東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
みんな紫さんすきなんだなぁ()
カービィを抱えたチルノはカービィに構わず速度を上げる。
大妖精はこうなったチルノはもうどうしようもないと知っているため、諦めてそれについて行っている。
カービィもすでに諦め、なされるがままになっている。
というか、チルノに抱えられたまま眠っている。
「ホラ、あそこ! あそこで見たんだ! ……ねぇ聞いてる?」
「……むぃ?」
だがチルノは無慈悲にもカービィを揺さぶって起こしてしまう。
カービィが目を覚ますと、そこは妖怪の山の麓であった。
カービィが初めて幻想郷の地に降り立った場所も近い。
なんとなく懐かしいという思いが溢れてくる。
が、チルノはそんな郷愁に耽る時間をそう与えてはくれなかった。
「あたい見たんだ! ここにダイダラボッチがいたのを! カービィも探してよ!」
ダイダラボッチとやらがどれほどの大きさなのか知らないが、大妖精の話だと相当大きいらしい。
しかし、ここから俯瞰する限り、そんな大きなものは見当たらない。
ここから見ていないということは、ここら辺にはもういないということではないだろうか?
大妖精も同じことを思ったらしく、チルノの裾を引く。
「ここにはいないんじゃないかなぁ。どこにも見当たらないよ?」
「ええ、そうなの? しょうがない。場所を変えなきゃ」
思いの外素直に大妖精の言葉に従うチルノ。
だが、ダイダラボッチを探すという目的は変わらないようである。
「とりあえず、妖怪の山をぐるりと一周すればいいんじゃないかな?」
「わかった!そうする! 行くよカービィ!」
大妖精の提案はおそらくは探すだけ探して「やっぱりいなかったから諦めよう?」と諭すつもりだろう。
それにうまいこと乗ったチルノはカービィに有無を言わせず連れまわす。
しかし、カービィとて悪い気はしない。
妖精に掴まれて空を飛ぶ。
ある星で起きた事件の黒幕を倒す際、同じような状況になった。
その時カービィを掴んでいた妖精はチルノよりずっと小さかったが、カービィにあの日の思い出を呼び起こすのには十分であった。
そう思いつつ、カービィは妖怪の山をチルノに掴まれぐるりと一周する。
妖精の羽をもってすれば、妖怪の山を一周するなど容易い。
そして結局、ダイダラボッチらしき影は見つからなかった。
「やっぱりチルノちゃんの見間違えだよ」
「違うよ! 絶対見たもん!」
兼ねてからの作戦通りチルノの説得にかかる大妖精。
しかし大妖精も結局は妖精。作戦と言っても反論された時の対策までちゃんと立てているわけではなかった。
結果いるいないを連呼する程度の低いものへと成り下がる。
その間にいるカービィはなんとかそれをやめさせたいが、残念ながらカービィは言葉を話せない。
結局彼女たちが満足し終えるまで待つ羽目になる。
予想していなかったといえば嘘になる。なんとなく予期していた。
早く終わらないかなー、とカービィが足をぷらぷらと揺らし始めた。
その時である。
プシュゥゥゥゥウウウ!! と巨大なやかんが沸騰したかのような音があたりに鳴り響く。
音に驚き、その発生源を探す。
すると山の麓にある沢のあたりから、もくもくと水蒸気が上がっているではないか。
なんだあれは。
カービィはその蒸気の中に、影を見た。
非常に大きな影を。
その影はゆっくりと動いた。
否、立ち上がったと言った方が正しいのか。
蒸気の中より現れたのは、巨人。
遠目からの目測なので詳しくはわからないが、高さ30メートルは下るまい。
その表面の質感は硬質な金属。
蒸気の中より、鉄の巨人がその威風堂々たる姿を現したのだ。
●○●○●
「うわぁ、相変わらずスチームパンク臭のする集落だなぁ」
河童の里へと降り立った早苗はあたりに散らばる機械製品のオイルの臭いに辟易しながらも突き進む。
ご近所さんなだけあって時折来るため、里の構造はある程度知っている。
だがしかし、この臭いだけはあまり好きになれない。
しかも普通のオイルではなく、どことなく生臭い臭いがする謎のオイルだ。河童にとっては良いのかもしれないが、人間にとっては我慢ならないものがある。
やはり種族の壁は厚い。
早苗はそう再認識した。
だがこれは別に普段からのことなのでそれ以上特別何か思うことはない。
しかしここまで来て『河童が一人もいない』とは一体どういうことなのか。
河童は協調性のかけらもない妖怪だ。だからこそ大規模なダム計画も潰えてしまったのだ。
そんな協調性のない妖怪が、足並み揃えて何処かへと姿を消す。
この異常事態に、やや天然なところのある早苗とはいえ、危機感を覚えていた。
こういう異常事態が起きた場合、異変の可能性がある。
もしかしたら異変解決一番乗りできるかもしれない。
幸い、霊夢は里で起きている宗教戦争に手を取られている。
これなら自分が名を轟かせることができるかもしれない。
そう思うと、なんだかやる気も出て来る。
ちなみに、宗教戦争に早苗が参加していないのは山にいるため里の流行りに若干疎く、乗り遅れてしまったためである。
そういう負い目があるためか、早苗の目には強い光が宿っていた。
その溢れるやる気が早苗の探索する足を速める。
やがて里の方でも天然の洞窟を利用した倉庫区近くにたどり着いた時。
「………、………!」
「ん? 人の声?」
どこからか人の声らしきものが、微かに聞こえた。
その声はちょっと幼く聞こえる。
河童の見た目は総じて幼く見えることを思い出し、お祓い棒を握りしめ、先ほどと打って変わって忍び足で声のする方へ近づいてみる。
そして早苗の足は、ある倉庫の入り口で止まる。
「ここ……なのかな」
早苗はそっと入り込む。
どうやら予想はあっていたらしく、歩みを進めるたびに声が大きくなる。
やがて、その内容が鮮明に聞こえて来る。
「金属板、早く!」
「足の部分が足りないよぉ!」
「適当なもんはめ込んで!」
「もう見た目だけのハリボテでいいから!」
「ヤバイヤバイ潰される!」
「こんなの巫女にバレたらまずいって!」
「ちょっとうるさいよ! 外に聞こえたらどうするのさ!」
はい、異変確定。
『巫女にバレたらまずい』って言う時点で察することができる。
そして早苗は意気揚々と声のする方へ飛び出した。
「さぁ、御用だ御用だ! 大人しくお縄につけ!」
そして古臭い言葉を大声で放つ早苗。
中にいたのはやはり河童。全員が全員目を丸くして早苗に注目している。
その河童たちの手にはスパナやらドライバーやらの工具が握られ、そして奥には巨大な金属の物体がそびえていた。
それは、人型をしていた。
そのシルエットに、早苗は見覚えがあった。
「あら、非想天則? ……の割には出来が悪いわね」
それは紛れもなく、アドバルーン役として作られた非想天則を模したもの。
だが作りが雑なのは明らかで、至る所がツギハギだらけだし、急ごしらえなのが素人目でもわかる。
「一体どう言うことですか?」
「うへぇ……一番バレたくない奴にバレちゃったよ……」
最初に口を開いたのは河城にとり。
早苗とも面識のある河童だ。
その口調には諦念が感じられた。
「説明してくれます?」
「はぁ、バレちゃったもんは仕方ない。これは急いで作った替え玉さ」
「非想天則の? なぜ?」
その質問ににとりは若干口ごもる。
そして次に開いた口から出るのは、なんとも遠回しな説明。
「……朝、この倉庫の見回りをしていた者が信じられない報告をしてねぇ」
「その報告とは?」
「…………この倉庫に保管していた非想天則が消えていたって言うのさ。」
「それで?」
「………………まさかと思ってきてみれば、本当にあの馬鹿でかい非想天則が煙のように消えていてねぇ。そりゃ驚いたさ。」
あまりにまどろっこしい言い方に痺れを切らした早苗は、単刀直入に質問する。
「それで、非想天則はどこに行ったのですか? あなたたちが知っていること全て吐きなさい!」
そうズバリと聞かれては答えざるを得ない。
にとりはとうとう重い口を開いた。
「……入り口に巨大な足跡があってね。外へと続いていた。おそらく非想天則は……付喪神化して逃げた。」