東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
「ぽえ?」
適当に扉に入っていったカービィ。
しかし当然、紅魔館の内部構造なぞ知っているはずがない。
すぐに迷子になってしまった。
どこを見ても紅い壁。
時折ある扉を開けても、繋がる部屋は誰もいない上に用途不明。
カービィは途方に暮れていた。
行先は不透明だし、戻ろうにも帰り道がわからない。
いざとなったら、壁を抜くしかあるまい。
だがそんなことをすれば、持ち主は黙っていないだろう。
結局のところ、このまま彷徨うしかない。
カービィはひたすら紅い廊下を歩き続ける。
すると、目の前に階段が見えた。
どうやら地下へと続いているようだ。
あからさまに不穏な雰囲気を放つ階段。
しかしながら、カービィにはその階段に、妙に惹かれていた。
そしてカービィは、その階段を恐る恐る降り始めた。
ランプもまばらで薄暗い。
恐怖心を煽るのは間違いない。
その雰囲気は、来る者を拒んでいるように見えた。
それでありながら、カービィを誘っているように見えるのは、一体何によるものか。
やがて、カービィはある一つの扉の前にたどり着いた。
●○●○●
「遅いわね……」
咲夜が消えてしばらくして。
主人たるレミリアは、従者の帰りの遅さにしびれを切らしていた。
「どこかで油売ってるんじゃないの?」
「あいつも人間だし、どこかで居眠りしているんじゃないか?」
他人事だと思って霊夢と魔理沙は益体のないことを口走る。
しかしレミリアはそんな話に耳も貸さず、思案に耽る。
と、その時。
無遠慮にも、ノックもなくドアが開いた。
一体、誰が入ってきたのか。
全員の注目が集まる中、それはのっそりと姿を現した。
「あ、どうもみなさん。」
「早苗!?」
「ちょっと、どうしてここに!?」
一体誰が予想したのだろう。入ってきたのは守矢神社の風祝、東風谷早苗であった。
しかも背中に、とんでもないものを背負って。
「あれ、背中にいるのって……」
「あ、はい。咲夜さんですよね? なんかエントランスに倒れてましたよ。」
早苗の背負ってきたもの。それは姿が見えなくなった咲夜であった。
しかも傷だらけで、気も失っている。
「エントランスに? なぜ?」
「そこまでは……でも酷い有様でしたよ。正面の門もぶち抜かれてましたし。」
「……美鈴は? うちの門番なんだけど。」
「門番? さぁ、見なかったですよ?」
「っていうか、なんで来たんだ?」
魔理沙の根本的な質問に、早苗は「ああ」と間の抜けたような返事とともに語り出す。
「うちって妖怪の山にあるじゃないですか。なので天狗の噂話とかもよく聞くんですよ。」
「だからなんなの?」
「その噂に、ここに、その……カービィが飛んで来た、って……」
「カービィが!?」
魔理沙はその言葉に反応し、立ち上がる。
その拍子にガッタン、と椅子が弾き飛ばされた。
一体のワドルディが下敷きになり、ジタバタと暴れているが、魔理沙はそんなことなぞ気にしない。
気にしている余裕なぞ、無かった。
「なんでカービィが……留守番していたはずなんだが……」
「あらあら、躾には失敗したようね。」
「そんなの問題じゃないでしょ? もしかして、うちの咲夜をこんなにしたのもそのカービィかしら?」
「ちょっとその不穏な雰囲気を放つのやめてくれ。まだ言葉も話せない子供だぞ?」
「……言葉も話せない子供? その割には随分と戦闘慣れしているみたいね。咲夜を下すなんて、隠密に慣れているか、それとも時を止める咲夜に正面から挑み、戦ったのか……いずれにせよ、紅魔館に何かいるのは確かなのね?」
「天狗の噂を信じるのなら、ですが……」
「状況証拠は揃っているんじゃない? 現に倒れた咲夜がいるわけだし。」
「それだけで状況証拠っていうのもな……だが天狗の情報か……信じられるような、信じられないような。」
「御託はいい。早くそのカービィだがなんだかをとっちめるわよ。」
ガタリと椅子を引き、レミリアは立ち上がる。
それを合図にワドルディ、そしてどこかに控えていたのであろうか、妖精メイドが慌ただしく動きだす。
あるものは倒れた咲夜をどこかへ連れて行き、またあるものは扉を開け放つ。
そして彼らはレミリアの後を追従する。
「……なんというか。」
「物々しいわね……。」
「流石お嬢様ですね〜。」
そんな事を呟きながら、残り三人もその後をついていった。
●○●○●
一体なんの扉だろうか。
よくわからないが、なんだかファンシーな感じはする。
しかし危険な匂いもする。
と同時に、自分を呼ぶような感覚も。
堪らず、カービィはその扉を開けた。
そして視界に広がる光。
そこにあるのは、フリルやレースがあしらわれた、ゴシックな内装。
至る所に可愛らしい縫いぐるみが置かれ、山積みになっていた。
奥には天蓋付きベッドまである。
まるで御令嬢の部屋のようだ。
カービィはその部屋を進む。
中々広い部屋だ。
魔理沙の家のリビングくらいはある。
そんな中、カービィはあるものを見つけた。
それはボロボロになった、うさぎの縫いぐるみ。
中綿が漏れ出し、残った耳でようやくそれがうさぎだとわかるほど、無惨に破壊されていた。
そこから滲み出るように、狂気が感じられた。
「ねぇ、何してるの?」
その時、背後から声をかけられた。
カービィは驚き、コロコロと転がってしまう。
その様子がおかしかったのか、その声の主はクスクスと笑っていた。
「面白い。なんだか最近来たワドルディみたいね。」
カービィは立ち上がり、その声の主を見る。
そこにいるのは、十歳前後の金髪の少女だった。
白いモブキャップを被り、赤いワンピースを着ている。
そしてその背中からは、木の枝に虹色の結晶がぶらさがったような翼が生えていた。
カービィはその姿にある人物を脳裏に浮かべながら、とりあえず自己紹介をしてみる。
「はぁい! カービィ、カービィ!」
「ん? もしかして自己紹介? カービィっていうの?」
「うぃ!」
「へぇ、そうなんだ!」
にぱっと、その少女は笑う。
その口からは、尖った犬歯がチラリと見えた。
そして、ワンピースの裾をつまみ、お辞儀する。
「わたしはフランドール・スカーレット。フランって呼んでね。」
嫌な予感しかしない