東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
ダウジングロッドを構え、飛行するナズーリン。
それに追随するように白蓮、星、水蜜、一輪、霊夢、さらにメタナイトが飛行する。
「ナズーリン! 一体どこへ!?」
「連中を魔力的に標識しておいたのさ! これで離れていても場所がわかる!」
「へぇ、鼠妖怪ってそんな器用なこともできるのねー。」
霊夢は感心するものの、ナズーリンは一切反応しない。
その目は完全に仕事人の目であった。
既に魔法の森を抜け、妖怪の山と無縁塚の中間地点に到達していた。
そして徐々にナズーリンの目は険しくなって行く。
近い。
反応が近いのだ。
もしかしたら、そろそろ目視できる頃合いかもしれない。
だが、ナズーリンもプロならば、相手もまたプロであった。
「……ああっ!」
「どうしました、ナズーリン!」
「……やるね、ジャミングか。魔力的標識を消された。」
つい先ほどまで反応があったのであろう場所をキッと睨みつけるナズーリン。
「それってまずいんじゃない? どうするの? 」
「……この近くにいるのは確実。同胞、頼むよ!」
しかし慌てず、ナズーリンは能力を行使する。
その地に住まう鼠たちが、一斉に捜索しだす。
そして間も無く、ナズーリンの脳裏に情報が飛び込んできた。
「……そこか!」
「見つけたか!?」
「見つけた。行くぞ!」
「おう!」
「まて、ナズーリン。」
早速突貫しようとしたナズーリンや星達を、メタナイトは回り込んで阻止する。
コウモリのような翼でホバリングしながら、メタナイトは一つ忠告をする。
「先と同じように集団で攻めたところで、また同じように逃げられるだろう。」
「なら、どうするのさ。」
「先のようにチューリン達の煙幕攻撃が厄介だ。だからこちらの戦力を分け、かつ相手の戦力も分断する。そうすることにより、一度に我々の目潰しをすることは不可能になる。そしてその後、各個撃破する。」
メタナイトの指摘は的を射ていた。
ナズーリンと星が傷だらけなのからわかるように、相当の手練れであるのは十分わかる。
また同じように突貫すれば、先ほどの二の舞になるのは火を見るよりも明らかだ。
ならばメタナイトの言葉は頷ける。
ましてや、彼らのことを知っている者の言葉ならなおさら。
「なるほど。で、誰が誰に当たる?」
「わたしが頭目のドロッチェと当たろう。」
「なら私もだ。私があいつらを追ってたんだ。私が倒さねばしょうがあるまい。」
「宝塔を盗まれた私の責任もありますから、私も……」
「いや、寅丸殿。あなたはやめたほうがいい。」
「なぜ!?」
「ヤツは怪盗。多対一の戦闘はお手の物だ。うまく同士討ちを狙ってくるだろう。逆にタイマンの戦いは怪盗であるあいつは好まない。だからこそ、なるべく少数で戦いたい。」
「……わかりました。なら私は青い方……ストロンで。」
「では私もストロンにしましょうか。一輪と水蜜は?」
「じゃあ私たちはスピンで。いい?」
「大丈夫よ。……じゃ、霊夢はドクで。」
「私もやるの? ああもう、わかったわよ。」
役割を振り分け、それぞれの相手を確認する。
そして、ナズーリンの示す場所へ、彼女達は突貫した。
そこには確かにドロッチェ団が居た。
大量のチューリン達も、UFOに乗るドクも、サングラスが特徴的なスピンも、その巨体を揺らすストロンも。
そして、頭目ドロッチェも。
「っ! しつこい!」
「ほう……気づくか。」
メタナイトが突如として速度を上げ、無言でドロッチェに斬りかかるも、ドロッチェの持つ金の杖で見事に防がれる。
一見、その不意打ちは無駄に終わったかに見える。
しかし、それは戦闘の素人の目から見た結果に過ぎない。
メタナイトの速度の乗った一撃は、ドロッチェを集団から僅かに引き離したのだ。
つまり、残りのドクやスピン、ストロンにチューリン達の守るべき者が自分達の元から離れてしまったことを意味する。
それ即ち……ドロッチェを引き戻すまで、その場から逃げられないということである。
「……団長!」
「おっと、あなたの相手は私達ですよ?」
「さぁ、宝塔を返してもらいましょうか!」
「フォフォ、まさかこうまでしてやられるとは。ワシも鈍ったかのう。」
「ならとっとと降参してくれない? そのほうが楽だわ。」
「そういうわけにはいかんの。こちとらドロッチェ団の頭脳という自負がありますからな。」
「全く、いやな瓶底メガネね。」
「……フォフォ、なるほどなるほど、ちょっとその発言は聞き逃せませんなぁ。」
「へぇ、まさかオレ達を散り散りにするたぁ中々姑息なことができるじゃねぇか。」
「姑息とは失礼な。盗難行為を繰り返す盗賊団の方がタチ悪いでしょう。」
「そうそう。ともかく、早く宝塔返してちょうだい。かなり貴重なんだから。」
「やなこったい。」
各々で彼女達と対峙するドロッチェ団。
はじめに動いたのは、スピン。
スピードに自信があるゆえに、まっ先に一輪と水蜜に飛びかかった。
突き出されたのは、鉄製の鉤爪。
それを薙ぎ払うようにして斬りかかったのだ。
そしてガキャン、と金属同士がぶつかる音が鳴り響く。
「チッ……」
「パワーではこっちに分があるようだね!」
その振り下ろされた鉤爪は、水蜜の持つ錨で受け止められていた。
ごうと錨を振り回し、スピンを吹き飛ばす水蜜。
しかしスピンもタダでは吹き飛ばされない。吹き飛ばされながらも十字手裏剣を投げつけるという離れ業をやってみせる。
水蜜のもつ錨は重厚な武器。つまり取り回しはよろしいとは言い難い。
そのため、咄嗟に錨で十字手裏剣を受け止めるのは難しい。
その十字手裏剣が水蜜の体に突き立つと思われた、その時。
「ありがと一輪!」
「ええ、問題ないわ。」
その金色の輪で一輪が十字手裏剣全てを弾き落とした。
「雲山!」
「……」
さらに能力を行使し、見上げ入道、雲山を呼び出す。
モクモクと現れた雲山は、その巨大な拳を打ち付けんとする。
「チューリン!」
しかしその拳は、スピンの号令下で投げられた爆弾により、軌道をずらされる。
結果、拳は空を切る。
「チューリンだっけ? まだこんなにいたのか。」
「分断は成功はしてはいるけど、やはり多い……」
見れば、周囲には最初遭遇した時ほどではないが、かなりの数のチューリンが水蜜と一輪を取り囲んでいた。
そして体勢を整えたスピンが、腹立たしげに呟く。
「団長は殺しはしない主義なんだが……あんたら相手に手加減したらこっちが殺されそうだ。悪く思うなよ!」
スピンは合図をチューリン達に送る。
するとチューリンは、あろうことか出鱈目に爆弾を投下し始めた。
一輪や水蜜や雲山を狙って投げているのではない。
本当に出鱈目に、絨毯爆撃のように、その戦場を覆い尽くすように、爆弾を投下し出したのだ。
当然、その範囲にはスピンもいる。
まさか、玉砕か?
いや違う。
一輪と水蜜と雲山が見たのは、迫る爆弾を全て避け、爆風をいなしながらも凄まじい速度で距離を詰めるスピンであった。
一輪も水蜜も、こういった隙間のほぼない攻撃……つまりは弾幕のかわし方は弾幕ごっこで鍛えられている。
がしかし、かわせるという事と自由に動けるという事は、必ずしも等号では結べない。
そしてスピンは、一輪や水蜜、つまりは人間と比べると小さい。
つまりは被弾面積が少ないのだ。
その上、スピンは戦ってわかるようにスピードやテクニック特化。
この爆弾の雨の中、一輪や水蜜よりも自由に動けるのは、当然の理であった。
体が大きいものの、非実体とも言える雲山はその連続的爆風でダメージこそ受けていないものの、体をうまく構成できないでいる。
反撃できない。
どうする?
どうすればいい?
自問するも、答えは出ない。
その間に、鋼鉄の鉤爪は一輪と水蜜に迫っていた。