するとこんどは頭から毒々しい液体をポコポコと吹き出す、なんとも毒々しい姿になった。

 

「……毒の効果は出てないわね。能力に使用すると無効化されるのか、そもそもカービィに毒は効かないのか……」

「多分、想像するに毒を操れるようになったんだよな?」

「うい!」

「とすると、操る毒はさっきの非致死性の毒かしら。それとも全く別のものなのかしら。……カービィ」

「ぽよ?」

「小悪魔に毒を盛ってみて」

「えっ、ちょっ、パチュリー様……ぐぎゃああァァァァァ!!」

 

 パチュリーの無慈悲な命令により、カービィの口から吐き出された毒々しいスモッグが小悪魔を覆う。

 瞬間凄まじい悲鳴とともにのたうつ小悪魔。

 すかさずパチュリーが解毒薬を振りかけ、大事には至らなかったが、小悪魔は未だに泡を吹いて痙攣している。

 

「うわぁ……」

「……別物に変化するみたいね……次行きましょ次」

 

 流石に自分のやらかしたことに罪悪感が芽生えたのだろう。パチュリーは小悪魔からそっと目を逸らしつつ話を進める。

 

「次は……短剣ね」

「飲み込んだら剣の使い手になりそうだな」

「もしかしたら金属を操れるようになるのかもしれないわよ? カービィ、真似てみて」

 

 同じようにカービィは短剣を飲み込む。

 すると、こんどは緑の三角帽子を被り、剣を持った姿で現れた。

 

「どうやら私が正解みたいだな」

「そのようね。……ちょっと剣を振るってみて頂戴」

 

 パチュリーの指示通り、カービィは剣を振るう。

 その速度は、近接戦闘に秀でていない二人からすればもはや見えない斬撃のレベルであった。

 最早剣が複数に分裂しているようにすら見える。

 

「格闘についてはよく知らないけど、普段のノーマルな姿の時とは全く動きのキレが違うわね」

「だな。間違いなく。戦闘の時のカービィの動きのキレは凄いからな。キレッキレだぞ」

「へぇ、こんどは落ち着いて戦闘の様子も見てみたいわね。さて、次は……これとかいいかもしれないわね」

「お、なんだなんだ」

 

 取り出したのは、古びたメガホン。

 しかし魔理沙には、そのメガホンには何か色々と魔術的な仕掛けがなされていることに気がついた。

 

「なんだそれ?」

「魔法付与でより拡声できるようにした拡声機よ。離れた小悪魔を呼ぶ時に使うの」

「自分で動けばいいじゃないか。っていうか、それ喰わせていいのか?」

「これは古い旧式のやつで、今使っているのは別のものだからいいのよ。さ、カービィ、真似て頂戴」

 

 

●○●○●

 

 

 パチュリーの私的な研究記録:『カービィ』の記事より一部抜粋

 

 ……よって、カービィは摂食したものを自らの意思で性質を読み取り、それを身体に反映させる能力があることが判明した。

 これを『コピー能力』と仮称し、読み取りの行為を『コピー』と仮称することにする。

 その能力のバリエーションは一定の『型』があるらしく、その種類、性質もまた興味深い。

 機会があり次第、調査し、記載してゆく。

 

追記

 

絶対に拡声機をコピーさせてはならない


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