東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
なんなんでしょうね。アマノジャクなんでしょうか?
「まてまて。呼んでいるってどういうことだ?」
魔理沙は美鈴の不可解な言動に疑問を露わにする。
呼んでいる、とはどういうわけか。
異変を起こしておきながら、それを解決しに来た自分達を弾幕ごっこもせず中に入れるとは、一体どういう了見か。
しかし残念ながら、目の前の門番はそれに対する答えを持っていないようだった。
「いや、それが私も詳しく知らなくて……」
「あなた門番でしょ? そのくらい知っておきなさいよ。」
「そんな無茶な……」
短気な霊夢はお祓い棒を肩にかけながら美鈴に詰め寄る。
その様はまさに一昔前の不良である。はっきり行って霊夢が美鈴相手に恫喝しているようにしか見えない。
こんなのが幻想郷を守っているのか。
魔理沙はすぐ側でそんなことを思いながらも、思索を巡らす。
どうやら再び起きた紅霧の異変は、普通の異変ではないらしい。
可能性としては、この紅魔館の主人が私達をおびき寄せるために発生させた、と考えることもできる。
しかしそれならこんな回りくどいことをせず、誰か紅魔館の使用人に言伝を頼めばいいだけだ。
いや、まさか使用人に一大事が起きたとか?
それならば納得できないこともないが。
そしてもう一つ可能性を考えるとすれば……紅魔館の住人、誰もがこの事態に関与していないという可能性。
つまり紅魔館とは異なる全く別勢力によるもの。
例えば紅魔館を貶めるために、再び霧の異変を起こしたのかもしれない。
と、色々推測はしてみたものの、結局推測は推測の域を出ない。真実と比べればその価値なんて無いに等しい。
「霊夢、とりあえず会ってみようぜ。」
「……まぁ、直接聞いた方が早そうだしね。」
「初めからそうしてくださいよ。それじゃ、門を開けますね。」
ガシャン、と鉄柵が硬い音を立てつつ、開かれる。
そして特に躊躇う様子もなく、霊夢と魔理沙は中へと足を踏み入れる。
庭は一面芝で覆われており、綺麗に刈り揃えられている。
至る所に花壇があり、そこには舶来ものとみられる色とりどりの花が咲いていた。
「相変わらず屋敷は豪華ね。」
「お前の神社とは似ても似つかんな。」
「あら、ここよりはずっと落ち着けるわよ?」
「落ち着けない館でごめんなさいね。」
館の悪口を言っていたからであろうか。
銀髪にホワイトブリムを乗せたメイドが、突如として目の前に現れた。
歩いて来たわけでも、飛んで来たわけでも無い。
ただなんの前触れもなく、湧いて来たかのようにその場に現れたのだ。
しかし、霊夢と魔理沙はそのメイドのことをよく知っていた。
彼女の名は十六夜咲夜。その能力は時間を操る。
「ま、そんなことはどうでもいいわ。さ、早く上がって。お嬢様が待っているわ。」
「お前は時間を止められるんだろ? なら瞬間移動みたいに私たちを移動させればいいじゃないか。」
「そのやり方、結構大変なのよ? 早く来てちょうだい。」
咲夜は魔理沙の提案をあっさり却下すると、早く中に入るよう促す。
客をもてなすメイドの態度には見えないが、この三人は異変解決にて時たま会う仲なため、こういう砕けた態度になるのだろう。
霊夢と魔理沙は促されるがままに、紅魔館へと足を踏み入れる。
そんな二人を待ち構えるのは、薄暗いシャンデリアの光と、赤を基調としたステンドグラスの気味の悪い光。
内部も赤一色なため、なんとも胸が悪くなる館だ。
微かに血の匂いがするのは、周りの光景から連想されたただの幻臭だろうか。
いやしかし、ここに住まう者のことを考えると、そうではない気もする。
すると、目の前にある大階段から何者かが降りる音が聞こえてくる。
その音は小さく、軽い。
ゆっくりとそれは降りてくる。
それは、幼い少女の姿をしていた。
白いモブキャップから覗く髪はやや青く、その小さな体に纏うは薄赤のドレス。
どう見ても幼気な少女にしか見えない。
しかし、その瞳は鮮血のように紅く、鋭い犬歯が唇の間から覗き、その背中にはコウモリの翼が生えていた。
そう、彼女は吸血鬼。
そしてこの紅魔館が主人、レミリア・スカーレットその人である。
「ご機嫌麗しゅう、霊夢、魔理沙。」
そしてドレスを摘み、優雅に一礼してみせる。
その一挙一動に、館の主としての気品が感じられる。
と、思ったら。
「なんてね。さ、早くお茶にしましょ。咲夜、お願い。」
「はい、ただ今。」
一気に砕けた口調へと早変わりする。
彼女も時折異変にて関わる相手だ。博麗神社にて開かれる宴会にもよく現れる。
それ故に、霊夢と魔理沙とは決して浅くはない親交があった。
すぐに茶の用意をするあたり、レミリアは霊夢達を気に入っているようだ。
しかし当の本人はそんなことは全く気にしていない。
それよりも重要なことがあるのだ。
「お茶はいいわ。それより何なの? また霧なんか出して!」
「ああ、そうそう。そのことで話したかったのよ。」
「……ん? まるで他人事だな。」
魔理沙はレミリアの発した言葉の表現がおかしいことに気がついた。
「そうよ。私達はこの霧とは無関係なのよ。」
「なによそれ。だって紅い霧って……」
「詳しいことはティーラウンジで話しましょ。」
この場で無理に聞き出そうとしても、答えないだろう。
そう判断した二人は、おとなしくティーラウンジへと足を運ぶ。
広々としたティーラウンジには、ただ一つだけ、白いラウンドテーブルとチェアがあるのみで、豪奢ながらもどこか寂しさを感じる。
ラウンドテーブルに備えられたチェアに座ったところで、レミリアがようやく話し始める。
「繰り返すけど、私達はこの霧に関して一切関係していないから。」
「それ、信じていいんでしょうね?」
「ええ、もちろん。それに一度失敗した異変をぶり返すような無粋を私がすると思う? そんなのつまらないじゃない。」
「本当に、本当に違うんだな?」
「ええ。恐らく下手人は私達に因縁のあるヤツね。紅い霧をだして私に疑いの目を向けようって魂胆かしら。」
「……お前の妹が絡んでいるとか?」
「あー……確かに私もあの子の行動全て把握しているわけではないけど……こっそり監視はつけているし、こんな紅い霧を出そうとしたら監視が事前に気づかない可能性はないし……」
そこで言葉を濁した時。
チャカチャカという硬いもの同士が擦れる音が鳴る。
咲夜がお茶でも持ってきたのか。
そう霊夢と魔理沙は思い、音源を見る。
そして、硬直した。
確かにお茶の用意をしていた。
しかしそのお茶の乗ったトレーを持つのは咲夜でも人間でもなく、ホワイトブリムを乗せた謎の球体生物、複数だった。
オレンジの体表に、肌色の顔。その色合いは子猿のよう。
しかしその顔に口はなく、ただこちらを見つめる瞳があるのみ。
そしてそれは、どことなくカービィに似ていた。