マギア☆メモリーズ   作:弓洲矢善

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3話

――黄金色の髪の乙女と対峙する。

 

「――――」

 

「……っ」

 

その瞳はかつての彼女のような、温もりと柔らかさを含む瞳などではなく、ただ討つべき敵を定める無慈悲なスコープでしかなかった。

 

――どうして、こうなっちゃったんだろう。

 

「……ゃ、やめ……て……っ」

 

震えながら、喉から声を絞り出す。

やっとの事で絞り出せた声も声にならず、弱々しい風音に近い音でしかない。

 

「――――ッ!」

 

轟音。

ただひとたび地を蹴り、途中揺れる事なく一直線にわたしへと迫る。

 

「っ……ぃ、ぃやぁ……!」

 

回避に一切の刻を与えぬように。

二の句紡ぐ事叶わせぬよう。

ただ速度を以て獲物を逃れ得ぬようにし、確実に仕留める為に迫る。

 

「ぁぐ……!」

 

足場もない宙へと投げ出され、あとは来るべき追撃を刹那にて待つしか許されない。

そんな瞬間で最後に見た光景は――

 

「……!!」

 

わたしに銃口を向けるマミさんだった。

 

「――ティロ――」

 

「っ……!」

 

彼女から与えられる死を、覚悟す――

 

「――はい、おしまい」

 

「わっ!」

 

――る必要は無かった。

地面にぶつけられる寸前にリボンに巻き付かれ、宙吊りにされた。

と言うかこれは練習だ。

 

「うわぁ〜ん! もうやだぁ〜! マミさんこわいぃ〜!」

 

「ふふふっ、ごめんなさいね」

 

スパルタなんてレベルじゃない。

確実に殺しに来てると錯覚してしまう程だ。

かなりやり過ぎだろうマミさん。

 

「……けど、ここで実力差が分かって良かったと思うの」

 

「いぢわる」

 

「いや、意地悪とかじゃなくて……。もし利己的な他の魔法少女に出会っちゃったりなんかしたら、確実にやられちゃってただろうし……」

 

「ぶ〜」

 

悔しいがその通りだ。

純粋にわたしを鍛えようと思ってくれてるマミさんが相手だったからこそ今生きていられるのであって、もしマミさんが"今のマミさん"でなければ命は確実に摘み取られてたのは間違いない。

 

「……さて、そろそろお茶にしましょう?」

 

「お菓子じゃ釣られないぞよ」

 

「ぞよ?」

 

 

****

 

 

「〜〜〜〜っ!」

 

ああ……、甘味で頬が蕩けそうでたまらない……。

マミさんお手製のピーチパイ。

紅茶も香り高く癒される。

 

「あら〜? お菓子で釣られないんでなくて?」

 

いたずらな表情で問われる。

 

「あいつはもう消した」

 

「あいつって?」

 

「さっきまでのわたし。さっきまでのわたしと今のわたしは違うもん」

 

「ぷふっ……、何よそれ」

 

「むっふっふー」

 

「ま〜たその表情……」

 

しかし、こうして見ると……今のマミさんとさっきまでの戦いのマミさんが別人に見えてしょうがない。

 

「……マミさんていつもあんなのなんですか? さっきの」

 

「……どんなに怖くても、奮い立たなきゃいけなかったから……」

 

怖い……?

 

「マミさんが……?」

 

「えぇ。怖くない時なんてひと時もないもの」

 

……少し意外。

いや、違うか。

 

「……っ」

 

「? 詩織さん?」

 

一瞬でも思ってしまった『意外』を、首を振って振り払う。

ご両親も居ない中、誰にも頼れなかったんだ。

たとえ先ほどのマミさんのような……鬼のような闘志を向けられようとも、ただ独り頑張るしかなかった。

さやかや杏子は弟子ではあれど、甘える対象ではない……か。

怖くて当たり前だ……。

 

「……膝枕させてあげます!」

 

「はっ??」

 

「マミさんほどスタイルは良くないし寝心地保証しませんけど、こう言うのって雰囲気ですから! 遠慮なく甘えてください!」

 

「??? ごめんちょっと意味がわからない……?」

 

「はあ〜〜〜〜!」

 

「ちょっとそんな露骨なため息つくことないじゃない!」

 

「もう知らないっ」

 

「えぇ……?」

 

「ぶ〜」

 

「……」

 

 

「……ふふっ」

 

……マミさん?

 

「……ありがとう。笑わせてくれたのよね?」

 

「……べつにそれでいいです」

 

「えっ……違うの……?」

 

「べっつに〜……」

 

「……もう」

 

……確かに、わたしが甘えられる相手になれれば……なんて思惑とは違えてしまったが……。

 

「……あははっ。なんでしょこの空気」

 

「もうっ! 詩織さんが作ったんでしょう!」

 

こう言うのも悪くはない。

本心から言えば、ぜひ甘えて欲しいのには変わりはないけれど。

 

「……詩織さんって、慣れると人懐っこいわよね……」

 

「う……」

 

煩わし過ぎたか……?

 

「……ごめん、なさい……」

 

「いえ、そうじゃなくて……その……。妹がもう一人できたみたい……って」

 

「……わぁ」

 

姉妹、か。

なかなかに嬉しい。

だが……。

 

「……もう一人って?」

 

「あぁ、佐倉さんのこと」

 

「……」

 

杏子が……か。

粗暴な不良少女と言うイメージが強過ぎてマミさんの妹分である事がイメージ出来ない。

 

「ちょっと色々あって一時は離れちゃって、けどゆまちゃん――あぁ、あの子にとっての妹みたいな子ね? ……を連れて帰って来たあの子が言ってくれたの。私をお姉ちゃんみたいに思ってた……って」

 

その"色々"を想像することが今出来ないものの、なかなかどうして……案外可愛い所もあるのか。

杏子は……。

 

「私はお友達だって思ってたんだけど、それだけに嬉しくて……。今はあの子、ゆまちゃんの世話もあって千歳さん家に居るけれど……、どこに居てもあの子の事を今も家族だと思ってるの、私」

 

「……」

 

頬を綻ばせながら語るマミさん。

やっぱり杏子もマミさんにとっては大切な人の一人……"家族"の一人だったんだ。

 

「……ごめんなさいマミさん。杏子のこと……ちょっと悪く思ってた……」

 

「ううん、しょうがないわよね。あのとき詩織さん泣い――」

 

「むーー……」

 

「――じゃなかった、怖がっ――」

 

「むーーーー…………」

 

「……もうっ! どう言えばいいの! ……とにかく、あんな状態だったからしょうがないわ」

 

……でも、今なら……。

 

「……杏子とも、仲良くできるかな……?」

 

「もちろんよ! 丁度明日休みなんだし皆で一緒に出掛けて、その時に佐倉さんや美樹さんとも遊びましょう?」

 

「うん!」

 

……しかし、マミさんがお姉さんか。

どちらかと言えば……。

 

「……母さんみたいって思ってた」

 

「え?」

 

「あっ……」

 

まずい。

思ってた事が口に出た。

 

「私まだそんなおばさんじゃないわよ〜?」

 

「ご、ごめんなさ……」

 

「……ちょっぴり嬉しいけれどね」

 

「じゃあ母さん」

 

「本当にそう呼ぶのはちょっとやめて欲しいかな……」

 

「マミさんのけち」

 

「ケチ……?」

 

 


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