東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
深き穴と桃色玉
「うぉおおお!? 団長!!」
ドロッチェ団団員達が、消えたドロッチェを探し、一斉に穴に駆け寄る。
しかしあるのは、魔理沙も見た通りの暗い穴。覗き込んでも何も見えはしない。
「……団長……落ちた……」
「やばいよどうするドク!」
「とりあえず乗り込むのじゃ! こいつは地中での行動には秀でておるからな!」
ドクは乗っている機械のヤドカリの殻にあたる部分を開く。
するとそこには、団員全員が乗り込めるほどの巨大なスペースがあるではないか。
その後の行動は早かった。
ストロンもスピンも、そしてチューリン達も乗り込み、団長のドロッチェを追って地中へと消えていった。
残された面々も、ドロッチェ団員と同じように平静を失っていた。
「大変……ぬえが!」
「姐さん、ここは私に任せて下さい! 」
「白蓮様はここで待っていて下さい!」
「そんな……あなた達だけで行かせるわけには……」
「それもそうじゃな。」
命蓮寺メンバーの間に入ってきたのは、ナズーリンを抱えたマミゾウであった。
倒れたナズーリンを見て、星はその表情に悲痛なものを見せる。
「そんな……ナズーリン……」
「気絶しているだけじゃ。応急手当てはもうしてある。……さて、誰かは残っておいたほうがいいといったのは、先の現象がまた起こるかもしれんからじゃ。ほれ、見てみぃ。」
マミゾウの指差す方。
しかしそこには何もない。
一体何を指差しているのか。
そう一同が思った時。
先ほどと同じように、火柱が上がったのだ。
「っ! これは!」
「理由はわからんが……これは放置しておくと地上にも影響が出そうじゃ。だから、地上にて被害が及ばないよう、残ってもらう者も必要となるわけじゃ。あと、白蓮殿一人では負担が大きい。もう一人くらいいて欲しい者じゃが……旧友が落ちたんでな。儂は行かせてほしいのぉ。」
「わかりました。では、私はここに残りましょう。」
白蓮は重々しく頷き、魔人経巻を取り出す。
「私は、宝塔を取り戻す役割がありますので。」
「……なら私が残るわ。狭い地底じゃ、雲山もフルの力を出せないし。」
「いいの一輪?」
「ええ。それに土地勘のある水蜜がいったほうがいいでしょ?」
「……わかったわ。」
「何が何だかよくわからないけど、異変ということでいいのね?」
命蓮寺メンバーでの話し合いの最中、霊夢が割り込んでくる。
その右手にはその手を振り解こうとする魔理沙を掴みながら。
「霊夢! 離せって!」
「ちょっと落ち着きなさいよ。無謀に突っ込むのはよろしくないわよ。」
「ふぉふぉ、友人を御すのも大変そうじゃの。……さて、異変か……まぁ、そういう扱いになるじゃろうの。となると、博麗の巫女は動かざるを得んわけじゃなぁ。」
「そういうことになるわね。」
ふぅとため息をつく霊夢。
妖怪巫女などと恐れられる彼女だが、中身は単なる人間である。
平穏を望むのはごくごく自然なことであった。
と、ここで今まで何も言わなかったメタナイトがその口を開いた。
「……スターロッドが急激に光り輝いたのは見たか?」
唐突な質問に皆面食らう。
しかし魔理沙とマミゾウは、その質問に食いついた。
「見た。確かに見たのぉ。」
「私も見たぜ。……ありゃ何だ?」
「私もスターロッドの全てを知っているわけではないが……共鳴説を推そう。」
「共鳴、だと?」
聞きなれない単語に、魔理沙は首をかしげる。
しかしマミゾウは何か思い当たる節があるようであった。
「よもや、星が急に輝きだしたのはそのためか?」
「そうだ。」
「しかし共鳴とな……つまりは、近くに同じ物があると?」
「推測の域を出ないが、私はそう考えている。ドロッチェが不完全なスターロッドを酷使し過ぎたためだろう。」
メタナイトの説は証拠も何もない、本当に単なる推測に過ぎない。
しかし、スターロッドについてよく知る者がメタナイト以外いない以上、信じるほかない。
「つまり、先のはもう一方のスターロッドが起こした現象だと?」
「恐らくはな。しかしどちらにせよ、我々はこの穴の中へ潜らねばならない。」
「……だな。」
この暗い穴がどこまで続き、どこへ繋がっているのかは想像できない。
しかし、行かねばなるまい。
助けなければならない者たちがいるのだから。
「それじゃ……行くぞ。」
「はぁ……私も行くしかないか。」
「くれぐれも気をつけてください。」
「必ず連れ戻してきてね。」
「もちろん。白蓮様、待っていて下さい。」
「かならず宝塔を取り戻してみせます。」
「それじゃ、ちと行ってくるわい。」
そして慎重に下降してゆく。
暗い穴を照らすのは水蜜の操る人魂。
船幽霊だからこそできる技なのだろう。
しかし所詮は人魂。その光量はたかが知れている。
「全然明るくならないじゃない。」
「人魂じゃあこれが限界よ。……あ、マミゾウなら何か持っているでしょ?」
「ん? 儂? ……ああそうじゃな。どれ。」
マミゾウは懐から葉を一枚取り出す。
そして次の瞬間、ポンという軽い音とともに、その手には火のついた提灯が握られていた。
「ほう、これはまた面妖な技を使う……」
「初めからそうすりゃよかったじゃない。」
「葉っぱも有限なんじゃよ。こういう未踏の地へ足を踏み入れるのなら節約は大事じゃ。」
そう言いながら、今度はマミゾウが先頭となって下降する。
しかし、間も無く下降を止める。
「ありゃりゃ。」
「行き止まりだな。」
「行き止まりね。」
「どうしましょう?」
「おかしいわね……ならなんでカービィやぬえ、あとあの怪盗がいないわけ?」
「カービィ達が落ちて間も無く崩れたのだろう。しかしこの崩れ方……」
メタナイトはおもむろにその縦穴を塞ぐ岩を叩き、そして体の側面を岩にぴったりとつける。
しばらく場所を変えながらその行動をとるうち、一つの結論を出す。
「間違いない。この先は空洞となっている。この先にも穴が続いているのだろう。」
「ならこの岩を破壊すれば……」
「そんなことしたら下にいるぬえが潰れるでしょ!」
「宝塔も潰れます!」
「うぐぐ……」
「……もしかしたら、別のルートがあるのかも知れんぞ? ほれ。」
霊夢の力任せな案が却下された中、マミゾウはある一点を指差した。
それは、縦穴にポッカリと空いた横穴であった。
「なるほど。行ってみる価値はありそうだ。」
「というか、そこしか行くべき場所がないな。」
今度は横穴へ侵入し、マミゾウの提灯であたりを照らす。
すると、かすかに物音が聞こえるようであった。
「もしや、カービィ! いるのか!」
「ぬえ! いるのぬえ!」
「待たんか。ちと様子がおかしい。」
「これは……まさか、地底に? しかしそんなことが……いや、あったか。」
マミゾウは先行する魔理沙と水蜜を止め、メタナイトは何か正体に気がついたようだった。
慎重に、今度は物音立てずに進んでゆく。
するとどうやら、進めば進むほど明るくなっているようだった。
やがて、広く、かつ明るい場所へ出る。
そこはより広い空間の壁面にポッカリと空いた空洞のような場所であった。
そしてそこから広く、かつ明るく、かつ喧しい空間を見下ろす。
そして、皆息を呑んだ。
「おいおい、こりゃまた……」
「まさかここに繋がっているとはね。」
「間違いない。ここは旧地獄のようね。」