東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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さぁ、コピー能力解放!


追い追われる桃色玉

「あらあら、珍しく慌てて……いる上にボロボロね。どういう事?」

 

 天狗が普段見せない余裕のない態度に、霊夢は一瞬小馬鹿にしたように挑発する。

 が、近づいてくるうちに、ボロボロであることに気がつき、驚愕する。

 しかもその中には、霊夢と魔理沙も面識がある文と椛もいるではないか。

 

 天狗の傲岸不遜な態度は腹がたつ。

 その上、妖怪としての格も高いのだから、余計に腹がたつ。

 だがそんな存在が複数人してやられたような姿を見ると、ザマァ見ろという感情よりも、一体誰の仕業なのか、という驚愕が先に出る。

 

 しかし当の天狗達はそんなことなぞ気にせず、霊夢と魔理沙を包囲する。

 

「ちょっと文。どういうことよ。」

「椛も酷いぜ。まだ私たちは何もやってないぞ?」

「用があるのはあなた達じゃない。そこの桃色玉よ。」

「……この桃色玉がどうかしたの?」

「ちなみに、カービィって名前らしいぜ。」

「名前なんかどうでもいいのです。天狗の面子のため、こちらに引き渡してもらいましょう。」

 

 若干不自然な要求に首を傾げ、やがて理解した。

 

 カービィはどうやら、天狗と一悶着あったようだ。

 見た感じ純粋無垢なカービィが何故。

 周知の通り傲岸不遜な天狗が子供っぽいカービィ相手に何故。

 

 もしや、この純粋無垢な性質は仮面か。

 

 そう睨んだのは霊夢である。

 しかしいくら睨んで見ても、カービィは不思議そうに頭を傾けるのみ。

 そもそもカービィの顔のパーツは人間と違って単純なので、表情の微妙な変化を読み取ろうにも、その変化がわかりにくいのだ。

 全身桃色なのもその一助となっている。

 

 しかしカービィを箒の先に吊るしている魔理沙は、そうは思っていないようである。

 逆に天狗に対し、喧嘩腰に出る。

 

「おいおい、いつから天狗は子供を攫う妖怪になったんだ?」

「子供でも危険な力を持つのが幻想郷でしょう? 私知ってますよ。紅魔館には吸血鬼の子供がいるんだとか。そしてその吸血鬼の子供が紅い霧の異変の首謀者だというではありませんか。」

「あいつは五百年生きてるから、子供というには語弊があるな。」

「それには私も同感ね。」

「ともかく、ソイツは妖怪の山に侵入し、剰え天狗側に負傷者をだした。その罪を償ってもらいます。」

「お断りだ! 子供の私は子供の味方なんでな!」

 

 魔理沙は距離を取り、ミニ八卦炉を取り出し、弾幕ごっこの用意をする。

 揉め事の解消法は弾幕ごっこで。これが幻想郷のルールだ。

 つまりは、『お遊び』。

 幻想郷は『お遊び』で揉め事が解決する、力ある者にとっては平和な世界とも言える。

 

 だが、『お遊び』をするには、相手にそれなりの心の余裕がなければ成立しない。

 

 なんと天狗達が、その速度をもって魔理沙に肉薄してくるではないか。

 先陣を切るのは最速の文。

 そして、扇を振り上げ、能力を発動させる。

 『風を操る程度の能力』。それを活かして魔理沙を取り囲む、風の檻。

 

 相手は、本気だ。

 

 それを瞬時に悟り、ミニ八卦炉に魔力を送り込み、マスタースパークで無理矢理風の檻を破壊する。

 

 しかし天狗は元来狡猾な者。

 魔理沙の脱出経路には既に、他の天狗達が待ち構えていた。

 そして魔理沙もろとも、カービィを葬り去らんとすべく撃ちだされる無慈悲な妖力弾。

 その妖力弾が魔理沙に当たる直前、その弾ははじき返された。

 

 霊夢である。霊夢が咄嗟に結界を張ったのだ。

 しかし、即席の結界にそこまでの耐久力はない。

 それを知っている魔理沙は安堵する間も無く、今度は持ちうる速度で降下する。

 

 天空の覇者たる天狗相手に、天空で相手取る必要はない。

 自分が有利なように戦場を移すのは、基本的な戦略だ。

 

 霊夢もそれを理解し、妖怪の山の木々の中へと紛れ込む。

 木々が密集する中、魔理沙と霊夢は速度を維持したまま飛行する。

 木々が高速で迫り来るように感じられるが、彼女らは数々の異変で『鬼畜』、『狂気的』と称されるほどの弾幕をかわしてきたのだ。この程度、なんでもない。

 

 しかし、そんな彼女らとて厳しいものはある。

 それは、数の暴力。

 そして、伏兵。

 

 突如として茂みから水弾が放たれる。

 言わずもがな、河童である。

 茂みに隠れた河童達が、こちらを狙い撃っているのだ。

 

「河童と天狗の共同戦線だと!?」

「協調性の乏しい奴らなのに……おかしいわね。いや、それとも……」

 

 協力せざるを得ないほどの脅威なのだろうか、このカービィは。

 しかし、カービィはこちらに全く敵意を見せない。

 

 人間に対して寛容、妖怪に対して脅威。

 

 そんな存在が、確かいた気はする。

 守護霊なんかもその類と言ってもいいだろう。

 しかしカービィは、魔理沙のほっかむりに包まれていることから分かるように、しっかりとした質量を持っている。

 だからと言って守護霊の類ではないと言い切るのは、半人半霊の者を知っている身としてはできないが、それでも考えづらい。

 それとも、カービィも妖怪か?

 子供を守る妖怪というものもいる。その類かもしれない。

 しかしだとしたら、全く妖力を感じない。

 それどころか、霊力なども全く感じない。

 

 異質だ。

 異質すぎる。

 

 そう考えている間に、いつの間にかひらけた場所に来ていた。

 そこには異常な光景が広がっていた。

 木々がある一点を中心として、放射状に薙ぎ倒されているのだ。

 

 そして、そこには天狗達が待ち構えていた。

 空に鴉天狗、地上に白狼天狗。

 よく見れば河童も後方にいる。

 そして、自分たちの後ろからも、追って来た文と椛達が挟撃せんと現れる。

 

「全くこれだから天狗は好きになれんぜ。」

「同感よ。一体何に一生懸命になっているのかしら。」

「虚勢はそこまでです。早くソイツを渡してください。」

 

 吐き捨てる霊夢と魔理沙に対し、高圧的に要求する文。

 そしてその前で、椛が大剣を構えつつ近寄ってくる。

 

 取り囲まれた本人は何も思っていないようだが、その状態を客観的に表すなら、こうである。

 

 絶体絶命。

 

 この一言に尽きる。

 だが、この絶体絶命の状態で、この場にそぐわぬ音が鳴り響く。

 

 ビリ、ビリッ!

 

 まるで布を裂くような音が。

 それも、かなり近くで聞こえる。

 そう、ちょうど箒のあたりから……

 

「おい、カービィ何やってんだ!?」

 

 音の発生源はカービィだった。

 自分を包む唐草模様のほっかむりの一部を引き裂きちぎり取り、呑み込んだのだ。

 

 その瞬間である。

 

 淡い光がカービィのもとに集まったかと思うと、その光が晴れた時には、その姿は様変わりしていた。

 その頭に、複雑怪奇な機械のような帽子を被っていたのだ。

 その帽子には金属製のバイザーらしきものが付いており、カービィの目元をしっかりと覆っている。

 

 その姿を見た瞬間、天狗達は大いにざわつく。

 霊夢と魔理沙はいきなりの早着替えに唖然とするばかり。

 そしてその隙にカービィはほっかむりから抜け出し、椛へ飛びかかる。

 咄嗟に大剣を構える椛。しかし、カービィは一定の距離を保って足を止める。

 そしてバイザーから、眩い光が漏れ出した。

 

「くっ……こけおどしなど!」

 

 椛は能力の関係上、大切な目を保護しつつ、大きく大剣を薙ぐ。

 

 見えないが、カービィとかいうやつは確かに間合いに入るはずだ。

 

 そう思っての行動。

 確かにカービィは間合いにいた。それは間違いない。

 だが、何の行動も起こさずに間合いに入るわけではなかった。

 

 ギィン、という刃物同士が打ち合う音が響く。

 椛は驚愕し、目を開ける。

 そして、目の前にいたのは、確かにカービィだった。

 だが、その姿は没個性的な普段の姿でもなく、渦を頭に乗せた姿でもなく、不可思議な機械を乗せた姿でもなく。

 赤い頭巾を被り、白い耳と尾を生やし、椛の持つ大剣と瓜二つの大剣で、椛の振るう大剣を受け止める姿であった。

 その姿はまさに、カービィに椛の姿をコピーしたかのような姿であった。




やりました。遂にやりました!
一度やりたかったんですよ、幻想郷の住人のコピー。
とはいっても、まさか幻想郷の住人を飲み込むわけにはいかないので……妖精なら特性上、呑み込んで死んでしまってま幻想郷のどこかで湧くから良いのですが、それ以外だと……

タグの「コピー能力『コピー』無双」はそういうことなんです。

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