東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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いきなり章タイトルが『returns』になっているのは、物語世界では既に神霊廟まで終わっているからです。
1話目でその事を仄めかしてますが、念のため。


風神録:Returns
妖怪の山の桃色玉


 妖怪の山は騒然としていた。

 

 それも当然である。幻想郷を覆う『博麗大結界』。それを破って突っ込んできたものがあるのだ。

 それを最初に見つけたのは、千里眼を持つ白狼天狗、犬走椛。

 いち早く大結界と衝突する物体を発見し、独自の通信網によって白狼天狗の警ら隊に情報が回る頃には物体は大結界を破っていた。

 

 恐らくは幻想郷で最も強固な結界が、ものの数秒で破られたのだ。

 その事実の重大さを理解できぬ妖怪は、そこにはいなかった。

 それ故に、妖怪の山では厳戒態勢がとられた。

 

 普段は荒事を好まない鴉天狗も、血眼になって妖怪の山に落ちたものを探していた。

 おおよそ連帯感というものが感じられない河童達も、この時ばかりは鴉天狗とともに捜索にあたっていた。

 

 そして普段は取材に忙しい射命丸文も、片手にカメラを持ちながら妖怪の山を飛び回っていた。

 果たしてそれが妖怪の山の住人としての義務感からか、それともジャーナリスト魂によるものかはわからないが。

「ふうむ、着弾点はあそこですか。既に白狼天狗共がたむろしてますねぇ。」

 

 文の見下ろす先には、高空からでも目視できるほどの大きなクレーターができていた。

 木々は放射状になぎ倒され、その衝撃が手に取るようにわかる。

 相当な質量が落下したか、相当な速度の物体が落下したか、あるいは両方か。

 

「現時点では情報不足でわかりませんね。とりあえず写真には収めておきましょうか。」

 

 真面目に捜索活動をする白狼天狗を尻目に、白い目で睨まれながらも気にせずシャッターを切る文。

 パシャ、パシャと目障りなフラッシュとともにクレーターを写真に収める。

 

 と、その時、クレーター付近にて、不自然な反射に気がついた。

 訝しみながらも地上に降りてみれば、そこには到底この世のものとは思えないものが転がっていた。

 七色の浮遊する宝石群。それが落ちていたのだ。

 色の種類は赤、橙、黄、緑、水色、青、紫。その宝石達はまるでそれら全てで一つのパーツであるかのように、纏まって浮いていた。

 掬い上げれば、全ての宝石が手のひらの上で浮かび、輝く。

 

「これは……中々のスクープですね。」

 

 またしてもパシャリ、と写真に収める。

 そしてカメラを目の前から退ける。

 

 

 

 そしてその先に、ソイツはいた。

 

 

 

 桃色の球体に、突起のような小さな手、赤っぽい足が生え、正面につぶらな瞳を輝かせる、小さな物体。

 今までに見たこともない、生き物とも妖怪ともつかない、謎の存在。

 しかしながらソイツは確かに困った顔をしながら、こちらを見上げていたのだ。

 

 文は無言のままシャッターを切る。

 目の前のソレが眩しそうに瞬きするのにも構わず。

 そして満足いくまでシャッターを切った後……

 

「ここに下手人がいるぞ! 排除せよ!」

 

 周囲の天狗を呼び寄せ、かつ自身もソレに飛びかかった。

 

 桃色のソイツは「びぇ!」と悲鳴をあげながらも、幻想郷最速たる文の腕を潜り抜ける。

 そしてまるで転がるようにして、その場から逃げんとする。

 

 しかしながら、有事の天狗の団結力は凄まじい。

 天狗特有の素早さを持って、あっという間に桃色のソイツを包囲する。

 地上を大剣を構えた白狼天狗が、空からは紅葉のような扇を構えた鴉天狗が、それぞれ取り囲む、まさに蟻の子一匹逃さぬ完璧な包囲。

 その包囲下で、桃色のソイツはただ狼狽えるのみ。

 

 やがてジリジリと、白狼天狗と鴉天狗が距離を詰める。

 しかも、片や大剣に、片や扇に力を込めて。

 

 天狗達にとっては、自らの領域に足を踏み入れる者→排除という認識なのだろう。

 里の人間ならまだしも、全く見知らぬ異物ならば、慈悲などかける気はさらさらない。

 

 やがて、一人の鴉天狗が、旋風を巻き起こす。

 ただの旋風ではない。一点に風を押し込めた、弾丸のような旋風。

 それを切っ掛けに、次から次へと風が、剣圧が、桃色のソイツに集中する。

 地面は割れ、砂埃が舞い上がり、辺り一帯の視界を悪くする。

 

 この集中砲火、モロに食らって到底生き延びれるものではない。

 ミンチになった桃色のソイツを、文は砂埃の中に幻視した。

 

 だが、確認しようにも、砂埃は収まらない。

 むしろ、渦を巻いていないだろうか。

 

 それに気がついた時。

 

 太古の昔、それはもう太古の昔。

 文が一介の鴉だった時、即ち弱肉強食の世界で生きていた時。

 その時の生存本能が、千年以上の時を経て、再び警笛を鳴らした。

 

 その勘を信じ、文は飛び退いた。

 瞬間、まるで風の檻から解放されるように、旋風は質量を持って広がった。

 

 文と同じように飛び退いたものは難を逃れた。

 しかし遅れたものは、その広がる旋風に一瞬にして飲まれ、そして旋風が晴れた途端、大きく吹き飛ばされる。

 

 悲鳴が上がり、負傷した仲間を無事なものが介抱し、残りが中心に注意を向ける。

 そしてその中心に立つのは、桃色のソイツ。

 しかしのその頭には、渦巻く風、竜巻が乗っていた。

 

 天狗達は桃色のソイツを、籠の中の小鳥だと見なしていた。

 しかし、籠の中にいたのは小鳥なんていう優しいものではなかったと理解した。

 籠の中にいたのは、その籠すら容易く破壊できる……桃色の悪魔だった。

 

「ぽよっ!」

 

 さっきまでの怯えていた顔ではなく、自信に満ちた、勇ましい顔がそこにあった。

 そして桃色のソイツはおもむろに体を捻りだす。

 その一瞬後には、再びあの旋風が起きていた。

 しかもさっきとは違い、暴れ馬のように不規則な軌道を描きながら。

 

 しかし天狗達は退かない。

 天狗達にはプライドがある。

 このままいいようにやられてたまるものか。

 そういった感情を、全ての天狗達が感じているのだろう。

 そう、天狗というのは、そういう妖怪なのだ。

 プライドに満ち満ちた、上位者として君臨する妖怪なのだ。

 

 故に、退かない。

 例えいくら攻撃しても、一向に旋風が止まらないとしても。

 それでも退かない。

 天狗が地に堕とされることなど、あってはならない。

 

 しかし、無情にも、旋風は止まない。

 いや、何度かは止まっているが、その度に無傷のソイツが現れる。

 天狗としてのプライドが、今まさにへし折れんとしていた。

 

 だが、その矢先である。

 

「らしくないね、天狗ども。」

 

 その声とともに、旋風に向けて大量の水がかけられる。

 水を吹き飛ばしながらも、旋風は一度収まり、ソイツは闖入者を確認する。

 

 現れた闖入者、それは妖怪の山のもう一つの勢力、河童であった。




桃色のソイツがダメージを食らわなかったのはこういう原理です

1.最初に飛んできた風弾を吸い込む
2.呑み込み、コピー能力『トルネード』取得→能力取得時の無敵時間発生。
3.無敵時間中にスピン攻撃→スピン攻撃中の無敵時間発生。
4.最後に『最大瞬間風速(wii)』を繰り出し、一掃。

それにしても、トルネードってなかなかチートですよね。
ボスバトルではノーダメージ攻略で一番楽な能力なんじゃないでしょうか。

ちなみに、心優しいカービィだってさすがに命の危機の時は戦います。自衛です、自衛。

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