東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
「旧地獄? ふむ、村紗殿や雲居殿から話でしか聞いていないのだが……」
初めて旧地獄へと降り立ったメタナイトに、水蜜が軽く説明をする。
「旧地獄はその名の通り、昔地獄だったところよ。ただ縮小だかなんだかで、この辺りは地獄から切り離されたの。」
「ふむ、なるほど。元は地獄ということは、かなり土地は悪そうだな。」
「その通りよ。怨霊はうじゃうじゃいるし、荒くれ者はそこらかしこにいるし、はっきり言って無法地帯ね。」
「そんな場所に何百年もいたのか。つくづくこの土地の者達の精神力には驚かされる。」
恐らくメタナイトの脳内では世紀末のような旧地獄像が出来上がっていることだろう。
「そんな事はどうでもいいわ。とっとと終わらせましょう。とっとと。」
「あっ、おい、霊夢! ……全くなんて勝手な奴だ。」
そして霊夢は勝手にその場から飛び降り、単独行動を取り出す。
元より様々なしがらみから切り離されたような人物だ。もはや彼女の性質として諦めるしかないだろう。
しかしそういうのをよく思っていない者もいるのは事実で、特に星はその目を細めて不快感をあらわにしていた。
「こう言ったときは協力するのがセオリーでしょうに……まさか独断行動するとは……」
「諦めろ、星。昔からあいつはそうだ。協力できるような性格はしていないし、あいつは一人にしておいた方が実力をフルに発揮できるタイプだからな。」
「困るほど自由な奴だからな、彼奴は。」
「……カービィと通じる部分もあるな。まぁ、カービィはどちらかというと子供なだけだが。」
「さて、ここで巫女の悪口に興ずるも良いが、そろそろ動いた方が良さそうじゃの。」
話題がそれつつあった場の空気。それをマミゾウが正す。
ここへ霊夢の悪口を言うために来たわけではない。
自分たちにはしっかりとした目的があったはずだ。
それをようやく思い出し、全員の表情が引き締まる。
「さて、まずはどこへ行こうか? 実は儂も旧地獄には行った事ないのでな。」
「普通なら下へ通じる道を探すが……旧地獄は広いからな。」
「……あー、ひとつ提案いいかな?」
遠慮がちに水蜜が挙手する。
その様子は、あまり自分の意見に自信を持っていない、もしくはその意見を言うことに気が引けているようであった。
「なんだ、水蜜。」
「旧地獄に来たなら現地の人に聞けばいいと思うんだけど……」
「いや、旧地獄の住人は気が荒すぎて聞きたいことも聞けないと思うぜ。」
「だから話はちゃんと聞いてくれる住人に聞けばいいと思うの。」
「いたか? そんな奴。」
「……古明地さとり。」
「ああ……」
途端に魔理沙の顔は引き攣る。
いや、魔理沙だけではない。
その名を耳にした途端、メタナイト以外全員の顔が引き攣った。
訳がわからないのはメタナイトだけである。
「……その古明地さとりが、どうかしたのか?」
「覚妖怪、と言う奴です。心を読むと言うことで有名な……」
「……ああ、なるほど。言わんとしている事はわかった。」
星のたった一言の説明で、メタナイトは全てを理解した。
覚妖怪。心を読む妖怪。
心を読むために、相手の思考をほぼ全て把握することができる妖怪である。
それは即ち、その妖怪の前ではプライバシーもへったくれもない、と言う事である。
だからこそ、この無法地帯の旧地獄で最も恐れられた妖怪であった。
だが、最も恐ろしいとはいえ、まともに話ができる奴だと魔理沙は知っている。
はっきり言って会いたくはないが、速やかに事態を解決するには仕方がないだろう。
「……行くか、地霊殿。」
「そうね……」
覚悟を決め、魔理沙達は飛翔する。
目指すは覚妖怪の住まう地霊殿。
飛んで行けばすぐの場所。
……だがしかし、そう簡単には目的地へ行かせてはくれないようだ。
「うぉっ!? あぶねっ!」
飛んで来たのは、人の背丈ほどもある鉞。
投げたのは、筋骨隆々な妖。
それが卑しい笑みを浮かべながら、魔理沙達一行へ投げつけたのだ。
いや、それだけではない。
それを見た周囲の妖達も、あたりにある石をこちらへ投げつけてくる。
しかも、その速度一つ一つが尋常ではない。
当たった場所が木っ端微塵になりそうな、そんな馬鹿げた威力で投げつけてくるのだ。
その意図は何か。
断じて外敵の排除のために動いているのではない。
『暇潰し』だ。暇潰しで飛んでいる者を襲っているのだ。
普通ならありえない感性だが、残念ながらこの無法地帯たる旧地獄ならそれがまかり通ってしまう。
「くっそ、面倒臭い!」
「キリがないわ。こう言う低級の妖は一度痛い目に合わせないと。」
そう言うと水蜜はその錨を振りかざす。
そしてそれを大きく地面に叩きつけた。
瞬間、岩盤が割れ、ひしゃげ、放射状のヒビを作り上げる。
そしてその範囲内にいた妖達は、その一撃で吹き飛ばされ、行動不能となる。
ついでに近くにあった家々にも相当なダメージが入ったが、家が吹き飛ぶのは旧地獄では日常茶飯事なので気にしてはいけないらしい。
とにかく、この一件はメタナイトに旧地獄の荒れた様を如実に伝えた事だろう。
「なるほど、確かに野蛮な者が多そうだ。その覚妖怪とやらが本当に温厚であることを祈るよ。」
「そこは安心していいぜ。」
「とりあえず、こんなに気性の荒い奴じゃなったよ。むしろ静かな方だったはず。」
「なるほど。その言葉、信じたいものだ。」
そう呟き、さらに一行は先へと進む。
やはり先ほどと同じように、暇を持て余した荒くれ者供が遊び半分に様々な物を投げつけ、弾幕を放ったりしてくる。
そしてその連中をマスタースパークや錨やレーザー、化け狸の小道具で一掃されて行く。
中には他の小さな妖怪を投げつける、無慈悲な者もいた。
その光景は、弱き者を守る騎士たるメタナイトの怒りを買うのに十分であった。
その時ばかりはメタナイトが前に立ち、制裁を行なった。
「ほう……貴様、死にたいらしいな……? なら見るがよい。」
そしてどこまでも吹き飛ばされる無慈悲な妖怪。
哀れ旧地獄の天に大穴を開ける結果となった。
しかしそんなことはあれど、大方順調であった。
やがて、視界の彼方に地霊殿が見えてくる。
「あれか?」
「そうだな。」
「いかにも、と言ったデザインだな。」
それは、何層にもなった御殿のような建物。
壮麗ながらも、荒くれ者達すら目をそらすのは、それだけ主人が恐れられているからか。
「さて、それじゃ早速お邪魔するか。」
「……待って、あれはなんです?」
窓へ向けて加速しようとした魔理沙を、星が止める。
指差す先は地霊殿の入口。
その扉は閉められており、侵入者を拒むように佇んでいた。
そして、その扉を殴りまくる奇怪な生物がいた。
赤いコートらしきものを羽織り、赤いニット帽らしきものを被った、チビでデブな謎生物。
それが喚きながら扉を殴っているのだ。
そしてその周囲には、それより小さなワドルディ達が群がっていた。
「……本当だ。なんだありゃ。」
「さぁ……あんなの見た覚えが……」
全員がそれの正体をつかみ損ねる中、唯一、メタナイトのみがその名を呼んだ。
「……聞いてない。聞いてないぞ。なぜ、デデデ大王がここにいる?」
さらにまたまたハヤサカ提督様より挿絵をいただきました。
綺麗だなぁ。これくらいの画力が欲しいなぁ……