マギア☆メモリーズ   作:弓洲矢善

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6話

 

 

「っ――ぁ――ぁぁああああ――ッ!」

 

もう、いやだ。

わたしはあと何回、何時、どれほど"コレ"を――され続けるの。

 

「ぅ――ッは――っっぁぁ――っ――!」

 

わたしはこんな――しらない。

わたしはこんな――知らない。

けれどみんな、みんな"――のこと"として、わたしの――に―し―まれる。

 

―――まれ、行き場の無い"―"でわたしが――――そうだ。

けれど、―――――しまう事すら許されない。

いっそ――――、ラクになれる事すら許されない。

 

――わたしは"死ぬ"まで、"死ねない"中、ずっとこの責め苦を味わわせられる。

 

「――コ――ろシ――テ――」

 

――死にたい。

 

「コロ――しテ――」

 

――殺して。

 

「――コロして――殺シテ――」

 

――死にたい死にたい死にたい死ニたい死にタイ死ニタイ死ニタイ死ニタイ死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死――

 

――殺して殺して殺して殺して殺シて殺しテ殺シテ殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺セ――

――殺セ――

 

「ッぁぁああ――――ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 

――これだけ苦しんでも、"やつら"は顔色ひとつも変えない。

――ただ嘆き、ただ嘔吐き、ただ狂い、ただ苦しもうとも、"それだけのため"に、"やつら"はわたしを使っている。

 

――それが■■■であるわたし、"*****"に与えられた、唯一の生きる意味だった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

あすみを拾ってから一週間後、またの休日の朝朝。

 

「――――」

 

マミさんの家だ。

特に変わった様子もない、いつも通りの朝。

だが、

 

「……っ」

 

ぼんやりと、朧げにしか分からない夢だった。

何を感じ、何を意味していた夢だったのかはまるで分からない。

 

――けれど……ひどく、苦しかった。

 

苦しい夢だった。

それだけは分かった。

 

「……うぅ……っ」

 

夢は所詮夢。

そう思わなければどんどん心が陰る。

ソウルジェムにも悪い。

 

……マミさんの朝食の支度でも手伝おう。

 

 

 

****

 

 

 

予想はしていた事だが、やはりか……と言ったような具合だった。

と言うのも、悪夢にうなされていた事をマミさんに伝えると、

 

「詩織さんは休んでて。 無理しちゃ駄目よ」

 

気を遣われてしまった。

けれど、それではわたしが起きてきた意味がない。

 

「……手伝ってた方が、こわいこと忘れられるから……。お願いします……っ」

 

手伝いだろうがなんだろうが、理由は何でも良い。

ただ、今はマミさんと一緒に居たほうが、あんな悪夢になんて忘れていつもの日常を感じれる気がするんだ。

 

「そっかぁ……ごめんなさいね」

 

気配りが足りなかった、とばかりにバツが悪そうに『ふふっ』と微笑むマミさん。

これで、一緒に朝の支度が出来る。

 

「……マミさんってたまに柔らかくなりますよね。口調」

 

「へ……?」

 

「お姉さんなマミさんなら『そうねぇ……』って言いそうなのに」

 

「……気がつかなかったけど、気が抜けちゃってるのかもしれないわね……」

 

わたしの前では気が抜けるマミさん、か。

 

「……えへへ」

 

「?」

 

「何でもないっ」

 

知られざる一面……みたいなものを垣間見れた様で、嬉しさとも言えるものを感じられた。

 

 

****

 

 

しばらくして支度も終わり、マミさんとあすみとわたしの三人で食卓を囲む。

 

「これゆきねおねえちゃんが作ったの?」

 

と、ハンバーグを頬張りながらわたしに聞くあすみ。

 

「だよ〜。おいし〜?」

 

この一週間、マミさんの朝の支度も兼ねてお料理も学ばせてもらった。

晩御飯の支度の時には特に丁寧に教えてもらいつつ、着々と腕を磨いてったつもりだ。

 

「……わるくない、かも」

 

と、そっぽ向いて頬を赤くしながら評するあすみの表情からは、どこか喜びの色が滲み出てる気がしないでもなかった。

 

「そんなこと言って〜、美味しいんでしょ〜?」

 

「む〜、おねえちゃんうるさいっ」

 

「このツンデレめ〜」

 

「う〜ざ〜い〜っ〜!」

 

「こ〜らっ。落としちゃうわよ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

マミさんに怒られ、しゅん……と落ち込むあすみ。

 

「やーいあすみ怒られてる〜」

 

「詩織さんもよ?」

 

「ぶ〜」

 

「ふっ」

 

おい、あすみが鼻で笑ったぞ。

 

「おい〜? あすみ〜?」

 

「なんでもないしー」

 

 

****

 

 

さて、朝食後。

マミさんは杏子に用があると言ってあすみを連れて出てしまった。

ついでにあすみとゆまは歳が近く仲良くなれるかもしれない、とも。

 

で、わたしは何故付いて行かなかったかと言えば、この一週間の魔獣狩りの時以外には会ってないさやかと遊ぶ約束をしていたからだ。

彼女の親友である鹿目まどかも同伴との事だったが、別にわたしに不都合は無いので了承する事にした。

因みに資格がないのか魔法少女ではない、との事。

 

 

****

 

 

地方都市にしては比較的都会と言える見滝原の中で、ビルとコンクリートのジャングルから抜け出られる憩いの場……とも言えるこの広々とした公園。

この公園にて、さやかとまどかと待ち合わせをしている所だった。

……が、

 

「――詩織、雪音さんね?」

 

その来訪者は、碧の髪の乙女なのではなく、長身のシルバーブロンドの麗人だった。

そしてその隣には、小柄な黒髪ショートの少女が付き添っている。

何よりこの人達、わたしの名前を予め知っていた……?

 

「……誰……ですか」

 

「あら、わたしとした事が……、申し訳御座いませんわ。そうですね……」

 

一呼吸考え、改めてその名を口にする。

 

「――救世を成すべく、審判を下す者――と言いましょうか」

 

――名前でなかった。

だが、ここまでの声色のみでも、わたしに不安を抱かせるには充分だった。

かつてのわたし――記憶を失う前までのわたしを知る者だったとしても、だ。

マミさんの声色を例えるならば、柔らかく包み込む様な暖かな優しさだとしよう。

一方この女なら、確かに声色こそは優しげだ。

けれど声だけが優しいだけであり、暖かさなんて欠片もなく、まるで冷えに冷え切った無機質的な金属の様だ。

 

「っ……」

 

怖い。

逃げたい。

こんな得体の知れない者達なぞ放っておいて、日常に帰りたい。

 

「ああ、恐れずともいい」

 

「ひっ……!」

 

付き添いの黒髪がわたしへと身を乗り出して喋り出す。

 

「織莉子は女神に代わってこの絶望に満ちた世界を正しき道へと導く者さ。有限たるこの世界を無限とすべく東奔西走し――」

 

この少女、わたしを見て喋っていない。

その金の瞳の方向こそ、わたしへと向いてはいるが、見ているのはわたしなどではなく、その向う側。

つまりは、今彼女が語る銀髪の女――織莉子の理想のみを見ている。

そしてその饒舌な口はわたしへと語り掛けているのでなく、語る理想に酔っている様だ。

まさに、狂信的――否、狂気的か。

 

「もう……喋りすぎよ、キリカ」

 

「……! ご、ごめんよ織莉子! 嗚呼! 歩み出しからこんな失敗を犯してしまったどうしよう! 織莉子の為ならどんな罰だって受け入れるよ! それこそ四肢切断だって織莉子の為なら構わない! 無限の愛

して受け入れるさ! さあ私を裁いてくれ! 織莉子の為ならこの身も何もかもを捧げられる!」

 

――ヤバい。

 

狂信的かと思えば、許しを乞う黒髪短髪――キリカの態度は跳ね回る忠犬そのもの。

かと言って喋る内容は狂気的なまでに献身的。

態度の落差が酷いようで、喋る内容は狂信的かと思えば献身的。

このキリカとか言う少女、読めない。

 

「あらあら、駒の手足を捥いでは駒たり得なくなってしまうわ。それにキリカに与えた罰とは、わたしの駒になる事の筈でなくて?」

 

「ひどいや織莉子! 大ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ好き!!」

 

――ヤバい、ヤバ過ぎる。

 

「……ええと、醜態を晒してしまい申し訳御座いませんわ」

 

「は、はひ……」

 

良かった。

醜態と自覚出来る倫理観は少なくとも織莉子には備わってる様だ。

しかし、狂犬とも言えるキリカを手懐けられる事がある意味では恐ろしい。

わたしでは一発で咬み殺されている。

 

「さて……此の度貴女に声をお掛け致しましたのは、是非貴女には協力して頂きたい事がございまして」

 

 

 

 

「――悪魔に下す審判の」

 

 

 

 

****

 

 

結局、見知らぬ喫茶店へと連れられてしまった。

さやかとの約束があるから公園にて居させて欲しい

と言っても聞き入れてはもらえず……、

 

『この世にこれ以上とない織莉子の誘いを拒むと言うんだね? ならばこの私、呉キリカが君の命をここで有限にしてしまおう。なに、痛みは一瞬さ。瞬く間も無く細かく細かく刻んで刻んで刻刻刻刻刻んで心までをも刻んで差し上げよう。それなら痛みを感じる事も無いだろう?』

 

……と、キリカに脅されてしまった。

例によって織莉子が抑えてくれ、その上これはキリカの冗談の様なものと補足してくれたが、とても冗談には聞こえなかった。

 

「うぅ……、さやかぁ……。マミさん、杏子ぉ……」

 

「乗り気でないならこの私、呉キリカが――」

 

「きッ……!? 聞きます聞きます!」

 

「O.K. ならば私達に聞きたまえ。この世を侵食する黒き悪魔と、この世の救う者の話を」

 

……さて。

先程から耳につく"悪魔"なる単語だが……。

 

「魔獣の親玉……みたいなものですか?」

 

「全ての魔獣の主、と言う事のなら全ての人間そして魔法少女がそうね」

 

はぐらかし、回りくどい流れに若干の苛立ちを覚える。

少なくとも、魔獣の王……と言う訳でもなさそうではあるものの。

 

「――"魔女"を超えし者」

 

――"魔女"。

情報通を気取りたいのか、聞き馴れない単語ばかりを繰り出してくる。

 

「そして、救済の女神を失墜させし者」

 

……もう我慢ならない。

 

「……わかんない事だらけです。悪魔? 魔女? 女神? いったい何の話をしてるんですか……!?」

 

「織莉子の言葉を邪魔するな……ッ!」

 

またキリカか。

質問すら許さないと言うのか……!

 

「邪魔してないよ! 聞いても何言ってるかわかんないからだよ!」

 

「理解が及ばない即ち君の魂が織莉子の言葉を拒絶していると言う事だね? 良いだろう君の魂の色は重々分かった。織莉子の為ならここで君を処刑しても私は何とも思わないさ。だから細かく散ね」

 

「……!?」

 

一息も入れずに捲くし立てるキリカ。

 

喫茶店で戦闘すると言うのか――!?

やはり正気でない――!

 

「そこまでよキリカ」

 

「お、織莉子ぉ……! で、でもコイツ……!」

 

「確かに、わたし達の"ビジョン"はわたし達にしか分からないの。中々伝わってくれないのも道理で、仕方なのない事よ」

 

「う……ご、ごめん……ッ! で、でも! お、織莉子からの罰なら私は――」

 

「二度も言わせないの」

 

「う……ッ、う、うん……」

 

た、助かった……。

 

「――さて、先ずは貴き"女神"の話からしましょうか」

 

――"女神"。

仰々しいその単語に、わたしは固唾を呑む。

 

「かつて、貴き願いを胸に抱いた少女達が居た。そして願いに裏切られ、募った穢れでその身を満たし、少女の心の深層の化身――"魔女"を顕現させた」

 

つまりは、魔法少女が願いに裏切られ、何らかの良くない存在へと堕ちた……と。

 

「そんな絶望に満ちた世界を目の当たりにし、涙を零す尊き心を持つ"因果に愛された少女"が居た」

 

「……その少女が、女神……なんですか?」

 

「えぇ。その因果の少女こそが、呪われし少女達を浄化する救いの女神――"円環の理"へとその身を昇華させたのよ。その存在を誰にも覚えられる事がなくなろうとも……ね。家族からも……親友からも」

 

――"円環の理"。

話のみを聞けば、我が身を犠牲にしてでも救世を誓うとは、なんと尊い心を持つ少女だろうか。

もしわたしだったなら、到底そんな事出来る訳がない。

自分の記憶を失おうとも、せっかく手をとってくれた人達から忘れられてしまうとなると、寂しすぎて……そして悲しすぎて、考えただけでも胸が痛くなる。

 

「けれど、そんな道を善しとしなかった者がひとり」

 

「それが、この世を侵す"悪魔"と言う事さ」

 

「えぇ。彼女は救いを差し伸べる女神を失墜させ、人間へと還らせてしまったのよ」

 

「人間――と言えば聞こえは良いだろうが、彼女にとっては人形も同然だろうさ」

 

……では、孤独な女神さまは人間に戻れた。

 

「それって良くない事なんですか……?」

 

「皆の救いを願う彼女の心を踏みにじる事を悪ではない――と言いたいのですね?」

 

「え、っと……」

 

女神様は人間……? に戻った。

すると女神様の救いの手は消え失せている。

けれど、"魔女"なる存在を未だ嘗て聞いた事も見た事もない。

なら、この世界は今どうなって……?

 

「……悪魔は女神を引き摺り下ろし、そして救われるべき"呪い"の浄化も無い」

 

「じゃあ、"呪い"の行き先は……?」

 

「それは悪魔さん自身のみぞ知る事ね」

 

……はぐらかされた様な気がししないでもない。

 

「さて、貴女は忘れられし"女神"が人間に戻れた事を、少しでも良しとした。けれどそれは尊き事でも、まして彼女自身にとっての救いでもなく、わたし達現世の者達からすれば大災害とも言うべき事よ」

 

「"悪魔"が何かするんですか……?」

 

「いいえ、もうしているわ。ところで貴女、キュゥべえの言うエネルギーの話は知っていて?」

 

魔獣からわたし達魔法少女へと経由して採れる、感情エネルギー。

その仕様用途は、宇宙の存続。

 

……わたしは頷いた。

 

「"悪魔"はそのエネルギーを奪い去り、"女神"をこの世に縛り付ける楔としているの」

 

……ならば、この世界の存続は――、

 

「――察した様ね。近い未来、審判の刻(ドゥームス・デイ)がこの世を訪れるわ」

 

「徐々に世界が腐ってくのさ。"女神"と"悪魔"、ただ二柱を残して――だ」

 

……そん、な……。

 

「……っ、……ぁう……」

 

記憶を失おうとも、せっかく大切な人達と出会えたんだ。

なのに、また直ぐさま……それもわたしだけでなく、皆丸ごと消えてしまうと言うのか……。

 

「そこで、だ。詩織」

 

「えぇ。貴女には"悪魔"を討伐すべくわたし達に協力してもらおうと思うの」

 

……何でわたしなんだ。

理由を聞いてない。

 

「きっと貴女は、今自分を弱いと思っている――」

 

「――ッ」

 

「――違うかしら?」

 

「くっ……」

 

苦虫噛み潰す様な表情で、渋々頷いた。

 

「けれど大丈夫よ。貴女はとても強くなる」

 

「何を根拠にそんな事を……」

 

「――啓示よ」

 

神託、とでも言うのか。

もう女神様は居ないはずでは――、

 

「さぁ、わたし達と共に、この世に救いを齎しましょう――」

 

「"悪魔"を挫き、この世に"女神"を再臨させる――」

……でも、悪魔を倒さなければ、世界が終わってしまう……。

 

「さぁ、詩織雪音さん――」

 

 

 

「――わたし達の手を、とって下さい」

 

 

 

――その手を、わたしは――


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