東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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 幽々子様の腹ペコキャラはほぼ公式だそうで。
 『心綺楼』の背景でおにぎりを凄まじいペースで無限に食いまくってましたしねぇ……



幽々子と桃色玉 ☆

 二刀流の剣士の少女は、その日本の刀を手に、じりじりと間合いを詰めて行く。

 カービィもまた、横へとずれながらも間合いを詰める。

 

 この戦いはカービィにとっても非常に厳しいものがある。

 それは相手の得物。長めの日本刀は、カービィの現在の能力の真価を発揮できる密着戦へ持ち込むことを拒んでいる。

 例え初撃をかわしても、直後に第二撃、すなわち二本目の刀が襲いかかってくるだろう。

 だからこそ、カービィは傍から隙をついての突貫を狙わなくてはならない。

 

 とはいえ、カービィに不利なことばかりではない。

 カービィは相手が二刀流の剣士であることから接近戦に持ち込むのは分かる。

 しかし、相対する二刀流の剣士からは、鉢巻を巻いただけの桃色玉がどのような攻撃手段にでるかは予測し得ない。

 装備の上では剣士が上、情報量においてはカービィの方に軍配があがる。

 ある種五分と五分の条件と言える。

 そしてワドルディ達は、両者の戦いを静かに見守るのみ。

 

 やがて戦いの火蓋は、何の前触れもなく切られた。

 二刀流の剣士はカービィに向けて突貫する。

 その速度は尋常なものではなく、離れて見ていても注視していなければ見失うほど。

 しかし、カービィもまた負けてはいなかった。

 華麗な足さばきで、瞬間的に二刀流の剣士を上回る速度を出し、回り込もうとする。

 その様子は、上から俯瞰するものがいれば円状に追いかけっこをしているように見えただろう。

 

 その膠着状態は長く続いた。

 どちらも戦士として鍛えられているために、疲れの色は見えない。

 だが、なかなか仕留められないでいる剣士は、その顔に焦りの色を浮かべ始めた。

 

 その途端。

 剣士は宙を舞いだした。

 そして上空から、弾丸を刀の剣閃から生み出し飛ばしてきたのだ。

 雨あられと降り注ぐ弾丸に、さしものカービィも慌て出す。

 高密度の弾幕を避ける技術は、カービィはそこまで上手くはない。

 だからこそ、カービィはその場に釘付けにされてしまった。

 

 攻勢に出れない中、剣士は更に周囲を漂っていた大きな霊をカービィに向け飛ばす。

 この一撃で決める気なのだろう。

 だが、そう結果を焦ったことが命取りであった。

 カービィはその大きな霊を見つけるやいなや、またその独自の足さばきで急加速する。

 その先にあるのは、突撃する大きな霊。

 そしてそれを、あろうことかカービィは掴んで見せたのだ。

 その霊を掴んだま、カービィは地を蹴り大きく跳躍した。

 そして空中で一回転し、剣士に向けてその霊を叩きつけんと飛来してくる。

 しかも、弾を弾きながら。

 

 意表を突かれた妖夢は避けきることはできなかった。

 しかし、峰による防御は成功した。

 半霊が剣の峰に叩きつけられ、体当たりもできる半物質である半霊からダメージが伝わって来る。

 そしてそのまま大きく吹き飛ばされ、見事な枯山水に乱れを作る。

 

 華奢な体の剣士へのダメージは決して少なくはないはずだが、それでもすぐに立ち上がり、構える。

 カービィも着地し、すぐにどんな場合でも対処できる構えを示す。

 ワドルディ達は離れてカービィを応援する。

 

 一触即発。蚊一匹が止まる、そんな些細な刺激で張り裂けんばかりの緊張の糸。

 その緊張の糸は今にも限界を迎えそうであった。

 

 だが、その糸が千切れるより早く、両者の動きを止めるものがあった。

 それは、鈴の音のような澄んだ声。

 

「妖夢、そこまでよ。お客人に失礼だわ。」

「っ!」

 

 その声が途端、妖夢と呼ばれた剣士はピクリと震える。

 そしてすぐさま、その二本の刀を鞘にしまった。

 

 その声の主は誰か。

 カービィ、そしてワドルディも、その正体を知るべく声のした方を一斉に向く。

 そこにいたのは、人魂に囲まれた女性であった。

 青い浴衣か着物のような服に、渦巻き模様の三角巾がつけられた青いモブキャップを被り、そこから桃色の髪が覗き、白磁のような肌を持っていた。

 しかしその肌の白さは、どちらかというと生気が感じられない白さにも見えた。

 

 そしてその女性は、ゆったりとした、気品ある動きで、こちらにゆっくりと近づいてきた。

 

「こんにちは。私は西行寺幽々子。あなたの名前は?」

「カービィ!」

「そう、カービィっていうの。そして、あなたたちは?」

「……」

「……そう、話せないの。それならしょうがないわね。」

「幽々子様! いいんですか!?」

 

 侵入してきたはずのカービィに対しておおらかな幽々子。

 しかし妖夢はそれに納得がいっていないようだ。

 そんな妖夢に、幽々子は諭すように語る。

 

「あらあら、この子は『お客人』よ? わからないの?」

「え? いや……えっ?」

 

 果たして今日この時間に来客の予定なぞあっただろうか?

 首をひねり思い出そうとする妖夢。

 だが、いくら思い出そうとしても、そんな予定なんか思い出せない。

 つまりそんな予定入れていないはずだ。

 そう気づき、顔を上げた頃にはもう遅い。

 幽々子はカービィとワドルディ達の手を引き、白玉楼に連れ込んでいた。

 

「ちょっ……幽々子様ぁ!」

「妖〜夢〜! お客様用に何かお茶とお菓子を用意して頂戴。あ、いややっぱり晩御飯にして頂戴。」

「えぇぇ……本当にいいんですか……」

 

 呆れ返る妖夢。

 しかし幽々子は気にも留めない。

 

 今日も今日とて主の自由奔放さに振り回される。

 これが妖夢の日常であった。

 

 

●○●○●

 

 

 机に並べられたのは懐石料理。

 味はもちろん、見た目でも楽しませてくれる料理が、宴会用の机に所狭しと並べられている。

 これだけの量を幽霊達と手伝ってやったとはいえ、短時間で作ってしまうのだから、妖夢の腕前も素晴らしい。

 そしてその妖夢の努力の結晶が並べられた机を取り囲むのは、ワドルディ達、幽々子、そして……

 

「ふふふ、まだまだ食べられるの?」

「むぐ、ぽよ!」

「あらあら、可愛いわねぇ。」

 

 大量に積まれた皿から覗く桃色玉。

 そう、カービィに他ならない。

 ワドルディ達は既に夕飯を食べた為に余った分量を、全てカービィ一人で食べてしまったのだ。

 

 幽々子は非常に愉快そうである。

 が、対して妖夢は冷や汗が止まらない。

 幽々子が毎日食べる量は常人のそれではない。

 時々なんだかんだ言って一度に二人分食べたりするのだ。

 結果白玉楼のエンゲル係数は女性二人ぶんとは思えないほど高い数値になっていたのだ。

 そしてもう一つ。幽々子は自由奔放なところがある。

 妖夢もなんどもその奔放さに振り回されてきた。

 その二つの条件下で、妖夢が最も恐れることがあった。

 それが現実にならないことを、妖夢は必死になって祈っていた。

 が、しかし。現実は非情である。

 

「ねぇ妖夢、この子達うちで預かっていい?」

 

 冗談ではない。エンゲル係数が100%に極限まで近づく。

 

「……やめてください。」

「えぇ? なんで?」

「幽々子様……こんなにたくさん預かったら家計が……」

「じゃあカービィかあなた達何人か、かわりばんこで来なさいよ。」

「いやそれも……」

 

 もし二日に一度ペースで来たら、二日に一度食料が吹き飛ぶことになるではないか。

 

「あらあら、もう完食しちゃったのね。」

「ぽよ!」

 

 三日に一度ペースでも、たとえ一週間に一度でもお断りしたい。

 

「妖夢〜、追加お願い。」

 

 っていうか二度と来ないでほしい。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 しかし自由の塊たる幽々子は、先の発言とは全く関係のない話をし始める。

 

「ところでカービィ。ここに来た理由があるんでしょう?」

「うぃ!」

「そうよね……あなたが来た理由はわかる。けど、あなたに頼めることなのかわからないんだけどね……」

「幽々子様……?」

 

 我に帰った妖夢は、おもむろに外へ繋がる障子を開けようとする幽々子の行動に疑問の声を上げる。

 その障子を開いた先。その遥か先には一本の大樹が聳え立っていた

 それは、花も葉もついていない、桜の木であった。

 

「西行妖……いつの間にかあった、花を咲かせぬ桜の木……一度花を咲かせたくって、春を集めたこともあったっけ。」

 

 幽々子は懐かしむように、目を閉じる。

 そして、困ったようにこうつぶやいた。

 

「でも、今はもう、制御もできないの。」




「みんなで決めるゲームランキング」見て来たんですけど、カービィの快進撃すごいですね。
そしてアンチの数もすごい(笑)
まぁ、ぽっと出のゲームが二十年越えの歴史を持つゲームには勝てる道理はないのです
……東方頑張れ

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