東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
ゴシャア、と土を跳ね飛ばす轟音が鳴り響く。
振り下ろされたのは巨大な槌。
それが、白蓮と星の立っていた場所に振り下ろされたのだ。
白蓮と星は初撃を難なく避ける。
がしかし、続いて飛び退いた場所を狙って連続で飛来する爆弾には、いくつか被弾してしまう。
なるほど、ストロンの膂力は恐ろしい。
しかし、動きが鈍重なため、そこまで脅威たり得ない。
問題は、チューリンとの連携だ。
ストロンの鈍重さを補うかのような隙のない攻撃で、じわじわとこちらを削りにきている。
なんともまぁ、いやらしい手法か。
しかしそれが一番効果的なのだ。
「面倒ですね……」
「確実にこちらを仕留める気ですよ、アレは。」
「……んむ。なるほど、足は速い……だから削る。」
後退する白蓮と星に向け、今度は飛び跳ね、押し潰そうとしてくる。
またも凄まじい衝撃が白蓮と星を襲うが、直撃はしていない。大したダメージにもならない。
それどころか、落ちてきたストロンへ白蓮は回し蹴りを決めた。
完璧なタイミングでのカウンター。
格闘技に共通して言える事だが、カウンター技は決まれば即K.Oとなることも珍しくない。
それが決まったのだ。少しはストロンも堪えているはずである。
だがしかし。
「んむぅ……痛い。」
「有効打にならず、ですか……」
その蹴りに、効果は認められなかった。
そのカウンターの蹴りを阻んだのは、分厚い脂肪。
そのたっぷりついた脂肪が、衝撃を拡散したのだ。
そしてカウンター失敗は、カウンターのカウンターを誘発する。
「くっ!」
振り回された槌は、白蓮の体をしかと捉える。
そして大きく吹き飛ばされ、そして星が受け止める。
「白蓮様! 大丈夫ですか!?」
「平気よ。それにしても……」
あの膂力は、あの万年杉のような不動さはなんだ。
行く手を阻む障害物さえ、進むだけで破壊してしまうような、そんな圧倒的力は。
確かに動きは遅い。
さっきのようなカウンター以外は簡単に避けることができる。
しかし奴はなりふり構わず突撃してくるのだ。
それだけではない。チューリンの連携も厄介だ。
一度、空からの弾幕で集中砲火を浴びせたことがあった。
だが、それらの弾は全て、放つ爆弾の爆風により、軌道をそらされ、良くても
チューリンを潰せばいいのかもしれないが、逃げ足は速いし、的は小さいし、その上どこからともなく増えてくるため、キリがない。
それどころか、チューリンを狙っている間に他のチューリンに狙い撃ちされるだろう。
相手は怪盗、つまりは正面切っての戦いには弱いはず。
そう思っていた。
だが、ストロンは全く別。
ストロンは正面切っての戦闘こそ得意とする戦闘員であったのだ。
さらに、その体格も問題がある。
こういう図体のでかいタイプは懐に潜り込めば楽に倒せる。
がしかし、ストロンは図体はでかいが、身長は白蓮と星と同じくらいかそれ以下しかない。
つまり、懐に潜り込めない。
どころか、相手の間合いで戦う羽目になる。
しかも、重心が下にあるので、ちょっとやそっとではビクともしない。
戦闘に向いた体格。
人に在らざる膂力。
そして弱点をカバーするチームワーク。
それ全てを兼ね備えたストロンは、恐ろしく強かった。
「よもや、ここまで強いとは……」
「私も実戦慣れしたほうがいいのかしら。」
現在の弾幕ごっこでは本気の戦闘というものがない。
だからこそ、手こずっているのだろう。
そんな二人に、ストロンはさらに追い討ちをかけた。
「むぅ……面倒……腹減った……終わらそう。」
そして、槌をしまった。
そのまま開いた手で近くにあった太い木に手をかけた。
次の瞬間、それをあっさりと引き抜いたのだ。
開いた口が塞がらないというのはこういうことだ。
木を素手で引き抜く。
一体どれほどの膂力が必要なのか。
白蓮や星にはイメージできなかった。
ただ、『非常にまずい』ということは理解できた。
ストロンは抜いたばかりの木を両手で持つ。
そして、自分を軸にして、その巨大な遠心力を利用し回転し始めたのだ。
そしてその巨大な円盤のようなコマは、怒声とともにこちらに向け飛んでくる。
「ヌゥゥゥォォォォオオオオオアアアアアア!!」
「なんなんです、これは! 反則でしょう!」
「反則も何もありません。かの者達は無法者達ですから、幻想郷のルールに縛られないのです!」
ストロンが回転するたび、木の枝が飛び散る。
ただそれだけでも相当な速度がでているので、十分脅威と言える。
「白蓮様、どうしますか!?」
この危機的状況に星は白蓮に問うことしかできない。
白蓮は静かに目を瞑り、そして答えた。
「私が、あの木を受けます。」
「……えっ。」
「その間に星が至近距離から弾を撃ち込むのです。」
「そんな、その方法は!」
御身が傷ついてしまうではないか。
そう言おうとしたが、その言葉は空に掻き消えた。
「さぁ、もう是が非を言っている場合ではありません。活路を開くためにも、行きますよ!」
もはや白蓮は止まらない。
回転する木の幹を、その腕で受け止める。
瞬間、バリィ、と言った凄まじい音とともに幹が中程からへし折れる。
そしてそれがきっかけとなり、ストロンは大きく体勢を崩す。
「今です、星!」
幹を受け止めた腕を抑えながら、白蓮は叫ぶ。
それに呼応し、星もまたストロンに突貫する。
させじとチューリンの放つ爆弾が殺到するが、もはや気にも留めない。
なにせ、主人が身を呈して開いた活路なのだ。
爆風による傷など、もはや星にはどうでもよかった。
「オオオオォォォォオオオオ!!」
星はかつて人を喰う妖怪だったという。
その姿は虎のようだったそうな。
ストロンに向け突貫し、叫ぶその姿は、当時の姿を想起させた。
●○●○●
「フォフォ! どうじゃね! これがドロッチェ団が技術力よ!」
霊夢と相対するドクはいつも載っているUFOから、全く別の物体に乗り換えていた。
それは、球状の金属塊に、金色の棘4本が十字に生えた浮遊する物体。
しかし残念ながら、霊夢にはそれがなんなのかわからない。
というより、幻想郷の住人で機械関係に詳しいのは河童か霖之助くらいだろう。
「なにそれ? 」
「ふぅむ。まぁ理解できぬのも仕方あるまい。ではお見せしよう。このキカイの真髄を! 」
ドクは中でスイッチを押す。
そして、機械は作動する。
周囲に立ち込める、暗雲。
それはドクの乗る機械を覆い隠した。
そしてその中心に、ギョロリとした一つ目が浮かび上がったのだ。