東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
これは本日二話目ですので、まずは前のものからどうぞ。
声の主は氷の妖精、チルノであった。
一切空気を読まずにこちらへと飛んでくる。
しかも、後ろに大妖精を引き連れながら。
「チルノ? あんたこんな時に何やってんのよ!」
「え? 何って、だいだらぼっちを手下にしに来たのだ!」
「チルノさん、あなた此の期に及んでまだそんなこと言ってたんですか?」
「ほら、怒られちゃうよ!」
「うるさいやい! あたいは絶対だいだらぼっちを手下にするんだ!」
そして盛大に騒ぎ出す始末。
ちょっと手に負えない状態だ。
「手下にするって、お前……今の非想天則は相当やばいぞ? 剣で斬りつけるわ、蒸気を出すわ、常に高熱だわ……」
萃香が呆れたように、一応説得を試みる。
「そんなの怖くないもん! 熱いなら氷で冷やせば良いんだもん!」
「無茶だよチルノちゃん……」
しかしやはりというべきか、チルノには聞く耳がなかった。
だが、行き詰まった時、時にあり得ないきっかけが鍵となり、光明が見えてくることもある。
今この時が、まさにそれであった。
「……冷やす、か……行ける……のか?」
「どうした、にとり?」
「いや、もしや……いける、いけるぞ!」
「おい、どうしたんだにとり!」
突如独り言を呟きだしたにとり。
魔理沙の心配をよそに、にとりはチルノに頼み込んだ。
「なぁ、チルノ。あの非想天則にその冷気をぶち当てることはできるかい!?」
「えー? さっきやったけど全然だよ?」
「う、火力……いや冷却力不足か……」
「なぁ、さっきからどうしたんだよ」
ある程度落ち着いたにとりは、ようやく魔理沙の質問に答える余裕ができる。
「……蒸気を発生させるには、まず水を沸騰させなくてはならない。これはわかると思う」
「ああ、わかるぞそのくらい」
「そして蒸気はその時体積を膨張させる。これを利用して非想天則を動かしているんだ」
「一般的な蒸気機関ですね。……ってことは!?」
「ああ。蒸気を冷却されればまた水に戻る。体積も元に戻る。体積は縮小する。そしてもう沸騰しないよう冷却し続ければ……」
「動きは止まる、か……」
「でもチルノの冷却力じゃ……いや、チルノでも相当だが、相手が相当でかいからな……」
「良い案だと思ったんだが……」
提案された案は、残念ながら暗礁に乗り上げる。
しかし、それに反応した者がいた。
「……興味深い。私に作戦がある。皆、協力してくれないか? なに、簡単なことだ。協力して非想天則を転倒させれば良い。チルノ殿は氷を提供してくれれば良い。ただそれだけだ」
●○●○●
非想天則は進撃を続ける。
満たされない正義感へのフラストレーションをぶつけるかのように。
と、その時。
踏み出した足に何かが絡みついた。
突然のことに、非想天則はなすすべなく転倒する。
しかし、転倒したからどうだというのだ。
転倒したなら、また起き上がれば良い。
人でも行う、ごくごく普通の反応。
だが、それは叶わなかった。
何者かが馬乗りになり、押さえつけていたのだ。
「ああもう何度も何度もこんな熱いヤツを押さえつけなきゃいけないのさ!」
「我慢しなさい! あんた鬼でしょ!」
「鬼使いが荒い巫女だな、本当」
押さえつけていたのは、またまた巨大化した萃香。
当然、非想天則は起き上がろうとする。
しかし、その腕を輝く縄が拘束する。
そう、またも巫女二人の連携。
引きちぎった側から次々に拘束してゆく。
そして足も神奈子と諏訪子が抑えてゆく。
「いまだ、カービィ!」
上空から監視していたメタナイトが指示を出す。
そして現れたのは、青い球体。
しかしカラーリングは変わっても、それは確かにロボボであった。
ただ、その腕はまるで送風機のようなものに変わっていた。
ロボボのスキャニング機能。
最初に日傘を取り込んだのもこの機能。
カービィのコピー能力をそのままロボボに落とし込むことができるのだ。
そして、今ロボボがコピーしているのは、チルノが作り上げた氷。
つまり、今は凄まじい冷却能力を持っている。
ただし、この形態のロボボは飛行することができない。
だからこそ、非想天則を転倒させる必要があったのだ。
カービィは腰のバルブに取り付く。
そしてバルブを解放し、蒸気をものともせず、バルブそのものを引きちぎった。
そのまま開いた大穴にロボボの送風機のような腕を突っ込む。
そして、能力は発動する。
放出される、凄まじい冷気。
自らの体積よりもはるかに多い水を瞬時に凍らせるほどの冷気。
その冷気が、非想天則を内側から冷やしてゆく。
目に見えて動きが緩慢になってゆく非想天則。
冷却するカービィの横では、にとりが圧力を計算していた。
何かの目盛りを見ていたにとりが、顔を上げる。
「……そろそろだ。みんな、退避!」
その号令下、冷却していたカービィも、にとりも、萃香も、霊夢も、早苗も、神奈子も、諏訪子も、その場から一斉に離れる。
拘束から脱したというのに、非想天則は立ち上がらない。
まともに腕も動かない。
そんな非想天則に対し、上から無慈悲な声が響く。
「『マスタースパーク』!」
発射された極太の光線は、非想天則の胸部を撃ち抜いた。
貫通こそはしない。
だが、蒸気を貯めるタンクに致命的な大穴を開けた。
そしてそこから、いまだ冷やし切れていなかった蒸気が漏れ出す。
やがて、非想天則の動きは完全に停止した。
●○●○●
その後、非想天則は解体された。
各部品は異様な金属によるコーティングがなされており、これが内部からの圧力に耐えていたものだと思われる。
そして、なぜ非想天則が付喪神化したのかも、解体によって判明した。
その頭部の空洞には、早苗曰く『スーパーコンピュータ』という機械仕掛けの頭脳と、それらに守られるようにして青色のスターロッドが発見されたのだ。
おそらく、スターロッドがなんらかの方法により非想天則の中に入り込み、非想天則の物としての願いを汲み取り、スーパーコンピュータを出現させ、特殊なコーティングを行い、動かしたのだと思われる。
結果、カービィの手元には合計五つのスターロッドが回収されることとなり、同時にスターロッドの異常性も再認識された。
そして出来上がったロボボもカービィ、そして保護者役の魔理沙が管理することとなった。
これで完全に非想天則による暴走異変は解決したのだが、ここに補遺を記載しようと思う。
解体後、スターロッドを取り外された頭部の前にいつの間にかロボボが佇んでいた。
ロボボはその目を規則的に点滅させていた。
その点滅に、非想天則は確かに感知していた。
そう、非想天則のスーパーコンピュータはこの時点で生きていたのだ。
そのメインカメラでロボボからの信号を受け取り終えると同時に、非想天則のスーパーコンピュータは完全に停止した。
非想天則は、なぜ機能を停止したのだろう。
ロボボは、何を送ったのだろう。
両者の共通点は、スターロッドによって生み出された機械であるということ。
両者とも、正義のために力を振るう存在であること。
ロボボは非想天則に対して何かの思うことがあったのかもしれない。
その送ったメッセージは、非想天則の心を癒したのかもしれない。
ただ、答えは誰も知らない。
答えは、冷たい体の中の、0と1の精神の中にあるのだろう。
●○●○●
カタカタという硬質な音が鳴り響く。
ここまで音が反響しているのは、この部屋が金属でできているからだろう。
薄青の金属は、よくよく見ると走査線がはいっており、それ自体機械であることがわかる。
その硬質な音の正体はキーボード。
その正面には巨大なスクリーンがあった。
そこに映し出されるのは、やや荒い映像。
それは、紛れもなくメタナイトであった。
「……というわけだ。しばらくしたらまた輸送を頼むと思う」
「わかったヨォ。手配しておくネ」
「では、よろしく頼む」
そのまま通信は切れる。
スクリーンに向かっていたものは伸びらしきものをすると、『残業』に取り掛かる。
先ほどメタナイトが言っていたことではない。
メタナイトにも教えていない、ある作業。
知られれば、その効力は減少してしまうかもしれない。
だからこそ、メタナイトにも教えていない。
その人物は、隠されたフォルダを取り出す。
それと同時に、この部屋……いや、船といったほうが正しいだろう。それが持つ異空間ロードを作り上げる機能を立ち上げる。
フォルダには、いくつかの年代がタイトルに書かれている。
異空間ロードは離れた空間と空間をつなぐ。
だが、繋ぐのはそれだけではない。
離れた時間と時間を繋ぐことも、可能だ。
だから、その人物は、時間と時間を隔て、あるものを観測し、交渉している。
幸い、テーマパークと万屋稼業で貯めた資金はある。
相手の要求には、ある程度答えられるはずだ。
その人物は、今日も観測と交渉を続ける。