東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
幽々子を模した姿になったカービィに、さらに魔理沙は指示を出す。
「今のカービィなら幽霊を扱えるはずだ! その幽霊を使って死の瘴気を押しのけるんだ!」
「ぽよ!」
魔理沙に応じて、カービィは扇子を振りかざす。
そして周囲に大量の幽霊を呼び寄せた。
その幽霊達は、死の瘴気へと突撃する。
「なるほど……カービィ、あなたの力はわかったわ。恐ろしいほど。……では、本家たる私も手伝いましょうか。」
幽々子はそう呟くと、またも幽霊達を呼び寄せ、カービィが操っている幽霊と同じように死の瘴気を西行妖から遠ざけようとする。
その作戦の効果は確かにあった。
実体なき幽霊と西行妖の争いは、苛烈を極めるものであった。
次々と死の瘴気を吐き続ける西行妖。
そしてそれを押し返す幽霊達。
両者拮抗するも、その均衡はようやく破られた。
それは、無数の札、太いレーザー、厄の塊。
本体を叩いてダメなら、死の瘴気を。
そんな考えの下に行われた、集中砲火。
その思考はある種勘によるものだが、幾多の修羅場を抜けてきた猛者達の勘ほど信じられるものはない。
ついに死の瘴気が、幽霊や弾幕によって一箇所にあつめられる。
直後に動いたのは、カービィ。続いて妖夢。
扇子を仰ぎ現れたのは、無数の桃色の蝶。
それらはヒラヒラと舞い、死の瘴気を包み込む。
そして遥か上空へと運んでいった。
それは、夢見草がみた悪い夢を、夢見鳥が癒して行くかのように見えた。
そして、ガラ空きの本体に、妖夢は突貫する。
「妖夢! スターロッドだ! 星のついた杖をもぎ取れ!」
「わかってます! 」
突貫する妖夢に向け、西行妖は枝を飛ばし、弾幕を放つ。
しかし妖夢は止まらない。
「西行妖にも余計な枝が増えてきたなって思ってたところなんです。この際、剪定もしちゃいますよ!」
妖夢は二本の刀を振るい、襲いかかる枝を斬りはらい、流れるような動きで幹に肉薄する。
そして、足元を払おうと迫ってきた枝を踏み台にし、大きく飛び上がる。
そしてそのまま、枝に引っかかっていた緑のスターロッドを奪い取った。
「キャァアアアァァァァァアアアァァァ!!」
耳障りな悲鳴とともに、目に見えて西行妖の動きが鈍ってゆくのが確認できた。
この最大の好機に、西行妖へトドメを刺したのは霊夢であった。
「これで終わりよ! 『夢想封印』!」
大量の札が西行妖を取り囲み、陰陽玉が膨張し、西行妖を結界で取り囲む。
そして、西行妖は眩いばかりの光で包まれた。
その光が晴れた時には、西行妖は元の姿……動きもせぬ、葉も花もない桜の木の姿に戻っていた。
ここまで順調に進んだのは、まだスターロッドとの融合があまり進んでいなかったからだろう。
まだ不完全だったからこそ、西行妖は元に戻ることができた。
まだ不完全だったからこそ、西行妖はかいぶつになりきらなかったのだ。
幸運なことに、完全な手遅れではなかったのだ。
成すべき事を成し遂げた後のしばしの静寂。
そして、我に帰ったワドルディ達がワラワラとカービィの元に集まる。
カービィとワドルディが一斉に左手をあげるポーズをした後、唐突にそれは行われた。
右へ、左へ、ステップをし、バク転し、左へ転がり、右へ側転し、クルクル回ってまた手をあげるポーズを決める。
「はぁい!」
「……」
紛れもなく、それは
突拍子も無い行動に皆唖然とする中、一人分の静かな拍手が送られる。
それは、幽々子の拍手だった。
「『ブラボー、ブラボー』って西洋では言うのでしょう? 」
死闘の後とは思えないほどのゆるい発言に、全員が呆れ返る。
その呆れが、緊張をほぐしたのだろう。
気がつけば、皆笑っていた。
その笑顔の向けられた先にいるカービィやワドルディも、なにを笑っているか理解してはないがつられて笑い出す。
その光景はまるで、先の戦闘が夢であったかのようだった。
●○●○●
「なるほどねぇ。それが夢を与える道具なのね。」
幽々子は黄色と緑の二本のスターロッドを眺めて呟く。
「そうらしいぜ。ただこの状態だと、七つに力を分割されているらしい。」
「それで、その中途半端さが西行妖を狂わせた、と言うことですか?」
「そう言うことになるわよね。全く傍迷惑な。」
「……本編では神聖なアイテムだ、って諏訪子様は仰ってたんですけど……」
「神の力は益も禍ももたらすの。私を見ればわかるでしょう? 要は使い方次第よ。」
幻想郷の住人が深夜に議論を交わす中、カービィとワドルディは既に夢心地である。
その安らかな顔を見て、幽々子はくすりと笑う。
「なんだか、夢見もよくしてくれそうね。」
「あ、それは本当っぽいぜ。カービィをウチに泊めているが、私もしばらく快眠続きだからな!」
「ヘェ〜、そんな効果があったんですか! 一家に一台スターロッドですねー。」
「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ。願いを歪んで叶えるような代物、害悪でしかないわ。全部集めたらまともになるらしいけど、それまで力は封印するわよ。」
そしてぺたん! とスターロッドに札を貼り付け、指を複雑に数度動かす。
常人にはなにをやっているかわからないだろうが、これこそ博麗の巫女の御技である。
そんなことをやっている間、雛は優しくカービィとワドルディを撫で、落書きされた太眉を落としていた。
「本当、可愛くて……不思議ね。一体どこから来たのかしら。」
「ゲームでは『ポップスター』という惑星の『プププランド』にやって来た旅人って設定だったはずですよ?」
「どこよ、それ。」
「……さぁ。とりあえず地球ではないことは確かなんですけどね……」
「本当はカービィ本人に聞いた方が早いんだが……喋れないしな、こいつ。ワドルディはそもそも口がないからわからないし……どうしたもんだか。」
「誰かその『ぽっぷすたー』に話のできる奴はいないの?」
「さぁ……あ、でも何人かいた気がします。ゲゲゲだかゼゼゼだか忘れましたが、とりあえず大王キャラ一人と、ダメタ……メタルナイトだったかな? そんな騎士キャラ一人。その二人は話せたと思います。」
「ふぅん。べべべだかダメナイトだか知らないし、あんまり歓迎はしたくないけど、その『ぽっぷすたー』の道具が暴走している以上、来てくれないと困るわね。」
「無い物ねだりしてもしょうがないでしょう?」
「そうね。まずは自分たちでなんとかしないとね。」
雛と幽々子がたしなめ、白熱した議論は一旦中止される。
そして、ぽつりと魔理沙はこぼした。
「カービィ、お前は外では『ゲーム』として人気なんだろう? ならなんでお前は幻想郷に来たんだろうな。」
その呟きは誰も拾うことはなく、静かに白玉楼の客間に溶け込んだ。
結局その日は遅いからと言って、慰労も兼ねて白玉楼で泊めてもらった。
そして次の日の朝、白玉楼を出る時が来た。
早苗と霊夢はとっとと先に行ってしまった。
ワドルディ達はロケットを失い、どうやって帰るのかと思ったが、なんと持参した紅白の日傘を開き、身を投げ、ゆらゆらとゆっくり落下して行った。
つくづく不可思議な連中である。
そして後に残ったのは魔理沙と雛、そしてドラグーンに乗ったカービィ。
ドラグーンの駆動機らしきものを動かし、いつでも発進できるようにしたカービィに、幽々子は近づいた。
「今回はありがとうね。またいらっしゃい。お食事をたくさん作って待っているから。」
「うぃ!」
後ろではその大量の食事を作るハメになるであろう妖夢がすごく嫌そうな顔をしていたが、主人には逆らえない。
妖夢が受けるであろう受難を、魔理沙と雛は二人して密かに笑ったのだった。
●○●○●
幻想郷縁起・控書にて
六月二十日、夕刻。
六月とは思えないほどの涼しさにより、一週間前ほどから冷害が起きていたが、この日はついに雹、雷、竜巻などの異常気象を一度に観測した。
田畑の被害は尋常ではない。食糧不足が懸念される。
何らかの異変とみられるが、ここまで実害が伴ったのは、恐らくは連続して起きた地震の異変以来だろう。
六月二十一日。
昨日とは打って変わり、六月下旬にふさわしい暑さがやってきた。
体の弱い私としては、この急激な変化はいただけない。
しかし、冷害による被害もこのままいけばある程度緩和できるかもしれない。
追記
夜中のうちに家々に食材が配られているという珍事件が発生した。
特に貧しい家に集中しているらしい。
そしてどうやらそれを行なっているのは橙色の球体の妖怪らしく、私の記憶にはない未知の妖怪である。
霊夢さんは何か知っているかもしれない。
追々記
天狗の新聞に『カービィ』という新種の桃色の球体の妖怪について書かれていた。
妖怪の山を襲いながら、今回の冷害をとめた善悪両面をもつ妖怪だという。
しかし妖怪の山の襲撃は人間にとってはある意味『善』の行動なので、人間としては善の妖怪といえる。
しかしそんな妖怪、幻想郷のルールに反するのではないか?
●○●○●
文々。新聞・六月二十一日の午後の号外、裏面の記事にて、表を飾る昨日の異常気象に関する記事の続き
ーまた、この異常気象を解決したと思われる面々の中に、『カービィ』と呼ばれる未知の存在が示唆されることが午前の調査により判明した。
その『カービィ』の特徴は桃色の球状の体をもつとされており、今年五月二日に妖怪の山を襲撃した不届き者の特徴と一致する。
妖怪の山を荒らすという悪事をしながら、冷害を止めるという善事を行なったあたり、恐らくは善悪両面を備える特殊な存在だと思われる。
しかし危険性は非常に高いため、特徴と合致するものを見つけた場合、すぐさま逃げられたし。
●○●○●
「うーん、やっぱりあのまま咲いてても良かったのかもしれないわねぇ。」
夜の白玉楼。
その縁側で、少し惜しそうに呟くのは、主人の幽々子。
周囲には妖夢や口を聞けるもの(幽霊は口を聞けない)は見当たらないが、その独り言に返事をする者がいた。
「やめなさい。後悔することになるわよ。」
その声の主は、八雲紫であった。
幽々子の隣でスキマから半身を身を乗り出すようにして現れていた。
「あら、紫じゃない。おひさー。」
「一体どこで覚えて来たの、そんな言葉……」
「あら、あなたが外の世界の言葉よ、なんて言いながら使って来たんじゃない。」
「そうだったかしら?」
他愛のない会話が交わされる。
しかし、そんなことをしに白玉楼へ来たわけではない。
どうも幽々子と話すとペースを持っていかれる。
紫は幽々子を見ながらそう思う。
もしかしたら、この胡散臭い妖怪と対等に話すことができるのは、幽々子だけなのかもしれない。
「幽々子、あなたカービィに会ったんでしょう? それに、いつの間にか現れたワドルディにも。」
「ええ。可愛かったわね。小さい頃の妖夢みたいだったわ。純粋で、愛らしい。家に置きたいくらいだったわ。」
「……そう。……ねぇ、幽々子。私が幻想郷を管理しているのは知っているわよね?」
「もちろんよ。」
「私が幻想郷を愛していることも知っているわよね?」
「ええ、もちろん。」
「だから、私が幻想郷に仇なすものを排除することがあることも、知っているわよね?」
「もちろんよ。一番付き合いが長いからね。でも私は幻想郷の管理の仕方は知らないから、私は首を突っ込まない。……必要があるなら貴方の好きなようにやって。ちょっと口惜しいけど。」
「……まだ決まったわけではないけど、ありがとう、幽々子。」
紫の能力・『小説の展開をシリアスにする程度の能力(大嘘)』